【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

海野ことり

文字の大きさ
51 / 194

㉕賭けの代償−2

しおりを挟む
「とんだ醜態を曝してくれたな!」
 苦々しげな国王の言葉にマキシム卿が言い訳をする。

「しかしこうして無事に帰れたのだから良いではありませんか。しかも秘薬についても深くは突っ込まれなかった――」
「黙れ! 元はと言えば、お前が軽々しく王家の秘伝を口にしたから――」
「お陰で盗人の正体が知れたわ!」
 ボンッと音を立ててハヌマーン(の分身)が王の間に現れた。

「貴様はっ!」
 マキシム卿が形相を変え、警備兵も色めき立ったが国王がサッと手を上げて動きを止めた。

「その方が堕ちた神・ハヌマーンか」
「そうだ。貴様の祖先に不死薬を騙し取られた」
「恨み言か?」
「いいや、代償を貰いにきた」
「代償?」
 国王は不快げに眉を寄せながらも、もしかしたら金さえ出せば秘薬――不死薬が手に入るのだろうかと期待した。
 しかしその期待もあっという間に打ち砕かれる事になる。
 ハヌマーンは目にも留まらぬ速さで爪を振るい、マキシム卿の羽根を散らした。

「何をっ!?」
「これが卑怯者に相応しい代償よ」
 ハヌマーンは自分を騙した獣人とマキシム卿が同一ではないと説明されてわかってはいるのだが、同じ鷲型の獣人を見るとどうにも憎くて混同してしまう。
 それでも国王に手を出さないだけまだ理性があったと言える。

「それからこれもやろう!」
 そう言うとハヌマーンはマキシム卿の無惨な羽根にビシャリと水っぽいものを掛けた。

「これはなんだ!? 甘い匂いがするっ!」
「お前らがありがたがる不死薬だ。しかし不完全なものだからな、効果がいつまで持つかはわからん」
「なっ、私ではなくマキシム卿に掛けるとは!」
 憤慨する国王に向かってハヌマーンがニタリと笑う。

「不完全だと言っただろう? 自分じゃない事に感謝しろよ」
 そう言うとハヌマーン(の分身)はサッサと姿を消した。
 何処へ行ったのだとざわつく警備兵を他所に、国王がわざわざ玉座を降りてマキシム卿に近付く。

「どうだ、力が湧いてくるとか何か違いは無いか?」
「いや、何も――」
「ん? 切られた羽根が治らんな?」
 ハヌマーンによって切られた羽根には風切り羽も含まれていて、実はこれが無いと鳥型の獣人は飛ぶことが出来ない。
 鳥型の獣人にとって風切り羽を切られるのは大変な屈辱なのだが、それが不死薬を掛けられても治らない事に不安を覚える。

「不完全だから、何の効果もないのか?」
 それなら拍子抜けだがそうではなかった。
 謹慎処分を言い渡されたマキシム卿の羽根は何日経っても治らなかった。

「何故だ!」
 普通なら二、三週間で抜けた羽根は生えてくる。
 ところがマキシム卿の羽根はいつまで経っても生え揃わなかった。
 風切り羽も生えてこないので、マキシム卿は依然として飛ぶことが出来ないままだ。

「恐れながら……」
「なんだっ!」
 調べさせていた学者が恐る恐る声を掛けるが、マキシム卿が物凄い剣幕なので自分の推測を話すことも出来ない。
 だから代わりに胸の中で呟く。

(恐らく不死薬には寿命を伸ばす効果しかないのでしょう。飲み続けたら不死になれると、そういう薬なのだと思います。そして不死とは、逆に言えば生きていないという事ではないでしょうか? 生きていないから、死ぬほどの傷を負っても死なない。治らなくても生きていられる。つまりは――)

「あなたは死体なのです」
 ボソリ、と口の中だけで学者は答えた。
 自分が出した恐ろしい推測が当たっていなければいい。
 だが正解がどうあれマキシム卿の羽根はいつまで経っても治らなかった。
 そんな惨めな姿を人目に曝す事を嫌い、マキシム卿は謹慎が解けた後も屋敷から出る事はなかった。

 ***

「ちょっと可哀想な気もするけど……あれって結局、なんだったの?」
 ハヌマーンの口から復讐劇を聞かされた俺はロクに薬の正体を訊ねた。

「ハヌマーンが言った通りの物だ。不完全な不死薬」
「だからそれってどういう物なんだよぅ」
 不完全だって不死になるんじゃないのかと訊いたら、苦々しげにハヌマーンが答えてくれた。

「不死薬だが効き目が薄いし、成長を止める効果しかない。しかも飲まずに掛けただけだから、薬が掛かった部分にしか効かない」
「成長を止める?」
「不死薬は生き物の成長を止め、成長する為のエネルギーを他に振り分けるんだがあれはエネルギーが零れ落ちてしまう。垂れ流しだ」
 垂れ流しって、ちょっと言い方!

「寿命が延びるということは、恐らく時を止めるとかそういう事じゃないかと思ったんだ」
「つまりロクは不死薬を使ったら羽根が生え変わらないんじゃないかって思ってたの?」
「ハヌマーンに確認したら、目的通りの不完全な物があると言うので丁度良かった」
「確信犯かよ……」
 流石にマキシム卿が憐れだ。

「それでどのくらい効果が続くの?」
「わからん。数年、或いは十数年か――」
 それならそう酷い罰じゃないのかな?
 飛べなくなっただけだし、いつかは戻るならまあいっかと俺は割り切る事にした。

「そう言えば、ヨカナーンってどうなったの?」
 マキシム卿を置いて帰ってしまった兵達に咎がなかったのだから、ヨカナーンも処罰とかは無かったんだろうと軽い気持ちで訊いたらロクが溜め息を吐いた。

「ヨカナーンは軍を辞めた」
「えっ!」
 それはどうして?

「それこそ言い掛かりなんだが、最後まで側にいたのが人間だったから悪い、あんなものを副官にしたからだと非難が集中している。あれでは軍にはいられまい」
「ヨカナーンはよくやってたじゃん!」
「それでもだ」
 付いたボスが悪かったってそういう事? 良いことは評価されなくて、悪いことが起きたら人間の所為?
 そんなの、そんなのヨカナーンが可哀想過ぎるじゃん!

「ヨカナーンは全て覚悟していた」
 獣人と働く難しさも、割を食う理不尽も、マキシム卿に付く危険も全部わかっていて己を賭けて――負けた。
 だから黙って去ると言うのか。

「そういうの――嫌いだってば」
 俺はギュッとロクにしがみついた。
 そんなの可哀想だ、理不尽だって思う。
 でも俺にはどうにも出来ない。

「そうだな。お前だけはそういう目には遭わせない」
 抱き締め返されて、そういう事ではないのだと思う。
 俺だけ守られていればいいとかそういう事じゃない。
 でも俺は狡いから、ロクの気持ちは嬉しいんだ。

「お前だけは、きっと私が守る」
 ロクに重ねて誓われて、俺は甘い気持ちになってしまう自分を疚しく思った。
 でもその手を振り払うことは出来なかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

黒豹陛下の溺愛生活

月城雪華
BL
アレンは母であるアンナを弑した獣人を探すため、生まれ育ったスラム街から街に出ていた。 しかし唐突な大雨に見舞われ、加えて空腹で正常な判断ができない。 幸い街の近くまで来ていたため、明かりの着いた建物に入ると、安心したのか身体の力が抜けてしまう。 目覚めると不思議な目の色をした獣人がおり、すぐ後に長身でどこか威圧感のある獣人がやってきた。 その男はレオと言い、初めて街に来たアレンに優しく接してくれる。 街での滞在が長くなってきた頃、突然「俺の伴侶になってくれ」と言われ── 優しく(?)兄貴肌の黒豹×幸薄系オオカミが織り成す獣人BL、ここに開幕!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

男だって愛されたい!

朝顔
BL
レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。 仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。 ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。 自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。 それには、ある事情があった。 そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。 父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。 苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

処理中です...