限界社畜、異世界に連れ去られてよしよしされる

海野ことり

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【25】異世界デートの後半戦-①

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 ポポポポポン! と弾けるような音が連続でして、幾つもの箱が開いた。
 中からは古めかしいデザインの宝飾品や、ティーセットや蝋燭立て等が出てくる。

「どうしてここにっ!」
 小物に怯えるハーティを見て、ティルがバサリと袖を振った。袖口から黒い霧のようなものが出て、小物に纏わりついて消してしまう。

「こんなものは簡単に消せる。ただの記憶だ。お前が怯える必要はない」
「ティル……」
「俺の方が魔力が強いんだ」
 そう言って得意げに笑ったティルを見て、ハーティがふわりと笑う。
 日影はヴァンパイアでもこんなに優しい表情で笑うのだと感心した。

「そろそろ、お茶にしたいんだけど……いい店、知ってる?」
 翔太にそう言われ、日影たちは館を出て移動した。
 深夜のファミレスみたいに空いた喫茶店で、変わった香りのお茶を飲む。
 日影はうすっかりこの香りに馴染んでしまった。
 全員がお茶を飲んで寛いだところで、ハーティがスッと姿勢を正した。

「あれは母の手だった」
 ポツリと零したハーティに、日影がそっと聞き返す。

「お前の母親ってもしかして……」
「うん、もう亡くなってる。強いヒトだったんだけどね」
 そう言いながら強張った顔で笑うハーティの横で、ティルはブスッとした表情で不貞腐れた。

「話したくなきゃ、話さなくていい」
「いや、聞いて欲しい。母が亡くなって、逃げるように家を出てナイト・シティに住み着いたけれど、まだ逃げ切れていなかったみたいだから」
 ハーティは心の整理をするようにゆっくりと語り始めた。
 ヴァンパイアは大半が子供に興味がなく、子育ても使い魔や下僕に任せきりの者が多い。
 けれど自分の財産やアクセサリーのように扱う者もいて、ハーティの母親がこのタイプだった。
 しかも見た目は小柄な幼女みたいなのに、魔力が高くて力も強い。彼女は犬を蹴るようにハーティを蹴って殴って打ちのめした。自分が作ったものをどうしようと勝手だと言っていたそうだ。

「酷いな」
 憤慨する折原の横で、日影の表情が沈む。
 日影の母親は暴力こそ振るわなかったが、彼に無関心で、思い出す度に暗い気持ちになる。

「ヴァンパイアだから大して効きはしないけど、そういう扱いをされていると、自分でもそれが当然だと思えてくる。苦しくても、母の持ち物だから自分には自由になる権利なんてないと思っていた」
 鬱々とした毎日を送っていたハーティは、母親が突然の事故で亡くなったことでやっと逃げることが出来た。それなりに大きな館に住み、財産もあったけれどそんなものに未練はなかった。とにかく、そこから逃げ出したかった。

「僕は母に比べて魔力も弱いし、力も弱いので、外で生きていけるか不安だった。でも、同族以外には魅了のスキルが使えたし、皮肉なことに他人は母よりもずっと理性的だ。やってみたら、獲物も簡単に捕まえられた」
 ハーティは穏やかな表情で微笑んでいるが、折原は引きつった顔で尋ねる。

「あのさ、獲物を捕まえるって、まさか他の種族じゃないよね?」
「勿論、鳥とか兎だよ」
 ヴァンパイアはヒト以外の肉や血でも命を繋げる。ただ、非効率的で量も足りない。だから短絡的にヒトに手を出す者もいる。

「ナイト・シティでは獲物の方から来てくれるし、血以外の贈り物もたくさんくれる。このようなシステムを作り上げた長は、本当に素晴らしい方だ」
「ああ、うん……」
 折原はホストみたいだと思っていたが、平和的なのは間違いない。余計な口を差し挟むのは控えた。
 それよりも気になることがある。

「君たちは、相手がこの仕事をしていることが嫌じゃないの?」
「「どうして?」」
「だって、血と引き換えに快楽を与えるんでしょ? 俺は由紀彦が俺以外の男に触られるのも嫌だからさ」
 本当に、折原は自分でも吃驚するくらい狭量で、日影を他の人に見せるのも嫌だと思っている。
 彼に新しい物を見せてあげたい、一緒に世界を見て回りたいという気持ちも本物なのだけれど。
 そんな折原の疑問を、二人はあっさりと解決する。

「どうも勘違いしてるようだけど、快楽とは性行為ではない。主に幻覚や夢見の良い眠りの提供、あと、詩の朗読や舞の披露をしたり、絵のモデルなどもしている」

(つまり、身体に害のない(血は抜かれるが)ドラッグか。なるほど)

「余り他種族と交わりたがる者はいないからね。せいぜい変わった所で、自分がするのを見て欲しいって頼まれるくらいだよ」
 しかし、セルフ行為を見せ付けられても、ヴァンパイアは興奮しない。
 この時ばかりは百戦錬磨のヴァンパイアも困ってしまう。
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