ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉 ルシダニア皇国 4

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大陸歴586年 水の季節、今まで何の注目も集めることが無かった とある子爵の屋敷には 連日 多くの贈り物と手紙というか 釣書が送られてくる。

「お父様見て、素敵なドレスだわ。これを着てお出かけしたいわ」

「まぁ、こんな大きな宝石……。素敵だわぁ」

「お母様、わたくしには 少しデザインが大人っぽすぎますから、大人になるまでは お母様がお使いになって」

「エーロスったら、貴女に贈られたプレゼントなのに……」

「いいえ、お母様が使ってくださった方が この宝石も喜びますわ」

「エーロス、流石 聖女たる資格を得た清い心の持ち主ね。お母様は嬉しいわ」

ギュッと抱きしめ合う 母娘の姿を見て 夫である子爵も そのでっぷりした腹肉を揺らしながら 葉巻をくゆらせた。

「だ、旦那様 こちらにおいででしたか!」

ノックの音と共に開いた扉から 入ってきたのは 執事のローダス。普段は落ち着いた態度であるこの男が取り乱しているのは珍しい。
木の盆に載せられた手紙が この男が焦っている原因なのだろう。

「なんだ、騒々しいぞ」

「なんですの? わたくし達の親子の時間を邪魔するなんて。つまらない用件でしたら 罰を与えますよ」

子爵夫人は娘とプレゼントの箱を開ける時間を邪魔されてご立腹である。
しかし 執事もそれどころではない、一刻も早く子爵にこの手紙を届けねばと 執務室にいない子爵を探し回っていたのだ。

「こちら、皇城からの手紙にございます」

「なっ‼」「「まぁっ‼」」

驚く顔は家族ソックリである。
先程までの険悪な表情は鳴りを潜め そそくさと子爵の元に集まる母娘、執事から奪い取るように手紙を受け取り ペーパーナイフで封を切る。

室内にいるメイドや侍女たちも その内容が気になるようで ジッと見つめているのを感じた子爵は、一度姿勢を正し ゴホンと咳払いをした。

「読むぞ」

「え~、《この度の洗礼式において 聖女となる資格を得たとされる アスヒモス子爵令嬢に 皇帝陛下からの謁見の許可を頂きました》
つ、つきましては皇城へ招待致したく 招待状をお送りいたします~~~~!?」

「まぁぁぁぁ!何てことでしょう! 直ぐにドレスを新調しなければ!あなた達、直ぐに針子に連絡を」

「「「畏まりました!」」」

手紙を読み上げる途中で プルプル震え出した子爵は その内容に ひっくり返りそうになった。
子爵夫人は早速皇城に上がる為のドレスの為に指示を出すが まだ娘は状況判断が出来ておらず 両親の反応に うろたえている。

「どうしたエーロス、喜べ!皇帝陛下に直接お会いすることができるんだぞ! 
これは 我が領地も注目を益々集めることになり もしかしたら 伯爵に陞爵するやもしれんぞ!
こうしてはおれんな、おい、ローダス 招待状はもう来ているのか」

「はっ、はい。こちらに」

もう一通の封筒を奪い取り 中を確認すれば 来月末の日時が指定されていた。
これでは 城に行く用の新しい服を仕立てていては間に合わない。

「アナークシス、残念だが これからドレスを仕立てていれば 城の招待に間に合わん」

「なんですって! あなたはわたくしに着古したドレスで 皇都へ向かえと仰るの?」

「い、いや、そうは言っておらん。
そ、そうだ、これから皇都に向かって あちらでドレスショップに行けばいいではないか。
うちで作ってもらうより、皇都の方が最先端であろう?既製品になるかもしれんが 辺境のドレスよりは余程洗練されて 素晴らしいに違いないぞ」

眦を吊り上げて怒りを露わにする妻に どうにか言い訳をする子爵。
以前 美しい平民に入れあげていた事を 未だに妻は許していないのだ。今考えれば あの娘が成長すれば 美しく育っただろうに 惜しいことをしたと思うが、それの成長を妻が許さなかっただろうことを思えば あの時点で死んで あの娘も良かっただろうと思う。

皇都の洗練されたドレスを勧められたことで気をよくした子爵夫人は、娘に贈られたプレゼントから 自分が身に着けるのに良さそうなものを物色しつつ、娘が皇城で着るためのものも見繕っていく。
夫の洋服? 男の服には流行り廃りなどないから、精々クラバットを変えるくらいで良いと考えている。
そこに余計な金を使うなら、自分のドレスを一枚でも多く買って欲しい。
それこそが 自分に愛人を始末させたことの贖罪だと 本気で考えている。
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