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【29】部下たちとの再会-①
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"キーストーン"
それがどんな能力なのか、説明書きを読むまでもなく明白だった。
二つの世界を繋ぐ存在。彼がいる事で全く位相の違う世界が繋がる。
「でもそれは、スキル名がわかる前からわかってたことだよね?」
「まあ、見てろよ。俺のスキルは生活環境を整えるものだから、仕事部屋だって作れるし、こんな物も用意できる」
日影がそう言うと、小さな蟹と亀がノートパソコンを持って現れた。
「パソコン!? まさか、Wi-Fiがあるの?」
「お前がフリーWi-Fiだろ。ほら」
日影がパソコンを起動したら、通信強度が最強になっていたので思わず目を見張る。
「これで在宅で仕事が出来る。忘れられない為に、たまに出社する必要はあるかもしれないけど、月に一度くらいでいいだろ?」
「ああ、問題ないと思う」
日影が仕事に復帰してくれるなら、会社は大抵の便宜を図るだろう。そのくらい、今のオリハラの経営は苦しい。
「課長の肩書きは外してもらう。俺には向いてないからな」
ところが、久し振りに会った部下たちから熱心に引き留められてしまった。
「課長っ! すみませんでしたっ!」
「俺たち、課長に甘えてばかりで……どうせ、俺らに出来る仕事じゃないって押し付けて……」
「あなたは悪くないのに、部長を止めてくれない課長が悪いんだって、逆恨みしてすみませんでした。あなたがいたからあの業務量がこなせていたのに……俺でも出来る筈だって、思い上がってました」
「課長、辞めないで下さいっ!」
「いや、辞めはしないけど……」
深刻な顔をした人達に口々に謝罪されて、日影が戸惑う。
「そもそも、ちゃんと部長を止められなかった俺がいけないし……君たちに仕事も教えられないし、話もしないし。迷惑を掛けて、悪かった」
「「「「謝らないで下さいっ!」」」」
画面越しに涙涙の再会を果たした。
どうやら画面越しでも顔を合わせて言葉を交わせば、存在感は戻るらしい。
しかも日影がいなかった期間は思い出すこともなかった筈なのに、心から悔い改めているように見える。一体どうして――。
「放って置くと、人の心は恨み辛みに傾きがちだからさ、あなたのありがたみを思い知るようにちょっと細工をしたんだ」
折原に囁き声で告げられ、日影の顔が青褪める。
「一体、何をしたんだ?」
「ふふん、ナイショ」
折原はクスクスと笑って教えてくれないが、どうやら異世界の呪具を使ったらしい。
日影が知らないだけで、やろうと思えば折原は元の世界を自由に変えられるのかもしれない。
(いや、会社の危機にもズルはしないんだから、ちゃんと守るべき倫理観があるんだろう)
日影は、そう思って自分を納得させた。
彼のことはわかったつもりで、まだ読み切れない部分がある。狡猾で、抜け目のない顔を見せる事もあれば、子供のように無邪気で大らかな面もある。本当に、太陽のようで月のような男だ。
(それだから魅力的なのかもしれないな)
ボーッと考えていたら、部下の一人から身体はもう大丈夫なのかと聞かれた。
「あ、ああ。ちゃんと朝、目覚めるし、飯の味もわかる」
そう言ってにこりと笑ったら、何故か号泣された。
「飯の味がしないって……あんた、どんだけ壊れてたんですかっ!」
「おい、守谷! 失礼だぞ」
「だって――」
揉める部下たちの前で、日影は照れながら手を大きく振る。
「いや、彼の言う通りだよ。でも、もう大丈夫。こいつに直してもらったから」
そう言って折原を紹介したら、守谷という部下が溜め息を吐いた。
「やっぱりそうなんですね。恋人ができたから、そんなに可愛くなったんだ」
「可愛いって、俺はいい歳したおっさんだぞ?」
何を言ってるんだと首を傾げる日影の腰を、折原がグイッと引き寄せた。
それがどんな能力なのか、説明書きを読むまでもなく明白だった。
二つの世界を繋ぐ存在。彼がいる事で全く位相の違う世界が繋がる。
「でもそれは、スキル名がわかる前からわかってたことだよね?」
「まあ、見てろよ。俺のスキルは生活環境を整えるものだから、仕事部屋だって作れるし、こんな物も用意できる」
日影がそう言うと、小さな蟹と亀がノートパソコンを持って現れた。
「パソコン!? まさか、Wi-Fiがあるの?」
「お前がフリーWi-Fiだろ。ほら」
日影がパソコンを起動したら、通信強度が最強になっていたので思わず目を見張る。
「これで在宅で仕事が出来る。忘れられない為に、たまに出社する必要はあるかもしれないけど、月に一度くらいでいいだろ?」
「ああ、問題ないと思う」
日影が仕事に復帰してくれるなら、会社は大抵の便宜を図るだろう。そのくらい、今のオリハラの経営は苦しい。
「課長の肩書きは外してもらう。俺には向いてないからな」
ところが、久し振りに会った部下たちから熱心に引き留められてしまった。
「課長っ! すみませんでしたっ!」
「俺たち、課長に甘えてばかりで……どうせ、俺らに出来る仕事じゃないって押し付けて……」
「あなたは悪くないのに、部長を止めてくれない課長が悪いんだって、逆恨みしてすみませんでした。あなたがいたからあの業務量がこなせていたのに……俺でも出来る筈だって、思い上がってました」
「課長、辞めないで下さいっ!」
「いや、辞めはしないけど……」
深刻な顔をした人達に口々に謝罪されて、日影が戸惑う。
「そもそも、ちゃんと部長を止められなかった俺がいけないし……君たちに仕事も教えられないし、話もしないし。迷惑を掛けて、悪かった」
「「「「謝らないで下さいっ!」」」」
画面越しに涙涙の再会を果たした。
どうやら画面越しでも顔を合わせて言葉を交わせば、存在感は戻るらしい。
しかも日影がいなかった期間は思い出すこともなかった筈なのに、心から悔い改めているように見える。一体どうして――。
「放って置くと、人の心は恨み辛みに傾きがちだからさ、あなたのありがたみを思い知るようにちょっと細工をしたんだ」
折原に囁き声で告げられ、日影の顔が青褪める。
「一体、何をしたんだ?」
「ふふん、ナイショ」
折原はクスクスと笑って教えてくれないが、どうやら異世界の呪具を使ったらしい。
日影が知らないだけで、やろうと思えば折原は元の世界を自由に変えられるのかもしれない。
(いや、会社の危機にもズルはしないんだから、ちゃんと守るべき倫理観があるんだろう)
日影は、そう思って自分を納得させた。
彼のことはわかったつもりで、まだ読み切れない部分がある。狡猾で、抜け目のない顔を見せる事もあれば、子供のように無邪気で大らかな面もある。本当に、太陽のようで月のような男だ。
(それだから魅力的なのかもしれないな)
ボーッと考えていたら、部下の一人から身体はもう大丈夫なのかと聞かれた。
「あ、ああ。ちゃんと朝、目覚めるし、飯の味もわかる」
そう言ってにこりと笑ったら、何故か号泣された。
「飯の味がしないって……あんた、どんだけ壊れてたんですかっ!」
「おい、守谷! 失礼だぞ」
「だって――」
揉める部下たちの前で、日影は照れながら手を大きく振る。
「いや、彼の言う通りだよ。でも、もう大丈夫。こいつに直してもらったから」
そう言って折原を紹介したら、守谷という部下が溜め息を吐いた。
「やっぱりそうなんですね。恋人ができたから、そんなに可愛くなったんだ」
「可愛いって、俺はいい歳したおっさんだぞ?」
何を言ってるんだと首を傾げる日影の腰を、折原がグイッと引き寄せた。
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