おとぎ話の悪役令嬢のとある日常(番外編)

石狩なべ

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リトルルビィ

ざまあ展開な世界

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 テリー誕生日企画です(*'ω'*)
 ざまあ展開な世界のリトルルビィ編です。
 ―――――――――――――――――――――――――――――――














 極悪非道の悪女のテリー・ベックス。彼女は天使のように優しい義妹を虐めた罪で逮捕された。

「死刑だ! 死刑だ!」
「テリー・ベックスを死罪にしろ!」
「あなた、どんなに悪い女でも、テリーはわたしの姉なの。どうか許してやって」
「ふむ、ではこうしよう!」

 メニー王妃の頼みに、リオン陛下はテリーの処理について決めた。

「オオカミの餌になってもらおう!」

 森にはとんでもない凶暴なオオカミがいるらしい。というわけで、テリーは森に置き去りにされた。

「メニー、これで安心だぞ」
「そうね。あなた」
「てめえら全員くたばっちまええええええええ!」

 テリーが暴れて縄を解こうとするが、なかなか解けない。

(くそ! 世界が変わってもむかつく奴らね! メニー! 特にてめえはゆるさねえからな!!)

 テリーが後ろの回された手を見た。とりあえず、この縄だけでも解かなくては!

「っ」

 そのとき――音が鳴った気がした。いいや、鳴っているのだ。木が揺れている。

(オオカミ!?)

 テリーがはっと息を呑んだ。

(や、やばい……!)

 テリーが逃げ出そうとしたが、足を滑らせた。

「ふぎゃっ!」

 地面に倒れ、そのまま起き上がれなくなってしまう。

(く、くそ! くそ! くそ!!)

 音が近づいてくる。

(もうだめ……!)

 テリーが目を瞑った。

(死ぬ!!)

「……お姉さん、大丈夫?」

(あ?)

 テリーがぱっと目を開けた。そこにいたのは、まあなんとも小さな女の子だろう。赤いマントを羽織った、オオカミの耳と尻尾を揺らすリトルルビィであった。

「リトルルビィ!?」
「え!? お姉さん、どうしてわたしのお名前、知ってるの?」
「あ、いや、その……」

(……まさかこの世界でリトルルビィに会うとは思わなかったわ……)

「あれ? お姉さん、縛られてるの?」
「……ああ。そうなの。解けなくて」
「まあ、大変。わたしが解いてあげる!」

(ああ、なんていい子なの! リトルルビィ! 贅沢三昧して善人ぶってるメニーとリオンとは大違い!)

「はい。どうぞ」
「ありがとう」

 テリーは解放された手でリトルルビィの頭を撫でてあげた。

「あんたは良い子ね」
「きゃっ!」

 しかし、頭を撫でた瞬間、リトルルビィが驚きの声を上げ、テリーがきょとんとした。

「え、ど、どうしたの?」
「だ、だって、みんなわたしを怖がるから……!」

 リトルルビィの耳と尻尾がたらんと下がった。

「頭、……初めて撫でられたから……びっくりして……」
「……っ、リトルルビィ!」

 テリーが小さなリトルルビィをぎゅっと抱きしめた。

「いつだって撫でてあげるわよ!」
「ひゃっ、お、お姉さん!?」
「よしよし! あんたは良い子よ! よしよし!!」
「ふ、ふわあ、なんだか……気持ち良くなっちゃう……」

 リトルルビィがほわほわした。

「お姉さん……わたし、もう少しお姉さんと一緒にいたい……」
「大丈夫よ。あたし城下町から追放されて、オオカミの餌としてここに置き去りにされたの。だから、帰るところなんてないのよ」
「ええ! お姉さん可哀想!」
「そうなの! あたしすっごく可哀想なの!」
(やっぱり、リトルルビィはあたしの苦しみをわかってくれる! いつだってあんたはあたしの味方で……良い子だわ!)
「お家を建てて、二人で住みましょう。そうしましょう」
「うん! わたし、お姉さんと住みたい!」
「そうと決まったら、リトルルビィ、お家を建てるわよ。……えーと」
「大丈夫! 任せて! わたし、物を作るの得意なの!」
「すごい! 流石リトルルビィ! あんたはどこの世界でも有能だわ!!」

 というわけで、リトルルビィが建てた立派な家で、テリーとリトルルビィの生活が始まった。

「テリー! お肉持ってきたよ!」
「でかしたわ。リトルルビィ、ほら、野菜も収穫できたわよ」
「テリー、畑仕事ばっかり!」
「何よ。楽しいじゃない。お花が咲くのよ」

 楽しく二人で生活をする。
 お互いの時間を守るために部屋は別々に用意してあったが、リトルルビィはいつもテリーの部屋に枕を持ってきていた。

「テリー、絵本読んで!」
「しょうがないわね。来なさい」
「うん!」

 リトルルビィは嬉しくて尻尾をちぎれんばかりに振り回す。

「テリー、あのね」
「ん?」
「わたしが大きくなっても、一緒に寝てくれる?」
「もちろんいいわよ」
「えへへ……! テリー、ずっと大好きだから!」
(この世界のリトルルビィはオオカミ……。いずれ、巣立っていくんでしょうね。オオカミってそういうものだもの)

 リトルルビィがまだ小さいうちは、一緒に楽しく生活を続けよう。テリーはそう思って、できる限り働いた。

「テリー!」
「はいはい」

 時が経つ。

「テリー!」
「お肉ありがとう」

 四季が過ぎて、やがて――。

「ん」

 テーブルの上に無造作に置かれた食料を見て、テリーが絶句した。

「……何これ」
「馬」

 大きく成長したリトルルビィが巨大な焚き火の上に、馬を乗せた。

「馬肉はうめえよな」

(こんな子じゃなかったのに!!)

 テリーがぶわっと涙を流した。

(なんでこうなったの!? あたしの教育が間違っての!? いいえ! 間違ってないわ! 嫌いな奴は憎め、邪魔者は排除しろ。この教育は間違えてないはずよ! なのに、どうしてリトルルビィはこんなにもやさぐれてしまったの!? 大切に大切に育てたのに!!)
「テリー」

 リトルルビィが自分よりも背の低いテリーの肩に顎を乗せた。テリーがちらっとリトルルビィを見る。

「ん?」
「食料持ってきたから、褒めて」
「……あんたね、城下町からもってきたの?」
「気取って他の馬虐めてたから、腹立って持ってきた」
「……この馬は、運が悪かったわね」

 誰よりも正義感溢れるリトルルビィに見つかるなんて。
 テリーがリトルルビィの頭を撫でた。

「でかしたわ。ルビィ」
「……ん」
「冷凍保存ね。これでしばらくお肉に困らないわ。ありがとう」
「……足りない」

(ん)

 リトルルビィがテリーのお腹に両手を回して、抱きしめる。

「キスして」
「……あんたね」
「その馬、……重かった」
「何も、まるごと持ってくることなかったのに」
「……キス」
「駄目よ。まだお昼なんだから」
「……夜ならいいの?」

(あっ)

 リトルルビィがテリーの首に唇を押し付けた。

「あ、ちょっと……! こら!」
「今欲しい」
「ルビィ!」
「テリーが欲しい」
「駄目だって言って……」

 テリーは振り返らなければ良かったと後悔した。

「……欲しい」

 そこには、立派に成長したが――まだ幼さが消えないリトルルビィが、テリーだけを見つめていた。

「ね……」
「……駄目だってば……」

 額同士がくっつきあう。

「テリー」
「まだ、昼だから……」

 吐息が肌に当たる。

「……したい……」
「……今、発情期だっけ……?」
「わかんない。……でも、テリーといるとムラムラする……」
「……昨日したばっかりでしょ」
「だめ?」
「……今?」
「……ん」
「……寝る前は?」
「もう我慢できない」
「……もう……」
「テリー」

 リトルルビィが強く抱きしめてくる。

「ごめん、ちょっと、よゆう、ない」

 リトルルビィがテリーの匂いを嗅ぐ。

「いい匂い……」

 リトルルビィがテリーの首筋にキスをした。

「テリー」
「あっ」
「ごめん、まじで……」
「もう、いいから……」
「……ベッド行っていい?」
「……ん……行きましょう」

 リトルルビィがテリーを腕に抱えた。

「うぎゃっ」

 黙って移動し、テリーをベッドに置けば、その上を覆い被さるようにリトルルビィが乗った。テリーがリトルルビィを見上げる。

「……っ、ルビィ……」
「やべえ」

 リトルルビィがマントを脱いだ。

「まじで興奮してきた」

 リトルルビィの手がテリーの体に触れた。それに驚いて、テリーの体が小さく揺れた。

「んっ」
「できるかぎり優しくするから……」
「……夜ご飯、遅くなっても文句言わないでよ」
「……わかってるよ……」

 リトルルビィの手がテリーの服のボタンを外していく。

「……ルビィ……」
「テリー、すごくいい匂いがする……」

 尻尾がぶんぶんと振られている。

「テリー……、……っ、……好き……」

 リトルルビィが身を沈ませ……テリーと口付けを交わした。


(*'ω'*)


(……夢……?)

 テリーがぼんやりと目を覚ます。天井を見れば、自分の部屋だった。

(ああ……ドロシーに変な魔法をかけられたみたいね……。頭痛い……。……ん?)

 なんだろう。すごく温かいものに包まれている。

(ん?)

 振り返ると、派手なピアスをするリトルルビィが自分を抱きしめて、ぐーぐー眠っていた。

(……あれ、またピアスの数増えた……?)

 そっと耳に手を伸ばしてみる。

(寝てる時だけは子供のままなのよね)

「……ん……」
「ああ、リトルルビィ、起きた?」
「あ……? テリー……」

 リトルルビィがぼんやりと目を覚まし――すぐに覚醒した。なぜなら、テリーの髪とドレスが乱れ、胸元が見えそうで見えない丁度いい感じでとんでもないことになっていたからだ。

「うわあああああああああああああああ!!」
「おぶっ」

 リトルルビィが顔を真っ赤にさせ、テリーに頭からマントを羽織らせ、すぐさま上体を起こし、テリーに背を向けた。すると、むすっとしたテリーがマントから出てきて、リトルルビィの背中を睨む。

「ちょっと、何するのよ」
「うるせえな……」

 リトルルビィがうなるように言い、片足が貧乏揺すりする。

「メニーが呼んでんだよ……。誕生日パーティーの準備が出来たんだとさ……」
「ああ、やっとなのね。ふああ。待ってるのも疲れたわ」
「だから、さっさと着替えて支度し……」

 なんだかんだ一緒に寝ていたリトルルビィが今頃理性を取り戻しイライラしながら振り向くと……なんということだろうか。テリーがその場でドレスを脱ぎ始めた。リトルルビィが心の中で悲鳴を上げた。

 ――きゃああああああああああ! テリーが、わたしの前でお着替えしてるぅううう♡♡!!

「だーーーーーーーーーあ!!!」
「え?」

 リトルルビィが叫び、テリーが阿呆な声を出す。瞬間移動を使い、シワのないドレスをテリーに着させ、髪を整え、靴も履かせて、とても寝起きとは思えないきらきらなテリーが出来上がる。

「ぜえ……ぜえ……」
「あら、すごい。リトルルビィ、あんた、こんなこともできるのね」
「いいから……さっさと行けよ……めんどくせえな……」
「ありがとう。手伝ってくれて」

 テリーがリトルルビィに近づいた。

「ご褒美よ」
「あ?」
「ちゅ」

 リトルルビィの額に、テリーがキスをした。直後、リトルルビィが石化して俯いた。

「さ、あんたも行くわよ。祝ってくれるわよね?」
「……チッ……」
「ほら、立って」
「……るせえな……」

(なんだかんだ言うこと聞いてくれるのよね。あんたの気持ちを断ったのに。……健気ね。リトルルビィ)

 ――さっきまで、メニーのことでイライラしてたのに。

(やっぱり、あんたを見てると気分が良くなるわ)

 テリーに言われた通り立ち上がったリトルルビィを見上げながら、テリーがふっと笑った。

「ほら、行きましょう」
「……わかってるよ」
「……ルビィ、……言ってくれないの?」
「……チッ」

 リトルルビィが頭を掻いて、顔をそらした。

「……誕生日おめでとう」
「……ありがとう」

 笑顔を浮かべるテリーから視線をそらすリトルルビィの耳は、わかりやすいほど赤く染まっていた。



ざまあ展開な世界 END
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