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DMは突然に、地獄も突然に。
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スマホの画面が光った瞬間、私は、
思わず持っていたアイスコーヒーを落としそうになった。
画面には見慣れない名前。
いや、名前というか、公式アカウント。
【HARMONIA_official】
……え?
え? え???
私は固まった。
正確に言うと、意識も呼吸も心臓も、全部どこかへ飛んでいった。
「いやいやいや、こんなの詐欺……詐欺でしょ……?」
震える指でメッセージを開く。
“Instagramで星川りの様の歌声を拝見しました。
新企画にてお話したい内容がございます。オンラインで一度ご相談できませんか?”
…………死ぬ。
これは、間違いなく、心臓を殺しにきている。
私は深呼吸をして、落ちつこうとした。
でも、落ちつけるわけがない。
だって——
ハーモニア。
あの国民的大人気バンド。
私の推し、那加森廣樹のバンドだ。
推しのバンドからのスカウト。
いやいやいやいや無理。
胃が痛いどころか、胃が消えた。
「……え、え、ちょっと待って。これハッキングとかじゃ……?」
いろんな疑心暗鬼が頭を飛び交うが、
文章の雰囲気もアイコンもリンク先も、どう見ても本物。
いや、本物だったらそれはそれで怖い。
心臓の音が耳のすぐ横で鳴っているような感覚になる。
手のひらは汗だらけ、膝はガタガタ、震えすぎてキッズ服の裾が揺れた。
そう、私は見た目“小学生”の31歳。
名前は狩生龍真(かりゅう りゅうま)。
漫画家で、小説家で、そして——
人妻店のデリヘル嬢“みれい”でもある。
顔出し写メ日記で活動しているから、バレたら人生終わる。
髪は前髪だけ白髪、襟足だけ金髪。
全部、推しである那加森廣樹の真似。
芸名は星川りの。
歌投稿は全部その名前。
私は——
廣樹が大好きだ。
けど、それを絶対バレたくない。
推しに「推してます」なんて言ったら死ぬ。
魂が粉みじんになる。
そんな私の元に来たスカウトDM。
……胃が全部溶ける音がした。
悩んでいたら、また通知が鳴った。
【本物です。安心してください】
いや、安心できるか。
怖さが倍増しただけ。
「む、無理……いやでも……でも……」
私は生まれて初めて、
“推しから仕事が来たときどうすればいいかのマニュアル”が
世の中に存在しないことを痛感した。
考えても考えても答えは出ない。
ただ一つだけ確実なのは——
これは人生の岐路だということ。
震える指で、メッセージを返す。
『はい……ぜひお話だけでも……』
送信した瞬間、心臓がグッと縮んだ。
数分後に返事が来る。
“では明日の20時から、オンラインでお願いします。
メンバーも参加します”
メンバー……
つまり——
廣樹。
颯真。
涼河。
……吐きそう。
私はその日、眠れなかった。
翌日20時。
カメラの前に座る。
キッズ服の胸元をぎゅっと握りしめる。
本名じゃなく星川りのとして参加する。
緊張で画面が二重に見える。
通話が繋がると——
画面が一気にまぶしくなった。
本物のハーモニアが映った。
「こんばんはー。聞こえる?」
落ち着いた優しい声。
芹澤涼河。
「お、りのちゃんだな。よろしく」
兄貴みたいにサッパリした声。
瀬川颯真。
そして——
「……りのちゃん、だよね? 可愛いね」
画面の真ん中。
黒髪のミディアム。
二重。
アヒル口。
小柄で天使みたいな笑顔。
那加森廣樹(なかもり ひろき)。
推し。
私の人生の光。
生きる理由。
その廣樹が、私を見て笑っている。
「え、え……ど、どうも……」
震える声しか出なかった。
廣樹は首を傾げて、少し目を細める。
「歌、聴いたよ。
りのちゃんの声、好きだな。
……それに、その髪、俺の真似?」
やめろ。
言うな。
気づくな。
私は慌てふためいた。
「ち、ちが……これは……!」
颯真が吹き出す。
「いや嘘だろ。これ見て推しじゃないは無理あるだろ」
涼河もほほえむ。
「大丈夫だよ、そんなに慌てなくても」
廣樹はアヒル口でにやっと笑った。
「俺のこと嫌いなの?」
「き、きらっ……好きじゃ……」
「ふーん……じゃあ、これから好きになってよ」
……いや。
いやいやいやいや、こいつ絶対裏で重いタイプだ。
推しが重いとか聞いてない。
やめて。心が死ぬ。
私はその瞬間、悟った。
ここからが地獄。
たぶん甘い地獄。
逃げられない地獄だ。
颯真が話をまとめる。
「今日呼んだのはな、りの。
新曲の世界観を描く漫画を作りたくて、りのにお願いしたい」
涼河が続ける。
「あと、デモの仮歌をお願いできたら嬉しいな」
そして廣樹。
「りのちゃんの声、俺、もっと近くで聴きたい」
無理。
心臓が爆発する。
「つ、次のお休みの日……教えてくれない?」
「い、いえその……あの……!」
「会おうよ」
会う。
推しに会う。
それは天国のはずで、でも地獄。
「行ってくれないと……俺ちょっと凹むよ?」
あ。
重い。
この人、表のふわふわ笑顔とは別の顔持ってる。
私は理解した。
逃げ場はない。
通話が終わった後。
私は放心状態で、うっかり“開いたまま”にしていたブラウザを閉じた。
そこで恐怖が始まる。
通知が来た。
DM。
送り主は——
【那加森 廣樹】
心臓が止まりかける。
メッセージを開くと、
そこには貼られていた。
人妻店のデリヘル嬢“みれい”の写メ日記。
私の、別の顔。
“これ、りのちゃんだよね?”
“呼んだら来てくれる?”
背筋が凍る。
血が逆流した。
終わった。
人生、終わった。
廣樹が私の裏の仕事を見つけた。
しかも写メ日記は顔出し。
髪型、完全一致。
言い逃れはできない。
震えた指で返信する。
『ちちちちが……これは……!』
すぐ返事が来る。
“ねぇ
会いたいんだけど”
“来てよ、みれいさん”
画面を見ていて、気づいた。
廣樹の文面だけで、
裏の顔が分かる。
優しさの奥にある執着。
笑顔の奥の支配。
可愛いふりして、逃さない気満々のやつ。
“りのちゃんにも
みれいさんにも
俺、会いたいよ”
もう無理。
生きていけない。
でも逃げられない。
私は、ついに理解した。
その後は地獄。
推しに会ったら、人生は甘くて苦しい地獄になります。
私の人生の歯車が、
この日、大きく狂い始めたのだった。
思わず持っていたアイスコーヒーを落としそうになった。
画面には見慣れない名前。
いや、名前というか、公式アカウント。
【HARMONIA_official】
……え?
え? え???
私は固まった。
正確に言うと、意識も呼吸も心臓も、全部どこかへ飛んでいった。
「いやいやいや、こんなの詐欺……詐欺でしょ……?」
震える指でメッセージを開く。
“Instagramで星川りの様の歌声を拝見しました。
新企画にてお話したい内容がございます。オンラインで一度ご相談できませんか?”
…………死ぬ。
これは、間違いなく、心臓を殺しにきている。
私は深呼吸をして、落ちつこうとした。
でも、落ちつけるわけがない。
だって——
ハーモニア。
あの国民的大人気バンド。
私の推し、那加森廣樹のバンドだ。
推しのバンドからのスカウト。
いやいやいやいや無理。
胃が痛いどころか、胃が消えた。
「……え、え、ちょっと待って。これハッキングとかじゃ……?」
いろんな疑心暗鬼が頭を飛び交うが、
文章の雰囲気もアイコンもリンク先も、どう見ても本物。
いや、本物だったらそれはそれで怖い。
心臓の音が耳のすぐ横で鳴っているような感覚になる。
手のひらは汗だらけ、膝はガタガタ、震えすぎてキッズ服の裾が揺れた。
そう、私は見た目“小学生”の31歳。
名前は狩生龍真(かりゅう りゅうま)。
漫画家で、小説家で、そして——
人妻店のデリヘル嬢“みれい”でもある。
顔出し写メ日記で活動しているから、バレたら人生終わる。
髪は前髪だけ白髪、襟足だけ金髪。
全部、推しである那加森廣樹の真似。
芸名は星川りの。
歌投稿は全部その名前。
私は——
廣樹が大好きだ。
けど、それを絶対バレたくない。
推しに「推してます」なんて言ったら死ぬ。
魂が粉みじんになる。
そんな私の元に来たスカウトDM。
……胃が全部溶ける音がした。
悩んでいたら、また通知が鳴った。
【本物です。安心してください】
いや、安心できるか。
怖さが倍増しただけ。
「む、無理……いやでも……でも……」
私は生まれて初めて、
“推しから仕事が来たときどうすればいいかのマニュアル”が
世の中に存在しないことを痛感した。
考えても考えても答えは出ない。
ただ一つだけ確実なのは——
これは人生の岐路だということ。
震える指で、メッセージを返す。
『はい……ぜひお話だけでも……』
送信した瞬間、心臓がグッと縮んだ。
数分後に返事が来る。
“では明日の20時から、オンラインでお願いします。
メンバーも参加します”
メンバー……
つまり——
廣樹。
颯真。
涼河。
……吐きそう。
私はその日、眠れなかった。
翌日20時。
カメラの前に座る。
キッズ服の胸元をぎゅっと握りしめる。
本名じゃなく星川りのとして参加する。
緊張で画面が二重に見える。
通話が繋がると——
画面が一気にまぶしくなった。
本物のハーモニアが映った。
「こんばんはー。聞こえる?」
落ち着いた優しい声。
芹澤涼河。
「お、りのちゃんだな。よろしく」
兄貴みたいにサッパリした声。
瀬川颯真。
そして——
「……りのちゃん、だよね? 可愛いね」
画面の真ん中。
黒髪のミディアム。
二重。
アヒル口。
小柄で天使みたいな笑顔。
那加森廣樹(なかもり ひろき)。
推し。
私の人生の光。
生きる理由。
その廣樹が、私を見て笑っている。
「え、え……ど、どうも……」
震える声しか出なかった。
廣樹は首を傾げて、少し目を細める。
「歌、聴いたよ。
りのちゃんの声、好きだな。
……それに、その髪、俺の真似?」
やめろ。
言うな。
気づくな。
私は慌てふためいた。
「ち、ちが……これは……!」
颯真が吹き出す。
「いや嘘だろ。これ見て推しじゃないは無理あるだろ」
涼河もほほえむ。
「大丈夫だよ、そんなに慌てなくても」
廣樹はアヒル口でにやっと笑った。
「俺のこと嫌いなの?」
「き、きらっ……好きじゃ……」
「ふーん……じゃあ、これから好きになってよ」
……いや。
いやいやいやいや、こいつ絶対裏で重いタイプだ。
推しが重いとか聞いてない。
やめて。心が死ぬ。
私はその瞬間、悟った。
ここからが地獄。
たぶん甘い地獄。
逃げられない地獄だ。
颯真が話をまとめる。
「今日呼んだのはな、りの。
新曲の世界観を描く漫画を作りたくて、りのにお願いしたい」
涼河が続ける。
「あと、デモの仮歌をお願いできたら嬉しいな」
そして廣樹。
「りのちゃんの声、俺、もっと近くで聴きたい」
無理。
心臓が爆発する。
「つ、次のお休みの日……教えてくれない?」
「い、いえその……あの……!」
「会おうよ」
会う。
推しに会う。
それは天国のはずで、でも地獄。
「行ってくれないと……俺ちょっと凹むよ?」
あ。
重い。
この人、表のふわふわ笑顔とは別の顔持ってる。
私は理解した。
逃げ場はない。
通話が終わった後。
私は放心状態で、うっかり“開いたまま”にしていたブラウザを閉じた。
そこで恐怖が始まる。
通知が来た。
DM。
送り主は——
【那加森 廣樹】
心臓が止まりかける。
メッセージを開くと、
そこには貼られていた。
人妻店のデリヘル嬢“みれい”の写メ日記。
私の、別の顔。
“これ、りのちゃんだよね?”
“呼んだら来てくれる?”
背筋が凍る。
血が逆流した。
終わった。
人生、終わった。
廣樹が私の裏の仕事を見つけた。
しかも写メ日記は顔出し。
髪型、完全一致。
言い逃れはできない。
震えた指で返信する。
『ちちちちが……これは……!』
すぐ返事が来る。
“ねぇ
会いたいんだけど”
“来てよ、みれいさん”
画面を見ていて、気づいた。
廣樹の文面だけで、
裏の顔が分かる。
優しさの奥にある執着。
笑顔の奥の支配。
可愛いふりして、逃さない気満々のやつ。
“りのちゃんにも
みれいさんにも
俺、会いたいよ”
もう無理。
生きていけない。
でも逃げられない。
私は、ついに理解した。
その後は地獄。
推しに会ったら、人生は甘くて苦しい地獄になります。
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