限界社畜、異世界に連れ去られてよしよしされる

海野ことり

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【19】二人だけの世界-①

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 帰りに山エルフの長から金貨をもらった。
 何とか記念硬貨みたいに、やけに凝った造りのキラキラした金貨だ。

「この世界で、貨幣の流通はあるのか?」
 何となく物々交換が基本だと思い込んでいた日影がそう聞いたら、折原はあっさりと頷いた。

「あるよ。日本円に換算すると、エルフ金貨が十万円くらい、銀貨は一万円くらいでドワーフ銅貨は千円。それ以下の物は物々交換か労働と引き換え」
「硬貨はエルフとドワーフしか作ってない?」
「流通してるのはそうだね。他に少しだけ出ている珍しい硬貨なんかは、コレクターズアイテムとして集めてる人もいるよ」
「珍しい硬貨?」
「オークが贋金を造ったり、オーガが代替わりの為に用意するとか、ゲームのチップ用に造られたものとか、色々ある」
 日影は初めて聞く異世界事情に興味津々で、ついでとばかりに突っ込んで聞いてみる。

「エルフ以外の種族って何がいるんだ? 吸血鬼と、ドワーフと、オークとオーガ。後は?」
「後は――ハーピー、ウンディーネ、リザードマン、コボルト、ラミア……俺が会ったことがあるのはそのくらいだね。ノームとか、精霊に近い種族とは殆ど会えない」
「ノーム……」
 たとえ、姿形は違っても、ハーピーやウンディーネは元の世界でいう動物と同じだ。
 でも精霊に近い種族は、意識体に近い存在なのだろう。

「観測されなければ、形を取れない?」
「形は……多分、あるな。焰は実際に存在するでしょ? そうしたら、焰の精霊に近い種族も存在している。異世界ではね」
「じゃあ、目に見える自然現象、形のある自然現象の数だけ精霊が存在するのか?」
「数と種類はわからない。出会うことがまず無いし、会っても気付けないこともある。ただひょっこりと姿を現して、人に強烈な印象を残していく。出会った人は、後からあああれはそういう存在だったか、って気付くんだよ」
「会ったことがあるのか?」
 存外に鋭い日影に訊かれ、折原が苦笑する。

  「後からあれっ? って、思ったことはあったよ」
 折原にしては慎重な物言いで、日影は何か言いにくい理由があるのだろうと思った。

(必要なら、きっとその内に話してくれるだろう)
 日影はそれならばと話題を変えた。

「ピザって、自分で作れるんだな」
「材料はシンプルだし、慣れれば簡単だよ」
「いや、簡単じゃないだろ」
 冷凍ピザの存在しか知らなかった日影は、小麦粉の塊があんなに薄くなる時点でもう魔法みたいだった。
 更に焼いたらふっくらモチモチとして、いくらでも食べられそうでいたく感動した。

「昔、カフェバーでバイトしてた時に習ったんだ。バナナとはちみつとか、甘いデザートピザも人気があったよ」
「甘いのは興味がない」
「ははっ、そうだよね」
 折原に笑われて、日影ははっとした。
 またやってしまった。この言い方が駄目だとわかっているのに。
 日影は慌てて言葉を付け足した。

「はちみつは無理だけど、あの紫の豆みたいな主食ならいけるかも」
「ああ、炭水化物イン炭水化物って、関西じゃ普通だしね」
「焼きそばパンみたいな?」
「そうそう」
 楽しそうな折原の表情を見て、ホッとする。
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