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78.帰還−1
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『欲しいものが決まったぞ』
次に会った時、神は重々しくそう宣った。
「えーと、なんでそれを俺に言うのかよくわかんないけど、簡単に譲ってくれそうなもの?」
『それはお前次第だ』
俺に取り替える程の価値があるのかってことだね。
(う~ん、あの国の人にとって俺は有益な存在だと思うけど、神がどう思うかはまた別だからなぁ)
大神の為に信仰を集めているし、お師匠様の伝手もあるから神にとっても手放したくない駒だとは思うけど……。
「何を対価に選んだの?」
『お前と同じ、神になる可能性のあるものだ』
(……え? 神になる可能性のあるものってまさか……)
『黒豹の獣人だ』
(やっぱりロクか~っ!)
俺は神の言葉を聞いてしまったと思った。
よく考えずに対価を求めろなんて提案をしてしまったけれど、俺と取り替えるのに丁度良いったらロクに決まってるじゃん!
「でもっ、こっちの世界に獣人なんていないから、ロクが来たら目立つよ!」
『神界で暮せば良かろう』
(えっ、そんなのあるの?)
俺はこっちの世界には神なんていないと思っていたし、いたとしてもその辺を漂っている自然霊的な存在だと思い込んでいた。
だから俺が暮らしていた散文的な世界にも神界なんてものがあると聞いて吃驚だ。
「神界には他にも神がいるの?」
『当たり前だ。神など幾らでもいる』
(うぇぇ~、まさか八百万の神がいるってこと?)
元々、日本人は一神教に馴染みがない。
色々な物や場所に神様が宿ると考えている。
だからいっぱいいるって聞いても驚きはしないんだけど、ちょっとうんざりはする。
神様って厄介だからね。
「いっぱいいるならこれ以上は増やさなくてもいいじゃん」
滅多に増えない向こうとは違うのだから、というつもりでそう言ったら首を振られた。
『弱い神は消えるのが早い。強い神が増えるのは良いことだ』
なるほど。数は多くても、弱い神は当てに出来ないのか。
「ロクは強いの? まだ神様じゃないけど」
そもそも神格を得ただけじゃ神にはなれない。
もう何段階か格を上げていかなきゃいけないし、ハヌマーンみたいに神になる前に堕ちることもある。
神になるというのは物凄く大変なことなんだ。
『黒豹は特殊個体だから強くなる可能性が高い。それに二面の神は珍しい』
「二面の神?」
ハテナ、と首を傾げたところで俺は神霊の存在に思い当たる。
そうか、神霊がいるから二面の神と言える……のか?
「珍しい神ならロク以外にもいるだろ」
『どれだ?』
「えーと、お師匠様、とか?」
言ってから俺は、これはお師匠様を売り渡したことになるんだろうかと不安になった。
『お前の師匠はあの世界でないと存在すら出来ない。出来損ないだ』
「ちょ、出来損ないって――」
『出来損ないの神はハンデを負っている』
「ハンデ?」
『そこから離れて生きていくことが出来ない。呪いと言ってもいい』
「……」
俺は呪いという神の言葉に、お師匠様が人の為に人から生まれた神だということを思い出した。
多分、その “人” というのは異世界人では駄目なのだろう。
「兎に角、珍しい神なら他にもいるだろう。ロクは駄目だ。ロクは俺の番だもん」
こんな言い訳が果たして神に通じるのかはわからなかったけど、ロクを取られる訳にはいかない。
俺が異世界に戻れても、ロクと引き離されたら意味がないんだ。
『ならばお前が代わりを用意しろ』
「えっ、俺が?」
それはちょっと違うんじゃないかと思ったが、ちっこい神様はそうしなければロクを取ると言って聞かない。
おっさんの癖に駄々っ子みたいな奴だ。
(代わりったってなぁ……)
そもそも俺に神様の知り合いなんていない。
知っているのは大神とお師匠様だけだ。
(こんなのムリゲーじゃん)
そう思って不貞腐れたけど、ならば諦めて竜神になれと言われて慌てて縋り付く。
「対価は見つけるから異世界に行かせてよっ。俺もう寂しくって死にそうなんだけど!」
ほんの少しロクと離れていただけで、俺はもう寂しくって辛くって仕方がない。
ロクの姿も匂いも手触りも痕跡も何一つない、偲ぶもののない場所で暮らすのがこんなに辛いなんて思わなかった。
呼んでも応える声がない。目で姿を追うことも出来ない。愛しい愛しい俺の男なのに。
「ロクぅ……」
再会できるまで持ち堪えようと思ったのに、俺は呆気なく心臓をすり潰されたような痛みに呑み込まれる。
ロクがいないと痛くて苦しい。息もできない。絶対に別れることなんて出来ない。
ピーピーと泣いていたら嘘だろう? 絶対に同情なんてしない神が折れた。
『仕方がない。手助けをしてやろう』
「え? あっちに送ってくれんの?」
吃驚して涙も止まった俺に、神はつれなく言った。
『送りはせん。手助けならしてやる』
「どういうこと?」
『こういうことだ』
神の奴、なんの説明もしないで俺を突き飛ばしやがった。
次に会った時、神は重々しくそう宣った。
「えーと、なんでそれを俺に言うのかよくわかんないけど、簡単に譲ってくれそうなもの?」
『それはお前次第だ』
俺に取り替える程の価値があるのかってことだね。
(う~ん、あの国の人にとって俺は有益な存在だと思うけど、神がどう思うかはまた別だからなぁ)
大神の為に信仰を集めているし、お師匠様の伝手もあるから神にとっても手放したくない駒だとは思うけど……。
「何を対価に選んだの?」
『お前と同じ、神になる可能性のあるものだ』
(……え? 神になる可能性のあるものってまさか……)
『黒豹の獣人だ』
(やっぱりロクか~っ!)
俺は神の言葉を聞いてしまったと思った。
よく考えずに対価を求めろなんて提案をしてしまったけれど、俺と取り替えるのに丁度良いったらロクに決まってるじゃん!
「でもっ、こっちの世界に獣人なんていないから、ロクが来たら目立つよ!」
『神界で暮せば良かろう』
(えっ、そんなのあるの?)
俺はこっちの世界には神なんていないと思っていたし、いたとしてもその辺を漂っている自然霊的な存在だと思い込んでいた。
だから俺が暮らしていた散文的な世界にも神界なんてものがあると聞いて吃驚だ。
「神界には他にも神がいるの?」
『当たり前だ。神など幾らでもいる』
(うぇぇ~、まさか八百万の神がいるってこと?)
元々、日本人は一神教に馴染みがない。
色々な物や場所に神様が宿ると考えている。
だからいっぱいいるって聞いても驚きはしないんだけど、ちょっとうんざりはする。
神様って厄介だからね。
「いっぱいいるならこれ以上は増やさなくてもいいじゃん」
滅多に増えない向こうとは違うのだから、というつもりでそう言ったら首を振られた。
『弱い神は消えるのが早い。強い神が増えるのは良いことだ』
なるほど。数は多くても、弱い神は当てに出来ないのか。
「ロクは強いの? まだ神様じゃないけど」
そもそも神格を得ただけじゃ神にはなれない。
もう何段階か格を上げていかなきゃいけないし、ハヌマーンみたいに神になる前に堕ちることもある。
神になるというのは物凄く大変なことなんだ。
『黒豹は特殊個体だから強くなる可能性が高い。それに二面の神は珍しい』
「二面の神?」
ハテナ、と首を傾げたところで俺は神霊の存在に思い当たる。
そうか、神霊がいるから二面の神と言える……のか?
「珍しい神ならロク以外にもいるだろ」
『どれだ?』
「えーと、お師匠様、とか?」
言ってから俺は、これはお師匠様を売り渡したことになるんだろうかと不安になった。
『お前の師匠はあの世界でないと存在すら出来ない。出来損ないだ』
「ちょ、出来損ないって――」
『出来損ないの神はハンデを負っている』
「ハンデ?」
『そこから離れて生きていくことが出来ない。呪いと言ってもいい』
「……」
俺は呪いという神の言葉に、お師匠様が人の為に人から生まれた神だということを思い出した。
多分、その “人” というのは異世界人では駄目なのだろう。
「兎に角、珍しい神なら他にもいるだろう。ロクは駄目だ。ロクは俺の番だもん」
こんな言い訳が果たして神に通じるのかはわからなかったけど、ロクを取られる訳にはいかない。
俺が異世界に戻れても、ロクと引き離されたら意味がないんだ。
『ならばお前が代わりを用意しろ』
「えっ、俺が?」
それはちょっと違うんじゃないかと思ったが、ちっこい神様はそうしなければロクを取ると言って聞かない。
おっさんの癖に駄々っ子みたいな奴だ。
(代わりったってなぁ……)
そもそも俺に神様の知り合いなんていない。
知っているのは大神とお師匠様だけだ。
(こんなのムリゲーじゃん)
そう思って不貞腐れたけど、ならば諦めて竜神になれと言われて慌てて縋り付く。
「対価は見つけるから異世界に行かせてよっ。俺もう寂しくって死にそうなんだけど!」
ほんの少しロクと離れていただけで、俺はもう寂しくって辛くって仕方がない。
ロクの姿も匂いも手触りも痕跡も何一つない、偲ぶもののない場所で暮らすのがこんなに辛いなんて思わなかった。
呼んでも応える声がない。目で姿を追うことも出来ない。愛しい愛しい俺の男なのに。
「ロクぅ……」
再会できるまで持ち堪えようと思ったのに、俺は呆気なく心臓をすり潰されたような痛みに呑み込まれる。
ロクがいないと痛くて苦しい。息もできない。絶対に別れることなんて出来ない。
ピーピーと泣いていたら嘘だろう? 絶対に同情なんてしない神が折れた。
『仕方がない。手助けをしてやろう』
「え? あっちに送ってくれんの?」
吃驚して涙も止まった俺に、神はつれなく言った。
『送りはせん。手助けならしてやる』
「どういうこと?」
『こういうことだ』
神の奴、なんの説明もしないで俺を突き飛ばしやがった。
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