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平民として生きるようになってからの約二年間、エミリオンは貴族だった頃の知己とは誰とも会っていない。近所に住む人や買い物をする商店などに多少の顔見知りはできたものの、深い付き合いはしようとしなかった。必要以上に人を寄せ付けることなく、一人で静かに暮らしてきた。
楽しく生きるつもりは毛頭なかった。
愛する人に嘘を付き、酷い言葉で傷つけた自分が面白可笑しく生きるなど、そんなことが許されるとは思わない。
今後の人生、ルドヴィークのことを心の奥底で想い続けながら、ひっそりと生きていくつもりでいた。
それでも寂しくはなかった。少しでも暇があれば、心の中の宝物箱に大切にしまっているルドヴィークとの思い出を、いつでも取り出すことができたからだ。
目を閉じると鮮明に思い出すことができる。
出会ったばかりの天使のようなルドヴィーク。女の子のように可愛らしいのに実はやんちゃで元気よく、いつも楽し気に庭を走り回っていた。手を握り、一緒になって走らされて疲れはしたけれど、苦手な運動でさえもルドヴィークと一緒にすることならば、そのすべてがエミリオンにとっては楽しさと喜びでしかなかった。
どんな時でもルドヴィークは優しくエミリオンを気づかってくれた。ことあるごとに大好きだと言ってくれて、愛しい者を見る目を向けてくれた。それは幼い頃だけでなく、身体が大きく逞しく成長してからも変わらなかった。
若い貴族子息子女の集う社交の場に出るようになり、美しい令嬢たちから熱い眼差しを向けられ、誘いの声を掛けられても、ルドヴィークが興味のある素振りを見せたことはない。ルドヴィークの一番はいつでもエミリオンで、どんな時でもそれを体現してくれていた。
「大好きだよ、リオン。心から君だけを愛している。幼い頃からずっと、君だけが好きだ」
いつだって甘くそう囁いてくれた。そのたびに、エミリオンの心は喜びに打ち震えた。
おかげでルドヴィークの気持ちをエミリオンが疑ったことは一度もない。自分を一番好きでいてくれていると、どんな時でも信じることができた。少しも疑うことなく、不安な気持ちにさせられることなく、ルドヴィークからの愛を信じさせてもらえていた。
とてもとても幸せだった。
ルドヴィークのおかげで、エミリオンの日々は喜びと幸せに満ちていた。
それなのに。
自分をいつも幸せにしてくれていたルドヴィークを傷つけた。
最後に会った時のことを思い出すと、いつも堪らなく胸が痛む。あんなに傷ついた顔のルドヴィークを見たのは、生まれて初めてだった。
酷い言葉を投げつけたのだから当然だ。恐らく、今や自分という存在は、ルドヴィークの中で最低最悪の嫌悪の対象となっているに違いない。
悲しい。けれど、それでいいとエミリオンは思う。
婚約を解消されたルドヴィークが、その後も自分を想い続け、悲しみに暮れる日々を送るくらいなら、いっそ憎んでくれた方がいい。そして、少しでも早く気持ちを切り替え、新しい婚約者となる素晴しい人物と出会い、その人と幸せになってもらいたい。
そんなことをエミリオンが考えていた時、ドアベルの音が家の中に響いた。
平民になってからのエミリオンには知り合いが少ない。家を訪ねてくる人間はほとんどいない。ドアベルが鳴ったこと自体、何日振りのことか分からないくらいだ。
誰だろう。不思議に思いながらエミリオンは鍵を外し、ドアをそっと開けて顔を出した。そして、そこに立つ人物に気付いた途端、驚きに体を硬直させた。
「ル、ルド?!」
そこには、二年振りに見るルドヴィークの姿があった。
あれから更に背が伸びて、顔はより精悍に美しくなって男振りと魅力が増しているものの、見間違えるはずがない。紛れもなくルドヴィークである。
目が合った途端、ルドヴィークは昔と変わらぬ甘い目をして微笑みながら、エミリオンを優しく見つめた。
「やあ、リオン。久し振りだね」
「なんでっ?! どうしてここにルドが?!」
「とても大切な用事があってね、君に会いに来たんだ」
「用事?」
「ああ。それで悪いんだけど、後ろを向いてもらってもいいかな」
「え? あ、ああ、うん……?」
混乱中だったこともあり、エミリオンはたいした疑問も持たずに言われるがまま体の向きを変えた。後ろからルドヴィークのため息交じりの声が聞こえる。
「困った人だな、リオン。いくらなんでも無防備過ぎる」
なんのことだろう、とエミリオンが疑問に思うのと同時に、いくつかのことがあっと言う間もなく瞬時に成された。
まずは縄で手足を縛られて自由を奪われた。次に猿ぐつわを噛まされて声を出せなくされると、最後には頭に麻袋をかぶせられて視界を完全に封じられた。そのまま抱えて運ばれて、馬車に乗せられたのである。
一体なにが起きているのか。エミリオンが考える間もなく、馬車が走り出したことが振動と音とで伝わってきた。しかし、どこに連れて行かれるのか、なにをされるのかは分からない。
ただひとつ分かっていることは、今こうして自分を攫っているのがルドヴィークだということだけ。
自分が過去、ルドヴィークに酷いことをした自覚がエミリオンにはある。
もしかすると、なんらかの報復を受けるのかもしれない。ルドヴィークはあの時以来ずっと腹を立て、今もエミリオンをを憎んでいて、その仕返し行為に及ぼうとしているのかもしれない。
それならそれでかまわないとエミリオンは思った。そうする権利がルドヴィークにはあるし、それを受け入れるべき義務が自分にはあると思う。
なにをされても甘んじて受けようと、エミリオンは覚悟を決めた。
やがて馬車が止まった。エミリオンはまた抱えられてどこかへ運ばれた。扉の開閉音や足音の感じから、なんらかの建物に入っただろうことが推測できる。階段を上がり、廊下を歩き、扉を開けてどこかの部屋へ入ると、恐らくベッドの上と思われる柔らかい感触のするところへと、思いのほか丁寧に下ろされた。
今からここでなにをされるのか。怖くないと言えば嘘になる。けれども拒否するつもりはなかった。動きと視界を封じられた状態で大人しくその場に横たわったまま、エミリオンは黙って静かに待ち続けた。
最悪、殺されることもあるかもしれないが、それも致し方ない。
やがてドアが開く音がして、誰かが部屋に入ってきた。すぐそばのベッドが軋んだことから、そこに腰を下ろしたのだろうことが予想できた。
その人物――――ルドヴィークだと思う――――は、すぐにエミリオンの麻袋と猿ぐつわを外し始めた。
見えるようになったエミリオンの視界の先には、やはりルドヴィークがいた。室内着に着替えてきたらしく、さっき見た時とは違う楽そうな服装になっている。室内には他には誰もいない。
エミリオンは周囲の様子を視線だけで見回した。
見覚えのない部屋。ここが子爵家のルドヴィークの私室でないことは分かる。どこだろう。驚くほど広く天井も高い。家具などの調度品の質の高さは、エミリオンが一目見ただけで分かるほどの最高級品ばかりである。
一体誰の屋敷だろうと訝しむエミリオンだったが、その体を拘束していた縄がルドヴィークの手によって解かれると、やはり緊張していたのだろう、思わずホッと安堵の息が零れた。
しかし、すぐに身を引き締める。
自由の身になったからといって逃げ出すつもりは毛頭ない。拷問でもなんでも受け入れる気持ちは変わらなかった。だから黙ってルドヴィークを見つめていると、小さな小瓶が差し出された。
「これ、飲んでくれる?」
受け取った小瓶には透明の液体が入っている。少しの間だけ思案顔でそれを見ていたエミリオンだったが、すぐに蓋を開け、躊躇なく中身を全て飲み干した。
ルドヴィークが呆れたように大きく息を吐いた。苦笑しながら指の甲でエミリオンの頬を撫でる。
「さっきも言ったけれど、どうしてそんなに無防備なんだ? 分かっていると思うけれど、君はわたしに攫われたんだよ? しかも、両手両足を縛られて。怖くないのか?」
「なにをされても仕方がないと思ってる。あ、いや、思っています。俺はルドに……ルドヴィーク様に、過去、大変失礼なことを致しました。お怒りはごもっともだと思っております。どのような処罰をも受け入れるつもりです。どうぞ、ご存分になさって下さい。さっきの小瓶の中身が毒であっても、それはそれで構いません」
「……なんだい、その口調は。ああ、そうか。平民だからか」
「そうです。俺は平民であなたは貴族です。当然のことです」
ベッドの上、その場でエミリオンは平伏した。
ルドヴィークはそんなエミリオンの両肩を掴み、すぐに体を起こさせた。そのまま至近距離で目を合わせる。
久し振りに見たルドヴィークの濃い碧色の瞳に、エミリオンは思わず見惚れ、引き込まれそうな錯覚に陥った。顔が赤くならないよう必死で平静を保とうとするエミリオンに、ルドヴィークが悲し気に言った。
「そんな他人行儀な物言いはやめてくれ。君にそんな態度をとられると、悲しくて堪らなくなる。わたしのことも以前と同じように、どうか愛称で呼んで欲しい」
それを聞いたエミリオンは唖然とする。
「お、怒ってないのか?! 俺はルドに、あんなに酷いことを言ったのに!!」
「怒るというよりは話の内容に驚いたよ。なにより、あの時はとても悲しかった」
責める目ではなく、ただひたすら悲しみだけを伝えてくるルドヴィークの視線にいたたまれず、エミリオンは俯いてしまう。
ルドヴィークを傷つけ、悲しませたのは本当だ。むしろ、わざとそうなるよう言葉を吐いたのだから当然である。男より女が好きだと言った。結婚を考えている相手がいるとも言った。全てルドヴィークを想ってついた嘘だったとはいえ、それはエミリオン側の都合でしかない。ルドヴィークが酷いことを言われ、傷ついた事実は変わらない。
「さっきも言ったけど、あの時の報復のために俺を攫ったのなら、好きにしてくれて構わない。なにをされても逆らわずに受け入れる」
「報復なんてするつもりはない。けれど、好きにはさせてもらうつもりでいる」
「え?」
意味が分からずきょとんとしたエミリオンに、ルドヴィークはにこりと笑って見せた。
「そんなことより、会えて本当に嬉しいよ、リオン。わたしはね、君がわたしの前から姿を消して以来、ずっと君のことを探していたんだ」
ルドヴィークはエミリオンを昔と同じように優しく抱きしめた。そして、この二年間にあったことについて話し始めたのだった。
楽しく生きるつもりは毛頭なかった。
愛する人に嘘を付き、酷い言葉で傷つけた自分が面白可笑しく生きるなど、そんなことが許されるとは思わない。
今後の人生、ルドヴィークのことを心の奥底で想い続けながら、ひっそりと生きていくつもりでいた。
それでも寂しくはなかった。少しでも暇があれば、心の中の宝物箱に大切にしまっているルドヴィークとの思い出を、いつでも取り出すことができたからだ。
目を閉じると鮮明に思い出すことができる。
出会ったばかりの天使のようなルドヴィーク。女の子のように可愛らしいのに実はやんちゃで元気よく、いつも楽し気に庭を走り回っていた。手を握り、一緒になって走らされて疲れはしたけれど、苦手な運動でさえもルドヴィークと一緒にすることならば、そのすべてがエミリオンにとっては楽しさと喜びでしかなかった。
どんな時でもルドヴィークは優しくエミリオンを気づかってくれた。ことあるごとに大好きだと言ってくれて、愛しい者を見る目を向けてくれた。それは幼い頃だけでなく、身体が大きく逞しく成長してからも変わらなかった。
若い貴族子息子女の集う社交の場に出るようになり、美しい令嬢たちから熱い眼差しを向けられ、誘いの声を掛けられても、ルドヴィークが興味のある素振りを見せたことはない。ルドヴィークの一番はいつでもエミリオンで、どんな時でもそれを体現してくれていた。
「大好きだよ、リオン。心から君だけを愛している。幼い頃からずっと、君だけが好きだ」
いつだって甘くそう囁いてくれた。そのたびに、エミリオンの心は喜びに打ち震えた。
おかげでルドヴィークの気持ちをエミリオンが疑ったことは一度もない。自分を一番好きでいてくれていると、どんな時でも信じることができた。少しも疑うことなく、不安な気持ちにさせられることなく、ルドヴィークからの愛を信じさせてもらえていた。
とてもとても幸せだった。
ルドヴィークのおかげで、エミリオンの日々は喜びと幸せに満ちていた。
それなのに。
自分をいつも幸せにしてくれていたルドヴィークを傷つけた。
最後に会った時のことを思い出すと、いつも堪らなく胸が痛む。あんなに傷ついた顔のルドヴィークを見たのは、生まれて初めてだった。
酷い言葉を投げつけたのだから当然だ。恐らく、今や自分という存在は、ルドヴィークの中で最低最悪の嫌悪の対象となっているに違いない。
悲しい。けれど、それでいいとエミリオンは思う。
婚約を解消されたルドヴィークが、その後も自分を想い続け、悲しみに暮れる日々を送るくらいなら、いっそ憎んでくれた方がいい。そして、少しでも早く気持ちを切り替え、新しい婚約者となる素晴しい人物と出会い、その人と幸せになってもらいたい。
そんなことをエミリオンが考えていた時、ドアベルの音が家の中に響いた。
平民になってからのエミリオンには知り合いが少ない。家を訪ねてくる人間はほとんどいない。ドアベルが鳴ったこと自体、何日振りのことか分からないくらいだ。
誰だろう。不思議に思いながらエミリオンは鍵を外し、ドアをそっと開けて顔を出した。そして、そこに立つ人物に気付いた途端、驚きに体を硬直させた。
「ル、ルド?!」
そこには、二年振りに見るルドヴィークの姿があった。
あれから更に背が伸びて、顔はより精悍に美しくなって男振りと魅力が増しているものの、見間違えるはずがない。紛れもなくルドヴィークである。
目が合った途端、ルドヴィークは昔と変わらぬ甘い目をして微笑みながら、エミリオンを優しく見つめた。
「やあ、リオン。久し振りだね」
「なんでっ?! どうしてここにルドが?!」
「とても大切な用事があってね、君に会いに来たんだ」
「用事?」
「ああ。それで悪いんだけど、後ろを向いてもらってもいいかな」
「え? あ、ああ、うん……?」
混乱中だったこともあり、エミリオンはたいした疑問も持たずに言われるがまま体の向きを変えた。後ろからルドヴィークのため息交じりの声が聞こえる。
「困った人だな、リオン。いくらなんでも無防備過ぎる」
なんのことだろう、とエミリオンが疑問に思うのと同時に、いくつかのことがあっと言う間もなく瞬時に成された。
まずは縄で手足を縛られて自由を奪われた。次に猿ぐつわを噛まされて声を出せなくされると、最後には頭に麻袋をかぶせられて視界を完全に封じられた。そのまま抱えて運ばれて、馬車に乗せられたのである。
一体なにが起きているのか。エミリオンが考える間もなく、馬車が走り出したことが振動と音とで伝わってきた。しかし、どこに連れて行かれるのか、なにをされるのかは分からない。
ただひとつ分かっていることは、今こうして自分を攫っているのがルドヴィークだということだけ。
自分が過去、ルドヴィークに酷いことをした自覚がエミリオンにはある。
もしかすると、なんらかの報復を受けるのかもしれない。ルドヴィークはあの時以来ずっと腹を立て、今もエミリオンをを憎んでいて、その仕返し行為に及ぼうとしているのかもしれない。
それならそれでかまわないとエミリオンは思った。そうする権利がルドヴィークにはあるし、それを受け入れるべき義務が自分にはあると思う。
なにをされても甘んじて受けようと、エミリオンは覚悟を決めた。
やがて馬車が止まった。エミリオンはまた抱えられてどこかへ運ばれた。扉の開閉音や足音の感じから、なんらかの建物に入っただろうことが推測できる。階段を上がり、廊下を歩き、扉を開けてどこかの部屋へ入ると、恐らくベッドの上と思われる柔らかい感触のするところへと、思いのほか丁寧に下ろされた。
今からここでなにをされるのか。怖くないと言えば嘘になる。けれども拒否するつもりはなかった。動きと視界を封じられた状態で大人しくその場に横たわったまま、エミリオンは黙って静かに待ち続けた。
最悪、殺されることもあるかもしれないが、それも致し方ない。
やがてドアが開く音がして、誰かが部屋に入ってきた。すぐそばのベッドが軋んだことから、そこに腰を下ろしたのだろうことが予想できた。
その人物――――ルドヴィークだと思う――――は、すぐにエミリオンの麻袋と猿ぐつわを外し始めた。
見えるようになったエミリオンの視界の先には、やはりルドヴィークがいた。室内着に着替えてきたらしく、さっき見た時とは違う楽そうな服装になっている。室内には他には誰もいない。
エミリオンは周囲の様子を視線だけで見回した。
見覚えのない部屋。ここが子爵家のルドヴィークの私室でないことは分かる。どこだろう。驚くほど広く天井も高い。家具などの調度品の質の高さは、エミリオンが一目見ただけで分かるほどの最高級品ばかりである。
一体誰の屋敷だろうと訝しむエミリオンだったが、その体を拘束していた縄がルドヴィークの手によって解かれると、やはり緊張していたのだろう、思わずホッと安堵の息が零れた。
しかし、すぐに身を引き締める。
自由の身になったからといって逃げ出すつもりは毛頭ない。拷問でもなんでも受け入れる気持ちは変わらなかった。だから黙ってルドヴィークを見つめていると、小さな小瓶が差し出された。
「これ、飲んでくれる?」
受け取った小瓶には透明の液体が入っている。少しの間だけ思案顔でそれを見ていたエミリオンだったが、すぐに蓋を開け、躊躇なく中身を全て飲み干した。
ルドヴィークが呆れたように大きく息を吐いた。苦笑しながら指の甲でエミリオンの頬を撫でる。
「さっきも言ったけれど、どうしてそんなに無防備なんだ? 分かっていると思うけれど、君はわたしに攫われたんだよ? しかも、両手両足を縛られて。怖くないのか?」
「なにをされても仕方がないと思ってる。あ、いや、思っています。俺はルドに……ルドヴィーク様に、過去、大変失礼なことを致しました。お怒りはごもっともだと思っております。どのような処罰をも受け入れるつもりです。どうぞ、ご存分になさって下さい。さっきの小瓶の中身が毒であっても、それはそれで構いません」
「……なんだい、その口調は。ああ、そうか。平民だからか」
「そうです。俺は平民であなたは貴族です。当然のことです」
ベッドの上、その場でエミリオンは平伏した。
ルドヴィークはそんなエミリオンの両肩を掴み、すぐに体を起こさせた。そのまま至近距離で目を合わせる。
久し振りに見たルドヴィークの濃い碧色の瞳に、エミリオンは思わず見惚れ、引き込まれそうな錯覚に陥った。顔が赤くならないよう必死で平静を保とうとするエミリオンに、ルドヴィークが悲し気に言った。
「そんな他人行儀な物言いはやめてくれ。君にそんな態度をとられると、悲しくて堪らなくなる。わたしのことも以前と同じように、どうか愛称で呼んで欲しい」
それを聞いたエミリオンは唖然とする。
「お、怒ってないのか?! 俺はルドに、あんなに酷いことを言ったのに!!」
「怒るというよりは話の内容に驚いたよ。なにより、あの時はとても悲しかった」
責める目ではなく、ただひたすら悲しみだけを伝えてくるルドヴィークの視線にいたたまれず、エミリオンは俯いてしまう。
ルドヴィークを傷つけ、悲しませたのは本当だ。むしろ、わざとそうなるよう言葉を吐いたのだから当然である。男より女が好きだと言った。結婚を考えている相手がいるとも言った。全てルドヴィークを想ってついた嘘だったとはいえ、それはエミリオン側の都合でしかない。ルドヴィークが酷いことを言われ、傷ついた事実は変わらない。
「さっきも言ったけど、あの時の報復のために俺を攫ったのなら、好きにしてくれて構わない。なにをされても逆らわずに受け入れる」
「報復なんてするつもりはない。けれど、好きにはさせてもらうつもりでいる」
「え?」
意味が分からずきょとんとしたエミリオンに、ルドヴィークはにこりと笑って見せた。
「そんなことより、会えて本当に嬉しいよ、リオン。わたしはね、君がわたしの前から姿を消して以来、ずっと君のことを探していたんだ」
ルドヴィークはエミリオンを昔と同じように優しく抱きしめた。そして、この二年間にあったことについて話し始めたのだった。
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