限界社畜、異世界に連れ去られてよしよしされる

海野ことり

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【22】ナイト・シティとヴァンパイア-③

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「ヴィー……ヴィルマルクホニャララには、他のヴァンパイアに襲われてる所を助けられたんだ。その時に手に付いた俺の血を舐めて、不味いって言われたんだよ。信じられる? 人の血を不味いって! 食生活だって悪くないし、若いし、運動もしてるのに!」
「生活とは関係ない。お前の血は不味い」
「だから不味いって言われると、なんか腹が立つんだって!」
 放って置くとすぐに言い合いになるが、仲が悪いわけではないのは見ていればわかる。

(やっぱりムカつく……)
 どれだけ違うと言われても、納得なんて出来ない。こういうのは理屈ではないのだ。

「こいつと仲良くするのをやめたら、協力する」
「ちょ、由紀彦ッ!」
 日影の発言に折原が慌て、ヴァンパイアの長は面白そうな顔で日影を見た。

「そなたの血を飲ませるのか?」
「直接じゃなければ……」
 日影は快楽が欲しいとは思わないし、直接触れられるのはごめんだが、自分を傷付けることに躊躇いはない。だからナイフで何処か切ればいいだろうと、短絡的に考えた。でもそんなことを折原が許す筈はない。

「由紀彦、頼むから、自分を犠牲にするのはやめてくれ」
 悲しそうな折原の表情に胸を衝かれる。
 ああ、彼を悲しませてしまった。
 自分は駄目なやつだと自己嫌悪が募る。
 そして更に間違える。

「犠牲って程じゃない。少し切るくらい、何でもない」
 焦って早口になりつつ説得しようとしたが、折原は益々悲しそうな表情になるばかりで、日影は途方に暮れる。

「由紀彦は、俺が同じことを言ったらどう思う? 俺には大したことじゃないから、ナイフで傷付けて血を飲ませるんだって」
「駄目だ! いくらお前が平気だって言ってもそんなのは駄目だ!」
「同じだよ」
 大きな手で頬を包み込まれ、その温かさに日影がホッと息を吐く。
 そうだ。自分を傷付けるのは、自分のことを大事に思う人を傷付けるのと同じだ。
 折原に教えてもらったのに、忘れていた。

「ごめん」
「わかってくれたならいいよ」
 抱きしめ合う二人に、ヴァンパイアの長が淡々と声を掛ける。

「私は、血を飲ませて欲しいと言った覚えはないのだがな」
「えっ、でも――」
 自分の歓心を買う為に姿を変え、折原の拒絶の言葉に言い返していたではないか。そう目線で問い掛ける日影に、長が含み笑いで応える。

「あわよくば、くらいの気持ちはあったが、これはただの歓待の証。相手の好む姿を取るのは、ヴァンパイアの性のようなものよ」
「じゃあ……」
「ありもしない裏を読む必要はない。今回は頼みがあってそなたらを呼んだ」
「頼み?」
「うむ。ぜひ聞いて欲しい」
 ニヤリと笑った唇は血のように紅く、日影は逃げられないのを悟った。
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