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第十八話 恋慕(sideアウレール)
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義父は、いたく嬉しそうにしておいでだった。まさか、リエルの結婚相手について思いを馳せる日が来るとはと、しきりにそう仰って、これまでになく張り切っていらした。
孫の顔が見られるかもしれないと。そう言う義父の笑顔が、呪わしく脳裏に焼き付いた。
どす黒い感情が込み上げた。リエルが誰かと結婚し、愛を育む……義兄としては、そんな未来を歓迎し、応援するのが道理というもの。
気付けば、かたく握った拳から、血が滴っていた。そんな光景を想像しただけで、怒りとも、恐怖とも取れぬ、禍々しい感情が込み上げるのである。
いくら、リエルが少女と見紛うほどの中性的で儚げな雰囲気を纏った麗人であるからといって、互いに男であることは疑いようもない。その上、義理とは言え、俺とリエルは家名を同じくする兄弟なのだ。
決して、抱いてはいけなかった恋慕が、取り返しのつかないほど、心の奥底にまで根付いている。絶望的であった。
リエルへの恋慕は、「リエルが病弱なままであれば」などという、許されざる感情に更に薪をくべて、まともに考えると平静を保てなくなるほど燃えさかった。
時を経て折り合いをつけるどころか、最早、おのれでは制御できないほど、大きく肥え太っていく、醜悪な欲望。
人生をかけて――命に代えてでも守りたい、リエルという存在を、他でもない俺自身が、汚し、貶め、毀損してしまいかねないなんて。
どうして、こんな獣のような人間が、リエルの傍に堂々と立っていられようか。
純真無垢なリエル。俺の醜悪な本性など知る由もなく、無邪気に俺を兄と慕う、いっそ憎らしいほどに愛おしい、かわいそうな青い鳥。
きっと、こうなってしまった俺は、リエルを前にして、その翼を手折ることしか考えられない。籠の中に押し込めて、二度と羽ばたけなくなった翼をハタハタと動かす、哀切なさえずりを聞くことでしか、獰猛な欲望を慰めることはできない。
強烈な自己不信と自己嫌悪。リエルが学院に入学してからというもの、この二つの強迫観念が、おのずと彼から足を遠ざけた。彼の健やかな姿を視認するたび、自分の内面の醜悪さと直面し、怒りと絶望で埋め尽くされるからだ。
そんな俺のふるまいに、リエルが傷ついていることも分かっていた。「リエルを穢したくない」などと、どう理屈づけたところで、浅ましい自己保身に過ぎないことも。
いっそ、リエルの婚約者が見つかってしまえば、諦めもつくかもしれない。義父が選び抜いた、リエルに相応しい、文句のつけようもないご令嬢であれば、自分の出る幕はないと、嫌でも理解できるかもしれないから。
あるいは、いずれリエルが伴侶として迎えた人間よりも、リエルにとって必要不可欠な人間であるという自負さえ身に着けたなら、以前のように穏やかに接する心構えを取り戻せるかもしれないと、そう信じて、傷つくリエルに背を向けた。
凍えるような泥沼をかき分けて進むような日々が一年ほど経った頃のこと。俺は、偶然、第四王子とリエルが親密そうに語り合っている現場を目撃した。
第四王子は、「かわいい女の子のおこぼれに預かりたいから」と意味の分からないことを言って俺に付き纏っては、数々の浮名を流す、淫蕩な人間だ。王族で、なおかつ生徒会の一員でありながら、生徒の風上に置けないような不埒の輩。
純真無垢なリエルに何を吹き込むか知れたものではない。どうして、よりにもよって、第四王子などと親しくなってしまうのか。
不条理すら感じ、苛立ちの突き動かすまま、俺はリエルに詰め寄った。あんなよこしまな人間と関わり合いになってはいけない。万が一にでも、第四王子から悪い影響を受けて、不純な交友に染まってしまったらと思うと、居ても立っても居られなかった。
誰かと懇ろになるにしても、清く正しい交際を。女神の敬虔な信徒である義父のように、ただ一人だけを一途に真摯に愛し抜く――そんなリエルを、義父だって望んでいるはず。
そうでなくては許せなかった。誰よりも醜く穢れた内面をしておいて、リエルには潔白を願うなど、独りよがりにも程があるというものだ。
しかし、そのことに気付いたのは、必要以上にリエルにきつく当たった後だった。リエルを思い通りにしなければ気が済まないという、あまりに暴力的な願望が、勢い余って発露してしまったのだ。
リエルを通して自分に向き合えば向き合うほど、何もかもが許せなくなった。
リエルの傍で生きて、守り続ける。それさえ叶えば十分のはずなのだ。それ以上に望むことなどない、あってはいけない!
自分を戒めれば戒めるほどに、欲望は暴走した。リエルを組み敷いて、獣欲の赴くままに、その尊厳を穢す、想像を絶するような悪夢を繰り返し見た。
絶望に身を浸し、死んだように日々を過ごした。いつ、この本性を見破られ、厭わしい獣として蔑まれ、公爵家から放逐されるだろうと考えずにはいられなかった。
早く終われ、その一心で、学院の最終学年を迎えた。このころから、周囲で、やたらとリエルを貶めるくだらない風評が聞こえるようになった。
愚かしい有象無象がリエルの尊い名を口に出すのを聞くだけで戦慄が走った。殺意にすら駆られるほどだった。
自分たちがのうのうと生き長らえるために、イェントがどれだけのものを捧げているのか知りもしないで、よくもリエルをあげつらうことができたものだと。
「俺のいる前で、リエル・シャイデンの名を口にするな」……軽く言って聞かせるだけで黙らせることができる容易さだけが連中の美徳だった。
なお、そのささやかな美徳すらも持ち合わせない人間がひとり、俺のすぐ近くにはのさばっていた。それが曲がりなりにも王族というのだから始末に負えない。
第四王子、ユリウス。近頃は何を思ってか、多少なりの勤勉さを装い、評判を改めようとしているようだが、その真意は知れたものではない。軽薄でありながら油断ならない男。
第四王子の、何もかもお見通しだ、と言わんばかりの、人を食ったような目が、吐き気を催すほど嫌いだった。
他は誤魔化せても、自分だけは誤魔化されないが? とこちらをふんだんに小馬鹿にしたようなニヤケ面で、ことあるごとに話しかけてくるのが鬱陶しくてならなかった。
「実際のところさぁ、キミって義弟クンのことどう思ってるの?」
そして、二言目にはこれだ。どんなに無視をしても、少しも堪えていない様子で、ヘラヘラ笑いながら、何度も聞いてくるのである。
周囲に侍らせている女子生徒が窘めようとするも、第四王子はどこ吹く風とばかりに笑って受け流す。相手が王族であるばかりに、誰も強くは出れない。それがどこまでもこの男をつけあがらせるのだ。
「だってさぁ、最近の彼、随分な言われようじゃない? なんか噂によれば、会長様のボクまで彼の毒牙にかかってるらしいじゃん? まあ満更でもないけどネ。彼めっちゃかわいいし。むしろ誑かされたいくらい」
「ユリウスさま……お戯れはそのくらいに」
「えぇ~? ふざけてないよ、全然。いやね、寝も葉もない噂ではあるよ。だって彼、義兄に似てつれないコだし。でもそういうところもそそられるっていうか……ねえ、アウレール。やっぱりさぁ、キミって彼のこと嫌いなの? 出来損ないの分際で出しゃばって、今までの公爵家への尽力を無駄にされるのはやっぱり不満?」
「貴方にお話しすることは何もありません」
「あ、そぉ……じゃあ勝手に解釈させてもらうけどさ。アウレールにとっても悪い話じゃないと思うんだけど……もしリエルの存在が邪魔なら、ボクがもらってあげようかなって思ってるんだよね。どう?」
第四王子は、窓の外、太陽に翳すように、指先を空に浮かべた。その薬指には、きらりと美しく輝く指輪が嵌っていた。
「……は?」
「いやさぁ、どうやら、リエの方も、イェント公爵は荷が重い、オニイサマのほうが相応しいってずっと思ってるみたいなんだよ。かわいそうじゃん? だから、第四王子であるボクに嫁いできてもらおうかなって思って。どう? 名案じゃない?」
「なにを、戯けたことを……リエルは男子だ、そんなことは不可能で」
「それがねえ、不可能じゃないんだな。イェントの忠誠は絶対。王家の命令なら、絶対服従、それがイェントだ。健気だよねぇ。同性同士の婚姻だって、王侯貴族の間でのっぴきならない事情があれば、特例が許される。前例だってあるよ」
「のっぴきならない事情など一つも」
「事情なんていくらでも作ればいいんだよ。ボクそういうの得意なんだ。わかるでしょ」
生徒会長と風紀委員長として共同で仕事をしている間に幾度となく実感させられた。第四王子の策謀の抜け目のなさについては、よく知ったところである。
「ねえ、アウレール。あの子のこと邪魔でしょ。ボクが引き取ってあげる。ほら、ボクって魔法の天才だからさ、同性同士で子どもを作れるように研究頑張ってて。三年もあれば実用に持って行ける見込みなんだ。王家とイェント直系の間に生まれた子なんて、箔付けにぴったりじゃん。養子に取るなり、キミとキミの伴侶の間に生まれた子と結婚させるなりして、キミの公爵としての地位は盤石に、王家との結束も更に強まるってわけ。どう? 我ながら凄くいい計画だと」
「いい加減にしてくれ」
シン、と、教室中が静まり返った。怒りのあまり、視界がどこか白く明滅しているようにも思えた。これ以上、その吐き気を催すような話を聞かせてくれるなと。
「もう、たくさんだ……これ以上、俺の聖域を侵さないでくれ。彼について語ることは何もない。俺のリエルへの想いは、誰にも理解できない!」
「あ、アウレール……まさか、きみ、リエルのこと」
「やめてくれ。もう、金輪際、その名前を……リエル・シャイデンの名を、俺のいる場で出さないでいただきたい! 気分が悪い……っ!」
第四王子がリエルの名を呼べば呼ぶほど、かたく戒めた自分の醜悪が力を増し、内面から溢れ出ようと暴れるのだ。
どうして、第四王子に許されて、俺には許されないのか。俺がひたすら抑圧してきた願望を、どうしてこうも朗々と語って聞かせることができるのか。
ゾワゾワと悪寒がするほどの怒りの奔流が全身に渦巻いていた。頭を冷やさなければと席を立つ。すると、次の瞬間、教室の外から、不特定多数の悲鳴が沸き起こった。
考える前に体が動いていた。飛びこむように、渦中の現場へと突入する。悪い予感は後からついてきた。
「リエルっ!!!!」
ああ、どうして。あの夜以降、リエルの発作は一度も起こらなかったのに。
小刻みに痙攣し、とめどなく血を吐きながら、リエルが廊下に倒れ伏していた。嫌気がさすほど慣れ親しんだ、魔力の暴れる気配。
「リエル……リエル……っ」
たちまち抱き起し、慎重に魔力を注ぎこむ。今までに感じたことのない抵抗感が、リエルから伝わってきた。どうにも、感覚通りにいかない。
何かが、致命的に食い違っていると――そう、直感した。
たちまち、視界が暗闇に覆われたような、強い眩暈に襲われた。俺はただ、縋るようにリエルの身体を抱きしめ、魔力を注ぎ続けることしかできなかったのだった。
孫の顔が見られるかもしれないと。そう言う義父の笑顔が、呪わしく脳裏に焼き付いた。
どす黒い感情が込み上げた。リエルが誰かと結婚し、愛を育む……義兄としては、そんな未来を歓迎し、応援するのが道理というもの。
気付けば、かたく握った拳から、血が滴っていた。そんな光景を想像しただけで、怒りとも、恐怖とも取れぬ、禍々しい感情が込み上げるのである。
いくら、リエルが少女と見紛うほどの中性的で儚げな雰囲気を纏った麗人であるからといって、互いに男であることは疑いようもない。その上、義理とは言え、俺とリエルは家名を同じくする兄弟なのだ。
決して、抱いてはいけなかった恋慕が、取り返しのつかないほど、心の奥底にまで根付いている。絶望的であった。
リエルへの恋慕は、「リエルが病弱なままであれば」などという、許されざる感情に更に薪をくべて、まともに考えると平静を保てなくなるほど燃えさかった。
時を経て折り合いをつけるどころか、最早、おのれでは制御できないほど、大きく肥え太っていく、醜悪な欲望。
人生をかけて――命に代えてでも守りたい、リエルという存在を、他でもない俺自身が、汚し、貶め、毀損してしまいかねないなんて。
どうして、こんな獣のような人間が、リエルの傍に堂々と立っていられようか。
純真無垢なリエル。俺の醜悪な本性など知る由もなく、無邪気に俺を兄と慕う、いっそ憎らしいほどに愛おしい、かわいそうな青い鳥。
きっと、こうなってしまった俺は、リエルを前にして、その翼を手折ることしか考えられない。籠の中に押し込めて、二度と羽ばたけなくなった翼をハタハタと動かす、哀切なさえずりを聞くことでしか、獰猛な欲望を慰めることはできない。
強烈な自己不信と自己嫌悪。リエルが学院に入学してからというもの、この二つの強迫観念が、おのずと彼から足を遠ざけた。彼の健やかな姿を視認するたび、自分の内面の醜悪さと直面し、怒りと絶望で埋め尽くされるからだ。
そんな俺のふるまいに、リエルが傷ついていることも分かっていた。「リエルを穢したくない」などと、どう理屈づけたところで、浅ましい自己保身に過ぎないことも。
いっそ、リエルの婚約者が見つかってしまえば、諦めもつくかもしれない。義父が選び抜いた、リエルに相応しい、文句のつけようもないご令嬢であれば、自分の出る幕はないと、嫌でも理解できるかもしれないから。
あるいは、いずれリエルが伴侶として迎えた人間よりも、リエルにとって必要不可欠な人間であるという自負さえ身に着けたなら、以前のように穏やかに接する心構えを取り戻せるかもしれないと、そう信じて、傷つくリエルに背を向けた。
凍えるような泥沼をかき分けて進むような日々が一年ほど経った頃のこと。俺は、偶然、第四王子とリエルが親密そうに語り合っている現場を目撃した。
第四王子は、「かわいい女の子のおこぼれに預かりたいから」と意味の分からないことを言って俺に付き纏っては、数々の浮名を流す、淫蕩な人間だ。王族で、なおかつ生徒会の一員でありながら、生徒の風上に置けないような不埒の輩。
純真無垢なリエルに何を吹き込むか知れたものではない。どうして、よりにもよって、第四王子などと親しくなってしまうのか。
不条理すら感じ、苛立ちの突き動かすまま、俺はリエルに詰め寄った。あんなよこしまな人間と関わり合いになってはいけない。万が一にでも、第四王子から悪い影響を受けて、不純な交友に染まってしまったらと思うと、居ても立っても居られなかった。
誰かと懇ろになるにしても、清く正しい交際を。女神の敬虔な信徒である義父のように、ただ一人だけを一途に真摯に愛し抜く――そんなリエルを、義父だって望んでいるはず。
そうでなくては許せなかった。誰よりも醜く穢れた内面をしておいて、リエルには潔白を願うなど、独りよがりにも程があるというものだ。
しかし、そのことに気付いたのは、必要以上にリエルにきつく当たった後だった。リエルを思い通りにしなければ気が済まないという、あまりに暴力的な願望が、勢い余って発露してしまったのだ。
リエルを通して自分に向き合えば向き合うほど、何もかもが許せなくなった。
リエルの傍で生きて、守り続ける。それさえ叶えば十分のはずなのだ。それ以上に望むことなどない、あってはいけない!
自分を戒めれば戒めるほどに、欲望は暴走した。リエルを組み敷いて、獣欲の赴くままに、その尊厳を穢す、想像を絶するような悪夢を繰り返し見た。
絶望に身を浸し、死んだように日々を過ごした。いつ、この本性を見破られ、厭わしい獣として蔑まれ、公爵家から放逐されるだろうと考えずにはいられなかった。
早く終われ、その一心で、学院の最終学年を迎えた。このころから、周囲で、やたらとリエルを貶めるくだらない風評が聞こえるようになった。
愚かしい有象無象がリエルの尊い名を口に出すのを聞くだけで戦慄が走った。殺意にすら駆られるほどだった。
自分たちがのうのうと生き長らえるために、イェントがどれだけのものを捧げているのか知りもしないで、よくもリエルをあげつらうことができたものだと。
「俺のいる前で、リエル・シャイデンの名を口にするな」……軽く言って聞かせるだけで黙らせることができる容易さだけが連中の美徳だった。
なお、そのささやかな美徳すらも持ち合わせない人間がひとり、俺のすぐ近くにはのさばっていた。それが曲がりなりにも王族というのだから始末に負えない。
第四王子、ユリウス。近頃は何を思ってか、多少なりの勤勉さを装い、評判を改めようとしているようだが、その真意は知れたものではない。軽薄でありながら油断ならない男。
第四王子の、何もかもお見通しだ、と言わんばかりの、人を食ったような目が、吐き気を催すほど嫌いだった。
他は誤魔化せても、自分だけは誤魔化されないが? とこちらをふんだんに小馬鹿にしたようなニヤケ面で、ことあるごとに話しかけてくるのが鬱陶しくてならなかった。
「実際のところさぁ、キミって義弟クンのことどう思ってるの?」
そして、二言目にはこれだ。どんなに無視をしても、少しも堪えていない様子で、ヘラヘラ笑いながら、何度も聞いてくるのである。
周囲に侍らせている女子生徒が窘めようとするも、第四王子はどこ吹く風とばかりに笑って受け流す。相手が王族であるばかりに、誰も強くは出れない。それがどこまでもこの男をつけあがらせるのだ。
「だってさぁ、最近の彼、随分な言われようじゃない? なんか噂によれば、会長様のボクまで彼の毒牙にかかってるらしいじゃん? まあ満更でもないけどネ。彼めっちゃかわいいし。むしろ誑かされたいくらい」
「ユリウスさま……お戯れはそのくらいに」
「えぇ~? ふざけてないよ、全然。いやね、寝も葉もない噂ではあるよ。だって彼、義兄に似てつれないコだし。でもそういうところもそそられるっていうか……ねえ、アウレール。やっぱりさぁ、キミって彼のこと嫌いなの? 出来損ないの分際で出しゃばって、今までの公爵家への尽力を無駄にされるのはやっぱり不満?」
「貴方にお話しすることは何もありません」
「あ、そぉ……じゃあ勝手に解釈させてもらうけどさ。アウレールにとっても悪い話じゃないと思うんだけど……もしリエルの存在が邪魔なら、ボクがもらってあげようかなって思ってるんだよね。どう?」
第四王子は、窓の外、太陽に翳すように、指先を空に浮かべた。その薬指には、きらりと美しく輝く指輪が嵌っていた。
「……は?」
「いやさぁ、どうやら、リエの方も、イェント公爵は荷が重い、オニイサマのほうが相応しいってずっと思ってるみたいなんだよ。かわいそうじゃん? だから、第四王子であるボクに嫁いできてもらおうかなって思って。どう? 名案じゃない?」
「なにを、戯けたことを……リエルは男子だ、そんなことは不可能で」
「それがねえ、不可能じゃないんだな。イェントの忠誠は絶対。王家の命令なら、絶対服従、それがイェントだ。健気だよねぇ。同性同士の婚姻だって、王侯貴族の間でのっぴきならない事情があれば、特例が許される。前例だってあるよ」
「のっぴきならない事情など一つも」
「事情なんていくらでも作ればいいんだよ。ボクそういうの得意なんだ。わかるでしょ」
生徒会長と風紀委員長として共同で仕事をしている間に幾度となく実感させられた。第四王子の策謀の抜け目のなさについては、よく知ったところである。
「ねえ、アウレール。あの子のこと邪魔でしょ。ボクが引き取ってあげる。ほら、ボクって魔法の天才だからさ、同性同士で子どもを作れるように研究頑張ってて。三年もあれば実用に持って行ける見込みなんだ。王家とイェント直系の間に生まれた子なんて、箔付けにぴったりじゃん。養子に取るなり、キミとキミの伴侶の間に生まれた子と結婚させるなりして、キミの公爵としての地位は盤石に、王家との結束も更に強まるってわけ。どう? 我ながら凄くいい計画だと」
「いい加減にしてくれ」
シン、と、教室中が静まり返った。怒りのあまり、視界がどこか白く明滅しているようにも思えた。これ以上、その吐き気を催すような話を聞かせてくれるなと。
「もう、たくさんだ……これ以上、俺の聖域を侵さないでくれ。彼について語ることは何もない。俺のリエルへの想いは、誰にも理解できない!」
「あ、アウレール……まさか、きみ、リエルのこと」
「やめてくれ。もう、金輪際、その名前を……リエル・シャイデンの名を、俺のいる場で出さないでいただきたい! 気分が悪い……っ!」
第四王子がリエルの名を呼べば呼ぶほど、かたく戒めた自分の醜悪が力を増し、内面から溢れ出ようと暴れるのだ。
どうして、第四王子に許されて、俺には許されないのか。俺がひたすら抑圧してきた願望を、どうしてこうも朗々と語って聞かせることができるのか。
ゾワゾワと悪寒がするほどの怒りの奔流が全身に渦巻いていた。頭を冷やさなければと席を立つ。すると、次の瞬間、教室の外から、不特定多数の悲鳴が沸き起こった。
考える前に体が動いていた。飛びこむように、渦中の現場へと突入する。悪い予感は後からついてきた。
「リエルっ!!!!」
ああ、どうして。あの夜以降、リエルの発作は一度も起こらなかったのに。
小刻みに痙攣し、とめどなく血を吐きながら、リエルが廊下に倒れ伏していた。嫌気がさすほど慣れ親しんだ、魔力の暴れる気配。
「リエル……リエル……っ」
たちまち抱き起し、慎重に魔力を注ぎこむ。今までに感じたことのない抵抗感が、リエルから伝わってきた。どうにも、感覚通りにいかない。
何かが、致命的に食い違っていると――そう、直感した。
たちまち、視界が暗闇に覆われたような、強い眩暈に襲われた。俺はただ、縋るようにリエルの身体を抱きしめ、魔力を注ぎ続けることしかできなかったのだった。
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