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父娘の寄り道旅
第376話 橋と絶景
お兄ちゃんたちと別れて二週間。
私たちは今 川船の町リスケットから北上し 川を渡る橋に到着したところである。
前回川を渡ったのは ノイバウワー領、川船の始発地点であるルパインの北部だった。
ルパインを始点として河川工事が行われ 大きな船が運航できるようになっているので、あの橋は然程大きくなかったし、川のすぐ上にかかっていた。
だけど今私とお父さんがいるのは崖の上。
そういうと断崖絶壁だと思われちゃうかもだけど、ちゃんと整備された場所です。
「ダンジョンが無くても こんなに人が集まるんだね」
「そうじゃな、まあ東西を分割する川を渡る場所は三カ所しかない。王都から一番近いのはこの橋じゃから 人が集まるのは当然かもしれんなぁ」
「それが分かってたら 多少借金してでも 自分たちで工事をしたかもね」
モーセル側の宿に入った私たち。
泊まるつもりはなかったんだけど、この山に登る前に出会った旅のおばさんから この宿から見える夕日と 朝焼けは凄く綺麗で 見た方が良いってお勧めされたからお泊りすることにしたんだよね。
元モーセル侯爵領と ケストネル公爵領の端っこにある小高い山の間に川が流れていた関係で、昔はこの山から山賊が川船を襲う事があったというのは 川船の事を習った時に教えてもらった。
元、と言ったのは この山の整備をしたのはケストネル公爵だったんだけど、モーセル侯爵は もう少し上流にある谷に橋を架ける工事があったから、ここに橋をかけるつもりはなかったらしい。
しかもケストネル公爵から提案された工事内容が 自領地で行う工事費用よりバカ高かったからというのもあるらしいんだけど、何の恩恵も得られない山を整備するのを嫌がった侯爵が この山ごと領地一帯を公爵に売ったんだって。
ああ、勿論国王陛下の承認を得たうえでだけどね。
だからこの山二つはケストネル公爵の持ち物で、公爵の持つダムを作れるほどの知識と それを作った職人たちにより、同時進行で二つの山の整備が行われたんだって。
山は切り開かれ、川に面する山肌は木々が打ち払われ 土砂崩れなどがないように 地盤を固められた。
橋を架けるだけではなく そこに町を作れば 山賊も存在しにくいだろう、という考えの元 この町は建設された。
地盤を固めた山肌にはぐるりと回るように 馬車三台分の幅で道が整備され、急ではない坂道のお陰で物資の輸送も楽に行われるようになったんだって。
ちなみに、モーセル侯爵領地の北部にある橋は 山ではなく元々崖のようになっていた場所だったので橋自体は問題なく渡れるらしいけど、その崖の上に至るまでの道のりはそれなりに険しいらしく、馬車で行き来するのは難しいとの事。
まあ 元々山賊が住処にするような場所だもの、人が行き来しやすい場所にアジトは作らんだろうね。
夕食は折角だから 屋台で購入して外で食べる。
この橋の左右にある町は 同じ町という括りになっていて 入町料はどちらかの町で支払えば良いとの事。
ケストネル公爵が両方を整備したから出来ることだよね。
「ヴィオは高いところが怖くないか?」
「うん、大丈夫みたい。橋も頑丈だし 柵もあるから怖くないよ」
他の観光客と同じように 私とお父さんは手を繋いで 大きな橋の上に来ている。
この橋も町の一部だから 行き来し放題なのだ。
とても立派な橋の上は 馬車が通るための道と 人が歩いて渡る道で色が分かれている。
人が歩く道も大概広いんだけど、川の真上は特に広くなっていて 広場になっているのだ。
皆そこで思い思いに座ったり 橋の柵から川をのぞき込んだりしている。
「この辺でええか」
お父さんがシートを敷いてくれたので 二人で座って屋台で買ってきた夕食を頂く。
青かった空が段々黄色くなってくると 夫婦なのか男女二人組がくっつきながら イチャイチャし始めた。
うんうん、夕日と夜景がデートスポットなのは この世界でも同じなんですね。(安全が確保されている場所に限る)
私はお父さんと 肉串とスープを頂きながら 美しく変化していく空を眺める。
青から黄色、そしてオレンジへ。オレンジはどんどん赤みが強くなり ふと気が付けば水色に近い明るい青だった空が 深く濃い群青に近い青に変化していく。
橋から見える川に太陽が落ちていく様は本当に美しくて そのまま吸い込まれそうな気分になった。
トプンと川に落ちた太陽が姿を消せば 辺りはしっかり暗くなる。
だけど、橋の柵がぼんやりと明るくなり始め、たちまち足元を明るく照らしてくれる。
「ほぉ、これは凄いな。明かりの魔道具をこれだけ準備するのも金がかかっておるじゃろうが、これがあるからこそ 観光客が安心してここに来れるっちゅうことじゃな。
これは見たものが噂をして人を集めるのも難しくないじゃろうな」
確かに。
はじめて来た人は 暗くなって「キャ」なんて言いながらパートナーにしがみ付いてたけど、何度か来たことがあるような人は 焦ってなかったし 「ほら見てごらん」なんつってエスコートしてるもんね。
むむっ、あのキャ!ももしかしたら仕込みか?
いやいや、無粋なことは考えまい。
私ですか?私は暗闇でも見える暗視が出来ますので全く問題ありません。
唯一見えない暗闇は ボス部屋の扉が閉まるまでのあの間だけですから。
お宿で宿泊した翌早朝、まだ夜明け前だけど準備を始める。
冒険者としてダンジョン生活をしていれば 早起きは然程苦痛ではない。
町ではこんな早い時間に起きても 一部の人たちしか起き出していない筈だけど、この町は違っていた。
「おはようさん、このまま出発だろう? 朝食は橋の上でも食べられるようにこれを持っていけばいい。良い旅をね」
受付には 沢山の朝食と思われる葉に包まれたものがあり、女将さんから渡された。
確かにこんな早朝だと屋台すら準備出来ないもんね。
ありがたく受け取って宿を出れば 橋に向かっている人が結構歩いていた。
「日の出も素敵だって言ってたから 皆早起きだね。包みを持ってる人と持ってない人がいるね。
あのお宿の特別サービスだったのかな」
「いや、荷物を持っていない連中は 日の出を見たらまた宿に戻って一休みするんじゃろう。儂らのように荷物を持っている奴らしか 弁当はもっておらんぞ」
よく見れば確かに リュックなどを持っている人だけが お弁当らしいものを持っていて、そうではない人は凄く軽装だ。
魔道具の明かりを頼りに 橋に向かえば 昨日と同じようにシートを敷いて暗い川を眺める。吹き抜ける風が少し冷たいので お父さんの足の間に入って座ってます。
「あ、そうだ。ちょっと魔法使うね【ウインド】」
空気膜でお父さんごと包み込む。
透明だから周りの人も魔法を使ったとは気付かないだろう。
≪おぉ、風が来なくなったな。これは盾とは違うんか?≫
≪うん、盾にしちゃうと ぶつかった人がびっくりするでしょ? 風のカーテンを作ったような感じかな。ぶつかる人がいても そよ風がぶつかったと思うくらいだと思うよ≫
レスさんが 風魔法で仲間をテントに運んだのを見てから、私も風魔法の可能性を色々試しているんだよね。水と風は形がない分 凄く使い勝手が良いんだよね。
そんな風に 【サイレント】で会話をしながら 暗い空を眺めていれば 群青の空の下が明るくなってきたのが分かる。
「わあ……」
「これは……」
二人で声が詰まってしまったのは 暗くて気付かなかったものが見え始めたから。
周囲の騒めきも増え 皆が溜息のような音を出す。
川という水辺がそうさせたのか、霧が川の水を完全に隠し まるで雲の上に自分たちがいるように錯覚させられたのだ。
その雲が光を湛え、上下の雲の白、間の青、そして太陽の赤が幻想的な空間を作り出す。
これは凄い……。
世界の絶景百選とかになっててもおかしくない。
しかもそこをこうやって 見学できるように作ってるって ケストネル公爵が凄い!
太陽が見えた時には見学者から拍手と歓声が上がった。
初日の出とかも ニュースでこんな感じだったよね。なんでしょう、毎日太陽を見ている筈なのに 上る瞬間を見た時は感動するって凄いよね。
街道のおばさんがお勧めした理由がよく分かったね。これは 近くに来る人なら絶対に来るべき場所だと思う。
「お兄ちゃんたちも帰ってきた時に連れてきてあげないとだね」
「そうじゃな、これはあいつらも喜ぶじゃろう」
クルトさんは 女子を連れてきそうだけど、まあハニトラじゃなければ成人しているんだし 好きにすればいいさ。
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