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キッド
女は上書き保存※
しおりを挟む「……キッド……、触って……?」
13歳の時、初めて他人の女の子の肌に触れてみた。
「キッドにも触りたい」
「駄目」
女の子の両手を一括りにして優しく押さえ込む。
「君は感じてて」
「あっ」
興味本位だった。まさか絶頂して意識を飛ばしてくれるとは思ってなかった。また別の女の子と付き合った。求められたから、その子も、気絶させるまで触った。別の女の子も、次の女の子も、求められたから、次も、また次も。
俺は触る。
女の子の肌に触れる。
あたくしは見る。
鏡には自分の姿が映る。
同じ女の子の体。
触ってみる。
気持ちいいところがある。
ここも気持ちいい。ここは気持ちよくない。ここは時々気持ちいい。ここはやっぱり気持ちいい。
女の子の体に触れる。自分で試して気持ち良かったところは、みんなも気持ちよそうにしていた。喜んでもらえて嬉しいよ。
でも、そこに愛は存在しない。
優しく触れて、可愛く喘ぐ声を聞いて、相手が絶頂して、意識を飛ばしたらおしまい。その間、この体は誰にも触れさせない。
触られたら、バレてしまう。
絶対にそこだけは隠し通す。
全ては夢のため。
王になるため。
いつまで続くのだろう。
考えてもこの欲は止められない。
王になれば全てを手に入れられる。
多くの人々からの期待と無償の愛を我が物に出来る。
愛がほしい。
無償の愛が、欲しい。
多くの人々からの、
大きな、
大量の、
愛が欲しかった。
だからキッドを演じていたのに。
「くたばれ」
――暗い顔のテリーに全力で拒まれた。
「キッドになって口説くくらいなら口説かずとっとと寝床についてちょうだい」
「照れちゃって可愛いな。ハニー。俺と一緒に寝るって言ったのはそっちのくせに」
「あたしはクレアと寝ると言ったの。お前じゃない」
「照れてるお前も好きだよ。ほら、おいで。俺とベッドの中でイチャイチャしよう?」
「もういい」
テリーがキッドの腕からするりと抜け出した。
「部屋に戻ります。さようなら」
――クレアが背後からテリーに抱きついた。
「一緒に寝ると言ったのは貴様だろう?」
「今夜はやけにキッドになりたがるわね。何よ。あたしなんかした?」
「良いではないか。みんなが大好きな王子様が、貴様を求めている。俺のテリー、愛してるよ」
「残念ね。あたしはお前なんか大嫌い」
テリーが振り返り、両手で憎くも愛しい頬を包み、青い瞳を見上げてみせた。
「ハニーがいいわ。クレア。あたしのクリスタル。その可愛い青い瞳であたしを見つめてちょうだい」
「いや、駄目だ。今夜はキッドの気分だ。ね? 甘えてほしいな? 俺のプリンセス」
「別にあたしはいいのよ。気分屋だもの。YESと言ったことを忘れて簡単にNOと言ってみせるわ。つまりね、王子様。お前と寝るくらいなら隣の部屋に戻るってことよ。でももしも、ベッドを共にする相手がクレアということなら話は別。喜んで一緒に寝るわ。おら、どっちよ。答えなさい」
「……クレアにはなりたくない。でもお前とは寝たい」
「意味分かんないんだけど」
「キッドじゃ駄目?」
「やだ」
「テリー」
「嫌い」
「キッドがいい」
クレアが覗いてきた。
「だめ?」
「(……くそ、ここで惚れた弱みが……)……あー、もう、うるっさいわねぇ……」
テリーがクレアのベッドに横になった。クレアがぽっ! と頬を赤らめさせ、テリーを追いかけるようにベッドに入った。
久しぶりの宿泊に内心わくわくしていたが、相手がクレアであればの話だ。キッドとなると、また話が別である。
同一人物なのに、多重人格ではないのに、どうしてこうも、抱きしめ方が違うのか。
(……キッドの抱きしめ方だ……)
(……)
(なーんか様子がおかしいわね。この女……)
「……」
(……ん?)
キッドがテリーの上に乗ってきた。
「っ!!」
キスしようと近づいたキッドの唇を、テリーが両手でガードした。青い瞳に睨まれる。だが、その目はクレアではなかった。——キッドだ。
「……やめて」
「……」
「本気でやだ」
「ダーリン」
「違う。クレアの声じゃない」
「あたくしだ」
「キッドのまま言わないで」
「ね、お願い。テリー。黙って目を瞑って」
「やだ」
「……」
「……いいわ。部屋に戻る」
「やだ」
「お前ね」
「やだ」
キッドがテリーを抱きしめた。
「……やだ」
「……何よ。今夜はナイーブ坊や? ね、何かあったの?」
「キッドでいたい気分なんだ。ね? このまま寝よう?」
「このまま無抵抗で眠った途端、お前に着てるものを全部脱がされそう。ね、あたしまだ未成年よ。犯罪をする前に言って」
「結婚を約束された二人の行為が犯罪だというのなら、既に俺は牢屋の中だ」
「ぶちこまれたくなければ正直に話しなさい。だから嫌なのよ。キッドは意地っ張りで頑固だから」
「それはお前だろ?」
「とにかく、言うまで寝ない。部屋に戻る」
「一つ言葉を贈るならば、俺はお前を愛してる」
「わかった。もういい。部屋に戻……」
言い終える前に、テリーがキッドにより押さえつけられた。ベッドから軋む音が鳴り、暴れだす前にテリーの両手を上に固定する。案の定、やはり暴れ出した。
「まじでお前! じいじ呼ぶわよ!!」
「なんで呼ぶの? 俺達婚約者同士なのに」
「お前とじゃない! クレアとっ……」
キッドが無理矢理テリーの唇を塞いだ。テリーが目を見開かせ、足をばたつかせるが、キッドが両足でがっちり押さえつけてくる。ならばと手を動かそうとするが、それも怪力な手によって押さえつけられている。
(ちょ、まじで、本気でやだ!!)
舌が入ってくる。
(やだ、クレア、やだっ!)
舌が絡み合う。だが、――愛してる彼女のものではない気がした。
(ねえ、やだってば……)
青い瞳が開かれた。その先には――くすんだ色の瞳から、聖水のような美しい涙が輝いて見えた。唇から離れ、その涙に触れる。テリーが思わず顔をそらした。しかし、顎を掴まれ、無理矢理戻される。目の前には魅了され手仕舞うほど美しいキッドがいる。だが、クレアではない。乱暴なキスに乱暴な行為。だから嫌いなのだ。お前なんか。せめてもの抵抗として、目を逸らす。
「テリー、どこ見てるの?」
「……」
「ねえ、俺を見て」
「……クレアなら見る」
「駄目。今夜はキッドの気分なんだ」
「お前の、そういうところが嫌い。嫌だって……言ってるのに、ステージから下りようとしない。……っ、……いつまで演じてる気? 本当にやめて。嫌だって……言ってるのに……」
「クレアが好きならいいじゃん。中身は一緒なんだから」
「やっ……んっ!」
また唇を塞がれたが、そこでテリーが本気でキレた。膝でキッドの腹を蹴飛ばし、キッドが怯んだ隙にベッドから抜け出し、腹を押さえるキッドに振り返った。
「おまっ、うー……いってぇ……」
「ねえ、本当にどうしたの?」
「どうもしないって……。お前とイチャイチャしたいだけ……腹蹴りすることないだろ……」
キッドが起き上がり、地面に足をつけると、テリーがぎょっと目を見開き、腰が引けたまま後ずさる。
「ちょ、動くな。まじで」
「なんで。イチャイチャしようよ。ダーリン」
「キッドを演じながらクレアを演じないで」
「あたくしだもん」
「違う」
テリーが無理矢理立ち上がった。
「もういい。わかった。お前一回頭を冷やして冷静になりなさい。あたしは部屋にもど……」
――キッドがテリーの腕を引っ張った。
「ひゃっ!」
再びベッドに戻されたテリーにキッドが覆いかぶさる。今度は蹴られないように、魔力でベッドに貼り付ける。動かなくなった足に気づき、テリーが口を開いた。
「ちょっ!」
キッドがテリーの首に甘い唇を押し付ける。
「やだ! キッド! やめて!」
無言のキッドの手がテリーのパーカーに入った。肌に触れた――瞬間、テリーの声が強張った。
「怖いってば!! クレア!!!!」
――クレアがきょとんとした。あのテリーが……涙を浮かべながら瞼を閉じ、体を震わせている。怖がる彼女がとても愛おしくて、背中にゾクゾクと興奮が走る。キッドが笑みを浮かべ——クレアが優しく抱きしめた。
「くひひひ! お馬鹿なダーリン」
「……ばっ……ばがっ……!」
笑い声を聞いた瞬間、先程とは嘘のようにテリーからクレアに腕を回してきた。
「キッドもあたくしではないか」
「嫌い。本当に嫌い。まじでお前なんか……大嫌い……!」
「あたくしは大好きよ。ダーリンしか見えない。心から愛してる」
「愛してる相手を怖がらせたのはどこのどいつよ!」
「……んー」
「なによ。ぐすっ、はっきりしない女ね! ぐすっ、あたしが、ぐすっ、ここまで言ってるのよ! ぐすっ、何があったってのよ! ぐすっ、ふざけんじゃないわよ。くたばれ! ぐすんっ!!」
「……。……まー……なんというか」
キッドがテリーを抱きしめたまま頭を撫でた。
「上書きしたかったっていうの?」
「……上書きって?」
「今まで触ってきた女の子の記憶を、全部テリーで塗り替えたくなった……みたいな?」
「……はあ?」
「だって、本当に自分の体見てる感じで触ってたから」
「そんなのあたしだってそうでしょ」
「テリーは違う」
「何が違うのよ」
「お前はなんか……性欲だけじゃなくて、支配欲と独占欲が満たされるっていうの? 俺のものーみたいな?」
「キッドのものじゃなくて」
「あたくしのものだろ? わかってるわ。ダーリン。あたくしも貴女のもの。……わかってるけど、なーんか今夜はやけに思い出しちゃう夜みたいでさ」
「だからってあたしを泣かせて楽しかった?」
「お前が勝手に泣いたんだ」
「くたばれ」
「俺はお前と愛し合いたいだけ」
「キッドはやだ」
「もちろん、あたくしだ。でもキッドとしての記憶で問題が起きてるからな」
「知らないわよ。あたしはクレア一筋なの」
「キッドもあたくしだ」
「クレアがいい!」
「ダーリン」
テリーの手を頬につけて、ハニーがおねだりする。
「だめ……?」
「……。……。……1割」
「3割」
「駄目。1割キッドの9割クレア」
「5割」
「ふざけんな。1割。それ以上はなしよ」
「6割」
「上げるな。1割だっつってんでしょ」
「間を取って」
「「2割」」
「……」
「……それならいけそうか?」
「……それ以上キッドを演じたら許さない」
「精進しよう。……テリー」
「ん」
「泣かせてごめんね」
「……クレアのままキスして」
「ダーリンったら、可愛い人」
10割クレアが、笑顔のままテリーの唇を塞いだ。
(*'ω'*)
女の子の肌に触れても何も思わなかった。強いていうなら、マッサージをしているような感覚だった。
気持ちいいところに触れたら相手が絶頂して気を失う。気を失わなければ、気を失うまで触り続ける。
だから巷では、あっちの方も、キッドはとても上手だと噂の的だった。
けれど、愛は存在しなかった。
「……クレ……ア……」
浅い呼吸を繰り返すテリーにキスを贈る。キスをすることでどれだけ愛しているかをわからせてやりたかった。
「……っ……はっ……ひぅ……!」
胸の先端は既に硬くなり、彼女の身に残されたかぼちゃパンツは既に濡れており、役目を果たしていなかった。けれど、テリーは脱がされるよりも穿いたままの状態で触られるのが好きなようなので、クレアは喜んで期待に応えた。
「あっ! ちょっ、待って! クレア!」
「待てと言う割には待てるようではないのでは?」
「……っ……んっ……!」
ああ、やっぱり、テリーに触っていると安心する。
快楽に悶える女の子を見てもなんとも思わなかったが、体を震わせるテリーを見ていると、嗜虐心が沸いてくる。目の前の小物女をめちゃくちゃに虐めたくなる。恥ずかしい恰好をさせて、羞恥に溺れさせ、泣かせて、喘がせ、その姿を見ることができるのは自分だけだという独占欲が沸いてくる。だがもっとあるはずだ。こいつの汚い部分が。恥ずかしいところが。誰にも見せられない醜くてどうしようもない姿をこの目に焼き付けるために、テリーの汚くて乱れた姿を表に引っ張り出そうと罠を仕掛ける。
「ん……やぁ……待って、クレア……!」
ああ、あたくしが男であれば、この女の穴に自分の体についた生殖器をぶち込むことが出来たのだろう。そして、精子が出てきたりなんかして、わざと過ちを犯し、孕ませ、一生鎖で繋ぎ止めておくことも出来たのだろうな。
もしくは――あたくしが孕めばいいのか。
「クレア……ぁっ……や、待って……んっ……はや……いっ……!」
こいつ、精子を出したりしないだろうか。
「あっ」
これはマッサージではない。交尾だ。
「クレ……っ……」
本能が言っている。この女との子孫を残せと。
「んっ……やっ……あ、ま、まって! まってクレア!!」
「ん」
「あっ……あっっ!!」
(あ)
痙攣するテリーの体と、自分の指を絞め付けてくる中の感触に、クレアが人に見せられるものではない笑みを浮かべてしまう。身を沈ませ、テリーの首筋に鼻をなぞらせる。
「またイッちゃったの? ダーリン」
「……っ……♡」
「ダーリンったら……♡ さっきは乳首でイッたのに……♡」
「……る……さい……」
「まだイケるよな?」
クレアが笑顔でテリーの足を左右に開かせたのを見て、テリーの血の気が下がる。
「い、いや、あたし、もう……」
「え? 舐めてほしいの? もーう! ダーリンのえっちー!」
「だ、誰も舐めてほしいとか言ってな…… !」
「期待されては仕方ない」
クレアがニヤけた。
「俺が舐めてあげるね。テリー」
2割のキッドの笑顔に、テリーはゾッと顔を青ざめた。その様子がまた、興奮してしまう。
他の女の子では、こんなことなかった。
どうしてテリーになるとこうも違うのだろうか。テリーに触れる時だけは、心が荒ぶって仕方ない。乱れるテリーを見るたびに、理性が利かなくなって、本能のままに手が動いてしまう。
「やめっ! いやっ! やめて! 舐めるなってば!! やだっ! クレアが良いって言って……っ……あぁっ……!!」
孕め。
孕んでしまえ。
あたくしの子供を、産んでしまえ。
遺伝を混ぜ合わせよ。
子供が生まれたら、貴様はあたくしから離れることはないだろう。
「んんんんんっっっ……!! んんっ! んっっっ!! んっふ♡♡♡!!!」
「テリーのすけべ……。ここ、どんどん溢れてくるよ……」
(気持ちよくない。相手はキッド。クレアじゃない。あたしは気持ちよくない。キッドの舌なんて……何も……っ……気持ちよくない……!)
下着の隙間から舌が入り込んできた。
「ひぅっ!!」
たかが舌で大切なところの皮を剥いてくる。それがとてつもなく――脳に刺激が走る。
「あっ……♡ あぐっ……♡ ふぅっ……♡」
「はぁ……すごい。テリー。匂いが濃くて……最高だよ……。くくっ。癖になりそう……」
「る……さい……!」
「あー、そーんなこと言っていいんだー?」
中指を入れると、簡単に奥へと入った。途端、テリーの体全体に快楽が走った。足の指先が伸び、少し息を吸うと――また中で痙攣が起きた。さらに今は指を入れているので、かなり絞めつけられる。
ああ、これいい。
とろける目の彼女の耳に囁く。
「気持ちよかった? テリー」
「……るしゃい……ふじゃ……けんにゃ……」
ああ、目がこんなにとろけてふにゃふにゃで可愛いなぁ。だからやめられないんだよ。じゃあここはどうかな? あ、またテリーったらイッちゃった。あれだけ俺を嫌がっていたのに俺に触られた途端イクなんて、ひょっとするとクレアより俺の方がいいんじゃないかな? 指を動かしただけでこんなにイクなんて。一回、二回、三回、あはは。どれだけ絶頂するの? テリー、まだ俺、何も気持ちよくなってないよ。
あたくし、浮気は許さない主義なの。
「まって、クレア、も、無理、ほんとに、もう……!」
「ダーリン、まだ夜は始まったばかりよ? それに……今日はまだ、キッドに勝ってないの」
「キッドに勝つって何!? ひゃっ!」
テリーの陰部と自らの陰部を重ね、当たるように腰を揺らして彼女を見下ろす。見られる周知に勝てず、テリーが両手で顔を隠した。しかしクレアがその手を掴み、ベッドに貼り付けた。
涙でいっぱいの目が見える。なんて愛おしい目なんだろう。ぜひもっと泣かせて、とろかせて、惚れ直してもらいたい。
「……っっ……♡!」
「ダーリン……♡ ぐひひ……♡ んふっ♡ 可愛いあたくしのダーリン……♡ あっ♡」
「っ♡!!」
「ああああ♡ ここっ、気持ちいい♡!」
「……ぁっ……♡!」
「ダーリン、我慢しちゃだめ。声きかせてくれないと……」
鼓膜に届くように囁くと、テリーの顔が再び青くなり、首を振ってきた。
「や、おま、どんだけ趣味の悪いことをあたしにしようと!」
「あっ♡!」
「んっ♡!」
「ああああ♡ ここすっげーイイー♡!!」
「んっ♡! んゃっ♡! あっ♡! あっ♡!」
「ダーリン可愛いー♡!! あはははは♡!!」
「っ♡ っ♡ っ♡ ……ぁっ……♡」
「ね、ダーリン、あのね。あたくしね」
今まで抱いてた女の子はね、
「みんな目隠しして、手を拘束してたの」
でもね、ダーリンは別よ。だって、テリーには触って欲しいんだもの。ほら、手を離してあげるからあたくしに触って? 俺に触れて? あ♡ テリー……。指が柔らかいね。テリーの指の形大好き。口の中に入れてふにゃふにゃにしたくなるの。テリーの皮膚の感触も好き。テリーの皮膚はね、あたくしを嫌なものから癒やしてくれるの。でも一番癒やされるのは貴様を虐めた時に返ってくる反応がもうたまらない。ダーリン、愛してるわ。ねえ、どうしてそんなにあたくしのツボに来るようなことばかりするの? ほら、こっち見て。目をそらすな。キスして。んむっ♡ 愛してるわ。ダーリン。え? まずい? ああ、それはきっとダーリンの味がしたのね。さっきまで貴女のこと舐めてたんだもの。当然だ。くひひ! あ、イキそう? じゃあ、二人でイこ? ね? 先にイッたら駄目よ? あ♡ んんっ♡ あたくしも、イキそう♡ あ♡ ……あっ……♡
「……えー?」
荒い呼吸を繰り返すクレアが、気絶したテリーを見つめ、いやらしい笑みを浮かべたまま唇を舐める。
「もう、ダーリンったら、いつも先に寝ちゃうんだから」
白目を剥いて動かなくなったテリーを見た途端、また性欲が沸いてくる。
(あたくし、男ではないのにな)
テリーが欲しくて仕方ない。
「……ダーリン……♡」
白目を剥く彼女の唇に、触れるだけのキスをした。
(*'ω'*)
(……重たい)
クレアがテリーの胸に顔を埋めて眠っている。
(愛もお前も……重たい……)
子供をあやすように頭を撫でれば、クレアの頬が緩み、身じろぎを始めた。そして、丁度いいところを見つけると、動かなくなった。顔はテリーの胸に埋まったまま。
(……窒息するわよー)
少し離れてみる。しかし、クレアの腕にがっしり固定されている。
(お前いつか窒息死するわよ)
「んにゃ……消毒……」
(ほー。今夜は中毒者と踊ってる夢を見てるのね。最高)
クレアの肩を撫で、頭を撫で、そこにいるのは子供であるように、手が優しく動く。
(今夜みたいなのは本当に勘弁よ。もう嫌だからね。いい? 今夜は特別だったの。そこんとこよろしくね)
「んん……♡ テリー……♡」
(あ)
クレアが目を開け、テリーを見上げ、笑みを浮かべ――その顔にテリーがキュンとして、再びクレアがテリーの胸に顔を埋めた。すやぁ。
「クレア」
「あん。起こさないで。ダーリン。あたくし眠いの」
「それはお前のせいよ。……窒息するから、少し離れなさい」
「ダーリンの匂いを嗅いでたら安心する」
「はいはい。そうでしょうね。でも死んだら国民が悲しむからやめておきなさい」
「頭撫でて」
「……はいはい」
テリーの手の感触に、クレアがとろけてしまいそうになる。こいつ、口では暴言を吐くくせに、頭を撫でる手は優しいではないか。そういうところも愛してる。ダーリン。
「……で? 上書きはできた?」
「……レパートリーがあることは悪いことではない。これからは貴様とだけすることになるのだから、同じ手札では飽きられて終わりだ」
「手札とかいい。あたし普通のでいい」
「そういうところからマンネリ化が始まるのだ」
「じゃあこうしましょう。今回はかなりハードだったわ。だから次はかなりソフトなものにしましょう。ね、それがいいわ」
「何言ってるの? ダーリン。あたくし、めちゃくちゃ優しくしてたじゃない」
「おほほ。あれが優しいって言葉の行為だと言うのなら、一回性行為というものについて学び直してきなさい。教育係となら浮気とみなさないから」
「やだ。あたくし、ダーリンにしか興奮できないの。こうしましょう? ダーリンが教育係になるの。ふむ。我ながら素晴らしいアイデアだ。それならあたくし、毎晩でも勉強できるわ」
「あたしにさせてくれないくせによく言うわよ」
「下手なんだもん」
「お黙り!」
「はーい。黙りまーす」
頬を膨らますテリーを見て、クレアがクスクス笑いながらテリーの胸に顔を埋めた。いつもより優しい手に肩を叩かれる。
「クレア」
「わかった。窒息には気をつけるわ。ダーリン。本当にあたくしのことが大好きなんだから」
「ええ。大好きよ。クレアはね」
「くひひ! 興奮していたのはどこのどいつだろうな?」
「お姫様、女性が一番孕みやすい状況ってご存知? 愛する人と行為を行った時? 違う。強姦された時よ。子宮が驚いて、ショックが脳に伝わって、アドレナリンが放出されるの。それで受け入れ体制に入ってしまうものだから、性被害で妊娠してしまう女性はとても多いんですって。何が言いたいかわかる?」
「今夜のは強姦だったと?」
「2割でも許すんじゃなかった。今度キッドを演じてご覧なさい。いくら愛してる貴女でも、お腹だけでは済まさないわよ」
「でも、興奮してた」
「アドレナリンが放出されるくらい嫌だったってこと」
「つまり、良かったと」
「ちが……」
クレアがテリーの上に覆い被さり、目を合わせる。テリーがじっ! とクレアを睨むと、クレアがおかしそうに吹き出し、テリーの唇に優しいキスを贈る。
「……する度に、貴様は違う女になる。とても不思議だ」
「……あたし、貴女みたいにそんな器用なこと出来ないけど」
「自覚がないとは驚きだ。ロザリーよ。貴様はあたくしと交わる時、毎回別の女の顔となってあたくしの目の前に現れるのだ。飽きが来ないのはきっとそのせいだ。来るはずもない。だって毎回別の女の顔なのだから」
「それを言うなら、貴女もよ。ハニー」
「あたくしも?」
「ドSに来たと思えばドMになったり。ドMかと思えばやっぱりドSだったり」
「やはりレパートリーは多くなくちゃいけない。ダーリン、今度は大人なビデオ鑑賞会をしましょう?」
「絶対嫌」
「あんっ。つれないんだから」
もう一度キスをし、やはりテリーの胸元に戻ってくる。ここが今夜の定位置らしい。テリーがクレアの頭を撫でると、クレアが薄く笑みを浮かべ、瞼を閉じた。
「愛してるわ。ダーリン」
「愛してるわ。あたしのクリスタル」
「こうしてると落ち着く。何故だろうな。こんなの……貴様だけだ……」
テリーの匂いに包まれている。
「大好き、ダーリン……」
「……」
「……すやぁ……」
(……今のは……ズルくない……?)
不覚にも、胸がキュンと鳴ってしまった。
(……仕方ないわね。今夜だけは目を瞑ってあげる)
「ダーリン……ぐひひ……もっと恥ずかしいこと……してあげる……」
(一回説教しないと駄目ね。覚えてやがれ、クリスタル女)
「……んん……愛してる……テリー……」
「……チッ」
テリーがクレアの額にキスをした。
「あたしも愛してるわ。クレア」
そして、ようやく瞼を閉じる。クレアの温もりも、匂いも、テリーにとっては睡眠剤となった。
二人の恋人は向かい合い、なんだかんだ幸せそうに眠りにつくのである。
女は上書き保存 END
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