推しに会ったら地獄でした

刈部三郎

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りの? みれい?——混線した恋心

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昨日の“みれい指名”が終わってから、
私はずっと放心状態だった。

布団に寝転がったまま、
天井のシミをじっと見つめていた。

「やば……昨日の廣樹さん……反則……」

仕事の顔も、
素の顔も、
全部見られて……

そのうえで
「好き」
って。

胸がぎゅっと縮む。

そんなとき、また震えた。

【那加森 廣樹】

恐怖と期待が半分ずつ。

“起きてる?”

“今日も……会えない?”

ひぃ。

もう甘さで溺れそう。

私は意地で返す。

『今日は……歌の締め切りがあって……』

すぐ返ってくる。

“俺の曲、やってくれるんでしょ?”

『はい……!』

“じゃあ会えるじゃん。”

違う!!!
そうじゃない!!!

『その……スタジオ行く感じになりますか……?』

“うん。
みれいさんじゃなくて……
りのちゃんに会いたい。”

心臓がドクンと跳ねた。

みれいじゃなくて。
りのに。

昨日あんなに重かったくせに、
今日は甘くて穏やか。
“恋してる顔”だった。


夕方、スタジオに入ると
颯真と涼河が迎えてくれた。

颯真「おーい、りのちゃん! 今日も可愛いな!」

涼河「無理してない? ほらお茶飲む?」

二人は安定の優しさ。

そして奥の椅子に座っている廣樹を、見た瞬間。

息が止まった。

顔が真っ赤。
目がとろけてる。
めちゃくちゃ甘い。
完全に“好きな子モード”。

「……りのちゃん」

声が、昨日よりさらに柔らかくて、
空気が甘くなる。

「来てくれた……」

まるで、“恋人を待ってた”みたいな言い方。

私は胸を押さえた。

「そ、そんな嬉しそうに……」

「だって嬉しいから」

即答。

颯真「あーこれ昨日の続きか。絶対みれいのとこ行ったろ」

涼河「顔に“好き”って書いてある……」

廣樹「書いてないし」

書いてる。

彼は立ち上がって、私の前まで来ると
そっと顔を覗き込む。

「……りのちゃんさ」

「はい……?」

「今日……みれいの顔してる?」

え。

急すぎる。

「えっ、してないですッ!!」

「ほんと?」

「してないです!!」

廣樹は少し首を傾げて、

「でも……昨日の“みれい”も好きだった」

「っ……!」

「だけど……俺が今見たいのは、
りのちゃんの顔」

距離が近すぎる。
甘い匂いがふわっと届く。

寿命が縮んだ。


レコーディングルームに入って座ると、
廣樹が隣に来て、椅子を少し近づけた。

「りのちゃん」

「な、なんですか……」

「今日も歌……聴いていい?」

「もちろんです……」

「そっか……ありがとう」

それだけで顔がほころぶ。

そして、ふいに廣樹が言った。

「……でも、今日の声……
みれいさんっぽくない?」

「!?」

「ちょっと低めで……甘い感じ」

「ち、違っ……!」

「え、嫌なの?」

甘く首を傾げてくる。

嫌とかじゃない。
恥ずかしくて死ぬだけ。

「私、りのです……!」

「うん。
わかってるよ?」

とろけるような声で囁いた。

「でもね……
俺は、みれいの声も……
りのの声も……
同じくらい好きだから」

甘い。
甘すぎて吐息が震える。

「分けなくていいよ?」

「え……?」

「みれいの声も、りのの声も……
全部俺だけに向けて?」

胸が一気に熱くなった。

颯真「うわ出た甘すぎるやつ」

涼河「完全に溶けちゃってるな廣樹……」

廣樹「ほっといて」


録音が終わり、
颯真と涼河がスタッフと話をするため外へ。

また二人きり。

嫌な予感。
甘い予感。
どっちも。

廣樹は静かに言った。

「りのちゃん」

「……はい」

「昨日から……ずっと考えてた」

「……」

「みれいとりのって……
違う顔してるけどさ」

私の胸がつまった。

「でも……
俺からすると……どっちも同じ人で……
どっちの顔も、俺以外に見せてほしくない」

やっぱり……裏の顔。

でも昨日より柔らかい。
怖さがなくなってる。

甘えた裏の顔。

「りのちゃんの……みれいの顔……
俺だけのものにしたい」

息が漏れた。

「そ、そんな……」

「嫌?」

「……嫌じゃ……」

「じゃあいいじゃん」

廣樹は、私の手をそっと包み込む。

「りのちゃん……
俺に全部見せてよ」

震えた。

「りのも、みれいも……
どっちも俺の前で生きてよ?」

心臓の奥がじわっと熱くなる。

この人は——
重いのに、
甘くて、
優しくて、
逃げ道を塞ぐのが上手すぎる。


静かに、ふいに。

「……ねぇ、りのちゃん」

「はい……」

「俺……
りのちゃんじゃないとダメなんだと思う」

呼吸が止まった。

「りのじゃなきゃ嫌。
みれいでも、りのでも……
君じゃなきゃ意味ない」

胸が熱すぎて泣きそう。
でも泣けない。

「……好き」

その言葉は、
叫びじゃなく、
ささやくような、
本気の“告白”だった。

甘すぎて、反則だよ。

私は、声が震えた。

「……私も……好きです……」

廣樹の目が一瞬、驚いたあと。

ゆっくり笑った。

「……そっか……
言ってくれた……」

その笑顔は、
天国みたいに柔らかかった。

でも次の一言で、
ちゃんと“地獄”が戻ってきた。

「じゃあ……
ずっと一緒にいようね?」

逃げられない。

でも、
逃げたくない。
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