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【番外編】現在
散髪
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「お姉さん、今お時間ありますか? 私、美容師やってまして……」
年齢が同じくらいのお姉さんに声をかけられ、月子が立ち止まった。
「もしよかったら髪切りませんか?」
(あー、そういえば髪全然切ってなかったなぁ)
腕時計を見る。
「何時間くらいですかね?」
「逆に何時間だったらいけます?」
「1時間くらいなら」
「あ、いけます、いけます!」
「あ、それなら……」
というわけで切ってきた。最近暑くなってきましたからねぇ。
「ただいまですー」
「ツゥ、おかえ……」
リンが口を押さえて立ち止まった。髪を切った月子をじっくり眺めて、高速で近づいてくる。
「ちょ、待って、髪切った」
「歩いてたら美容師の見習いさんに声をかけられまして、せっかくなので切ってもらいました」
「え、待って、可愛すぎん? いや、可愛すぎる」
「はいはい」
華麗に流し、洗面所で手を洗う。その間も、リンは月子の髪の毛をいじる。
「ねぇ、可愛いんだけど」
「ありがとうございます」
「ちょ、無理、ねぇ、尊すぎる」
「はいはい」
タオルで濡れた手を拭い、リビングに移動する。
「配信前に一緒にご飯食べちゃいます?」
「食べる。もう作ってる」
「やった。ありがとうございます」
リンはいつまでも月子の頭をなでる。
「先輩」
「なーに?」
「手がうるさいです」
「いやーーーーだってさーーーー」
髪の毛をいじる。
「えーーーかわーーー」
月子を抱きしめる。
「むりーーーー」
やっぱり頭を撫でる。
「可愛すぎーーーー」
「腕のいい人で助かりました」
「今までのツゥも好きだったけど、惚れ直すわ、これ。やーーー、可愛いーーーー」
「はいはい。西川先輩の方が可愛いですよ」
「ツゥの方がかわいーいー」
(よく言うわ)
「ねぇ、今日ってお風呂入る?」
「え? そりゃ入りますけど……」
(あ、でも髪は美容室でやってもらったから、体だけ洗う日……)
「明日リモートの日だったよね?」
――はっとした月子が、リンに振り返った。
「風呂キャンでもいいんじゃない……? 今日くらいさ、ツゥの汗の匂いとか、体臭漂わせたって、何にもならないって……。あ、私は気にならないから大丈夫だよ……。全然臭くないよ……。ツゥは良い匂いだよ……。頭は美容室でやってもらったならさ……。大丈夫だって……。今日くらいお風呂キャンセルしたってどうにもならないからさ……。ねぇ……ツゥ……」
涎を垂らしたリンが笑顔で聞いてきた。
「抱きしめてもいい?」
「お風呂入りまーす!」
「あ!!」
即、全力体洗い。即、全力お風呂堪能。上がると、それでもリンが抱きついてきた。
「うん。私と同じシャンプーの匂い。うん。いい。うん。頭良い匂いする。うん。いい」
(なんだろう。どちらを選んでもこうなってた未来があった気がしてならないのは……)
「ほら、ツゥ、鏡行こ。全身見に行こ」
(鏡見たって、そこに映るのは)
髪が短くなった月子と、素顔でも美しく整えられたリンの姿。
(あー、あー、やっぱり敵いませんねぇー。ブスが髪切って見せつけてごめんなさーい)
「ツゥ、可愛い……♡」
リンが月子のこめかみにキスをした。
「雰囲気変わって、こっちもいいねぇ……♡ もうね、ずっと見てられる……♡」
(何言ってるんだろ。この人)
けれど、頭を撫でてくれるし、優しく抱きしめてくれるし、
(……今夜はちょっとだけ甘えよ)
「うひょっ♡!? んっ♡! 月子ちゃん、ふふっ、どしたの、へっ♡ 甘えたいの? んふふ! ツゥ~♡!!」
(うるさいなぁ)
そうは思いながらも、鏡に映る二人は、仲良さそうに寄り添い合っていた。
散髪 END
年齢が同じくらいのお姉さんに声をかけられ、月子が立ち止まった。
「もしよかったら髪切りませんか?」
(あー、そういえば髪全然切ってなかったなぁ)
腕時計を見る。
「何時間くらいですかね?」
「逆に何時間だったらいけます?」
「1時間くらいなら」
「あ、いけます、いけます!」
「あ、それなら……」
というわけで切ってきた。最近暑くなってきましたからねぇ。
「ただいまですー」
「ツゥ、おかえ……」
リンが口を押さえて立ち止まった。髪を切った月子をじっくり眺めて、高速で近づいてくる。
「ちょ、待って、髪切った」
「歩いてたら美容師の見習いさんに声をかけられまして、せっかくなので切ってもらいました」
「え、待って、可愛すぎん? いや、可愛すぎる」
「はいはい」
華麗に流し、洗面所で手を洗う。その間も、リンは月子の髪の毛をいじる。
「ねぇ、可愛いんだけど」
「ありがとうございます」
「ちょ、無理、ねぇ、尊すぎる」
「はいはい」
タオルで濡れた手を拭い、リビングに移動する。
「配信前に一緒にご飯食べちゃいます?」
「食べる。もう作ってる」
「やった。ありがとうございます」
リンはいつまでも月子の頭をなでる。
「先輩」
「なーに?」
「手がうるさいです」
「いやーーーーだってさーーーー」
髪の毛をいじる。
「えーーーかわーーー」
月子を抱きしめる。
「むりーーーー」
やっぱり頭を撫でる。
「可愛すぎーーーー」
「腕のいい人で助かりました」
「今までのツゥも好きだったけど、惚れ直すわ、これ。やーーー、可愛いーーーー」
「はいはい。西川先輩の方が可愛いですよ」
「ツゥの方がかわいーいー」
(よく言うわ)
「ねぇ、今日ってお風呂入る?」
「え? そりゃ入りますけど……」
(あ、でも髪は美容室でやってもらったから、体だけ洗う日……)
「明日リモートの日だったよね?」
――はっとした月子が、リンに振り返った。
「風呂キャンでもいいんじゃない……? 今日くらいさ、ツゥの汗の匂いとか、体臭漂わせたって、何にもならないって……。あ、私は気にならないから大丈夫だよ……。全然臭くないよ……。ツゥは良い匂いだよ……。頭は美容室でやってもらったならさ……。大丈夫だって……。今日くらいお風呂キャンセルしたってどうにもならないからさ……。ねぇ……ツゥ……」
涎を垂らしたリンが笑顔で聞いてきた。
「抱きしめてもいい?」
「お風呂入りまーす!」
「あ!!」
即、全力体洗い。即、全力お風呂堪能。上がると、それでもリンが抱きついてきた。
「うん。私と同じシャンプーの匂い。うん。いい。うん。頭良い匂いする。うん。いい」
(なんだろう。どちらを選んでもこうなってた未来があった気がしてならないのは……)
「ほら、ツゥ、鏡行こ。全身見に行こ」
(鏡見たって、そこに映るのは)
髪が短くなった月子と、素顔でも美しく整えられたリンの姿。
(あー、あー、やっぱり敵いませんねぇー。ブスが髪切って見せつけてごめんなさーい)
「ツゥ、可愛い……♡」
リンが月子のこめかみにキスをした。
「雰囲気変わって、こっちもいいねぇ……♡ もうね、ずっと見てられる……♡」
(何言ってるんだろ。この人)
けれど、頭を撫でてくれるし、優しく抱きしめてくれるし、
(……今夜はちょっとだけ甘えよ)
「うひょっ♡!? んっ♡! 月子ちゃん、ふふっ、どしたの、へっ♡ 甘えたいの? んふふ! ツゥ~♡!!」
(うるさいなぁ)
そうは思いながらも、鏡に映る二人は、仲良さそうに寄り添い合っていた。
散髪 END
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