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キッド

囚われ姫と冷酷王子(3)

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 ――テリーが目を覚ますと、心地いいネグリジェに着替えさせられ、大きなベッドに一人で眠っていた。

(……ここは……)

 部屋を見て、ベッドを見て、夜に起きたことを思い出し、テリーが血の気を引かせた。

(そうだ、あたし……)

 目が潤んでいく。

(キッドさまに……初めてを奪われて……)

「……っ……」

 目から涙があふれてきて、シーツを濡らす。

(リオンさま……。リオンさま……!)

 その時、ドアが開く音が聞こえた。はっとして振り返ると、食事を乗せたトレイを持つキッドが入ってきて、テリーが後ずさった。

「おはよう。テリー」

 キッドが笑みを浮かべ、ベッドの横にある棚の上にトレイを乗せた。

「よく眠ってたね」
「……」
「食事を持ってきたんだ」

 キッドは幸せそうな笑顔をテリーに向ける。

「テリーの好きなものばかりだよ。さあ、食べて」
「……」
「……どうしたの? お腹すいてない?」
「……家に……帰してください……」
「どうして?」

 キッドがナプキンを広げた。

「君の家はここだよ?」
「違います! あたしの家は、ベックス家の屋敷です!」
「テリー」
「家に帰してください……。母も……姉や妹も、心配してる……。あたし、……家に帰りたい……」

 テリーがうずくまり、とうとう泣き始めてしまった。

「くすん……くすん……」
「……テリー」

 キッドがベッドに乗り、テリーに近づいた。それを見たテリーが身の危険を感じ、八と息を呑み、また後ずさった。

「い、いや! 来ないで!!」

 キッドが近づいてくる。

「っ!!」

 目をぎゅっとつむると――キッドの暖かな腕に、大切に抱きしめられた。

「……?」

 きょとんとして、困惑して、テリーがそろそろとキッドを見上げる。キッドは眉を下げて、困ったような笑顔をテリーに浮かべた。

「おれが……怖い?」
「……」

 キッドの顔を見て、テリーは黙ってしまう。だって、笑顔なのに、どうして……目はそんなにさびしそうなのか。

 キッドの手がテリーの髪の毛を一束持ち、軽いキスをする。

「愛してる。テリー。心から」
「……キッドさま……」
「君をここから出すことはできない」
「……どうして……」
「君はもうおれのものだ」

 額に唇を押し付けられる。

「君と、ずっとこうしたかった」
「……でも、あたしは……」

 言いかけると、それを遮るようにキッドの手に力が入り、テリーを強く抱きしめてきた。

「んっ」
「おれ以外のことは言わないで」

 嫉妬心が燃えて、なによりも愛しい君を壊してしまいたくなるから。

「愛してる。テリー」
「……キッドさま……あたしは……」

 その先の言葉を言わせまいと、キッドがテリーの唇が奪う。

(あ……)

 キスがどんどん深くなっていく。貪られていく。

(キッドさま……どうして……)

「……君はおれのものだ」

 強く強く抱きしめられる。

「絶対にここから出さない」

(どうして、こんなことに……)

「愛してる。テリー」

(どうして……)

 キッドがテリーの頬にキスをする。

(どうして)

 テリーは思う。

(どうして、キスはそんなに優しいの?)

 その日から、テリーはキッドの人形となった。
 朝は共に目を覚まし、キッドは仕事へ、テリーは部屋で読書をし、ランチになったらキッドが戻ってきて、また共に過ごし、夜までキッドは仕事へ、テリーは裁縫をし、夜ご飯までにキッドが戻ってきて、朝までテリーと過ごす。

「おはよう。テリー」
「行ってくるね。テリー」
「ランチだよ。テリー」
「良い子で待っててね。テリー」
「ただいま。テリー」
「おやすみ。テリー」

 テリーが違和感を抱くほど、キッドはテリーを大切に愛でた。そして何より……テリーが嫌がることは絶対にしようとしなかった。無理やり性行為を強要したり、無理やり抱きしめてくることもなく、無理やりキスをしようとしたりもしなかった。ただひたすら子どものようにテリーに無邪気な笑顔を向け、時間を共に過ごすだけ。

「今日のドレスも綺麗だね」

 誰にも見せないのに、毎日違うドレスに着替えさせられる。

「綺麗だよ。テリー」

 毎日違う顔のメイドが部屋に来て、テリーをお風呂に入れ、体を洗い、毛の手入れまでしてくれる。テリーはメイドに頼んだことがあった。ここから出してくれませんかと。しかし、キッドの命令により、メイドたちはテリーと口を利くことはなかった。
 誰とも話せない。テリーは異常な孤立感に苛まれ、夜中に涙を流した。すると、鼻をすすった音でキッドが目を覚まし、テリーを優しく抱いた。

「テリー、どうしたの?」
「……っ」
「怖い夢を見たの?」

 テリーは無言で首を振った。キッドが優しくテリーの背中を撫でた。

「テリー、大丈夫。テリーにはおれがいるから」

 抱きしめられたら、孤立感が減っていく。

「なにも心配しなくていいよ。愛してる。テリー」

 そして、また優しいキスをされる。

「大丈夫。落ち着いて。深呼吸して」

 キッドの言うとおりにすれば、どんどんさびしさが減っていった。キッドの胸に顔をうずめ、静かに涙を流す。

「テリー、大丈夫だよ。テリー」

 何が大丈夫なのかわからないが、それでもその声で乱れた心に平穏が近づいてくる。

「愛してる。テリー。テリーが大好き」

 低い声で囁きながら、キッドがテリーにキスの雨を降り注ぐ。温かなぬくもりに、テリーの目から涙が止まり、ぼんやりとする。背中を撫でてくる手があたたかい。寄り添ってくる体があたたかい。安心する。テリーはキッドに抱きしめられたら抱きしめられるほど、異常なほど安心した。――ふいに、あくびが出た。

「……眠くなった?」
「……はい……」
「いいよ。寝て」

 微笑むキッドがテリーを見つめる。

「テリーが寝るまで、おれ、起きてるから」

 うとうとと、テリーが瞼を上げ下げし、キッドを見つめる。

「いいよ、ゆっくりで。眠くなったら寝ていいからね」

(……キッドさま……)

 テリーは自分の異変を気づく。

(あたし……おかしくなってる……)

 目を覚ますとキッドがいる。寝る時もキッドがいる。キッドと過ごす時間は黙っている時間のほうが多い。だけど、彼以外なにもないこの場所では、彼だけが自分の話し相手であり、交流できる相手なのだ。

「キッドさま」
「なに? テリー」

 声を掛けたら返事をくれるのはキッドだけ。メイドはずっと黙ってる。だからこそ異常な虚無感を感じる。

(あたし……おかしくなってる……)

「お願いがあるんです」
「……お願いって?」
「中庭を……キッドさまと歩きたいんです」

 どんな形でもいい。外の空気が吸いたかった。

「だめですか?」
「……夜ならいいよ」
「……かまいません」

 その晩、キッドとテリーは誰もいない廊下を歩き、静かな中庭へと散歩に出かけた。久しぶりの外の空気に、テリーが大きく深呼吸をした。

(外の匂い……)

 綺麗な青いバラが咲く中庭。その中に――美しいテリーの花が咲いていた。

「あ……」

 思わず立ち止まると、キッドがくすっと笑って、テリーの花に手を伸ばし、そっと撫でた。

「テリーと同じ髪の色だね」
「……」
「良い色」

 キッドがテリーの頭に優しく唇を押し当てた。テリーが驚き、首をすくませた。

「っ」
「おれが初めてテリーと会った時も、テリーは花を見てた」
「……? あたしと初めて会った時……ですか……?」
「……そうだよ。テリーとおれが初めて会ったのは、君がまだ10歳の時、花屋にあった花をおれが見てたんだ。その花がさ、他の花と違って一本だけぽつんと花瓶に入ってて、……なんか、さびしそうだなって思って」

 まるで、

「おれみたいだと思ったんだ」
「……え?」
「で、……なんとなくその花に手を伸ばすと……」

 キッドがテリーの手を取り、甲にキスをした。

「この手にぶつかった」
「……そんなことが……」
「その花はテリーが買っていった。覚えてる?」
「……花は、たくさん買ってるので……申し訳ないのですが……」
「別に怒ってないよ。忘れるほどテリーには楽しい思い出ができただけなんだから」

 でも、おれは忘れなかった。

「テリーの笑顔を忘れることができなかった」
「……」
「テリー、君を愛してる」

 握りしめるテリーの手を、自らの頬に導き、押し当てる。

「君がおれを愛してくれるなら、おれはそれ以上、何も求めない」
「……キッドさま……」
「……夜風が冷えてきた。……そろそろ部屋に戻ろう?」
「……はい……」
「……そんなさびしそうな顔しないで?」

 キッドが薄い微笑みをテリーに見せる。

「明日も来よう?」
「……はい……」

(……よくわからない人だと思ってたけど……)

 でも、もっとわからなくなった。

(キッドさまって……どんな人なのかしら……?)

 ベッドに潜っても、初日のように無理やり抱こうとしてこない。ただ、優しく抱きしめて、あたたかな腕の中にテリーを閉じ込めるだけ。

「おやすみ。テリー」
「……おやすみなさい。キッドさま……」

 恐怖の対象だったのに、どんどんキッドという人間に吞み込まれていくかのよう。

(キッドさまって、横顔がリオンさまに似てる)

 そっとその頬に触れてみると、キッドがきょとんとした顔で触れてきたテリーを見てくる。

「ん?」
「……っ、すみません……」
「いいよ」

 キッドが見てた書類を置き、体ごとテリーに向けた。

「触って?」
「……」

 テリーの手がぺたぺたとキッドの顔を触った。キッドがくすぐったそうに、ふふっと笑う。その笑顔を見て、テリーはもっとわからなくなる。

(あたしがキッドさまを愛してないこと、わかってるはずなのに)

 なんて嬉しそうな顔をして笑うの?

「テリー、もっと触って?」

 とても嬉しそうな笑みを浮かべて、キッドがせがんでくる。

「もっと、もっと触って?」

(どうしてそんな顔をするの?)

「ふふっ、テリー……」

 笑うキッドから目を離せなくなる。

(あたし、壊れてきてるの?)

 あんなにリオンさまが好きだったのに。

(今は……)

 キッドのことは好きではないし、愛してもいない。けれど、……なんだか、目についてしまう。

「キッドさま、あたしばかり見てないで、ちゃんと食べてください」
「テリーがあまり食べてないなと思って」
「一日中部屋にいたら、お腹もあまり空かないんです」

 テリーの食事は、ほぼ全て皿に残っている。キッドが心配そうな目で見てくる。

「おいしくない? 最近、食欲が減ってるけど……」
「あたしは大丈夫ですので、キッドさまは食べてください」
「でも」
「食べてください」

 キッドの目は誤魔化されない。テリーは日に日に細くなっていく。食事がのどを通らないようだった。朝も昼も夜も、どこか体調が悪そうだった。唯一、中庭を歩く時だけは、テリーは元気になった。

「……あ、蕾……」

 まだ開かれていない小さな蕾を見て、テリーは微笑んだ。

「この花、どんなふうに咲くのでしょうか」

 花を見つめるテリーの姿に――キッドははっとして、慌ててテリーに手を伸ばした。

「きゃっ」

 後ろから強くテリーを抱きしめ――離さない。

「……キッドさま……?」

 目をしばたたかせ、テリーが優しくキッドの腕に手を置いた。

「どうしたのですか……?」
「……テリーが……なんだか……」

 テリーが気が付いた。キッドの手が震えている。

「消えてしまいそうだったから……」
「……あたし……そんな特殊能力は、持っておりません……」
「わかってる。わかってるけど……」

 キッドがテリーを強く抱きしめ……囁く。

「テリー……」
「……っ」
「いなくならないで……」

 おびえたような声に、テリーは眉をひそめた。

「おれから……離れないで……」
「……キッドさま……?」

 キッドが顔を近づかせた。

(あ……)

 久しぶりに彼に唇を奪われてしまう。

(……っ)

 キッドがテリーの体を振り返らせ、強く抱きしめ、顎を掴み、より深いキスをしてくる。

(……溺れてしまいそう……)

 キッドの舌がテリーの口の中へと入り、彼女の舌に巻き付いた。絶対に逃げられないぞ。だから離れるなと、脅されているかのように、貪り、テリーから離れない。

(……息がっ……)

 震え始めたテリーを感じ、キッドが口を離した。急に入ってきた酸素に、テリーがせき込み、そのテリーを胸に隠すようにキッドが抱きしめ、強く強く、テリーを抱きしめる。

「痛いです……。キッドさま……」
「……テリー、ごめん」

 耳に囁かれる。

「今夜は優しくできない」
「……キッドさま……?」

 キッドがテリーの手を掴み、引っ張るようにして歩き出した。

「あっ」

 暗い廊下に足音が響く。誰もいない廊下を渡り、キッドの部屋に行きつき――その奥の部屋へと入ると――テリーを乱暴にベッドに押し付けた。

「ひゃっ……!」

 その上にキッドが覆いかぶさり、テリーのドレスを脱がし始める。

「あっ、キッドさま……!」

 キッドが無言で、しかし手はせわしなく、テリーの体に触れていく。

「んっ……」

 テリーの肌にキッドがキスを落としていく。一つ一つ、キッドの唇が押し当てられ、くすぐったさすら感じ始める。

「き、キッドさま……待って……」
「テリー、ごめん」
「あっ……」
「君を愛してるんだ。本気で愛してる」

 手が肌をなぞる。

「キッドさま……」
「……もっと呼んで……」
「え……?」
「もっと、テリーの声で、……おれの名前、呼んで……?」
「……キッド……さま……?」
「……ああ、テリー……もっと……」
「きゃっ……!」

 まだ濡れていないその中に、指を入れられる。

「い、いたっ……!」
「っ、ごめん、テリー……」
「あ、……あっ……」

 何度か指を差し抜きしていると――濡れてきた。

「ん、ふぅ……んん……!」
「はあ、テリー……」

 テリーの手を掴み、キッドが自分の熱に触れさせた。テリーがぎょっとして、手を引っ込ませようとしたが、キッドがそうさせない。熱がテリーの手に当たり、耳に囁くように言った。

「テリー、触って……」
「……は、はい……」

 そっと手で覆うと、キッドが体がぞくぞくと震わせた。

(……キッドさまの……)

「そのまま……触ってて……」

 キッドがテリーの手を動かし、自らのそれをしごいていく。テリーはどんどんその異物が濡れていく感覚を感じ、固唾を呑んだ。

「はあ、テリー、テリーの手、すごく……気持ちいい……」
「あっ、大きく……」
「そうだよ。テリーが……触ってくれるから……っ……気持ちよくなって……こんなに……」

 欲が流れ込んでくる。キッドは躊躇なく、快楽に身をゆだねた。

「テリー、見てて。出す……から……」
「え……?」
「あ、イク、んっ、テリー……はあ……見てて……っ……!」
「あっ」

 ぴゅくんと、飛んできた。

「きゃっ」

 白濁が、手につき、胸につき、顔についた。呆然としていると、キッドが恥ずかしそうに頬を赤らめさせ、近くにあった手拭いを拾い、テリーの顔を拭いた。

「……」
「ごめん。テリー。飛ばすつもりはなかったんだ」

 拭った後に、頬にキスをされる。

「触ってくれてありがとう。すごく、気持ちよかった」
「……」
「次はテリーの番ね」

(あっ)

 思考を停止させていると、キッドがぬるぬるの白濁をテリーの大切なその入り口に塗りたくった。

「っ、……キッドさま……」
「ごめん。痛いかもしれない」

 一度欲望を吐いたはずのそれは、テリーの体に触れただけで熱を放ち、天井に頭を向かせている。キッドがテリーに近づき、久しぶりにその場所に、自分のものを入れ込んだ。

「……あっ……」

 入ってくる異物に、ここへ来た初日を思いだす。

(あの時はすごく怖かった。なのに、今は……)

 キッドの胸に触れ、彼を見上げる。目が合う。燃えるようなまなざしが、自分を見つめている。

「テリー……」
「ん……っ……」
「はあっ……あ……」

 ぴたりと、肌と肌がくっつきあう。

「テリー、痛い?」
「……大丈夫……です……」
「じゃあ、……動くよ……」
「あっ、まって……」

 キッドの腰がゆるゆると動き始めると、また忘れた快楽がよみがえってくる。

(あぁっ……!)

 目の前で、見つめられ、閉じ込められ、愛の熱に侵された目が、自分に向けられる。

(そんな目で……見ないで……)

 心臓が破裂してしまいそうなほど、激しく高鳴っていく。

「テリー……テリー……テリー……!」
「あっ、キッド、さま、あっ、あんっ……!」
「テリー、好き。テリーだけ、愛してる、愛してる……!」

(キッドさま……?)

「テリー……!」

 涙を出しそうな、泣いてるようにも見える顔。どうしても離したくないと駄々をこねている子どものように、無我夢中でテリーを抱く。

「好き。テリー、大好き。好き。テリー。好き……」
「あっ、キッド、さま! あっ、あっ、あっ……!」
「だめ。見て、ちゃんと」
「っ」
「おれが、テリーを、汚すところ、傷物にするところ、ちゃんと、見て……」
「キッド……さま……」
「テリーはおれのものだ。誰にも渡さない。この部屋から出さない。テリーは、テリーは……!」

 呼吸を乱すキッドが強くテリーを抱きしめた。その拍子に、奥深くに突かれる。

「あっ……!」
「テリーはおれのものだ……!」
「キッドさま……」
「テリーは、おれだけのもの。テリーだけは、テリーだけは……!」

 めちゃくちゃにされてしまう。心も体も。重たすぎる愛に押しつぶされてしまいそう。けれど、彼が自分にしてくるキスは――どうしても優しく感じてしまって。キスをされるたびに、どうしてか、テリーの胸は激しく脈打った。

「テリーっ……」
「あっ……あたし……もう……」
「一緒に、っ、イこうね……」
「あっ、キッドさま、あっ、あっ……!」
「……くっ……!」

 ――同時のタイミングで絶頂する。テリーがキッドをしめつけると、その中で破裂するように、温かい液体が飛び散った気がした。

「……は……ぁ……」

 脱力したテリーの上に、キッドが乗りかかった。テリーをベッドと自分で押しつぶし、抱きしめ、離れない。

(……重たい……)

 本当に潰れてしまう……。

「……テリー……」

(……っ)

 キッドの囁き声に、テリーの心臓が高鳴った。

「愛してる」

(……キッドさま……)

 もっとあなたを知りたい。そうでなければ、愛すら生まれない。

(あたしはあなたを知らない)

 子どものように笑って、はしゃいで、嬉しそうに微笑むあなたしか知らない。

(キッドさま……)

 泣きそうなキッドの顔を見つめながら、テリーは瞼を下した。

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