ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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グーダン大山ダンジョン

第204話  グーダン大山ダンジョン その15

クルトさんの怪我を治して 昼食を食べたら 散策の再開だ。
今夜はこのまま 1か所目のセフティーゾーンにお泊りするので 既に浴槽のセッティングも完了している。一応 他の冒険者が来た時用に 土壁で覆ってはいるけどね。

魔獣の討伐はある程度終わらせているので、ゆっくり採集をしながら、向かってくる魔獣だけを討伐していく。そんな中、まさかの素材が見つかった。

見た目は完全にウツボカズラ。
あの食虫植物だった。
内側がツルツルしており、中には消化液が入っているという 植物なのに肉食なのか!?というアレである。

ここにあるウツボカズラは 記憶にあるよりも大きい。
いや、私が小さくなっているから 大きいと感じているだけなのだろうか。映像でしか見た事が無いから 微妙だけど、目の前にぶら下がっている ウツボカズラモドキは 12個入りの卵パックくらいの大きさがある。
葉っぱの蓋は完全に閉じており、この状態では 昆虫も蟻も入れないのではないかと思う。

「お父さん、これって 食虫植物だよね? 蓋が閉まってたら 虫を誘き寄せられなくない?」

「「「はっ?」」」

お父さんに聞いてみたら お兄ちゃんたちが驚いたように振り返ってくる。
え?なに?

「ん~、食虫植物っちゅうのは 魔草のことか? 誘き寄せる系の魔木も 魔草もあるが、これはハズレの素材なだけで 魔草ではないぞ」

ああ、そっか。こっちでは攻撃的な草木は 魔草って呼ぶんだったね。
というか ハズレの素材?

「食べれるの?」

「うぇっ!ヴィオ これはな、マ・ジ・で・ハズレだから。俺は黒と茶の二つしか見た事ないけど、両方やっべえから」

真剣な表情で ルンガお兄ちゃんが力説してくるけど、油袋もそんな事言ってなかったっけ?
今目の前にあるのは ちょっと茶色っぽいウツボカズラモドキだけど、黒もあるのか。

「じゃあ 一つだけ、ダメだったら 諦めるけど、一つは試してみたいの。
ルンガお兄ちゃん、だめ?」

必殺上目遣いビーム!
キュルルンとしながら 胸の前で手を組んでお願いポーズつきだ!
あ~っと、ルンガお兄ちゃんは目を手で覆って見ないようにしているぞ! 
だけど 私を説得するために跪いているから そのお膝に手を当てて 覗き込む方式に変えるだけだ~。

「一つだけ、試していい?」

「……ぐっ、い、いっこだけだぞ。すげえ臭いんだからな、後悔すんなよ」

そんなに断腸の思いみたいにならなくてもと思いつつ、臭いのか。それは結構ドキドキしちゃうね。
だけど、それが心配で止めてくれたんだね、お兄ちゃんありがとう。
そう思って ぴょんと首に抱き着いて ありがとうと言えば 頭を優しく撫でてくれた。

「ヴィオ こえ~な。6歳でこれじゃ 成人した時 とんだ悪女になるんじゃね?」

「クルトみたいな相手だったら 直ぐにハニートラップにかかりそうだね」

トンガお兄ちゃん、そんなことしませんから。
外野が何やら言ってますが とりあえず放置しておきます。私を首からぶら下げたままのルンガお兄ちゃんが立ち上がり ウツボカズラモドキを一つもぎ取ってくれたので 直ぐにマジックバッグに収納。
一先ず 他の採集もし終ってから 夕食準備の為に 野営地へ。


「ふんふっふん、ふんふっふん、ルンタッタタら~♪」

「ヴィオ ご機嫌だねぇ」

「うん、ハズレの素材って 今まで当たりばっかりだったでしょう? だから楽しみなの。
あっ、でも 大丈夫、皆に臭いが行かないように ちゃんとガードしてから確認するからね」

若干逃げ腰のトンガお兄ちゃんを安心させるために方法は考えてるから大丈夫だよ。
まずは 野営地の中でも 少しだけ離れた場所に移動します。
【エアウォール】を唱えて 風の盾を作り 匂いが漏れないようにします。
マジックバッグから ウツボカズラモドキを取り出します。

「臭いのか……。
何系の臭さか ちょっと ドキドキしちゃうよね。クサヤ系とか 臭豆腐だったら 失神するかもだね。
さてさて、何が出るやら……」

ドキドキしながら 植物の根元を左手でしっかり掴んで 右手で 葉っぱの蓋を剥がす。
見た目は 被さっているだけの蓋なのに、意外としっかりくっついてます。
ペリペリと剥がせば 中身が見える。 容器と同じく 茶色い物体?液体が入っているようだ。
今のところ匂いはしない……、と思っていたら やばい時の癖で 口呼吸をしていたことに気付く。
そりゃ匂いがしない筈です。
気を取り直して、ふぅ~~~。
ゆっくり息を吐いてから 少しだけ クン と嗅いでみる。

うん、今のところクサヤや 臭豆腐的なやばさはないね。
それなら嘔吐することはないだろうと思い 思い切って嗅いでみる。

クンクン 「ん?」

クンクンクン 「おぉっ!?」

ちょっとだけ開けていた蓋を完全にペロンと剥がして しっかり匂いを確認。
液体かと思いきや ドロリとしたそれを指で掬ってみる。
ペロリと ヒト舐めして 涙が出そうになった。

「グローリア‼」

いや、私クリスチャンちゃうけど。
でも感動した時に叫ぶ言葉だったと 何となく記憶していたココロが叫んでいた。
まさかのハズレ袋は 味噌だった。神様!ダンジョン様!ありがとう‼愛してます‼

嬉しすぎて 天を仰いでしまった私。零さないように 左手にウツボカズラモドキを握りしめたままですが、外から心配して見つめていたお父さんたちから見れば、ハズレ素材をペロリと舐めてぶっ倒れたように見えたのだろう。
壁越しに 必死に呼びかけてくる声で 我に返ってびっくりした。

「ヴィオ、大丈夫か!」

「ヴィオ、だから言っただろ、まさか舐めるなんて思わなかったぞ」

「ヴィオ 水飲んで!」

「回復薬使うか?」

壁を解除した途端 お父さんに抱き起こされ、ルンガお兄ちゃんにウツボカズラモドキを取り上げられ、トンガお兄ちゃんから水の入ったコップを渡され、クルトさんから回復薬を差し出された。

え~~~っと。

「えっと、ええっと、大丈夫です。
あぁっ! ウツボカズラモドキは!? ルンガお兄ちゃん さっきの神素材は?」

左手にあった筈の味噌がなくなっていた事に驚き ルンガお兄ちゃんに聞けば 危険物だと思って遠くに放り投げたと言われた。ガーン!

見れば 確かに セフティーゾーンを越えた草原部分に 茶色い容器が落ちており、モゾモゾと どこからともなく現れたスライムくんが まさに乗り上げようとしているところだった。

「あぁぁぁぁぁ~~~~!待ってぇ!」

右手を必死に伸ばせど 心配したお父さんに抱きかかえられている状態では届くはずもなく、シュワシュワと スライム君によって 落し物は処理されてしまった。

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ。私の味噌が……」

神に祈りをささげた直後に こんなにショックな事ってあるだろうか。
半泣きになっていたら ようやく落ち着いたらしい皆から事情を聞かれた。


「なるほど、あれはハズレではなく ヴィオの母君が料理によく使っておった調味料のひとつじゃったという事か」

「うん、確かに単体での臭いは微妙かもしれないけど、色んな料理に使える万能調味料なの。スープにも、炒め物にも使えるんだよ」

「ヴィオ ごめんな、俺 採ってくるわ」

投げ捨てたことを謝るルンガお兄ちゃんだけど、あの状態で 天を仰いだ私を心配して 危険物を排除しただけだと分かっているので 謝る必要はない。
ちょっと取り乱し過ぎた私が悪かったのだ。

ということで、5人で揃って もう一度先ほどの木の場所まで戻って 全てのウツボカズラモドキを採集した。
少し離れたところに もう一つの黒いウツボカズラモドキも見つけたので その場で確認してみたら、なんとこちらは液体で、中身は醤油だった。
マジでダンジョン様と神様に感謝だよね。まあ、この醤油と味噌が大豆から出来ているのかは大分不明だけど、匂いはそれだもの。
原材料を見なかったと思えばいい。
勿論 黒いハズレ袋 もとい 醤油も全て回収した。
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