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㊾ヘッドハンティング―1
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反乱組織の火付け役、夢を語る人、或いは大法螺吹きと呼ばれている男は人間――なんだけど、かなり獣人に近い姿をしていた。
そう、ちょうど金鍔のように。
「鹿の獣人?」
「いえ、大鹿の血を引く人間です」
穏やかで深みのある声で相手は答えた。
「あっ、ごめんなさい」
「大丈夫です。慣れています」
そう言うと、大鹿の血を引く男は優雅な仕草でお茶を飲んだ。
なんていうか、人格者っぽいというかこちらの世界では初めて合うタイプの人だった。
「え~と、エミールさんは反乱組織の一員では無いんですね?」
「はい。私の考えに賛同してくれた方々が、あのように過激な組織を作ったことを遺憾に思います」
それが彼の本音かどうかはわからなかったけど、重要なのは彼が人間も獣人も平等に扱われるべきだという考えを表明していて、それなりの求心力を持つということだった。
「でも反乱組織にはご友人の方もいらっしゃいますよね?」
「ええ、それは否定しません。彼らの手段は兎も角として、目指しているところは私も理解出来ない訳ではありません」
う~ん、回りくどい。
言質を取られたくないのか、保身が癖になってるのか。
でもまあ、否定されなかったから良しとしよう。
「僕は最初に人を作った大神への信仰心を集めたい。獣神への想いを否定する訳じゃないんだけど、彼らが獣人にとって害になる事を知っている。だから獣神への信仰心を失わせ、大神を信仰するように上手く誘導したい。その為の指導者が必要なんだよ」
「その指導者に私がなれと?」
「あなたが適任なんです。反乱組織に伝手があって、獣人と人間のどちらにも過剰に肩入れしない、バランス感覚がある。指導力もありそうだし、ビジネスとして割り切ってくれそうでもある。駄目ですか?」
ここまで手の内を明かすのは彼に引き受けて欲しいからだ。
それに引き受けて貰ったらかなりの部分を正直に話す事になる。
だったら成功することを前提に動いたって構わないだろう。
「ビジネスですか? これまでそんな事を言ってきた人は一人もいません。一体あなたは何者でしょう?」
ニタリと笑った目が蛇みたいで、こっちの方が素なんだろうなと思った。
「僕は天界に行き、大神に会った。彼らは人間を見捨てようとしていたけれど、信仰心を集めたらこの地に逗まってもいいと言ってくれた。あと、ご褒美に下界から取り上げた甘味を一つずつ戻して下さる約束もした。僕は天界で修行して作れるようになった神薬を餌に信仰心を集めようと思う。それで頂いた甘味を下界に広めて、儲けて、運営資金に当てる。ね? 僕がやろうとしているのはビジネスでしょう?」
僕はビジネスマンなんだ、と言ったらエミールが噴き出した。
「とても素敵です。私のやりたいこと全てが出来そうだ」
「僕の言ったことを全て信じるのですか?」
「ええ。そんな大掛かりな嘘は辻褄を合わせる方が大変です」
なるほど。そういう捉え方もあるのか。
「一応、信用して貰う為に神薬とかお供をお見せするつもりだったんですけどね」
「神薬はどの程度の効果が見込めるのですか?」
「最上級は四肢欠損も不治の病も治せます。今は効果を薄める研究をしているところです」
「なるほど、なるほど。実に良い」
パチンと胸の前で手を合わせたエミールを見て、彼にそれらしい衣装も必要だなとぼんやりと思った。
「イチヤ様、それはご領主様も賛同されていると考えて宜しいですか?」
「うん。ロク――ロクサーン侯爵も一緒に天界に行き、彼は神格を得た。その彼が獣神を拒んでいる」
「反乱組織を利用するおつもりはありますか?」
「ああ。元々人手が全く足りていないから、反乱組織を取り込もうと思っていた」
「それはごく末端にとどめた方が良いでしょう」
「意見は参考にさせて貰うよ。何せ僕たちの手勢はここの侍従長と秘書しかいないからね」
それだって片方は怪しいものな。
「ならばまずは人員を集めましょう。経典を作る者、戦略を立てる者、実行する者、最低限三つのチームが必要です」
「うん、それにいずれは経理とか事務処理をする人も必要になってくるね。僕と君は戦略を立てるチームで、他のチームの統括もしよう。経典を作るのは侍従長に頼もうと思っていたんだけど、拒絶反応を示していてね」
「獣人であれば――しかも貴族であれば仕方がないことです。少しずつ洗脳していきましょう」
エミールの言った “洗脳” という言葉に背筋がゾクッとした。
少しずつ理解して貰おうってことだろうけど、言いたいことはわかるけどちょっとゾッとしたよ。
「経典の原案は僕が出せると思う。でも書き起こすとなると、プロの助けがいるな。……そうだ、羊の人が文字を書く仕事をしているって言ってたな。詳しくは聞いてないけど、こっちの仕事を手伝って貰えるか聞いてみよう」
俺はジェスに頼んでメルをこちらに回して貰うことにしたが、これが正解だった。
経典は物語のように語られていて、覚えやすいフレーズがいい。
例えば――。
“大神が『産めよ栄えよ』と唱えると地上に人が溢れた”
“獣の姿をした神がやってきて、美しい少女を娶った。少女はやがて、獣人の子と人間の子を産み同じように慈しんだ”
“新しい獣神を受け入れた人々は古い神を忘れ、その加護を失った。罰として下界から甘味が消え、獣神は大神を恐れて立ち去った”
そういうのは俺には書けない。
そう、ちょうど金鍔のように。
「鹿の獣人?」
「いえ、大鹿の血を引く人間です」
穏やかで深みのある声で相手は答えた。
「あっ、ごめんなさい」
「大丈夫です。慣れています」
そう言うと、大鹿の血を引く男は優雅な仕草でお茶を飲んだ。
なんていうか、人格者っぽいというかこちらの世界では初めて合うタイプの人だった。
「え~と、エミールさんは反乱組織の一員では無いんですね?」
「はい。私の考えに賛同してくれた方々が、あのように過激な組織を作ったことを遺憾に思います」
それが彼の本音かどうかはわからなかったけど、重要なのは彼が人間も獣人も平等に扱われるべきだという考えを表明していて、それなりの求心力を持つということだった。
「でも反乱組織にはご友人の方もいらっしゃいますよね?」
「ええ、それは否定しません。彼らの手段は兎も角として、目指しているところは私も理解出来ない訳ではありません」
う~ん、回りくどい。
言質を取られたくないのか、保身が癖になってるのか。
でもまあ、否定されなかったから良しとしよう。
「僕は最初に人を作った大神への信仰心を集めたい。獣神への想いを否定する訳じゃないんだけど、彼らが獣人にとって害になる事を知っている。だから獣神への信仰心を失わせ、大神を信仰するように上手く誘導したい。その為の指導者が必要なんだよ」
「その指導者に私がなれと?」
「あなたが適任なんです。反乱組織に伝手があって、獣人と人間のどちらにも過剰に肩入れしない、バランス感覚がある。指導力もありそうだし、ビジネスとして割り切ってくれそうでもある。駄目ですか?」
ここまで手の内を明かすのは彼に引き受けて欲しいからだ。
それに引き受けて貰ったらかなりの部分を正直に話す事になる。
だったら成功することを前提に動いたって構わないだろう。
「ビジネスですか? これまでそんな事を言ってきた人は一人もいません。一体あなたは何者でしょう?」
ニタリと笑った目が蛇みたいで、こっちの方が素なんだろうなと思った。
「僕は天界に行き、大神に会った。彼らは人間を見捨てようとしていたけれど、信仰心を集めたらこの地に逗まってもいいと言ってくれた。あと、ご褒美に下界から取り上げた甘味を一つずつ戻して下さる約束もした。僕は天界で修行して作れるようになった神薬を餌に信仰心を集めようと思う。それで頂いた甘味を下界に広めて、儲けて、運営資金に当てる。ね? 僕がやろうとしているのはビジネスでしょう?」
僕はビジネスマンなんだ、と言ったらエミールが噴き出した。
「とても素敵です。私のやりたいこと全てが出来そうだ」
「僕の言ったことを全て信じるのですか?」
「ええ。そんな大掛かりな嘘は辻褄を合わせる方が大変です」
なるほど。そういう捉え方もあるのか。
「一応、信用して貰う為に神薬とかお供をお見せするつもりだったんですけどね」
「神薬はどの程度の効果が見込めるのですか?」
「最上級は四肢欠損も不治の病も治せます。今は効果を薄める研究をしているところです」
「なるほど、なるほど。実に良い」
パチンと胸の前で手を合わせたエミールを見て、彼にそれらしい衣装も必要だなとぼんやりと思った。
「イチヤ様、それはご領主様も賛同されていると考えて宜しいですか?」
「うん。ロク――ロクサーン侯爵も一緒に天界に行き、彼は神格を得た。その彼が獣神を拒んでいる」
「反乱組織を利用するおつもりはありますか?」
「ああ。元々人手が全く足りていないから、反乱組織を取り込もうと思っていた」
「それはごく末端にとどめた方が良いでしょう」
「意見は参考にさせて貰うよ。何せ僕たちの手勢はここの侍従長と秘書しかいないからね」
それだって片方は怪しいものな。
「ならばまずは人員を集めましょう。経典を作る者、戦略を立てる者、実行する者、最低限三つのチームが必要です」
「うん、それにいずれは経理とか事務処理をする人も必要になってくるね。僕と君は戦略を立てるチームで、他のチームの統括もしよう。経典を作るのは侍従長に頼もうと思っていたんだけど、拒絶反応を示していてね」
「獣人であれば――しかも貴族であれば仕方がないことです。少しずつ洗脳していきましょう」
エミールの言った “洗脳” という言葉に背筋がゾクッとした。
少しずつ理解して貰おうってことだろうけど、言いたいことはわかるけどちょっとゾッとしたよ。
「経典の原案は僕が出せると思う。でも書き起こすとなると、プロの助けがいるな。……そうだ、羊の人が文字を書く仕事をしているって言ってたな。詳しくは聞いてないけど、こっちの仕事を手伝って貰えるか聞いてみよう」
俺はジェスに頼んでメルをこちらに回して貰うことにしたが、これが正解だった。
経典は物語のように語られていて、覚えやすいフレーズがいい。
例えば――。
“大神が『産めよ栄えよ』と唱えると地上に人が溢れた”
“獣の姿をした神がやってきて、美しい少女を娶った。少女はやがて、獣人の子と人間の子を産み同じように慈しんだ”
“新しい獣神を受け入れた人々は古い神を忘れ、その加護を失った。罰として下界から甘味が消え、獣神は大神を恐れて立ち去った”
そういうのは俺には書けない。
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