ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ウミユ遺跡ダンジョン 後半

第358話 ウミユ その25



「すげぇいい匂いがすんだけど、ここか?」

「うわっ、なにこのエリア、すげえ腹減る匂いがする!」

「な、俺らの嗅覚は間違いなかっただろ? この階に来た早々 ヤベエ腹が減る匂いしてたんだ」

お兄ちゃんとイチャイチャしてたら 知らない人の声が聞こえた。
振り返れば6人組の冒険者。
なんとなく見覚えがあるような無いような……。

『破落戸共の後に ボス戦をして 儂らを抜かしていった奴らじゃな』

考えてたらお父さんから【サイレント】で情報が来た。
なるほど、どうりで魔力に見覚えがあるけど 顔に見覚えが無かったはずだ。直接見てなかったんだから当たり前である。

男性ばかり6人組の冒険者は 3人が獣人、2人がヒト、もう一人は髭が立派だからドワーフかな?
どうやら多少外に漏れ出ていたらしい匂いは ヒト族には感じられなくても 獣人には気付かれたようですね。
今もクンカクンカしながら 涎を垂らしておりますよ。

「あ~、悪いな。俺たちが作った飯の匂いが外に漏れちまったみたいだ」

「えっ!?」

「……テーブルに椅子って 家かよ」

キョロキョロしながらセフティーゾーンに入ってきた冒険者たちに声をかけたのはテリューさん。
このメンバーの中では お兄ちゃんは若いからね。ベテランの風格を出しているお父さんか テリューさんが代表として立つ方が面倒はないだろうという事で 決めていたからね。
あちらのリーダーらしき人が代表して テリューさんと挨拶をしているけど、残りのメンバーは 私たちのくつろぎ現場を見て呆れたり、美味しい匂いの元を探してクンカクンカを繰り返している。

「そうか、豊作ダンジョンだから 食材には困らないもんな。
銀ランクの上級にもなれば 調理をしながらしっかり飯を食うなんてこともできるんだな。
ああ、名乗り遅れたが 俺たちは〔蒼炎の剣〕銀ランク中級パーティーだ」

「そうか、俺たちは〔土竜の盾〕、あっちは〔サマニアンズ〕と〔ヨザルの絆〕だ」

「3つのパーティーが合同なのか?」

「そうだな、パーティーは別だが 元々の知人でもあるからな」

そういう事にするんですね?
まあ二つの合同ならまだしも、3つの合同なんて スタンピードが起きたとか、新しいダンジョンが発見されて潜るとか、そういう非常事態でしかないと聞いたからこその対応なんだろう。
私たちはそれをのんびり聞きながら、だけど関わらないで良いと皆が言ってくれたので お父さんとお先にテントへ戻ることにした。

「お父さん、あの人たちって 例の破落戸たちの後にボス戦した人たちだよね?
てことは タグも持ってるのかな」

「まあ その辺もテリューたちが確認するじゃろう。獣人のメンバーが 腹減りじゃったし、多分料理を食わせるか 調理させるかして 話を聞くことになると思うぞ」

おぉ、そっか。
あの人たちが料理を出来るとは思えないから 土竜のメンバーが作ってあげるのかな?
そして私が居たら 色々手を出しちゃいそうだし、足りない食材も普通に使っちゃいそうだから 退避させられたことに気付いた。


◆◇◆◇◆◇

~〔土竜の盾〕テリュー視点~



「わるいな、うちのメンバーが……」

「まあ気にすんな。俺たちも 他の奴らが来るとは思わずに美味い匂いを垂れ流しちまったからな」

「まあ あれだけ涎を垂らしている人たちを放置するのは気が引けるわ」

〔蒼炎の剣〕のメンバーは少し気まずげに頭を下げる。匂いの元を探していた彼らに 全部食べたから残っていないと言った時の悲壮感漂う顔をみれば、少し同情してしまっても仕方がない。
彼らも販売するつもりだったのか、食べるつもりだったのか、いくつか素材を持っていたのでそれを受け取り 足りない分は自分たちの手持ちから使ってやることにした。ただしそれなりの対価は支払ってもらう。
ヴィオは 素材だけではなく、その知識も見返りを要求することなく与えてくれる。それにどれだけの価値があるのか 分かっていない訳ではないようだが、心配になるのは仕方がない。

俺は テントに戻ったヴィオを思う。
最後に会ったのはまだ2歳になるかならないかという頃で、ポテポテとアイリスの後ろをついて歩き回る姿が ひな鳥のようで可愛いと皆が楽しんでいた。
それがどうだ、たった5年かそこらで 走れるようになったなんてレベルじゃない冒険者になってやがった。
両親が冒険者だったからなんて 珍しくもないはずなのに、やっぱり冒険者としての訓練を魔境でやってたからなのか!?
まあ、元気で育ってくれていたというのは安心したけど、別の意味で心配にはなるぞ。

さて、今回のオトマンからの情報はヘイジョーに伝えた。
ヴィオからの襲撃情報も伝えたことで その二つをフィルに報告するだろう。
そこに関しては フィルたちの方でどうにかするはずだ。俺たち一介の冒険者が 国の侯爵に物申すなんて出来ねえからな。
雲隠れした二人については気になるが、俺たちの事を聞いて 立ち向かえないと思ったんであれば 一旦雇い主の元に戻ったんだろう。

どうすっかな、俺たちも一度メネクセスに戻って フィルに聞いてみた方がいいか?
サマニアンズがついて来てくれるなら 説明はしやすいよな。
ヴィオも一緒に連れて行ければ話が早いけど、父ちゃんと離れたくねえってなるだろうしなぁ。

「まじか、それハズレ袋だよな。えええ!それがこんないい匂いになるのかよ」

「油袋もそれはハズレだったのに、使えたのか」

「そうよ~、今のところハズレと呼ばれていた物は全部使えることが分かったの。王都を中心にハズレも買い取りが始まってるはずだから 戻るんだったら 採集しながら戻ると良いわ。
まだレシピが広がってないけど、黒と茶のレシピは そろそろ公表されるはずだから 高値で買ってもらえると思うわよ」

「「「まじか!」」」

「そうね、あとは ポアレスも買い取りが強化されるはずよ。茶色い草むらがそうだから分かりやすいと思うわ。5階以降には生えてたから この状態にして袋詰めすれば 結構採集できるからおすすめよ」

「「「あざーす!」」」

料理はクルトたちが手際よくやってくれており、アンたちが 採集すべきものを教えている。
この階は俺たちのせいで採集できるものがないと思うけど、上の階はもうリポップしている筈だからな。
5人は嬉しそうに礼を告げ クルトたちの調理するところを見学したいと 近くに寄って行った。

「テリューさん 助かった。だけどあんな情報までもらっちまって、もう少し情報料を支払った方が良くないか?」

「ああ、いい いい。それより聞きたいことがある」

俺の言葉に姿勢を正したリーダーのケビンは 緊張したように生唾を飲み込んだ。
無茶ぶりする訳じゃねえけど あれは聞いておきたいからな。

「お前らが10階のボス部屋に入った時、冒険者のタグが落ちてなかったか?」

「‼⁉」

俺の質問に目を見開いて驚くケビン、あったようだな。

「な、何故……と聞いてもいいか?」

「まあ 大したことじゃないんだけどな、上の高原エリアで何回も絡まれたんだよ。 
俺ら毎回こうやって飯作ってるんだけどな、一応同じ場所に他のパーティーがいない時にやってるし 10階まではそれなりに人がいるから 結界も張って匂いが漏れねえようにしてたんだけど、態々覗きに来て食わせろってな」

「……あぁ、そういう事か。確かにそれは鬱陶しいな。
そいつらかどうかは分からねえけど、俺たちが入った時は10個のタグがあったな。
あったっつーか、ボス戦後の宝箱に入ってたっつーか」

ああ、ボス戦で死んだ奴らのタグは 宝箱から出てくると聞いたことがあったが 本当だったんだな。
まあ あの広い場所で普通なら混戦になるのがボス戦だ。そこに散らばってたら気付かれないままになっても仕方がないからな。

「10個も? 俺たちに絡んで来てたのは5人組だったんだが、あいつらの後に入った奴らも負けたって事か……」

「そうなのか? まあけどそうかもな。
タグのパーティー名は3つ、一つは俺たちも聞いたことのある奴らだったから 王都のギルド所属の奴らだな。まさか あいつらがこんなとこまで来てるとは思わなかったけどな」

話を聞けば 彼らも1年前から王都を中心に活動をしていたようで、王都から近いダンジョンを巡って力をつけているところだという。
体力がなかった破落戸は 王都でもたちの悪い冒険者として知られていたようだ。
やはり奴らは10人でボス部屋に入ったんだろう。
そして俺たちの一度目と同じくらいの数とやり合うことになった。
足手まとい5人を抱えたままじゃ 流石にきつかったんだろうな。
5人組だけで行動してたら問題なく 夜襲は出来ただろう。まあそこで死ぬか ボスで死ぬかの違いしかなかっただろうけど、ボスにやられた方が 冒険者としては良かったんじゃねえかと思う。

聞きたい情報は聞けた。
フライングラビットの照り焼きと 味噌野菜炒め。6人ともスープ用の金属カップしか持ってなかったから 俺たちの皿を貸してやる。
いや、俺たちのとか言ってるけど、これもアルクさんが作ってくれたんだけどな。

とりあえず彼らは 出来立ての美味い飯を喜んで食っていた。
テントは俺たちの場所とは反対側、その辺りを気遣えるだけの能力はあるらしい。
何故戻ってきたのかを聞けば 水が足りなかったという。水生成魔法の噂は聞いたが 覚えるのが面倒そうだと、それよりダンジョンで経験を積みたいと思ったらしい。
俺たちからも改めて覚える利点を伝えれば 戻ったらすぐに講習を受けに行くと言っていた。
それが良いと思うぞ。
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