458 / 619
ミドウ村
第404話 父母の想い
『ねんねこねんね にゃんごろり ねこねこねんね ごろにゃんね』
微睡の中、優しい声で非常にふざけた歌詞が聞こえてきた。歌のテンポは完全に子守歌なんだけど、どう聞いても語呂合わせで作った歌詞で、後半は完全に猫への愛を歌っているのだ。
『にゃんこのはらは いいにおい にゃんこのあんよは きもちいい ごろにゃんごろにゃん ねんねこにゃん』
多分この声は白雪さんなんだろう。昨日お話の途中からあまり覚えてないけど、何で生きてるのかなって思った記憶はある。
『ねんねこねんね にゃんごろり ねこねこねんね ごろにゃんね』
ああ、そうだ、消えてしまいたいって思ったのに消えれなかったんだね……。
夢を見ることもなく、また眠ってしまっていたのだろう。ここでもチアキさんや白雪さんに迷惑をかけて、本当に私って生きている価値がないのに、何でこんなに優しくしてくれるんだろう……。
『ふわふわしっぽはゆらゆらり ぺしぺしするのもごほうびよ』
「ぶはっっっ!!!」
「おお、目覚めたか」
鬱鬱しそうな気持も、あまりの歌声というか歌詞に耐えれなかった。
ご褒美よって、確かにそうだけど、どんな歌詞だよ! 白雪さんがいなければこのまま布団に包まって自分の世界に閉じこもれそうだったけど、枕元で優しく歌ってくれてるからどうしても歌詞が気になっちゃうじゃん。
「流石にこの歌はっ……え? 白雪……さん?」
「そうじゃが、其方はこの姿は苦手か? チャーキがこっちの方がええじゃろうと言うからこの姿にしたんじゃが……」
歌声もあったから着物美人の白雪さんが座っていると思っていたのに、振り返った私の目の前にいたのはモフモフの白熊だった。
獣人の子供たちは獣化するとお喋りが出来なくなっていた。ロン君もニーニー言ってたのは「兄兄」ではなく仔猫の鳴き声だったし、ココアちゃんも虎になる時は喉を鳴らすだけで人語は喋れなかった。そういう仕様なんだと思ってたけど、今、目の前の白熊は完全に熊なのに人語を喋っている。しかもモフモフのツヤツヤだ。なんて誘惑物。
「おお、その目はチャーキの言う通りじゃったか。ほれ、特別じゃぞ」
お座りした状態で両手を広げてくれたシロクマさん……じゃなくて白雪さん。それは、良いんですか? コクリと頷かれたので遠慮なく両腕の中へ飛び込めば、想像以上のモフモフに包み込まれて蕩けそうになる。
そっと撫でてくれる手は熊の手なのに柔らかくて、時々当たる肉球が気持ちいい。
「其方とチャーキが話しておるのを見て、大人と思って話してしもうた。其方はまだこんなに小さいのにな。いくら大人の記憶があれど、今の其方はまだ7歳じゃ。
あまりにも大変な人生を送ってきた事は想像に難くない。じゃがな、其方の母が亡くなったのも、其方が父と慕っていた獣人が亡くなったのも、それは其方のせいではないぞ」
トクン トクンと白雪さんの鼓動が聞こえる。いつか聞いたことのあるお父さんと同じ鼓動、こうして大きな胸で抱きしめてくれたことは数えきれないほどあった。
出会って数日で自分の娘にすると言ってから、本当に娘として大切に育ててくれた。私の無茶な要求も沢山叶えてくれた。母さんが死んだ事で武力を身に着けたいと思った私に、無理はし過ぎるなと言いながらも鍛えてくれた。
「生まれてこなければ良かったなど思うではない。其方の母は其方を幸せにしたいと思っておったから、困難であれど其方の手を放さずに行動しておったんじゃろう?
獣人の父とて、其方を大切に思っておったからあのような危険な山にまで来たのではないか? あの者はあのような最期を迎えたとは思えぬほど穏やかな顔をしておったぞ。多分其方を護れたと分かったからこそじゃないか?
じゃのに、其方が消えれば良かったなどと思えば、それこそ二人が無駄死にしたことになるぞ」
母さん、お父さん、私……、私が生きてもいいの? 二人が死んじゃったのに、私はこれからも生きてもいいの?
「其方の父も母も、生きていてほしいと、幸せになってほしいと思っておるはずじゃ」
『何があってもあなただけは守ってみせるからね、愛してるわ、ヴィオ』
お母さんと別れる時、ペンダントを首から下げられて、おでこにキスをくれた。蓋となる床板を下ろす時に見せたのは涙ではなく微笑みだった。
『ヴィオ、幸せになれ!』
お父さんに投げ飛ばされたあの時、確かにお父さんはそう言ってた。愛してると、幸せになれと笑ってた。
「おどうざん、おがあざん……、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「泣けばええ、しっかり泣いて、全部吐き出せばええ、其方が元気に生きることを願っている者は多いはずじゃ。今はその為の休養期間じゃと思えばええ」
フワフワ毛皮に包まれたまま、思いの丈を叫びながら泣いた。
何故お母さんが殺されなきゃならなかったんだ、
何故フィルさんが離れる時に護衛を付けなかったんだ、
自分の子飼が手に負えなくなったからと捨てるんじゃなくて、ちゃんと最後まで面倒見てろよと、国外追放は体のいい放置であり、何の処罰にもなっていないんだと。
その度に白雪さんはプニプニの肉球ハンドで頭を撫で、背中を撫で、時折ちり紙で鼻水を拭ってくれる。
どれくらいそうしていたのか、泣き疲れて、叫び疲れて、喉が枯れてきたところで疲れて眠ってしまった。
あなたにおすすめの小説
継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜
野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。
しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。
義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。
度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。
そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて?
※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
ガリ勉令嬢ですが、嘘告されたので誓約書にサインをお願いします!
荒瀬ヤヒロ
恋愛
成績優秀な男爵令嬢のハリィメルは、ある日、同じクラスの公爵令息とその友人達の会話を聞いてしまう。
どうやら彼らはハリィメルに嘘告をするつもりらしい。
「俺とつきあってくれ!」
嘘告されたハリィメルが口にした返事は――
「では、こちらにサインをお願いします」
果たして嘘告の顛末は?
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【短編】「中身はいいけど顔がなぁ」と笑った侯爵令息。美人の姉目当てに地味ブスな私を利用したこと、謝られても手遅れです
恋せよ恋
恋愛
「……結局、男の人は、顔しか見ていないのね」
絶世の美女である姉エリザベスを狙う男たちから
「地味ブス」と蔑まれてきた伯爵家の養子アイリス。
そんな彼女に、幼馴染のアレンからの頼み事が。
友人レオナルドの「女嫌い」克服のため
彼と文通を重ね、アイリスは生まれて初めての恋を知る。
しかし、文通で育んだ絆は、すべて彼の「暇つぶし」と
「美貌の姉への足がかり」に過ぎなかった。
「アイリス? 中身はいいけど、顔がなぁ」
「俺、面食いなんだよ。あの子、おしゃれする気ないのかな」
冷めた令嬢と、後悔に悶える貴公子の、すれ違いロマンス!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!