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73.魔法にかかる-2
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「国王はきっと俺を食べようとするよ」
「ですからそうならない為に、あなたの体液は甘く、啜れば滋養強壮効果があると本当の事を明かすのです」
「でも、あの王は人間にその気になったりしないだろう!?」
「それでも行為は出来るでしょう」
「うぅぅ……」
俺はいよいよ切羽詰まってしまった。
(国王は俺を諦めない。喰われるくらいなら。一度くらい。それで得なこともある。俺さえ我慢すれば。ほんの少しの辛抱だ。どうしても耐えられなければ目を瞑ればいい。耳を塞いで、唇を噛み締めて、腕を噛んで耐えれば――)
「チヤ!」
俺のぐちゃぐちゃになった思考を遮るように、ロクの声が飛び込んできた。
「チヤ、悩むな、惑うな! お前一人が犠牲になる必要はない! それを許すのは、そんなものを良しとする世界など帝国と変わらぬ!」
「ッ!」
パァッと目の前が明るく開けた。
俺が犠牲になるしか方法が無いなんて、そんな筈は無い。
誰も犠牲にしない為に、その為に頑張っているんだ。
それは俺であっても変わらない。
「ロク、なんかおかしくなっていたみたい。俺さえ我慢すればいいって、もうこれしか無いって思い込んでて――」
「モリス。魔法を使ったな?」
ロクがモリスを鋭く睨みながらそう言った。
「えっ、ちょ、魔法なんてあんの!?」
俺は初めて聞いたことなので焦った。
「異世界人の考えるものとは違う。そんなに便利でも万能でもない。ただ、異世界召喚のようにある種の術は存在する」
「ある種の術……」
「今回は思考を誘導するような魔法が使われたんだろう」
「モリスさん、本当?」
眉を顰めながらモリスに訊いたら、やれやれと肩を竦めながら答えた。
「折角、術が効きにくいロクサーン侯爵を遠ざけたのに、覗いていたのですか?」
「あんたがそこまでするとは思っていなかったが、一応警戒していた」
「やれやれ、用心深いことだ」
嘆かわしいとでも言いたげに頭を振ったモリスを見て、俺はショックだった。
「俺、モリスさんのことは結構、信じてたんだけど……」
「ああ、ありがとうございます」
「立場があるのはわかってたけど、単なる協力関係にあっただけかもしれないけど、それでも酷いことはしないって思ってた! 俺が酷い目に遭ってもいいって……本気で思ってたのかよ?」
モリスはそこまで酷い人じゃない筈だ。そう信じたかったが……。
「あなたを差し出した方が早い。それに使えそうですしね」
「差し出した方が早い……」
「それが一番楽だし簡単でしょう?」
品位とか人道とか正義とか親切とか、彼がこれまで口にしてきたことは何だったのか?
俺の為に少しも苦労しようとは、努力しようとは思わなかったのか。
彼の言葉に一切の誠意は無かったのか。
「俺のこと、少しも好きじゃなかったの?」
「まあ、人間ですから」
その答えに胸を抉られたような気がした。
そこまで、獣人にとって人間ってのはどうでもいいものなのか。
「俺は、あんたたち獣人を俺と同じ人だと思うよ」
「私もそう思えたら良かったのですがね」
モリスの言葉はとても薄っぺらく聴こえた。
俺に大して本音で話すことなど無いのだろう。
「ロク、モリスさんとはわかり合えないみたいだ。ここでお別れだね」
「そうだな。これ以上付き合う必要はない。帰って貰おう」
俺は白妙に頼んでモリスに忘却の呪いを掛け、此処に来たことを忘れて貰った。
本当は俺との出会いから忘れて欲しかったけど、そうすると周囲にバレるので我慢した。
眠らせたモリスを王都行きの馬車に乗せて送り返し、これからどれだけああいう人に出会うのだろうと思った。
(獣人でなければ人にあらず)
そう割り切れることの方がいっそ凄い。
「チヤ、あんな獣人ばかりじゃない」
「……わかってるよ」
わかってるけど、やっぱりキツイ。
俺はその日は何度もロクに抱き付き、あちこちまさぐってはロクがモリスとは違うことを確かめた。
「ですからそうならない為に、あなたの体液は甘く、啜れば滋養強壮効果があると本当の事を明かすのです」
「でも、あの王は人間にその気になったりしないだろう!?」
「それでも行為は出来るでしょう」
「うぅぅ……」
俺はいよいよ切羽詰まってしまった。
(国王は俺を諦めない。喰われるくらいなら。一度くらい。それで得なこともある。俺さえ我慢すれば。ほんの少しの辛抱だ。どうしても耐えられなければ目を瞑ればいい。耳を塞いで、唇を噛み締めて、腕を噛んで耐えれば――)
「チヤ!」
俺のぐちゃぐちゃになった思考を遮るように、ロクの声が飛び込んできた。
「チヤ、悩むな、惑うな! お前一人が犠牲になる必要はない! それを許すのは、そんなものを良しとする世界など帝国と変わらぬ!」
「ッ!」
パァッと目の前が明るく開けた。
俺が犠牲になるしか方法が無いなんて、そんな筈は無い。
誰も犠牲にしない為に、その為に頑張っているんだ。
それは俺であっても変わらない。
「ロク、なんかおかしくなっていたみたい。俺さえ我慢すればいいって、もうこれしか無いって思い込んでて――」
「モリス。魔法を使ったな?」
ロクがモリスを鋭く睨みながらそう言った。
「えっ、ちょ、魔法なんてあんの!?」
俺は初めて聞いたことなので焦った。
「異世界人の考えるものとは違う。そんなに便利でも万能でもない。ただ、異世界召喚のようにある種の術は存在する」
「ある種の術……」
「今回は思考を誘導するような魔法が使われたんだろう」
「モリスさん、本当?」
眉を顰めながらモリスに訊いたら、やれやれと肩を竦めながら答えた。
「折角、術が効きにくいロクサーン侯爵を遠ざけたのに、覗いていたのですか?」
「あんたがそこまでするとは思っていなかったが、一応警戒していた」
「やれやれ、用心深いことだ」
嘆かわしいとでも言いたげに頭を振ったモリスを見て、俺はショックだった。
「俺、モリスさんのことは結構、信じてたんだけど……」
「ああ、ありがとうございます」
「立場があるのはわかってたけど、単なる協力関係にあっただけかもしれないけど、それでも酷いことはしないって思ってた! 俺が酷い目に遭ってもいいって……本気で思ってたのかよ?」
モリスはそこまで酷い人じゃない筈だ。そう信じたかったが……。
「あなたを差し出した方が早い。それに使えそうですしね」
「差し出した方が早い……」
「それが一番楽だし簡単でしょう?」
品位とか人道とか正義とか親切とか、彼がこれまで口にしてきたことは何だったのか?
俺の為に少しも苦労しようとは、努力しようとは思わなかったのか。
彼の言葉に一切の誠意は無かったのか。
「俺のこと、少しも好きじゃなかったの?」
「まあ、人間ですから」
その答えに胸を抉られたような気がした。
そこまで、獣人にとって人間ってのはどうでもいいものなのか。
「俺は、あんたたち獣人を俺と同じ人だと思うよ」
「私もそう思えたら良かったのですがね」
モリスの言葉はとても薄っぺらく聴こえた。
俺に大して本音で話すことなど無いのだろう。
「ロク、モリスさんとはわかり合えないみたいだ。ここでお別れだね」
「そうだな。これ以上付き合う必要はない。帰って貰おう」
俺は白妙に頼んでモリスに忘却の呪いを掛け、此処に来たことを忘れて貰った。
本当は俺との出会いから忘れて欲しかったけど、そうすると周囲にバレるので我慢した。
眠らせたモリスを王都行きの馬車に乗せて送り返し、これからどれだけああいう人に出会うのだろうと思った。
(獣人でなければ人にあらず)
そう割り切れることの方がいっそ凄い。
「チヤ、あんな獣人ばかりじゃない」
「……わかってるよ」
わかってるけど、やっぱりキツイ。
俺はその日は何度もロクに抱き付き、あちこちまさぐってはロクがモリスとは違うことを確かめた。
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