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番外編(高校時代)
本屋
しおりを挟む生徒会の仕事もなく、部活もなかったため、一人で帰り道を歩いていると——挙動不審な後輩の姿を見つけた。
(あ、月子ちゃんだ)
「……」
(なんかまた困ってそうだなぁ)
眉を下げた藤原月子の顔を覗き込むように近づくと、月子ちゃんが驚いて声にならない悲鳴をあげた。
「っっっっっ」
「ちょっと、人の顔を見て驚かない」
「……すみません、びっくりして……」
月子ちゃんが後退りながら、体を震わせて私の足元を見た。
「帰り道こっち?」
「……はい」
「あれ、月子ちゃんどこ中だっけ?」
「……北川東中……」
「あ、そうなんだ! 私、川東!」
「……え、そうなんですか?」
「わーあ、知ってたら一緒に帰ったのに!」
視線を本屋に移す。
「なんか探してたの?」
「……あの……欲しい本……見つけたんですけど……身長……届かなくて……」
「あれ、踏み台とかなかった?」
「……なんか……使ったら、目立っちゃうかなって……」
「踏み台は使うためにあるんだよ」
笑いながら一緒に本屋の中に入る。
「どれ?」
「あの……それ……」
「これね」
ずいぶん変な本を読むなと思いながら、手に取った本を月子ちゃんに差し出す。
「はい、どうぞ」
「あ……」
——その時、月子ちゃんの目が輝き——顔を上げた。
「ありがとうございます……!」
——純粋に輝くピュアな瞳を見た瞬間、私は突然、こんなことを思った。
(この子、笑顔がすごく可愛い)
「あの……これ……ずっと探してて……」
「……『人から嫌われない7つの方法。あなたもこれで人モテ人間』? 変な本買うね」
「あの、駅で見かけて……話題になってたので……」
月子ちゃんが嬉しそうに本を胸に抱きしめて、私に頭を下げた。
「本、取ってくださって、本当にありがとうございました」
「買っておいで。一緒に帰ろうよ」
誘った瞬間、月子ちゃんの顔が青くなり、体が震え始めた。おいおい。
「知らない人じゃないんだからさ」
「いや……あたし……仲良くなったら……すぐ人に嫌われるので……」
「一緒に帰るだけだって! 身構えるな!」
「ひぃ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「なんか私が虐めてるみたいだから!」
「すみません! すみません!」
(難しいな。この子……)
生徒会室に案内した翌日に部活の見学にきて、そのまま入部してくれたから、もっと仲良くなれると思うんだけど。
(中学の頃の部活が相当スパルタだったんだろうな)
「お待たせしました……すみません……」
「ん。帰ろー」
まだ春のせいか、空は明るい。横に並ぶ後輩を見てみると、やっぱり俯き、足元を見ながら歩いてる。おーい、前見ないと、車来るかもしれないぞー。
「月子ちゃん、学校慣れた?」
「……まだ、あまり……」
「友達は?」
「一応……席近い子と……一緒にいます……」
「虐められてない?」
「……あたし、それが怖いんですよね……」
月子ちゃんがため息を吐き、陰気臭いオーラを出した。
「何をきっかけに虐めが起きるかわからないじゃないですか。虐めまでいかなくても、ハブられたりとか、無視されたりとか、もう明日にはされるんじゃないかなって思って、色々対策はしてるんです」
「対策って?」
「消臭スプレーを念入りにかけたりとか……」
(そっか、だから月子ちゃんからはアロマの匂いがするのか……)
「なんか、そういうの気にしちゃうんですよね……」
「……まぁ、クラスのことは何も言えないけどさ」
足元を見ながら歩く月子ちゃんに伝える。
「なんか、困ったことあったら、話だけなら聞けるからさ、私に言ってくれていいから」
「……いえ、大丈夫です」
「月子ちゃん、私、月子ちゃんの先輩だよ? 先輩っていうのはね、後輩が困ってたら助けてあげるんだよ。一年長く生きてるからね」
「……」
「じゃあさ、今日困ったことはある?」
「……あの……消しゴムの……かす……どうしたらいいのかなって……」
「あんなもん床にぴぴぴって払っておけばいいんだよ。みんなやってるから」
「でも……先生がゴミ箱に捨てろって……」
「いいよ。気にしなくて。消しゴムのカスは、床に払う。はい、解決」
「……」
「次に困ったことは?」
「……一緒にいる子から……アロマの匂いがきついって言われて……」
「消臭スプレーかけすぎなんだよ!」
「なんか気になっちゃって……」
「ワキガ?」
「いえ、特に」
「ワキガの友達いるけど、その子も匂いの対策してくれてるし、いい子だから全然気にならないよ。消臭スプレーちょっと減らしたら? 匂いきつい時は私が教えるから。それならいい?」
「……それは……すごく助かります……」
「次に困ったことは?」
「えっと……」
多分、月子ちゃんは気にしすぎなんだと思う。だけど、その内容が意外とくだらなくて、意外と確かにと思うもので、少し、彼女に興味が湧いた私がいた。
「消臭スプレー何使ってるの?」
「なんか……アロマのやつ……」
「アロマ好きなの?」
「なんか……良い匂いかなって……」
意外とこの子は面白い子なのかもしれないと思いながら、私は彼女と、隣に並んで歩いていく。
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