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63.得意料理−2
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「そんなに飲んだら二日酔いになるよ?」
「良いのです、良いのです」
「うん。とにかく旨い」
もう、ロクまでそんな事を言って。
言っておくけど、それを飲み切ったらもう無いんだからね。
俺は増え続ける獣人たちに酷く呆れ、もっと酒を出してくれとせがまれたけれど決して出さなかった。
だってただの酒じゃないし。
「白妙、この酒を鑑定してくれる?」
俺は今更ながら白妙に鑑定して貰うことを思い付いてコッソリと頼んだ。
酒はもう全て飲まれてしまっていたけど、優秀な白妙は甕に付いていた水滴から鑑定してくれた。
『不完全なソーマ酒』
「ブハッ!」
俺は鑑定結果に思わず噴き出した。
「ソーマって、確か不死薬じゃなかったっけ?」
『不完全。とても美味しくて、気持ちよくなる。たくさん飲み続けると、体のなかに石ができる』
「石?」
『賢者の石。とっても役に立つ』
「プフーッ!」
俺は再び噴き出した。
おい、賢者の石って……なんでもありだな。
「ロクぅ、その酒をいっぱい飲むと、体の中に賢者の石が出来るんだって。あんたってば、俺に利用されて殺されちゃうかもよ?」
勿論冗談でそう言ったんだけど、「石が欲しいか?」って囁き返されて身体の芯がゾクゾクした。
俺がロクの体の中にある石を狙っていて、それを知っているロクに手玉に取られている――なんて妄想が瞬時に頭の中に広がって、勝手にヒロイン気分ですよ。俺って結構ヤバイ奴かも。
「お前になら、取り出させてやるかもしれないぞ?」
そう言ったロクの喉が耳元でゴロゴロ鳴って、興奮されてる……と思ったらこのままごっこ遊びの延長で滅茶苦茶にされたくなったけど、ジェスに「石を作る実験をしますか?」と冷静な声で突っ込まれて目が覚めた。
人体実験かよこえぇよ。
「搾り滓から酒が作れるのはわかったからさ、そっちの研究をしてよ。俺はもう作らないから」
「「「そんなっ!」」」
男どもが一斉に俺を振り向いたけれど、こんな危ないものをホイホイ作れる訳ないじゃん。
「サトウキビをいっぱい殖やして、砂糖を作って、残りで酒を仕込めるようになったらきっとたくさん飲めるよ。まあ、時間はかかるかもしれないけど」
流石に俺の調薬みたいに直ぐには出来ないと思うけど、それほど難しくはないだろう。
大体、みんな酒酒言ってるけど本命は砂糖なんだからね?
「ですが砂糖の使い方がよくわかりません」
料理人がそう困ったように言ったけど、メープルシロップで慣れたんじゃないの?
「あれはそのままで食べられますから」
なるほど。食材の一つとしてカウントしてたのか。
「あ~、じゃあね、ちょっと試してみようか」
俺は出来立ての粗精糖を煮込み料理や肉料理のソースに少し混ぜた。
「砂糖はね、お菓子作りやジャムなんかの保存食を作るのにも使うけど、料理に使ってもこくが出て美味しいんだよ。塩分をより強く感じるしね」
確かオニオングラタンスープの玉ねぎを炒める時にも砂糖を一つまみ入れるとカラメリゼが進むんだ。
砂糖は水分を保持したり、油と馴染む性質もある。
「確かに、ソースにより深みが出ました」
料理長は煮込みとソースの味を見て感心した。
俺は更に卵と粉と牛乳を用意して貰って俺に出来る唯一のお菓子、クレープを作る。
「クレープは端っこがチリチリするくらい焼くのが好み。粉が多過ぎて固いのもイヤだけど、生焼けはもっとイヤ。出来立てにバターを塗って砂糖を散らしてもいいし、溶かしバターとアルコールでクレープシュゼットにしてもいいね。あと、アイスを包んで冷凍しておくと、軽く表面を焼くだけでクレープアイスが食べられておやつのストックにいいんだ~」
俺はご機嫌でぺらぺらと説明しながらクレープを焼いた。
生地自体がほんのり甘く、クリームチーズを塗っても甘じょっぱくて美味しい。
「さ、簡単なデザートだけど食べてね」
俺はみんなにクレープを勧め、自分も焦がしバターのクレープを食べた。
「んんっ、美味しい~」
いや自分で言うのもなんだけど、これだけは昔から作っているから旨い。お店屋さんが開けちゃうレベルだぜ。
「イチヤ様、これは美味しいですな!」
尻尾をふりふりしているジェスが可愛い。
奴は酒よりも甘党だったか。
「他にも作り方だけは知ってるお菓子があるから、どんどん試作して貰おうね!」
「ご相伴させて頂きます!」
こうして砂糖の生産と販売はあっという間に広がっていった。
それはもう、俺でも止められないくらいに激しい流れだった。
「甘味はこれほど望まれていたんだな」
「甘い味は幸せだから」
多分、人は自然と甘味を求めるように出来ているんだろう。
大神が許してくれて本当に良かった。
「しかしこれから大変だぞ」
「なにが?」
「お前を……王が求めてる」
ロクの言葉に俺はうっすらと笑う。
まあ当然だろうな。
「ロクは渡さないでしょう?」
「当たり前だ。どう守るか考えている」
うん。きっと俺のことだけを考えているんだろう。
「私の番にしたと、正式に紹介してもいいか?」
「いいよ。一度くらい、着飾って見せ物になろうか?」
「頼むかもしれない」
溜め息と共にそう言われ、俺はクスクスと笑った。
ロクは貴族が人間の伴侶を迎える時のやり方を嫌っていたけど、俺はそれで面倒が減るならいいじゃないかと思っていた。
「全く、貴族など……」
ろくなものではないと荒んだロクを、俺は口付けて慰めた。
「良いのです、良いのです」
「うん。とにかく旨い」
もう、ロクまでそんな事を言って。
言っておくけど、それを飲み切ったらもう無いんだからね。
俺は増え続ける獣人たちに酷く呆れ、もっと酒を出してくれとせがまれたけれど決して出さなかった。
だってただの酒じゃないし。
「白妙、この酒を鑑定してくれる?」
俺は今更ながら白妙に鑑定して貰うことを思い付いてコッソリと頼んだ。
酒はもう全て飲まれてしまっていたけど、優秀な白妙は甕に付いていた水滴から鑑定してくれた。
『不完全なソーマ酒』
「ブハッ!」
俺は鑑定結果に思わず噴き出した。
「ソーマって、確か不死薬じゃなかったっけ?」
『不完全。とても美味しくて、気持ちよくなる。たくさん飲み続けると、体のなかに石ができる』
「石?」
『賢者の石。とっても役に立つ』
「プフーッ!」
俺は再び噴き出した。
おい、賢者の石って……なんでもありだな。
「ロクぅ、その酒をいっぱい飲むと、体の中に賢者の石が出来るんだって。あんたってば、俺に利用されて殺されちゃうかもよ?」
勿論冗談でそう言ったんだけど、「石が欲しいか?」って囁き返されて身体の芯がゾクゾクした。
俺がロクの体の中にある石を狙っていて、それを知っているロクに手玉に取られている――なんて妄想が瞬時に頭の中に広がって、勝手にヒロイン気分ですよ。俺って結構ヤバイ奴かも。
「お前になら、取り出させてやるかもしれないぞ?」
そう言ったロクの喉が耳元でゴロゴロ鳴って、興奮されてる……と思ったらこのままごっこ遊びの延長で滅茶苦茶にされたくなったけど、ジェスに「石を作る実験をしますか?」と冷静な声で突っ込まれて目が覚めた。
人体実験かよこえぇよ。
「搾り滓から酒が作れるのはわかったからさ、そっちの研究をしてよ。俺はもう作らないから」
「「「そんなっ!」」」
男どもが一斉に俺を振り向いたけれど、こんな危ないものをホイホイ作れる訳ないじゃん。
「サトウキビをいっぱい殖やして、砂糖を作って、残りで酒を仕込めるようになったらきっとたくさん飲めるよ。まあ、時間はかかるかもしれないけど」
流石に俺の調薬みたいに直ぐには出来ないと思うけど、それほど難しくはないだろう。
大体、みんな酒酒言ってるけど本命は砂糖なんだからね?
「ですが砂糖の使い方がよくわかりません」
料理人がそう困ったように言ったけど、メープルシロップで慣れたんじゃないの?
「あれはそのままで食べられますから」
なるほど。食材の一つとしてカウントしてたのか。
「あ~、じゃあね、ちょっと試してみようか」
俺は出来立ての粗精糖を煮込み料理や肉料理のソースに少し混ぜた。
「砂糖はね、お菓子作りやジャムなんかの保存食を作るのにも使うけど、料理に使ってもこくが出て美味しいんだよ。塩分をより強く感じるしね」
確かオニオングラタンスープの玉ねぎを炒める時にも砂糖を一つまみ入れるとカラメリゼが進むんだ。
砂糖は水分を保持したり、油と馴染む性質もある。
「確かに、ソースにより深みが出ました」
料理長は煮込みとソースの味を見て感心した。
俺は更に卵と粉と牛乳を用意して貰って俺に出来る唯一のお菓子、クレープを作る。
「クレープは端っこがチリチリするくらい焼くのが好み。粉が多過ぎて固いのもイヤだけど、生焼けはもっとイヤ。出来立てにバターを塗って砂糖を散らしてもいいし、溶かしバターとアルコールでクレープシュゼットにしてもいいね。あと、アイスを包んで冷凍しておくと、軽く表面を焼くだけでクレープアイスが食べられておやつのストックにいいんだ~」
俺はご機嫌でぺらぺらと説明しながらクレープを焼いた。
生地自体がほんのり甘く、クリームチーズを塗っても甘じょっぱくて美味しい。
「さ、簡単なデザートだけど食べてね」
俺はみんなにクレープを勧め、自分も焦がしバターのクレープを食べた。
「んんっ、美味しい~」
いや自分で言うのもなんだけど、これだけは昔から作っているから旨い。お店屋さんが開けちゃうレベルだぜ。
「イチヤ様、これは美味しいですな!」
尻尾をふりふりしているジェスが可愛い。
奴は酒よりも甘党だったか。
「他にも作り方だけは知ってるお菓子があるから、どんどん試作して貰おうね!」
「ご相伴させて頂きます!」
こうして砂糖の生産と販売はあっという間に広がっていった。
それはもう、俺でも止められないくらいに激しい流れだった。
「甘味はこれほど望まれていたんだな」
「甘い味は幸せだから」
多分、人は自然と甘味を求めるように出来ているんだろう。
大神が許してくれて本当に良かった。
「しかしこれから大変だぞ」
「なにが?」
「お前を……王が求めてる」
ロクの言葉に俺はうっすらと笑う。
まあ当然だろうな。
「ロクは渡さないでしょう?」
「当たり前だ。どう守るか考えている」
うん。きっと俺のことだけを考えているんだろう。
「私の番にしたと、正式に紹介してもいいか?」
「いいよ。一度くらい、着飾って見せ物になろうか?」
「頼むかもしれない」
溜め息と共にそう言われ、俺はクスクスと笑った。
ロクは貴族が人間の伴侶を迎える時のやり方を嫌っていたけど、俺はそれで面倒が減るならいいじゃないかと思っていた。
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