推しに会ったら地獄でした

刈部三郎

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甘い帰り道と、新しい“恋の火種”

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スタジオの外は、夜風が少し冷たかった。
でも私は熱かった。
体温がずっと高いまま下がらない。

歩いて三歩後ろから、廣樹がついてくる。

「……りのちゃん、歩くの速い」

「ちょ、ちょっと緊張してて……!」

「俺のこと好きって言ったくせに?」

ひぃぃぃぃぃ。

顔が燃えた。

廣樹はゆっくり追いついてきて、
私の腕をそっと掴んだ。

指先が震えた。

「逃げるなって」

「に、逃げてないです!」

「逃げてる。
好きって言ったあと急に距離取るの、ずるい」

甘い声で、耳ぎりぎりに囁かれた。

背筋がびくっと跳ねる。

「……ねぇりのちゃん」

「は、はい……」

「ここで……
キスしたらダメ?」

ひっ。

顔が一気に真っ赤になる。

「だ、ダメじゃ……ない……ですけど……」

「じゃあ——」

廣樹が近づく。
私は後ろに下がる。
でも捕まえられて、電柱の影に追い詰められた。

壁ドン。
顔が近い。
鼻先が触れそう。

唇が触れ——
そうになったその時。

「おーい、二人とも!! 一緒に帰ろうぜー!」

颯真の声。

私と廣樹は同時に固まった。

……タイミング!!!!!


颯真はニヤニヤしながら近づいてくる。

「おーおー、めちゃくちゃいい雰囲気だったな?」

「ち、違……!」

「違わないだろ、電柱の影で壁ドンって」

私の心臓は爆発寸前。

廣樹は露骨に不機嫌。

「颯真、邪魔」

「いや帰る方向一緒だからさー」

颯真は私を見て笑った。

「りのちゃん、今日の歌……めっちゃ良かったよ。
つか……最近可愛くなったよな?」

「え……」

その時、廣樹の目が細くなった。

「やめて」

「はいはい嫉妬~」

颯真は完全に私に興味を持ち始めた目をしていた。

「今度さ、りのちゃん。
俺とも……二人で歌練しようぜ?」

ドクン。

その言葉に、空気が変わった。

廣樹が一歩前に出て、私の肩を抱いた。

「りのちゃんは俺とやる」

「やるって表現どうかと思うけどな」

颯真は笑っているが、
目は……本気で楽しんでいる。

“これは面白くなる”
そんな目。

やばい。
三角関係の匂いが濃い。


さらに後ろから柔らかい声が。

「……僕も参加していい?」

振り返ると涼河が袋を下げて立っていた。

「三人で帰るなんて珍しいねぇ」

涼河はにこっと笑ったあと、
私の顔をじっと見た。

「……りのちゃん、さっきから顔赤い。
大丈夫?」

「ひっ……!」

そんなふうに優しく顔を覗き込まれたら、
視線をそらせなくてドキッとする。

涼河「あ、目そらせないんだ。
可愛い……」

颯真「わかるー。最近めっちゃ可愛い」

廣樹「…………」

涼河「ねぇりのちゃん。
今度僕とも……二人で歌合わせしよう?」

ドクン。

颯真と涼河、同時に誘ってきた。

その瞬間。

廣樹の手に、ぎゅっと力が入った。

「ダメ。
二人とも、りのちゃんに近づかないで」

甘い声なのに、
ヤキモチ爆発。

颯真「は? 何でお前の許可が必要なんだよ」

涼河「そうだよ。
僕ら全員、りのちゃんと音作ってるじゃん」

空気が一気に熱くなる。

三人とも……
本気の目。
私に向けられた熱。

やばい。

恋愛ゲームのハーレムイベントみたいな状況。

そして廣樹が言い放つ。

「りのちゃんは……
俺の好きな人だから」

一瞬で静まり返る。

颯真「……ほう?」

涼河「そっかぁ……
じゃあ僕ら、
廣樹の好きな子を奪っちゃいけないんだ?」

「!!!!!」

颯真「いや、それは逆に燃えるな」

涼河「だって……可愛いんだもん」

二人の視線が、
私の全身をまっすぐ追ってくる。

喉が鳴る。

そして廣樹が怒りより強い“甘さ”をにじませて言う。

「……ねぇりのちゃん。
俺の隣、離れないで?」

私の心臓は爆発した。


颯真と涼河が「また明日な」と手を振って別れると、
廣樹はすぐに腕を絡めてきた。

「……りのちゃん」

「は、はい……」

「颯真と涼河のこと、見ないで」

「み、見てないです……!」

「さっき……二人の誘い断ったの、
俺のためでしょ?」

「ち、違っ……!」

「違わないでしょ?」

甘すぎる声。

耳にかかった吐息で
脚が震えた。

「りのちゃん……
俺のことだけ見てよ」

その時、
ふいに手を引かれる。

「っ!」

人目のない駅裏の影に連れ込まれて、
壁に背を押しつけられる。

「さっき……邪魔されたから」

「えっ……」

「続き、したい」

唇が近づいていく。

視界が甘く滲む。

「キスしていい?」

声が震えた。

「……いい、です……」

廣樹は微笑んで、

「……ありがとう」

と呟き、
ゆっくり唇を寄せた——

その瞬間、
胸の奥が爆発しそうだった。
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