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アリス
彼女の願いを叶える鬼
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34年後の死を、彼女は望む。
ハロウィンが近づけば近づくほど、夢見が悪くなった。しかし、不思議な夢を見れば見るほど、また体験したくなる。うさぎの後を追いかければ穴に落ち、そのまま串刺しにされる。だから、串だらけの帽子をひらめいた。
とんちんかんな双子に会えば、双子に押し潰されて殺された。だから、押し潰された帽子をひらめいた。芋虫に食べられる夢を見た。だから芋虫の帽子をひらめいた。
「今夜はどんな夢を見せてくれるの?」
彼女は笑う。
「ね、ジャック」
いつか来る死を望む彼女を殺す夢を見せる。
「うふふ」
彼女は笑う。
「今回はつまらなかったわね」
感想を残して、
「今回はわくわくしたわ!」
また楽しんで、
「ジャック、ジャック、切り裂きジャック」
最終日は、彼に追いかけられて殺される夢を。
「鬼ごっこ?」
彼女は逃げる。
「いいわよ! うふふ! ジャックが鬼ね!」
ジャックは追いかける。彼は悪夢。影から影へと飛び移り、彼女に痛みを与える。
「うふふ!」
それでも彼女は笑う。
「うふふふ!」
それが快感だと笑う。
「うふふふふふ!」
それが生きてる証拠だと笑う。
「っ」
ジャックに心臓を貫かれた。
「……」
彼女は動かなくなる。瞼を閉じれば、思う。これがきっと、いく感覚なのだと。いけたその瞬間、彼女の一番の願いが叶う。彼女はいきたがり。あとは帽子と、親友がいれば、何もいらない。
その望みを夢の中だけでも叶えようと、悪夢は彼女を襲う。けれど、夢は夢だから、やがて終わりが来る。
ジャックが心臓から手を抜き、彼女の肩を叩いた。
「アリス」
今年はもうおしまい。
「早かったわね」
アリスは微笑む。
「なかなか楽しかったわよ。ジャック」
「怖ガレヨ」
「だから、怖かったわよ。十分にね」
穴の空いた胸を撫でる。
「私ね、よく最後の時を考えるの」
「高いところから飛び降りたら、まるで空を飛ぶようにいける」
「海に溺れたら、魚と泳ぐようにいける」
「脈を切るのは、姉さんに見つかっちゃうから」
「火炙りはまるで魔女みたい」
「ジャックはどれがいいと思う?」
ジャックは立ったまま、アリスを見つめる。
「……そうね」
アリスは微笑む。
「私の最後は、悪夢で終わらせるのがいいかも」
アリスがジャックの頭をなでた。
「ね、鬼さん、あなたが殺して」
アリスが膝を立てた。
「34年後、私が、それまでにまだいくことを一番に望んでいたら」
その時は、
「私は、あなたにいかされたいわ」
ジャックがつぶらな瞳でアリスを見つめる。
「だから、もし、34年後も、私がいきたいと思ってたら、その時は頼むわね!」
ジャックは黙ってアリスを見つめる。
「大好きよ。ジャック。私の悪夢」
親友を抱きしめる。
「あなたが、私の心の支えよ」
だからジャックはまた、来年の悪夢を考える。アリスがいくことにうんざりするように。アリスが生を望むように。また来年も、アリス自身の代わりに、ジャックがアリスを殺す作戦を立てる。
彼にできるのは、それだけだ。
「アリス」
あたたかい体を抱きしめる。
「オイラモ、大好キ」
今年も悪夢が消えていく。
「アリスガ、大好キサ」
リオンが目を覚ました。
ハロウィンは終わり、11月になったようだ。
影はとても大人しい。
リオンは影に言った。
「正直に言え。この気持ちは、恋か?」
否。これは恋じゃない。
「なら、これは親愛か」
否。これは親愛ではない。
「なら、これはなんだ」
答えるならば、これは、
「憎しみか」
恨み。
「それに混じった」
愛。
「……またしばらくは大人しくしてくれよ」
自律神経が乱れている。リオンは今日も気だるさを感じる。
「しばらくしたら、本当の悪夢がやってくるぞ」
ケケッ。
「ジャック、今度は船が舞台なんてどうだ?」
病室から声が聞こえ、病院側は王室に報告するだろう。リオン殿下は、また誰かと喋っているようです。ああ、また外出届を出してもらえなくなるぞ。どうしよう。ニコラとミックスマックスイベントに行こうと計画していたのに。お前のせいだぞ。ジャック。
――ケケッ!
リオンは目を閉じる。影からは、鬼の笑い声がよく聴こえた。
11月が始まる。
彼女の願いを叶える鬼 END
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