ウチに所属した歌い手グループのリーダーが元カノだった件について

石狩なべ

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5章

※第38話

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 疲れ切ったゆかりさんはあたしの部屋に泊まり、疲れ切ったあたしは西川先輩の部屋に移動する。しかし、まだ寝られない。

(今夜は長い夜だな……)

 何の配慮なのか、後ろから抱きつく形で西川先輩があたしを抱きしめ、この状態で話を始める。

「それでね、月子」
「はい」
「さっき、ゆかりんちで言ってた話したいことの内容なんだけどさ」
「明日にしませんか?」
「いや、もう日跨いでるから。明日だから」
「いや、ですから、明日の夜にしませんか?」
「いや、今話そうよ。大事なことだから」
(……うるさいな……もう……)
「いや、あのさ」
「はい」
「高校の頃のさ、告白さ」
「真剣だったんですよね」
「うん」
「はい。今ならわかります」
「……ツゥさ、なんでOKしたの?」
「……んー……先輩が離れるのが怖かったからですかね」
「……そうなの?」
「……そうですね。確かにこの辺の話はしてませんでしたね」
「うん」
「……そうですね。依存……」

 あの当時思っていたことは、確かにそうだった。

「依存ですね。あれは、はい。あまりよろしくない関係だったと思いますよ」
「……ツゥ、私に依存してた?」
「してましたよ。すごく。西川先輩の金魚の糞みたいな、ずっとついて歩いてたじゃないですか」
「……え、そうだった?」
「はい。生徒会も誘われた時ついていきましたし、料理部もすぐ行ったし、カラオケもすぐ行ったし、お金に余裕あれば、ライブとかもついていきましたし」
「え、あれ依存だったの?」
「依存というか、なんか先輩が側にいないと不安だったのは、ありました」
「……今は?」
「今は……もう大人なので」

 西川先輩があたしのお腹を揉んだ。

「あと、少し先輩から離れて、冷静になったのはありますね」
「……」
「だって、ずっと西川先輩に頼ってるわけにはいきませんからね。動画編集者として、社会人として、一人で生きていけるようにならないといけないですし」
「私はさ」
「はい」
「もっと早くそれが知りたかった」
「……どれですか?」
「依存の話」
「なんでですか。うっとおしいでしょ」
「だってさ、依存してたらさ、普通に連絡返してたわけでしょ? 水没してても」
「……そうですね。真っ先に返したでしょうね」
「そしたらさ、もっと早くツゥをこっちに呼べたわけじゃん」
「でも、友達の話もありましたからね。同性愛が気持ち悪いって話」
「その後さ、もし私と連絡しててさ、『そんなの学校から出ちゃえば関係ないからこっちおいで』って言ってたら、ツゥ来てた?」
「卒業する前に来てたでしょうね。その頃には生徒会長も交代してましたし」
「ほら、知ってたかった」
「お言葉ですけど、たらればの話はやめませんか? そうなってたら、あたし、運営部にも入ってませんし、動画編集もやってませんよ。それに、もしかしたら、お互い嫌気がさして、別れてたかもしれませんよ?」
「でも」
「なんですか」
「私は……辛かった」

 少しだけ、強く抱きしめられた。

「もうツゥに会えないと思って……六年間、寂しかった。ストレスで煙草も始めた。ツゥがいなかったから、だから、……」
「……でも西川先輩、セフレいますよね?」
「……は? それ誰言ってたの?」
「いや、聞いてませんけど、勘です」
「ツゥ、自分の勘を信じるのはやめよう。お前向いてないよ」
「なんでそんな否定的なんですか。昔はもっと肯定してくれてました」
「お前がそんなだから否定するんだよ。なんだよ。セフレって。ふざけんな」
「だって、西川先輩が、あたしだけで満足するわけないじゃないですか」
「え、待って? 私なんだと思われてるの?」
「え? 女好きの配信者?」

 西川先輩があたしを巻き込んでベッドに倒れた。

「ちょっと」
「お前さ」

 西川先輩があたしに覆い被さった。

「どれだけ私がお前を愛してるか、そろそろ自覚したら?」
「とか言って、愛と体の関係は違うじゃないですか」
「いや、待って、さっきから何言ってんの?」
「いや、ですから、もう依存とかはないので、もう、お好きにしてくださって大丈夫です。セフレがいても、浮気相手がいても、あたしはもう、気にしないので」
「月子」
「ゆかりさんもいますし、今夜はもう寝ましょう?」
「やだ」

 西川先輩があたしのパジャマのボタンを外した。

「月子を犯すまで寝ない」
「なんでそんなに怒ってるんですか」
「私の気持ちが全然届かないから」
「届いてますよ! なので……」
「届いてたらセフレとか出てこない。気にしないとか出てこない。連絡しないとか出てこない。もういいや、なんて……そんな言葉……出てこないんだよ!」

 ボタンが全部外れた。キャミソールが丸見えになる。

「月子はわかってない。どれだけ私が月子を想ってるか、ファッション程度にしか思ってない」
「別にファッションとは……」

 西川先輩の手がキャミソールの中に入った。

「ちょ……」
「駄目。まだ寝かせない」
「リンちゃん」
「許さない。月子。勝手に連絡切って、勝手に私を忘れようとして」
「わかった、わかったから……」
「何もわかってないじゃん」

 冷たい目が、あたしを見下ろす。

「今夜は寝かせないから」
(……なんか、嫌な予感する…)

 西川先輩の手が大胆に肌をなぞっていった。


(*'ω'*)


 リンちゃんがあたしの髪の毛を掴んだ。好きだね、これ。
 リンちゃんがあたしの頭を引っ張った。好きだね、これ。
 リンちゃんがあたしの顎を掴んだ。好きだね、これ。

 でもあたしは嫌い。

 痛いし、何も気持ちよくないし、今日の西川先輩はとても乱暴で、横暴で、とにかく、全部が、痛かったから、もう無理だと思って、流石のあたしも口を開けた。

「——っっとに……、嫌です!!」

 振り返って、西川先輩の手を振り解いた。西川先輩は——冷たい目で上から見下ろしてくる。

「さっきから何なんですか!」
「うるさい」
「うるさいのはどっちですか!」
「黙ってくれない?」
「ちょ……もう……!」

 両手首を掴んでくる西川先輩を押し除けた。

「やめてってば!」
「っ」
「いい加減にしてください! 本当にやだ! ちょっと気に食わないこと言われたからってなんですか! もういいです! あたし、ソファーで寝ますから!」

 投げ捨てられたパジャマを拾おうとすると、西川先輩に腕を引っ張られた。

「ちょっ」

 また押し倒される。

「ほんと、に……も……退いて!」

 近づいた。

「せんぱっ」

 ——首を噛まれた。

「っ」

 歯が、がっちり、首に刺さる。

(は? 何してんの?)

 痛い。

(ちょ、まじで)

 痛い。

(ふざけんな)

 痛い。

(離れ)

 離れない。体を押すが、絶対離れない。噛み続ける。痛い。唸りながら体を押す。離れない。あたしは唸り続ける。離れない。大声を出した。

「痛いってば!」

 体を叩く。

「痛い! 痛いっ!!」

 絶対血出てる。

「やめてってばぁーーーーー!!」

 大声を出す。でも離れない。あたしを殺す気なんじゃないかと思うくらい離れなくて、あたしの目から涙が伝った。

(痛い……ガチで痛い……痛い……!)
「……え? 泣いてる?」
(こいつ……!)
「あはは! 泣いた! 泣いた!」

 あたしの首から離れた唇が口角を上げた。

「ばーか!」

 思考が停止した。

「何その顔。ブスじゃん!」

 ショックだった。

「月子はブスだねぇ! 全然可愛くない! そんな顔でよく生きていけるよな!」

 うるさい。

「昔から何もできないくせに粋がってさ!」

 うるさい。知ってるよ。知ってるからあなたに依存したんだよ。

「頭も悪くて、バカで、マヌケで、ブスで、私がいないと、お前何もできねーじゃん!」

 うるさい。わかってんだよ。そんなこと。だから全部一人でやってきたんだろうが。

「お前! 私に、もう少し感謝するべきだよね!」

 手に力がこもった。

「月子!! 聞いてる!? ねえ! 顔隠してんじゃねぇよ!!」

 引っ張られた。

「ブスな顔見せろみろって! 月子!!」
「っっ……!!」

 ——怒りのまま、その手に噛み付くと、西川先輩があたしを振り解いた。

「っ、いっ……、おまっ、この……!」
「い、痛い!」

 頭を掴まれて、上から乗っかられ、押さえ込まれる。でも、あたしも大暴れする。

「痛いってば!! この! モラハラ!! 女好き!! 歌以外、取り柄なんかないくせに!」
「てめっ……!」
「痛い!! 痛い!!! やだ!!! やめてったら!! 離してよ!! 嫌い!!」

 大声を出す。

「リンちゃんなんか、大嫌い!!」
「——……っっ……!!!!!」
「バカ!! バカぁーー!!!」

 無我夢中でリンちゃんを枕で叩いたら——ブチギレられた。

「あっ」

 上から押さえ込まれる。

「いたっ」

 全部痛い。

「痛い」

 触れても濡れない。痛いだけ。

「やだ」

 嫌がっても、リンちゃんがあたしに触ってきた。

「嫌い、触らないで……」

 鼻水を啜った。

「もうやだ……」

 無理やり顎を掴まれて、唇を重ねられた。嫌がっても、無理やりしてきた。だからなんとしてでもキスしてやるもんかと、顔を逸らしてやった。でも、顎を掴まれてるから、離れても、また重ねられた。唇を噛んでやろうと思ったけど——踏みとどまった。代わりに体を叩いてやった。リンちゃんが抱きしめてくる。呼吸困難になりそうになったところで唇が離れたと同時に、急いで体勢をうつぶせにした。リンちゃんに腕を引っ張られた。でも絶対振り向かない。頑なにうつぶせのまま、あたしはひたすら——その場で泣きじゃくった。

「……っ」
「…………」

 リンちゃんが舌打ちして離れた。あたしは枕を握りしめる。

(最低……)

 胸が、首が、痛くて涙が止まらない。

(もう別れてやる……! こんなところ、とっとと出てってやるから……)

 ——腰を掴まれた。

(はっ?)

 挿 入 さ れ た 。

「……」

 ペニスバンドが中で擦れてる。腰が揺れる。は? え? 何?

「ちょ」

 後ろにいるクソ女に、手を伸ばす。

「何して」
「セフレに負けたくないなら、せめて気持ちよくさせるために頑張れば?」
「いや……いやいや……は? 本当に……何言ってるんですか……?」

 何も気持ちよくない。

「自分が何してるかわかってます?」
「お前こそ何言ったかわかってる?」
「いやいや……意味わかんないですって……」

 何してんの。この人。

「抜いてください」
「やだ」
「本当に」
「イッたらね」
「……ああ、そうですか」

 諦めた。

「わかりました、もう」

 あたしは心が折れた。

「好きにしてください」

 両手があたしの肌に触った。心を殺した。腕があたしの体に巻きついた。感情を殺した。後ろから突かれる。あたしは疲れた。リンちゃんの腰を打つ音だけが聞こえる。何? 女のくせに気持ちいいの? そのペニスバンド、ついてるの外だけだよね? 頭触らないで。腕掴まないで。ふざけんな。嫌い。

 リンちゃん、嫌い。

 その日の夜は、不快感しか残らなかった。
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