ウチに所属した歌い手グループのリーダーが元カノだった件について

石狩なべ

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【番外編】現在

※目が冴えた夜

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 深夜2時。

 体は疲れているが、ベッドは気持ちいいのだが、全然眠れない。

(……これやばいな……)

 あたしはスマートフォンを手に取り、LINEを開いた。

 緊急ミッション、眠れません。

 送ってすぐに既読がついた。返事が返ってくる。

 >目が冴えてる感じ?
 <そんな感じです。
 >なんか飲む?
 <いえ、寝たいです。
 >こっち来る?

「……」

 少し考えてから、チャットを送った。

 <何もしませんか?
 >私、なんだと思われてんの?(拳の絵文字)

(……素直に助けてもらおう)

 スマートフォンを持ったままベッドを抜け出し、少し寒さを感じるリビングを抜け、西川先輩の寝室のドアをノックした。すると、ドアがゆっくりと内側から開いていく。

 得意げな顔をした西川先輩が立っていた。

「入って」
「……すみません」
「ううん。一緒に寝よ」

 西川先輩に導かれて、あたしの写真が天井に貼られたダブルベッドへと潜り込む。西川先輩があたしに体を寄らせ、見下ろす。

「トントンするのと、ぎゅーってするの、どっちがいい?」
「どっちもしません。寝るだけです」
「ねぇ、待って。冷たい。ツゥー、つめたーい」
(ベッドが変わったらちょっとは変わるでしょ。スヤァ)
「……」

 目を閉じたあたしを見た西川先輩が――あたしに唇を重ねてきた。すぐに、平手打ちする。

「何もしないって言いました!」
「寝たのかなと思って!」
「寝たらセクハラ有りとは限りません!」 
「恋人同士じゃん!」
「だったらなおさら寝てる時はやめてください!」
「……昔のツゥはもっと可愛かった」
(ほざいてろ)

 西川先輩に背中を向けると、当然のように後ろから抱き締められ――少しだけ、胸がキュンとした。

(……目で見なくても、西川先輩の存在が確認できる)

 お腹に回された手に、自分の手を重ねる。

「……」

 西川先輩の指を弄ってみた。なでたり、なぞったり、人差し指と親指でつまんで、いじいじしたり。弄りやすいように、西川先輩も手を広げてくれたので、あたしは子供のように西川先輩の手に触れていると、――覆いかぶさってきた。

「ちょっと! なんですか!」
「なんですかはこっちだから! 可愛いことばっかしやがって!」
「セクハラですよ!」
「なんとでも!」
「西川先輩!」
「そろそろ名前で呼べよ!!」
「嫌だよ!」
「月子!」
「なんですか!」

 ……。
 ちゅ、と頬にキスをされた。

(……何もしないって聞いたのに……)

 首筋にキスを落とされる。

(あ、でも確かに、先輩からは何もしないとは、言ってないかも……)

 唇が肌をなぞる。

「……先輩は」
「ん?」
「あたしが……その、いなかった時って、こういう時、どうしてました?」
「……どうしても寂しい時は風俗行ったり」
「え、女性専用ですか?」
「そうそう。女性専用の、女の子がいるやつ」
(……そうなるんだぁ……)
「ん。……ツゥは?」
「いや、そういうの行く暇もないほど働いていたので……うーん。一人でシたり……」
「えっ」
(ん?)

 急に西川先輩が起き上がり、あたしを見た。

「ツゥ、一人でするの?」
「……まぁ、……大人なので……」
「見たい」
(……言わなきゃよかった……)
「……風俗嫌だった?」
「え? あ、それはいいんです。別にお好きに行っていただいて……」
「今は行ってないよ?」

 頬にキスをされる。

「ツゥがいるから」
「……っ、ちょっと……」

 太ももを撫でる手に、下心を感じる。

「ね、オカズはどうしてたの?」
「……あっ……っ……プライバシーです……!」
「私、ツゥの全部知ってたい」
「いや……ん……」
「じゃあさ、こうしよ」

 西川先輩が笑みを浮かべた。

「今日は、ツゥのオカズ見ながらヤろ」
「……えーっと……」
「オカズ教えて?」
「……えーーっと……」
「ツゥ?」

 俯くあたしの頬や耳にキスをし、しつこく聞いてくる。ねえ、オカズなーに? 教えて? 怖くないよ? 恥ずかしくないよ? ねぇねぇ。ツーゥ。ツゥのオカズ、知りたいなぁ。

「……」

 スマートフォンを点け、写真ファイルから探して……色んなものを観てきた中で一番一人で抜けたものを――見せる。

「……」

 西川先輩が言葉を失った。
 あたしは視線を逸らした。
 西川先輩があたしを見た。
 あたしは視線を戻さない。
 西川先輩が――顔が真っ赤であろうあたしに――大量のキスの雨を降らした。

「ん、ちょ、ん、んっ……」
「これ、ガチで、言ってる?」
「だって、これしか、なかったので」

 ――高校時代の――リンちゃんと、セックスした後――着替えてた彼女の背中を、隠し撮りした写真。

「まっ、待って、ちょっと……ほんとに……」

 西川先輩がスマートフォンを見て悶えた。

「……」

 あたしを優しく抱きしめ、子供にするように頭を撫でた。

「ツゥさ。……………やっぱり私のこと大好きだよね?」
「……これしかなかっただけです」

 視線を泳がす。

「他に……知る時間もなかったので……」
「……あー、待って! あーーー! ……わぁー……」

 額にキスをされる。

「なんか、すごい愛を感じた」
「……」
「ツゥ、こっち見て」
「嫌です」
「ツゥ」
「寝ます」
「月子」

 ……視線を戻すと、リンちゃんとすぐに目が合った。……ゆっくりと近づいてきて、唇が重ねられる。優しく撫でられる。吐息が漏れた。パジャマのボタンが外された。

(……いいや。もう……)

 目が冴えてるし。眠れそうにないし。

(寝る前の運動がてら……)

 リンちゃんの手が、あたしの肌に触れてきた。


(*'ω'*)


 ――今、何時だろう。スマートフォンを見る余裕がない。

「あっ」

 声が出る。

「待って……」

 その気はないのに、

「リンちゃん」

 どうしても、抑えられない。

「……――っ……♡」
「……はぁ……っ……また、イッた?」

 汗を拭いながら笑うリンちゃんは、非常に艷やかだ。

「可愛いねぇ……ツゥ……」
「はっ……はぁ……」
「大丈夫だよ。ゆっくり……呼吸して……」
「はぁ……はぁ……」

 リンちゃんに抱きしめられながら、呼吸を整えていく。手を握られ、ベッドに貼り付けられたように敷かれ、逃げられない。

(頭、真っ白……)
「ツゥ、キスしようね、ん」
「ちゅ……」
「ほら、私の背中、触っていいよ」
「はぃ……」

 リンちゃんの背中は、当時と比べて筋肉がついて、またこっちも……触り心地が良かった。

「ツゥ、もう少しいける?」
「ん……」
「いけるよね?」
「あっ」
「まだ足りないよね?」

 リンちゃんの腰が動き出すと、陰部同士が擦り合わされ、また――あたしの背筋が伸びた。

「あぅっ!」
「あ、すごい、今の顔、可愛いよ。ツゥ……」
「あっ……嘘……あっ……ぁっ……♡」
「これいい?」
「い……いいです……♡」
「ツゥ、どこ見てるの? ほら、ちゃんと見て」
「っっっ……♡」

 その目で見られると、また達してしまいそうになる。だから、視線が泳ぐ。

「月子、こっち見て」
「……やだ……っ……」
「あ、そんないけない子は……」

 ――また達した。痙攣が止まらなくなる。

「~~……っっ……♡」
「……月子」

 視線が、強制的にリンちゃんに定められた。

「私の写真、気持ちよかった?」
「……ん……んん……♡」
「どうやって抜いてたか、教えて?」
「……おもい、だして……」
「え?」
「リンちゃんと」

 してきたセックスを、写真を見て、思い出して、

「し、てま……した……」
「……」
「……ん……」

 目を閉じかけると――リンちゃんに抱きしめられたのを感じた。すごく温かくて、安心して、絶対に守ってくれるから、あたしは、心から安堵してしまって。

(リンちゃん……)

 次に訪れたのは、深い――睡眠だった。



(*'ω'*)


 ――というのを思い出しながら、あたしは時計を見ていた。11時。

(……大遅刻なんだけど)
「あ、高橋先輩、すみません。遅れます」
『お前寝坊したんだろ! やーい! ばーか!』
(うるさいなぁ)

 通話を切ると、ノロノロと起き上がった西川先輩に抱きしめられる。

「ツゥ……」
「おはようございます。大遅刻です」
「あれ……なんかのんびりだね」
「いや、もうこうなることを予測してました。目が冴えてたんです。仕方なかったんです」
「そっかそっか。じゃあゆっくりしよ」

 抱きしめたまま――ベッドに戻される。

「ツゥ、大好き……♡」
「……昨日みたいなのは、ちょっと、控えましょう」
「ええ? なんで? すごい興奮したよ?」
「体が持ちません」
「えー? 持たないのー♡? えー!?」
(なんだこの人、ムカつく)
「一緒に体鍛える?」
「そういうことじゃないです」
「お仕事?」
「お仕事です」
「休んだら?」
「イエスは存在しません」
「キスして?」

 ……。あたしは西川先輩の頬にキスをした。

「んっふ♡」
(なんだ。朝からどうした?)
「ツゥ、まじで、可愛い♡」

 西川先輩があたしを撫でる。

「小悪魔♡」
「……仕事行っていいですか?」
「あと5分イチャイチャしたら」
「あたしには5分の猶予もありません」
「あるある。全然存在する。もうね、24時間にしてもいいくらい」
「なんすか、それ」
「月子」
「はいはい」
「ツゥ」
「はいはい。……もう」

 これが人を好きになった代償か。惚れた弱みにつけこまれたか。西川先輩に抱きしめられて、撫でられたら、もう、大人しくするしかない。

(……なんでこんな人を好きになっちゃったかな。はぁー……)

 けれど結局落ち着くから、あたしも彼女を抱きしめて、よりリンちゃんを感じるために、瞳を閉ざすのだった。


 目が冴えた夜 END
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