ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ミドウ村

第404話 父母の想い



『ねんねこねんね にゃんごろり ねこねこねんね ごろにゃんね』

 微睡の中、優しい声で非常にふざけた歌詞が聞こえてきた。歌のテンポは完全に子守歌なんだけど、どう聞いても語呂合わせで作った歌詞で、後半は完全に猫への愛を歌っているのだ。

『にゃんこのはらは いいにおい にゃんこのあんよは きもちいい ごろにゃんごろにゃん ねんねこにゃん』

 多分この声は白雪さんなんだろう。昨日お話の途中からあまり覚えてないけど、何で生きてるのかなって思った記憶はある。

『ねんねこねんね にゃんごろり ねこねこねんね ごろにゃんね』

 ああ、そうだ、消えてしまいたいって思ったのに消えれなかったんだね……。
 夢を見ることもなく、また眠ってしまっていたのだろう。ここでもチアキさんや白雪さんに迷惑をかけて、本当に私って生きている価値がないのに、何でこんなに優しくしてくれるんだろう……。

『ふわふわしっぽはゆらゆらり ぺしぺしするのもごほうびよ』

「ぶはっっっ!!!」
「おお、目覚めたか」

 鬱鬱しそうな気持も、あまりの歌声というか歌詞に耐えれなかった。
 ご褒美よって、確かにそうだけど、どんな歌詞だよ! 白雪さんがいなければこのまま布団に包まって自分の世界に閉じこもれそうだったけど、枕元で優しく歌ってくれてるからどうしても歌詞が気になっちゃうじゃん。

「流石にこの歌はっ……え? 白雪……さん?」
「そうじゃが、其方はこの姿は苦手か? チャーキがこっちの方がええじゃろうと言うからこの姿にしたんじゃが……」

 歌声もあったから着物美人の白雪さんが座っていると思っていたのに、振り返った私の目の前にいたのはモフモフの白熊だった。
 獣人の子供たちは獣化するとお喋りが出来なくなっていた。ロン君もニーニー言ってたのは「兄兄」ではなく仔猫の鳴き声だったし、ココアちゃんも虎になる時は喉を鳴らすだけで人語は喋れなかった。そういう仕様なんだと思ってたけど、今、目の前の白熊は完全に熊なのに人語を喋っている。しかもモフモフのツヤツヤだ。なんて誘惑物。

「おお、その目はチャーキの言う通りじゃったか。ほれ、特別じゃぞ」

 お座りした状態で両手を広げてくれたシロクマさん……じゃなくて白雪さん。それは、良いんですか? コクリと頷かれたので遠慮なく両腕の中へ飛び込めば、想像以上のモフモフに包み込まれて蕩けそうになる。
 そっと撫でてくれる手は熊の手なのに柔らかくて、時々当たる肉球が気持ちいい。

「其方とチャーキが話しておるのを見て、大人と思って話してしもうた。其方はまだこんなに小さいのにな。いくら大人の記憶があれど、今の其方はまだ7歳じゃ。
 あまりにも大変な人生を送ってきた事は想像に難くない。じゃがな、其方の母が亡くなったのも、其方が父と慕っていた獣人が亡くなったのも、それは其方のせいではないぞ」

 トクン トクンと白雪さんの鼓動が聞こえる。いつか聞いたことのあるお父さんと同じ鼓動、こうして大きな胸で抱きしめてくれたことは数えきれないほどあった。
 出会って数日で自分の娘にすると言ってから、本当に娘として大切に育ててくれた。私の無茶な要求も沢山叶えてくれた。母さんが死んだ事で武力を身に着けたいと思った私に、無理はし過ぎるなと言いながらも鍛えてくれた。

「生まれてこなければ良かったなど思うではない。其方の母は其方を幸せにしたいと思っておったから、困難であれど其方の手を放さずに行動しておったんじゃろう?
 獣人の父とて、其方を大切に思っておったからあのような危険な山にまで来たのではないか? あの者はあのような最期を迎えたとは思えぬほど穏やかな顔をしておったぞ。多分其方を護れたと分かったからこそじゃないか?
 じゃのに、其方が消えれば良かったなどと思えば、それこそ二人が無駄死にしたことになるぞ」

 母さん、お父さん、私……、私が生きてもいいの? 二人が死んじゃったのに、私はこれからも生きてもいいの?

「其方の父も母も、生きていてほしいと、幸せになってほしいと思っておるはずじゃ」

『何があってもあなただけは守ってみせるからね、愛してるわ、ヴィオ』

 お母さんと別れる時、ペンダントを首から下げられて、おでこにキスをくれた。蓋となる床板を下ろす時に見せたのは涙ではなく微笑みだった。

『ヴィオ、幸せになれ!』

 お父さんに投げ飛ばされたあの時、確かにお父さんはそう言ってた。愛してると、幸せになれと笑ってた。

「おどうざん、おがあざん……、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「泣けばええ、しっかり泣いて、全部吐き出せばええ、其方が元気に生きることを願っている者は多いはずじゃ。今はその為の休養期間じゃと思えばええ」

 フワフワ毛皮に包まれたまま、思いの丈を叫びながら泣いた。
 何故お母さんが殺されなきゃならなかったんだ、
 何故フィルさんが離れる時に護衛を付けなかったんだ、
 自分の子飼が手に負えなくなったからと捨てるんじゃなくて、ちゃんと最後まで面倒見てろよと、国外追放は体のいい放置であり、何の処罰にもなっていないんだと。
 その度に白雪さんはプニプニの肉球ハンドで頭を撫で、背中を撫で、時折ちり紙で鼻水を拭ってくれる。

 どれくらいそうしていたのか、泣き疲れて、叫び疲れて、喉が枯れてきたところで疲れて眠ってしまった。
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