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閑話
〈閑話〉メネクセス王国 20
銀ランク上級〔土竜の盾〕リーダー テリュー視点
アイリスが最期に住んでいたというアスヒモス子爵領で年越しをした。
この国は聖結界によって魔獣は出ない。
北の海から吹き付ける冷たい風は 魔の山と呼ばれるレミスドーレ山脈にぶつかり 雪を降らす。
ここ数年 こんなに雪が降り積もる中行動する事なんてなかったが 俺たちは冒険者。ダンジョンでは吹き付けるブリザードも 身体の半分が埋まるほどの雪の中での行動も経験があるから、深々と降り続けるだけの雪なんて平気だ。
だが この雪はこの町にしばらく滞在するには良い理由となった。
「あんた達も災難だったね。こんなに雪が降る季節じゃ 移動もままならないだろう?
お山のあっち側の国じゃあ そこまで積もらないらしいから、この季節じゃあっちを通った方が早く隣国に行けたかもしれないねぇ」
然程大きくはない町、この国にとっては珍しい冒険者という風貌の俺たちは直ぐに噂になる。
何もない状態で長居するのは難しかったから この雪は丁度良かった。
「そうだな、こんなに皇国が雪深くなるなんて知らなかったよ。
だけど 俺一人なら無理は出来ても 女を寒い中歩かせるわけにもいかないからな。しばらく厄介になるぜ」
「さむ~い」
「こんな中歩くの無理~」
シエナとネリアの奴 楽しんでやがるな。
普段は絶対にしないような甘えた声で 俺にしなだれかかり 3人組のどうしようもない系冒険者を演じている。その方が警戒されないからだ。
ここまでの旅で レス、オトマン、アンの三人が伝令役として 其々の町に待機している。
オトマンは獣人だから この国に入らないで良いように メネクセスの辺境で待っている。最終的に俺たちの報告をヘイジョーに手紙で報告してもらう予定だ。
3人が居ない事で 今のパーティーは 男一人に女二人の状態だ。
冒険者という職業をよく分かっていない町人達は「羨ましいね」「冒険者ってのは豪気だね」とか好き勝手言いやがるけど、こいつらの性格を知らないからこそ言えることだよなと冷や汗ものだ。
シエナは嫁のアン程ではないけど前衛として戦いたがる女で こいつの使う槍は凄い速度で相手を串刺しにする。
外殻固めの敵の場合は柔らかい目か口の中を狙うが それが一度で決まった時の恍惚とした表情はヤベエ怖い。あの顔を見て美人だとか言うのは シエナの夫であるレスくらいだろう。
幼馴染のレスのこの美的感覚だけは未だに理解できない。
「テリュー どうしたの? とりあえず雪がましになるまでは ここでゆっくり過ごすんでしょ?
おねえさん、しばらくの間よろしくね。
もし力仕事が必要なら テリューを貸し出すわ」
「まあゆっくりしていっておくれ。うちもこの時期は洗礼式の人くらいしか宿泊に来ないからね。
お客さんに手伝いをさせることはないけど、もし困ってるところがあったらお願いするかもしれないね」
「あ、ああ、その時は声をかけてくれ」
俺の右腕に掴まりながら わき腹を見えないように抓られている。痛い、痛いって。
想像しただけで言葉にしても無いのに なんでわかるんだ?
ネリアは 一見大人しくてフワフワした女だから 守ってやりたいと感じる奴が多いだろう。回復担当というのも納得されやすい。
だけど弓矢の腕は正確だし、なにより大分変態だ。
皇国が人族至上主義だからというのもあるけど、初めて獣人と出会ったのは12歳の時、魔導学園に留学中 そこで出会った獣人たちの毛皮に魅了されたらしい。
オトマンとも学園で知り合い、ダンジョン研修なんて授業で組むようになり それからの付き合いだ。交際してからは 暇さえあればオトマンの尻尾を握りしめてほおずりしている。
今回の旅では オトマンの身を守る為に 離れることを自分で決めたわけだが、オトマンの抜け毛を集めて自作のヌイグルミを作り それにほおずりするレベルの変態だ。
「おねえさん、この町で人が沢山集まるお食事処ってどこですか? 私の友達が 薬屋さんをしてて この町にも立ち寄ったかもしれないの。見覚えが無いか旅の途中で聞きながら歩いているんです」
「人の集まるところだと 教会かねぇ。ただ今週末は この町のご領主様のお嬢様が洗礼式だってんで 貴族が集まるから 行かない方がいいね。
平日は平民しか集まらないからさ、朝のうちに行くといいよ。
食事処だと そうさね、5軒隣の〖アグーの食堂〗か2本裏通りにある〖のんだくれ〗かね。
だけど〖のんだくれ〗はその名の通り 飲んだくれが多いから お嬢さんたちが行くのはお勧めしないよ」
「そうか、まあその〖のんだくれ〗に行くとしたら俺が一人で行くから大丈夫だ」
「そうかい? まあ兄さんみたいに厳つい人だったら絡まれても大丈夫だろうね」
ニコニコしながら踵でグリグリ踏みつけられてる。そこ指先だけを狙ってくんのなに、痛いって。
まあそんな感じで 自分たちの夫に会えない不満を俺にぶつけながら 何とか情報収集をして回ってる。
俺だって嫁に会いたいっつーの。
「ねえ、さっきのあれ、アイリスのところに刺客を差し向けたって貴族の娘の事よね」
「ええ、ヴィオはアイリスによく似ているから、アイリスを気に入った子爵が ヴィオの事をさらった可能性はあるよね。
まずは洗礼式に来る子供の確認と その間に子爵邸にヴィオが居ないかの確認をしておきたいわ」
食堂で飯だけ食って部屋に戻れば 防音魔術を展開して 直ぐに話し合いが始まる。
俺たち平民は 洗礼式っても 集団で村の代表者に連れてってもらって 皆で順番に水晶玉に触れるだけのお祭りだったけど、貴族は、特に皇国では かなり重要なイベントらしい。
聖属性持ちだとその日から釣書がバンバンくるらしい。
ネリアは魔力が少なめの判定だったから 然程でもなかったらしいけど、魔力なんか成長と一緒に増えるもんだからな。
ああ、そういえば皇国では冒険者もいないし そういう常識は知らないんだったな。
「じゃあ 俺が当日屋敷に確認行ってくる。夜だったら闇に紛れやすい」
「うん、結果がどうであれ 洗礼式の日は 集まった貴族を招待してパーティーになるから、多少見られても 寄せ集めの下働きだと思われると思う」
ネリアの言葉で当日のパーティー中に 屋敷へ潜り込んで 偵察することにした。
アイリスが最期に住んでいたというアスヒモス子爵領で年越しをした。
この国は聖結界によって魔獣は出ない。
北の海から吹き付ける冷たい風は 魔の山と呼ばれるレミスドーレ山脈にぶつかり 雪を降らす。
ここ数年 こんなに雪が降り積もる中行動する事なんてなかったが 俺たちは冒険者。ダンジョンでは吹き付けるブリザードも 身体の半分が埋まるほどの雪の中での行動も経験があるから、深々と降り続けるだけの雪なんて平気だ。
だが この雪はこの町にしばらく滞在するには良い理由となった。
「あんた達も災難だったね。こんなに雪が降る季節じゃ 移動もままならないだろう?
お山のあっち側の国じゃあ そこまで積もらないらしいから、この季節じゃあっちを通った方が早く隣国に行けたかもしれないねぇ」
然程大きくはない町、この国にとっては珍しい冒険者という風貌の俺たちは直ぐに噂になる。
何もない状態で長居するのは難しかったから この雪は丁度良かった。
「そうだな、こんなに皇国が雪深くなるなんて知らなかったよ。
だけど 俺一人なら無理は出来ても 女を寒い中歩かせるわけにもいかないからな。しばらく厄介になるぜ」
「さむ~い」
「こんな中歩くの無理~」
シエナとネリアの奴 楽しんでやがるな。
普段は絶対にしないような甘えた声で 俺にしなだれかかり 3人組のどうしようもない系冒険者を演じている。その方が警戒されないからだ。
ここまでの旅で レス、オトマン、アンの三人が伝令役として 其々の町に待機している。
オトマンは獣人だから この国に入らないで良いように メネクセスの辺境で待っている。最終的に俺たちの報告をヘイジョーに手紙で報告してもらう予定だ。
3人が居ない事で 今のパーティーは 男一人に女二人の状態だ。
冒険者という職業をよく分かっていない町人達は「羨ましいね」「冒険者ってのは豪気だね」とか好き勝手言いやがるけど、こいつらの性格を知らないからこそ言えることだよなと冷や汗ものだ。
シエナは嫁のアン程ではないけど前衛として戦いたがる女で こいつの使う槍は凄い速度で相手を串刺しにする。
外殻固めの敵の場合は柔らかい目か口の中を狙うが それが一度で決まった時の恍惚とした表情はヤベエ怖い。あの顔を見て美人だとか言うのは シエナの夫であるレスくらいだろう。
幼馴染のレスのこの美的感覚だけは未だに理解できない。
「テリュー どうしたの? とりあえず雪がましになるまでは ここでゆっくり過ごすんでしょ?
おねえさん、しばらくの間よろしくね。
もし力仕事が必要なら テリューを貸し出すわ」
「まあゆっくりしていっておくれ。うちもこの時期は洗礼式の人くらいしか宿泊に来ないからね。
お客さんに手伝いをさせることはないけど、もし困ってるところがあったらお願いするかもしれないね」
「あ、ああ、その時は声をかけてくれ」
俺の右腕に掴まりながら わき腹を見えないように抓られている。痛い、痛いって。
想像しただけで言葉にしても無いのに なんでわかるんだ?
ネリアは 一見大人しくてフワフワした女だから 守ってやりたいと感じる奴が多いだろう。回復担当というのも納得されやすい。
だけど弓矢の腕は正確だし、なにより大分変態だ。
皇国が人族至上主義だからというのもあるけど、初めて獣人と出会ったのは12歳の時、魔導学園に留学中 そこで出会った獣人たちの毛皮に魅了されたらしい。
オトマンとも学園で知り合い、ダンジョン研修なんて授業で組むようになり それからの付き合いだ。交際してからは 暇さえあればオトマンの尻尾を握りしめてほおずりしている。
今回の旅では オトマンの身を守る為に 離れることを自分で決めたわけだが、オトマンの抜け毛を集めて自作のヌイグルミを作り それにほおずりするレベルの変態だ。
「おねえさん、この町で人が沢山集まるお食事処ってどこですか? 私の友達が 薬屋さんをしてて この町にも立ち寄ったかもしれないの。見覚えが無いか旅の途中で聞きながら歩いているんです」
「人の集まるところだと 教会かねぇ。ただ今週末は この町のご領主様のお嬢様が洗礼式だってんで 貴族が集まるから 行かない方がいいね。
平日は平民しか集まらないからさ、朝のうちに行くといいよ。
食事処だと そうさね、5軒隣の〖アグーの食堂〗か2本裏通りにある〖のんだくれ〗かね。
だけど〖のんだくれ〗はその名の通り 飲んだくれが多いから お嬢さんたちが行くのはお勧めしないよ」
「そうか、まあその〖のんだくれ〗に行くとしたら俺が一人で行くから大丈夫だ」
「そうかい? まあ兄さんみたいに厳つい人だったら絡まれても大丈夫だろうね」
ニコニコしながら踵でグリグリ踏みつけられてる。そこ指先だけを狙ってくんのなに、痛いって。
まあそんな感じで 自分たちの夫に会えない不満を俺にぶつけながら 何とか情報収集をして回ってる。
俺だって嫁に会いたいっつーの。
「ねえ、さっきのあれ、アイリスのところに刺客を差し向けたって貴族の娘の事よね」
「ええ、ヴィオはアイリスによく似ているから、アイリスを気に入った子爵が ヴィオの事をさらった可能性はあるよね。
まずは洗礼式に来る子供の確認と その間に子爵邸にヴィオが居ないかの確認をしておきたいわ」
食堂で飯だけ食って部屋に戻れば 防音魔術を展開して 直ぐに話し合いが始まる。
俺たち平民は 洗礼式っても 集団で村の代表者に連れてってもらって 皆で順番に水晶玉に触れるだけのお祭りだったけど、貴族は、特に皇国では かなり重要なイベントらしい。
聖属性持ちだとその日から釣書がバンバンくるらしい。
ネリアは魔力が少なめの判定だったから 然程でもなかったらしいけど、魔力なんか成長と一緒に増えるもんだからな。
ああ、そういえば皇国では冒険者もいないし そういう常識は知らないんだったな。
「じゃあ 俺が当日屋敷に確認行ってくる。夜だったら闇に紛れやすい」
「うん、結果がどうであれ 洗礼式の日は 集まった貴族を招待してパーティーになるから、多少見られても 寄せ集めの下働きだと思われると思う」
ネリアの言葉で当日のパーティー中に 屋敷へ潜り込んで 偵察することにした。
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