3 / 194
②貞操の危機!−1
しおりを挟む
色々と調べた結果、どうやら俺の身体から出る体液が甘いのだと言うことがわかった。
けれどそれはその時に思い浮かべた物や気分で味が変わるし、恐怖によって無味無臭になる事もわかった。
「では体液を採取して、甘味としてこちらに提供して貰うのは――」
「俺から離れたらただの汗になりますからっ!」
サトウキビみたいに搾り取って加工する気かと、俺はビビりながらモリスさんに素早く釘を刺した。
「まあ、作物ではないのだから当然だな」
モリスさんはそう言って笑っているが、油断は出来ない。
こちらの植物ときたら、どれもこれも俺が知っているものとは全く違い、植物の癖に動くし鳴くし巣を作ったりもする。
動物に近いその形態を見ていると、俺も農作物に入れられたっておかしくない。
「兎に角、俺が舐められる以外で帰る方法を探して下さい。でないとロクサーン侯爵にも申し訳ないですから」
「ハハッ、あれはまだ慣れないのか」
「慣れるどころか、鼻を押さえて臭いとまで言われましたよ」
「美味しそうな匂いだがな」
「ちょ、匂いを嗅がないで下さいっ!」
俺は牧羊犬に顔の横でスンスンと鼻を鳴らされて飛び退いた。
甘い匂いは俺がその気にならなきゃ分泌されないけど、フェロモンみたいなそれは獣人を興奮させる効果もあるみたいだった。
「いっそ陛下のご寵愛を頂いてはどうだ?」
そう言われたが冗談じゃない。
一度だけ物凄く遠くから拝謁した国王陛下は鷲の顔をしていて、先端恐怖症の気がある俺はあの鋭い嘴が怖くて仕方がなかった。
相手が男だって事を抜きにしても、とてもとても鷲に突っつかれてうっとりとするなんて無理だ。
「しかしなぁ、一哉殿の匂いに当てられて、強硬手段を取ろうとするものが出てきそうなんだよなぁ」
「強硬手段って?」
俺は嫌な予感がしつつ訊ねた。
これまでも護衛のロクサーン侯爵の目を盗んで俺を押し倒そうとしたり、拐おうとした獣人はいたが更に何かするつもりか?
「一哉殿が駄目なら、子を産ませてそちらを最初から抵抗しないように育てればいいと言っているようだ」
「……乳牛みたいですね」
俺は物凄く嫌な気分になったが、そのくらいこの世界では甘い物が渇望されている。
数年に一度の召喚で運良く口に出来た者は特に忘れられないそうだ。
「勿論、硬く禁じてはいるが私達は些か本能が強い」
人間よりも獣人たちの方が身体能力が勝り、その分だけ本能に支配されやすい。
個人差はあるが、法律だけで取り締まる事はとても難しいのだという。
特に俺というしょっちゅう甘い匂いをさせている柔らかそうな獲物が目の前をうろついていたら、それは食っちまえと唆されているも同然だった。
「あの、甘い匂いをさせちゃうのは申し訳ないなーって思うんですけど、でも俺も甘い物が食べたくて食べたくて仕方がなくて、マカロンの味とか思い出して指を吸うくらいの事は許して欲しいんですよ」
自分で指を咥えて舌を擦ってるのとか変態臭くて本当に嫌なんだけど、そうでもしないと甘味なんて味わえない。もしも俺以外に甘い匂いと味のする人間がいたら、俺こそ武者振りついてしまいそうだ。
「召喚は契約の一種だから、必ず甘味を受け取る方法はあると思うのだが……」
「期待して待ってまーす」
俺はそう答えたけど、そんな呑気なことは言ってられなくなった。
俺に近付く事を禁止されていた獅子型獣人が、どうしても俺の味が忘れられずに寝室に忍び込んで来たのだ。
***
「ンッ……」
口の中にザラリとした感触を感じる。
俺は夢の中でザラメの掛かった大玉の飴を舐めていた。
「ん、ふ……」
そうそう、ザラザラしていて舌が傷付いて痛くなっちゃうんだけど、口いっぱいに広がる甘い味が美味しくてついつい舐めちゃうんだよ。
俺は特にニッキ飴が好きで、たまに泣きそうに辛いのに当たるんだけどそれがまた良くて次々と舐め続けた。
「あ、まぁいぃぃ……」
口の中に溢れる蜜をゴクゴクと飲み下して、それでも飲み切れなかったものが口の端から伝い落ちた。
口周りをベタベタにした俺を、誰かが夢中で舐め回している。
「んっ、う……」
フガフガと首筋に掛かる熱い息と濡れた感触。
鼻先をくすぐる柔らかな毛。
何処かで飼っている猫でも俺にじゃれ付いているのか?
「うぅん、やめろよぉ……。そんなにペロペロするなよぉ……」
(なんか俺、誰かに舐められてる?)
ボーッとしたまま目を開けたら、爛々とした金色の瞳と目が合った。
「ひうっ!」
俺は思わず相手を突き飛ばし、乱れた襟元を急いで掻き集めて息を呑んだ。
あの時と同じ、俺の上に四つん這いに跨った獅子型獣人が見下ろしていた。
けれどそれはその時に思い浮かべた物や気分で味が変わるし、恐怖によって無味無臭になる事もわかった。
「では体液を採取して、甘味としてこちらに提供して貰うのは――」
「俺から離れたらただの汗になりますからっ!」
サトウキビみたいに搾り取って加工する気かと、俺はビビりながらモリスさんに素早く釘を刺した。
「まあ、作物ではないのだから当然だな」
モリスさんはそう言って笑っているが、油断は出来ない。
こちらの植物ときたら、どれもこれも俺が知っているものとは全く違い、植物の癖に動くし鳴くし巣を作ったりもする。
動物に近いその形態を見ていると、俺も農作物に入れられたっておかしくない。
「兎に角、俺が舐められる以外で帰る方法を探して下さい。でないとロクサーン侯爵にも申し訳ないですから」
「ハハッ、あれはまだ慣れないのか」
「慣れるどころか、鼻を押さえて臭いとまで言われましたよ」
「美味しそうな匂いだがな」
「ちょ、匂いを嗅がないで下さいっ!」
俺は牧羊犬に顔の横でスンスンと鼻を鳴らされて飛び退いた。
甘い匂いは俺がその気にならなきゃ分泌されないけど、フェロモンみたいなそれは獣人を興奮させる効果もあるみたいだった。
「いっそ陛下のご寵愛を頂いてはどうだ?」
そう言われたが冗談じゃない。
一度だけ物凄く遠くから拝謁した国王陛下は鷲の顔をしていて、先端恐怖症の気がある俺はあの鋭い嘴が怖くて仕方がなかった。
相手が男だって事を抜きにしても、とてもとても鷲に突っつかれてうっとりとするなんて無理だ。
「しかしなぁ、一哉殿の匂いに当てられて、強硬手段を取ろうとするものが出てきそうなんだよなぁ」
「強硬手段って?」
俺は嫌な予感がしつつ訊ねた。
これまでも護衛のロクサーン侯爵の目を盗んで俺を押し倒そうとしたり、拐おうとした獣人はいたが更に何かするつもりか?
「一哉殿が駄目なら、子を産ませてそちらを最初から抵抗しないように育てればいいと言っているようだ」
「……乳牛みたいですね」
俺は物凄く嫌な気分になったが、そのくらいこの世界では甘い物が渇望されている。
数年に一度の召喚で運良く口に出来た者は特に忘れられないそうだ。
「勿論、硬く禁じてはいるが私達は些か本能が強い」
人間よりも獣人たちの方が身体能力が勝り、その分だけ本能に支配されやすい。
個人差はあるが、法律だけで取り締まる事はとても難しいのだという。
特に俺というしょっちゅう甘い匂いをさせている柔らかそうな獲物が目の前をうろついていたら、それは食っちまえと唆されているも同然だった。
「あの、甘い匂いをさせちゃうのは申し訳ないなーって思うんですけど、でも俺も甘い物が食べたくて食べたくて仕方がなくて、マカロンの味とか思い出して指を吸うくらいの事は許して欲しいんですよ」
自分で指を咥えて舌を擦ってるのとか変態臭くて本当に嫌なんだけど、そうでもしないと甘味なんて味わえない。もしも俺以外に甘い匂いと味のする人間がいたら、俺こそ武者振りついてしまいそうだ。
「召喚は契約の一種だから、必ず甘味を受け取る方法はあると思うのだが……」
「期待して待ってまーす」
俺はそう答えたけど、そんな呑気なことは言ってられなくなった。
俺に近付く事を禁止されていた獅子型獣人が、どうしても俺の味が忘れられずに寝室に忍び込んで来たのだ。
***
「ンッ……」
口の中にザラリとした感触を感じる。
俺は夢の中でザラメの掛かった大玉の飴を舐めていた。
「ん、ふ……」
そうそう、ザラザラしていて舌が傷付いて痛くなっちゃうんだけど、口いっぱいに広がる甘い味が美味しくてついつい舐めちゃうんだよ。
俺は特にニッキ飴が好きで、たまに泣きそうに辛いのに当たるんだけどそれがまた良くて次々と舐め続けた。
「あ、まぁいぃぃ……」
口の中に溢れる蜜をゴクゴクと飲み下して、それでも飲み切れなかったものが口の端から伝い落ちた。
口周りをベタベタにした俺を、誰かが夢中で舐め回している。
「んっ、う……」
フガフガと首筋に掛かる熱い息と濡れた感触。
鼻先をくすぐる柔らかな毛。
何処かで飼っている猫でも俺にじゃれ付いているのか?
「うぅん、やめろよぉ……。そんなにペロペロするなよぉ……」
(なんか俺、誰かに舐められてる?)
ボーッとしたまま目を開けたら、爛々とした金色の瞳と目が合った。
「ひうっ!」
俺は思わず相手を突き飛ばし、乱れた襟元を急いで掻き集めて息を呑んだ。
あの時と同じ、俺の上に四つん這いに跨った獅子型獣人が見下ろしていた。
16
あなたにおすすめの小説
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる