ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ミドウ村

第410話 竜人族という種族


 お屋敷の外に出たら、日本の田舎に来たのかと思うような風景が広がっていた。
 いや、まあ田んぼって訳じゃないんだけど、広い畑の中にポツリポツリと家があって、隣の家に醤油を気軽に借りに行けない距離って感じ。
 振り返ったチアキさんのお屋敷は、中身同様日本家屋って感じだった。
 あれですよ、ほら、瓦じゃなくて、藁? いや、藁でもなかったかな。何かそんな感じの草がギュッとした屋根です。

「武家屋敷みたいなのかと思ったら、古民家っぽいんですね」
「ははっ、流石に瓦の作り方は知らなかったしな、茅葺屋根はばあちゃん家がそうでな、小さい頃から手伝いを何度かしてたから覚えてたんだ」

 ああ、それそれ、茅葺屋根です。チアキさんのお家だから和風に拘っていると思ったけど、どうやらここから見える家も全て同じような屋根に見えるから、皆そうなのかな?

「この村は全部日本風の建物なんですか?」
「まあそうだな、元々ここは誰も住んでなかったから家を建てたんだ。白雪は聖獣だろう? 聖獣は本来あんまり個人に関わるもんじゃないんだ。神の言葉を伝えるという役割もあるしな、誰かに偏ればそれは危険な力になることもあるだろう?」

 まあそりゃそうだよね。だけど白雪さんは現在チアキさんのお嫁さんな訳で、滅茶苦茶個人に関わってるよね?

「チャーキがそう言うておるだけじゃ。聖獣は珍しいとはいえそれなりの数は居るしな、皆自分勝手に過ごしておるんじゃ。人化して完全に人に溶け込んでおるものも結構おるぞ。自分が聖獣じゃと気付いてないものもおるじゃろうしな。白毛を持つ獣は少なくないし、覚醒せんまま過ごして、子や孫が先に死んでやっと気づく奴もおるくらいじゃ」

 なんと、思ってたよりも緩いのね。聖獣として誕生した時点で神様から何か使命を告げられるとかかと思いきや、そんな事はないらしい。
 白雪さんは若いのにと思ったけど、小熊時代に隷属の首輪、魔力封じの腕輪を付けられて捕縛された時に、逃げたくて逃げたくて抗っている時に覚醒したんだって。その力の波動を感じてチアキさん達が助けに入ったというから、まあ運命を感じちゃってもしょうがないよね。
 そこからずっと一緒にいるというから、まあ百年近いお付き合いという事なんでしょう。

「まあそういう訳でな、あまり他者との関わりを持たんようにここに居を構えたんだが、あっちの大陸から俺達を連れてきてくれた竜もここに住みたいと言ってな」
「その竜がベルフォンスの両親ですね。あの二人がここでチャーキ様達と共に過ごしたいと押し掛け、噂を聞きつけた仲間が増えてきて今の村の大きさになったのです。竜人族は寿命が長いですから、多種族と生活をすると別れが多くて辛くなるので、同種族で集落を作ることが多いのでよ」

 まあヒト族の長寿は80歳、獣人は種族によるけどそれでも長寿で120歳、そう思えば千年生きる竜人族は何度友人を見送ることになるのか分からないって感じだよね。それは仕方がないかもしれない。

「あっちの大陸に渡って生活をする奴らもいるんだけどな、大概冒険者をして一つの国を十年単位で移動するって感じだな。二十年を超えると老化の遅さから長命種だと気付かれて誘拐されることもあるからな」
「長命種の血液を飲めば、自分も長生きが出来るとでも思ってるんですかね? 若い娘の血液を飲めば美しく居られるみたいな勘違いは何処にでもあるんですね」

 確かそんな恐ろしい女王の伝説があったよね? 後は女性の肝を食べるとか。若返りに必死だった現代人のマダムたちもプラセンタと聞けば集ってたもんなぁ。あれだって胎盤じゃん? ヒトの胎盤を食わなかっただけまだマシだけど、まあ似たような事はいつの時代もあるって事だね。

「まあ強ち勘違いでもないぞ」
「そうですね、竜人族が本気で他種族の方に惚れてしまった場合は『御霊合わせの儀』を行いますから。それを小耳にした方から噂が回ったと思うのが現実でしょうね」
「え?」

 どうやらただの勘違いではなかったらしい。
 獣人とヒトの夫婦はあちらの大陸では珍しくなく、それなりに見たことがあったけど、竜人族は同族での結婚しか子供は出来ないんだって。
 魔人族でも他種族との交配は、魔人族同士よりも更に子供が出来ないみたいだけど、竜人族はその竜の血が強すぎるから危険なのだと。

 ナントカの儀式は、竜人族が自分の血液を相手に一年間飲ませ続ける必要がある。一年間竜の血を受け入れ続けたことで、その強い魔力を含めて体内から細胞を作り替えていくとのこと。食は大事というけれど、血を一年ってどれくらいの量かにもよるけど吸血鬼じゃないとキツイだろうね。
 血液を飲み始めて半年目にまず一回目の儀式をする事で、合わせる相手と寿命を折半することになる。竜族は半分ほどの寿命になって、相手は数倍の長さになるって事だね。
 二回目は飲み始めて一年目、もう一度儀式をする事で竜人族に種族変化するとの事。ただしこれは魔力などが変化するだけで、竜化することは出来ないとの事。飛ぶときは相手の背中に乗って移動というのは一緒みたいだね。つまり、魔力と寿命が変わるだけで、見た目に鱗がでてくる事も無ければ、羽も生えないって事です。
 ちなみに産まれてくる子供は完全に竜人族となるので、強い遺伝子の方に引っ張られるという事なんだろう。

「え? って事は、ベル君は私と結婚したいって言ってたけど、それって寿命が滅茶苦茶短くなるって事じゃない? 私は両親ともにヒト族だから80歳くらいまでしか生きないよ? 半分どころの話じゃないじゃない。ベル君がご両親よりも早世するかもってことじゃない、それは駄目駄目だよ」
「うっ……。だけど、俺は!」
「珍しいですね、ヒトだけではなく、他種族の方は出来るだけ長生きしたいと願う方が多いのですが……」
「まあそうじゃな、じゃがチャーキも望んではおらんかったな。それはあれか、魂の記憶か?」
「そうだな、俺は特に魔人族だろう? 既にこんなに長生きしちまって長すぎるなって思ってるからな。短命種だったらギルドのアレコレなんか付き合えなかっただろうし、その後にこっちの大陸に来ようなんて冒険も出来なかっただろうことを思えば、長命種で良かったとは思うけど、まあもう十分だな」

 チアキさんは両方を経験しているからこその発言だよね。ここにいる人たちは全員が長命種だから、私なんて超絶短命って事だろう。だけど5歳時点でスタートしている人生だから、十分ゆっくり楽しめるだろうし、五百年生きたいとは思わないかな。最初からその種族なら違うだろうけど、誰かの命を削ってまで欲しいとは思わない。

「あのねベル君、私は両親を亡くしたの。二人とも私が原因で死んじゃったの。
 だけど、お父さんが生きろって言ってくれたから、消えちゃいたいって思ったけど頑張って生きることにしたの。
 でもね、本当はお母さんとお父さんと、これから先もずっとずっと一緒にいたかったの。だけどもう無理なの。
 だから、だからね、そんな一時的な感情だけで自分の両親を悲しませるような選択をしないで。そんな簡単に言わないで……」

 泣くつもりなんてなかったのに、何だか涙が出てきて止まらなくなってしまった。ここに来て泣いてばっかりな気がする。

「ごめん、そんなつもりじゃなかった。ヴィオを泣かせるつもりなんてなかったんだ。ただ……そうだよな、考え無しだった。もう言わないから、俺も父さん達を悲しませたい訳じゃなかったから、本当にごめん」

 アワアワしながら私の周囲をウロウロするベル君に、多分そこまで考えて言ったわけじゃない事も分かってるんだけど、ちょっと最近の涙腺崩壊が原因で止まらないだけなんだけど、何かごめん。

「ヴィオ、もうギルドに到着するぞ? 手紙、書いてきたんだろう?」
「うん――ヒック、出す――ヒック」

 ポンポンとチアキさんに頭を撫でられて顔を上げれば、3階建ての大きな建物。和風建築だけど特徴はよく似ている。確かによく見たことのあるギルドだと分かる建物だった。


  
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