ウチに所属した歌い手グループのリーダーが元カノだった件について

石狩なべ

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6章

第54話

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 ミツカさんの隣に白龍さんが座り、正面に佐藤さんが座る。あたしは一人で、ミツカさんの部屋の片付けを行う。

「ミツカさん、ご体調はどうですか?」
「……そろそろ雑談配信したいです……」
「あぁ、よかった。そこから始めていきましょう」
「うん。別にみんなと合わせてやらなくていいし、ミツカのやりやすいところから始めていこ。メンタル病んでたことも言ってもいいし、そこは任せるから」
「ありがとう……」
「いいよ、ミツカが無事なら私はなんでも良いし」

 ミツカさんを肩に抱き寄せ、頭をなでる白龍さんは、非常に男らしい。

「では、そういう風にしましょうか。こちらとしても、問題ありません」
「ありがとうございます。佐藤さん……」
「いえいえ。ミツカさんの活動を支えるのが、私たちの役目ですから」
「あの、一つ相談なんですけど……」
「はい」
「セフレとか全部切ったので、本当に、心からのお願いなんですけど……」

 ミツカさんが両手を握りしめ、瞳を輝かせた。

「藤原さんと付き合っても良いですか?」
「駄目」
「んー……」
「私たち、本気で愛し合ってるんです!」
「駄目」
「そうですね。あの……藤原さんは、契約先のスタッフさんなので……」
「じゃあ、藤原さんが会社を辞めたら、いいんですか!?」
「ミツカ、一回冷静になろう」
「月子、私ね、本当に好きになったの! 本当に恋をしてるの!」
「いや、それ、前にも私に言ってたから。言ってるでしょ? ミツカはさ、恋愛体質な部分もあるから、ちゃんと冷静にならないと駄目だよって」
「でもね、今回は本当に違うの! 藤原さんはね、今までと違うの!」
「佐藤さん、すみません。これ以上藤原さんをここに置くのは良くないと思うので、今夜は佐藤さんがいてもらってもいいですか?」
「そのつもりです」
「大丈夫です! 私、藤原さんがいたら、絶対に復帰できます! 今は、心の支えが藤原さんなんです!」
「送ってきます」
「お願いします」
「やだ! 藤原さんに会わせて!」
「佐藤さん、お願いします」
「ミツカさん、ちょっとお話ししましょうか」
「ぐす……ぐすん……!」

 部屋のドアが開いた。振り返ると、白龍さんが訴えるような目であたしを見ており、会話を聞かれないよう、ドアを閉めた。

「荷物まとめてください。家まで送ります」
「……あの」
「大丈夫ですよー。愛しの彼女がいることは言ってないので」
「……」
「大丈夫ですよー。別に、なんとも、思ってないので」
「……怒ってるじゃないですか」
「怒りますわな。それはな?」
「……部屋片付けてからでいいですか?」
「ん」
「はぁー……手伝ってくださいよ。これだけ暴れさせて」

 投げられたものを、元の位置に戻していく。

「上手いこと言いますね。スタッフさんは駄目だよって。一番に手を出してるのは誰ですかね」
「私の場合は、高校で出会ってるし、スタッフになる前から付き合ってるので」
「はいはい。そうですね」
「ミツカは恋愛体質なんです。藤原さん、本気にしないでくださいね」
「……本気になったらどうします?」

 ぬいぐるみを棚の上に置く。

「あたしの恋人さんが、あまりにも暴力的で、横暴で、支配力があって、洗脳しようとしてくるから、可愛くて甘えん坊のミツカさんの方がいいってなったら、どうします?」
「それ」

 ——背後から、壁に手をつけて、あたしを閉じ込める。

「本気で言ってる?」
「……冗談ですよ」
「月子、冗談でも言わないで」

 耳に囁かれる。

「もしそうなったら、月子のこと殺しそう」
「……あたしを殺すんですか?」
「ミツカは親友だけど、親友に恋人譲るほど、心広くないから」
「……冗談ですって」
「うん。傷つく。普通に」
「……」
「鬱になりそう」
「……リンちゃん」

 振り返って、あたしを睨むリンちゃんに抱きつく。

「ごめんね。冗談だから」
「お前さ、言っていい冗談とかわかんないの?」
「なんでイライラしてるの?」
「乗り換えてんじゃねぇよ」
「リンちゃん」
「ふざけんな。マジで。どんな想いしてたと思ってんだよ」

 リンちゃんに大切に抱きしめられる。

「普通に寂しかったし」
「……うん。ごめんね」
「ツゥがいないから、弁当とか作れなかったし、ご飯、味しなかったし」
「……ごめんね」
「ツゥが連絡くれなかった時のこと思い出したし」
「……ごめんってば」
「配信、つまんねぇし。収録、上手くいかねぇし」
「……うん」
「ふざけんな。マジで」
「リンちゃん、キスして」
「甘えたら許されると思うなよ」

 そう言いつつ、唇が塞がられる。

「ふざけんな」

 そう言いつつ、抱きしめる手は離れない。

「ビッチが。尻軽女。ブス陰キャ」
「はいはい。どうせブスですよ」
「……寂しかった」
「……ごめんなさい」
「……一緒に帰ろ……」
「うん。帰ろうね」

 リンちゃんの頬にあたしからキスをする。

「荷物まとめてくるから」
「……待ってる」
「うん。待ってて」

 優しく言うと、リンちゃんが手を離してくれたので、あたしはカバンにパソコンや、持ってきたものを入れる。その間、リンちゃんがリビングに戻り、佐藤さんに伝える。

「藤原さん送ってきます」
「はい。お願いします」
「ミツカ、明日また来るから」
「……藤原さんにお別れ言わせて……」
「駄目」
「なんでぇ……?」
「お前が冷静じゃないから」

 あたしは先に部屋から出て、廊下で待つ。

「じゃあね」
「一回でいいからぁ……!」
「はいはい。また明日ね。佐藤さんお願いします」
「ミツカさん」
「ぐす……ぐすん……!」

 西川先輩が出てきて、あたしの荷物を奪った。

「はぁー。もう……」
「……いつもどうしてたんですか?」
「前の会社でもスタッフさんに来てもらってたよ。ただ、体の関係を持つ人多かったから、まじでやめてって言って、揉めたことはあった」
「……」
「あの恋愛体質、なんとかしないとそのうちトラブル起きそう」
「……本人もわかってはいるんですよね」

 ただ、自分を変えるのはとても難しいことだ。

「話聞いてて、可哀想になっちゃいました。なんか、ご実家も、問題ありなんですよね?」
「うん。なんか……片親で、統合失調症らしくて、話ができないって」
「……」
「甘えられない環境で育ったからさ、愛されたい願望が強いんだろうね」
「……可愛らしいですよね」
「才能あるよ。歌上手いし、踊りも上手いし、誰よりも努力するし」
「……ミツカさんと仲良いですよね」
「親友だからね」
「……なんか、お話ししてて、先輩とは正反対って感じがしました」
「うん。私に持ってないもの持ってるからさ、いつも羨ましいよ」
「……意外ですね。先輩でも羨ましいとか思うんですか?」
「いや、思うよ。ミツカ可愛いじゃん。すげーモテるし、にこって笑うだけでファン増えるとかさ、まじで羨ましい。だから私も負けないように努力するし。……たまに思うよ。ミツカみたいに可愛くなりたかったって」
「……なんか、ないものねだりですね」
「うん。だからライバルであり、親友なんだろうね」

 マンションから出ると、タクシーが停まっていた。西川先輩と一緒に乗る。

(あぁ……マンションから離れていく……)

 見慣れたマンションに着いた。

(あぁ……帰ってきた……)

 西川先輩と住んでる部屋に、戻ってくる。

(あー……帰ってきた……)
「……ツゥ」
(あ)

 背後から抱きしめられる。

「おかえり」
「……はい。ただいま、帰りました」
「一緒にお風呂入ろっか」
「……いや、お風呂は……別々で良くないですか?」
「ミツカの匂い落とさないと」
「……ミツカさんの……匂いとか……なくないですか?」
「ううん。なんかツゥね、臭い」
「……臭いですか?」
「ミツカ臭い」
「……それ、ちょっと失礼じゃないですか?」
「うん、だから、元の匂いに戻ろうね」
「いやいや、あの、大丈夫ですから、子供じゃあるまいし」
「いや、よくないから」
「いや、ですから……」

 引っ張られる。

「いや、あの、リンちゃん!」

 脱衣所のドアが閉められた。——しばらくして、子供には聞かせられない声が、浴室から響き渡った。

「……っ、ちょっと……待って……!」
「はぁ……ツゥ……月子……」
「待って、は、速い……から……」
「ん……キスして……」
「ん……んむ……」
「ツゥ……体……熱いね……」
「あっ……やっ、待って、そこ……」
「触ってなかったから鈍くなってるね。大丈夫だよ。ツゥ。元に戻すから」
「ひゃっ、あ、リンちゃ、まっ、あっ……あっ……!」

 声が反響する。

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