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キッド

ざまあ展開な世界

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 テリー誕生日企画です(*'ω'*)
 ざまあ展開な世界のキッド編です。
 ―――――――――――――――――――――――――――――――















 目を覚ましたテリーは悟った。生まれた時からこの世界の聖女的存在であると言われていた自分は、実はそうじゃなくて家族ぐるみで虐めているメニーこそが聖女であり、このままいけば必ず偽物の自分には死刑になる未来が待っており、それを回避するために周りの好感度を上げなくてはいけないと。

 家族構成はテリー、優秀な姉のアメリアヌと義妹のメニー。そして、顔の知らない男。どうやらこの世界で彼が三人の父親だそうだ。しかし彼はテリーとアメリアヌを溺愛しており、愛人の娘だということで、メニーを粗末に扱っていた。だからメニーは酷く愛に飢えていた。

「メニー、お前は部屋にいなさい」
「はい、お父様……」

(またこのパターンかい!!)

「メニーも一緒に食事をしましょうよう!」
「え」
「パパ、テリーがおかしいわ」
「テリー、一体どうしたというのだ?」
「嫌だわ。パパったら、もう意地悪なんだから♡」

(てめえのせいでメニーにいい顔しないといけないじゃないのよクソジジイーーーー!!)

 こうなったら、父親に向けられる飢えた愛を、姉で埋め尽くしてやる!

「メニー♡ わからず屋のパパなんか放っておきなさい。いつか後悔するのは向こうなんだから」
「なっ! 私が、わからず屋だと……!?」
「パパなんか眼中に入れなくていいわ。メニー、あたしとだけ仲良くしましょうよ。ね?」
「は、はい……」

 こうしてテリーはメニーに愛情を注ぎまくった。飢えた愛は、やがてテリーから受け取った莫大な愛が覆い尽くし、メニーには笑顔が増えていった。

 そして、そんな時、テリーはようやく気がついた。自分の部屋にあるドレスやネックレスやイヤリングなど、メニーから奪ったもので溢れている事実に。

「メニー!! ごめんね!! 本当にごめんね!!」
「あ、えっと」
「これ返すから! 全部返すから!!」
「あ、はい」
「で、あたしは自分らしく生きることを決めたお嬢様としてお城に働きに行ってくるから!」
「あ、でも働きに出かけるのはわたしだって……」
「大丈夫! 大丈夫! 実はあんたが聖女だからあんたはここで力が目覚めるのを待ってなさい!」
「あ、はい」
「じゃあね! アメリ! メニー! えっと、顔の知らないパパ! 行ってくるわね!」
「しかし貴族としてのマナーも知らないお前が行っても……」
「大丈夫大丈夫! なんとかするから!」

 お城に働きに出かけたテリー。さあ、好感度をいっぱいあげよう!

「オラオラオラオラオラ!」
「テリーさんが来てから仕事が楽になったわ!」
「テリーさんったら、どんな仕事でも嫌な顔一つしないの!」
「テリーさん、こちらも頼める?」
「もちろんです!!」

 メイド仲間の好感度を爆上げしていると、その仕事ぶりが王子様の耳に届いた。なんでもめちゃくちゃ仕事ができてどんな仕事が来ても嫌な顔一つしないメイドがいるそうじゃないか。なになに? 男爵令嬢だって? あ、この子知ってるぞ! 聖女様じゃないか!

「興味がある! 呼べ!」
「はっ!」

 この国の王子様――キッド殿下の命により、テリーが執務室へと連れて行かれた。

「やあ、聖女様。俺のことは知ってるね?」
「ああ、あたし、聖女じゃないの。聖女は妹なの。そういうわけだから、あたし今のうちに平民としての暮らしに慣れておこうと思ってて。まあ、そういうわけだから」
「ふむ! なかなか面白い! 気に入った! 専属メイドにしてやろう!」
「いや、結構だから。まじで」
「王子命令だぞ! 今からお前は俺のものだ!」

 というわけで、テリーはただのメイドから王子様の侍女に昇格した。メイド仲間は拍手をした。

「なるほど! これが、成り上がりってやつね!!」
「頑張ってね! テリーさん!」
「羨ましいわ!」
「いや、あたし、このままでいい……」
「「もう! テリーさんは謙虚なんだから!」」

(違う! 違う! そういうことじゃないのよ!)

 昇進したら、また好感度を上げないと駄目ではないか!

(こぉおおのクソ王子ぃいいい……!!)

 しかしやり遂げるのがテリーだ。元々気に入ってもらってるなら、とにかくいい顔しておこう。

「テリー、肩揉んで」
「はい!」
「テリー、書類整理して」
「はい!」
「テリー、ケーキ食べたい」
「はい!」

 キッドに言われたことをこなしていく毎日。しかし、どんな注文でも答えるテリーをキッドは心底気に入っていた。何かあれば、テリーを呼んだ。

「テリー、一緒にアニマルビデオ見よう?」
「かしこまり……」

 その時、執務室のガラスが割れた。現れたのは王子様の命を狙う輩であった。

「王子! 覚悟!」
(おお! やった! 殺せ殺せ! これであたしは解放されるわ!)

 しかし、輩は呆気なくキッドに倒されてしまった。

「降参です……」
(くそ! この! 役立たず!)

 しかし本音は隠して建前で生きているのが人間だ。テリーはまさにその人間だ。

「キッド様、大丈夫ですか!? ああ、お怪我をされてます! あたしが聖女であれば治せてあげられたのに! きゅるん!」
「かすり傷だよ」
「大変! 救急箱がないわ! そうだわ!」

 本当はすぐそこの棚にある救急箱を隠して、テリーがハンカチをキッドのかすり傷部分に巻いた。

「今、お医者様を呼んできますので、お待ちください」
「……テリー……」
(おっしゃあ! これで好感度上がったでしょ!)

 そんな良いムードっぽい二人を見ていたお城に遊びに来ていた伯爵令嬢がハンカチを咥えた。

「あの女、メイドのくせにわたくしのキッド様と……!」
「お嬢様! あの方は聖女のテリー・ベックス様です!」
「なんですって! セバスチャン、その情報は本当なの!?」
「イエスアイ・アム!」
「なぜ聖女がメイドの姿でここにいるの!? きっと何か裏があるんだわ! 調べてちょうだい!」
「御意!」

 というわけで、平和はいつまで経っても訪れない。テリーがみんなの好感度を上げている間にこの伯爵令嬢はテリーについて調べ上げた。そして、ある事実がわかった。それを、パーティー会場で発表した。

「テリー・ベックスは、聖女と言われてきましたが、違いますわ! その女は、聖女じゃありませんことよ!!」
「え、知ってますよ」
「テリーさんがご自分で仰せでしたしね」
「嘘つきの女をお傍に置くなんて、よくありませんことよ! キッド様!」
「嘘つきじゃないよ。テリーは自分が聖女じゃないってことをきちんと言ってたし、それに……」

 キッドがテリーの肩を抱いた。

「俺にとっては、お前は聖女だ」
「いいえ。あたしはただのメイドです」
「今この時! 俺とテリーの婚約を発表する!」
「いや、しないから」
「おめでとう! テリーさん!」
「幸せになってね!」
「無視かい」
「酷いわ! キッド様! こんなに恋い焦がれていたのに! ぴえん! ぴえん超えてぱおん!」

 伯爵令嬢が泣きながら去ってしまったのを見て、テリーがキッドの背中を叩いた。

「ねえ、可哀想よ。追いかけてあげたら?」
「どうして?」
「あの子が好きで意地悪したと思ってるの? あのね、悪役にはいつだってどんな子にだって事情があるのよ。あんたのことが好きで、あたしが側にいるから憎くてやったことなのよ。あんたのフォローがもう少しあれば、あの子だってここまで大事にしなかったかもしれないじゃない」
「自制するのもマナーだよ」
「自制できなかったのよ。女は感情に呑まれる生き物だもの。……全部が全部、あの子のせいじゃないわ。そこだけはわかってあげて」
「お前は優しいな」 
「世間が冷たすぎるのよ」
「やっぱり俺にはお前がいないと無理だ」

 キッドがテリーの腰に手を回した。

「ちょっ」 
「好きだ。テリー」
「キッド様! うちの妹がいるわ! 美人な上に本物の聖女なの!」
「俺はテリーが好きなんだ! それ以外は見るものか!」
「いやいや! 人間なんて浮気する生き物でしょうが!!」
「キスして」
「やめっ……!」

 キッドの唇が近づいてくる。テリーは顔を青くさせ、叫んだ。

「やめてよ! あたしにキスしていいのは、クレアだけなんだからーーーーーー!!」



 時計が0時になった途端、世界が崩壊した。


(*'ω'*)


「……テリーや、何かあったのかい?」

 ビリーが不思議そうに、クレアに抱きついて離れないテリーを見つめた。

「クレアに何か言われたのかい?」
「じいや、あたくしは何も言ってない。こいつが家に来るや否や、誕生日にキッドは見たくないからとりあえずクレアに戻ってと言われ、支度していた俺の服を脱がし、それはそれは乱暴に激しく脱がしてくるもので、嫌がるあたくしに黙れと言って、無理矢理この可愛いワンピースとウィッグに着替えさせられたんだ。……可愛いだろ!」
「はいはい」
「だが、本当におかしなことだ。何を聞いてもこいつ、何も反応せん!」

 クレアがテリーの頭をよしよしと撫でた。

「ダーリン、一体どうちたのー? 何があったか聞いてもいーい?」
「……ひそひそ」
「ん? なーに?」
「……ひそひそ」
「ふむふむ」

 テリーにひそひそされた言葉を聞いて、クレアがテリーを抱き上げ、立ち上がった。

「二人きりになりたいそうだから部屋に行ってくる。じいや、紅茶だけ頼む」
「ああ。わかったよ」
「よしよし、ダーリン。さあ笑って。今日は貴女の誕生日よ。ハッピーバースデーの歌を歌いながらあたくしが癒やしてあげるわ。ジングルベールジングルベール、あ、季節が違った。ハッピーバースデーとぅーゆー」

 ハッピーバースデーの歌を歌うクレアに部屋へ運ばれ、ベッドの上にクレアが座り、テリーはやっぱり抱きついたまま離れない。

「どうした? またメニーと喧嘩したか?」

 テリーが首を振った。

「ドロシーと魔法合戦でもした?」

 テリーが手を動かした。近い。

「なるほど。わかった。お前、メニーを恨みすぎてドロシーにざまあみろな展開の世界に行って反省しろと言われ、飛ばされたんだろ。そこで酷い目に遭った。どうだ」
「お黙り」
「当たっていたとは、流石あたくし……。あたくしの女の勘の鋭さが恐ろしい」
「あたしはね、無理矢理反省させられて、酷く傷ついてるのよ」

 顔を向けたテリーはむっすりしている。

「キスさせて」
「やだ。ダーリンったら大胆なんだから……!」
「うるせえ。黙れ」

 テリーがクレアに唇を押し付けた。キスをされたクレアは、嬉しそうにはにかむ。

「ぐふふふ……」
「もう一回」
「んっ」
「むちゅ」
「んっ、……ふふっ、んむっ、くくっ、テリー……」
「むちゅ」
「うふふ、くすぐったい」
「んっ」
「ダーリンったら……」
「んっ」
「テリー……」

 テリーからの雨のようなキスに、クレアはそっと目を閉じ、させたいようにするために彼女を抱きしめる。

 二人が小鳥の戯れのようなキスをする中、ビリーはいつ部屋に入ったらいいものかと、ドアの前でタイミングを見計らっているのであった。





 ざまあ展開な世界 END
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