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60.山を降りる日―2
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「俺はあんたの言うことには全て従うつもりだ。だが、どうせならやろうとしていることをちゃんと理解したい。大神は獣人が嫌いなのか?」
う~ん、俺はアーロンのことを単細胞だと思っていたけど、案外と本質を掴んでいるのかもしれない。
アーロンの懸念はきっと獣人全てが思うことだろう。
「嫌い、まではいかないだろうけど複雑な心境かもね。神霊は獣神を思い出させるし」
「神霊は悪いものか?」
「悪くないよ。君たちの魂の一部で、影で、心のありようなんだと思う」
「では獣神とどう違う?」
そう訊かれてちょっと戸惑った。
全然違うけれど、どう違うかと訊かれると説明が難しい。
「俺は神霊を持っていないし、獣神を見たこともないから違いを説明するのは難しい。でも、神霊は神秘的な存在ではあっても神じゃないし、獣神は正真正銘の神だ。その差はきっと大きい」
神格を得たハヌマーンやロクは人よりもずっと大きな力を持っているけど、それでも神とは比べ物にならない。全く違う存在だと言える。
「神というのは、きっと人の延長線上にはない存在なんだ。全く違う場所に、殆ど関わりなんてないように存在してる。でも誰も無縁ではいられない」
それは神が創った世界で暮らしているからかもしれないし、神が人を創ったからかもしれない。兎も角、こちらからは殆ど関われないのに向こうの進退はこちらに影響を及ぼす。仕方がない。神ってのはそれだけ大きな存在だし、誰もその影響から逃れられないって意味では等しく厄介だ。
「だからあんたは利用することにしたのか?」
「……利用する? そう見える?」
「ああ」
う~ん、神を利用するなんて大それた真似をするつもりはなかったけど……結果的にはそうなってるかもしれない。
「一方的に利用しているつもりはないよ。大神だって自分たちに利がなければ俺の提案を蹴っただろうからね。こういうのはwin-winの関係――どっちも満足した取り引きってやつだ」
「では俺もあんたに損をしたと思われないように、満足して貰えるように頑張ろう。山を降りる者は俺以外に何人くらい集めたらいい?」
「えっ、君一人でいいよ。大勢にお願いしたいことがある時は連絡するし」
「本当にそれでいいのか? もっと役に立ちたいのだが」
真顔で言い募るアーロンを見て苦笑する。
口先だけで盛大にありがたがってお礼を言う人もいるのに、彼からは誠意しか感じられない。
「君たちが恩に着てくれるなら、神薬の生成を可能にした大神に感謝して欲しいね。何にでも効く薬なんて、加護でもなければ作れないもの」
「奇跡だということはわかっている」
うん、ほんと。不治の病も呪いも、老衰すら一時的には治せるなんて滅茶苦茶だよね。
これを無制限にばら蒔いたらとんでもない事になるのはまぁわかる訳で。
「アーロン。薬はこの世の全ての人に行き渡る訳じゃない。それに強盗とか人殺しを助けるのもイヤだ」
俺は神の使徒を名乗ってるけど、全然慈悲深くないんだ。
「だから奇跡が行えても、行えるのに儘ならなくて悔しい時もあるかもしれない」
俺が脅すようにそう言ったら、アーロンはニヤリと笑った。
「俺がこれまでどれだけ悔しい思いをしてきたと思う? 儘ならない。そんな事は当たり前だ。それでも俺は生きる」
「……そっか」
アーロンなら大丈夫そうだ。
俺はコンドルたちに寝癖直しを幾つか与え、ブラッシングを教えて、経典を元に大神の教えを説き、甘味の存在を教えて、布教活動をする為に人を派遣することを許して貰った。
いつの日か彼らを、王家を抑える為の僧兵として使う日がくるかもしれない。
戦争なんてする気はないけれど……。
「チヤ、心配するな。私がいる」
深い声でそう請け負われ、青い瞳で見下ろされて気持ちが軽くなる。
そうだ、俺が世界を背負っているような気分になる必要はない。
きっとロクが助けてくれるし、なんなら俺を攫って逃げてくれる。
「酷いことにならない為に頑張るんだ。それを忘れそうになったら、思い出させてくれる?」
「いつでも」
耳を噛むように囁かれて、ジン……と身体の奥が痺れた。
いつでも俺を抱いてくれる。
身体の奥から滅茶苦茶に掻き回してくれる。壊してくれる。
そんな存在がいるだけでなんて心強いんだろう。
「ロク、約束だよ」
俺はそう囁き返してロクの首筋を撫でた。
う~ん、俺はアーロンのことを単細胞だと思っていたけど、案外と本質を掴んでいるのかもしれない。
アーロンの懸念はきっと獣人全てが思うことだろう。
「嫌い、まではいかないだろうけど複雑な心境かもね。神霊は獣神を思い出させるし」
「神霊は悪いものか?」
「悪くないよ。君たちの魂の一部で、影で、心のありようなんだと思う」
「では獣神とどう違う?」
そう訊かれてちょっと戸惑った。
全然違うけれど、どう違うかと訊かれると説明が難しい。
「俺は神霊を持っていないし、獣神を見たこともないから違いを説明するのは難しい。でも、神霊は神秘的な存在ではあっても神じゃないし、獣神は正真正銘の神だ。その差はきっと大きい」
神格を得たハヌマーンやロクは人よりもずっと大きな力を持っているけど、それでも神とは比べ物にならない。全く違う存在だと言える。
「神というのは、きっと人の延長線上にはない存在なんだ。全く違う場所に、殆ど関わりなんてないように存在してる。でも誰も無縁ではいられない」
それは神が創った世界で暮らしているからかもしれないし、神が人を創ったからかもしれない。兎も角、こちらからは殆ど関われないのに向こうの進退はこちらに影響を及ぼす。仕方がない。神ってのはそれだけ大きな存在だし、誰もその影響から逃れられないって意味では等しく厄介だ。
「だからあんたは利用することにしたのか?」
「……利用する? そう見える?」
「ああ」
う~ん、神を利用するなんて大それた真似をするつもりはなかったけど……結果的にはそうなってるかもしれない。
「一方的に利用しているつもりはないよ。大神だって自分たちに利がなければ俺の提案を蹴っただろうからね。こういうのはwin-winの関係――どっちも満足した取り引きってやつだ」
「では俺もあんたに損をしたと思われないように、満足して貰えるように頑張ろう。山を降りる者は俺以外に何人くらい集めたらいい?」
「えっ、君一人でいいよ。大勢にお願いしたいことがある時は連絡するし」
「本当にそれでいいのか? もっと役に立ちたいのだが」
真顔で言い募るアーロンを見て苦笑する。
口先だけで盛大にありがたがってお礼を言う人もいるのに、彼からは誠意しか感じられない。
「君たちが恩に着てくれるなら、神薬の生成を可能にした大神に感謝して欲しいね。何にでも効く薬なんて、加護でもなければ作れないもの」
「奇跡だということはわかっている」
うん、ほんと。不治の病も呪いも、老衰すら一時的には治せるなんて滅茶苦茶だよね。
これを無制限にばら蒔いたらとんでもない事になるのはまぁわかる訳で。
「アーロン。薬はこの世の全ての人に行き渡る訳じゃない。それに強盗とか人殺しを助けるのもイヤだ」
俺は神の使徒を名乗ってるけど、全然慈悲深くないんだ。
「だから奇跡が行えても、行えるのに儘ならなくて悔しい時もあるかもしれない」
俺が脅すようにそう言ったら、アーロンはニヤリと笑った。
「俺がこれまでどれだけ悔しい思いをしてきたと思う? 儘ならない。そんな事は当たり前だ。それでも俺は生きる」
「……そっか」
アーロンなら大丈夫そうだ。
俺はコンドルたちに寝癖直しを幾つか与え、ブラッシングを教えて、経典を元に大神の教えを説き、甘味の存在を教えて、布教活動をする為に人を派遣することを許して貰った。
いつの日か彼らを、王家を抑える為の僧兵として使う日がくるかもしれない。
戦争なんてする気はないけれど……。
「チヤ、心配するな。私がいる」
深い声でそう請け負われ、青い瞳で見下ろされて気持ちが軽くなる。
そうだ、俺が世界を背負っているような気分になる必要はない。
きっとロクが助けてくれるし、なんなら俺を攫って逃げてくれる。
「酷いことにならない為に頑張るんだ。それを忘れそうになったら、思い出させてくれる?」
「いつでも」
耳を噛むように囁かれて、ジン……と身体の奥が痺れた。
いつでも俺を抱いてくれる。
身体の奥から滅茶苦茶に掻き回してくれる。壊してくれる。
そんな存在がいるだけでなんて心強いんだろう。
「ロク、約束だよ」
俺はそう囁き返してロクの首筋を撫でた。
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