ゆっくり進みながらも振り返ろうとする心情を、人は愛と呼ぶのです

はるた

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日常 5

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……優吾が他とは違うと気付いたのは、幼稚園の時だった。
同じうさぎ組の、もう名前も覚えていない女の子から告白され、そこに違和感を覚えたのが始まりである。
好きだと言われ、可愛いラブレターを貰う。幼少期によくある淡い思い出のはずが、それに何の感情も持てなかったのだ。好きでもない相手に告白されてもと断れば泣かれてしまい困ったが、だからといって、どうしても彼女と付き合おうという考えにはならなかった。

「さっすが、ケインはえらいな~俺も三年になったら真面目にやらねぇと」
「今はしないのか」
「今はケインと授業被ってるの多いじゃん。助けてもらう気満々なの」

当時はまだその意味を言語化できずにいたが、歳を重ねるにつれて自分が他人とは違うことに気付かされた。
普通、男は女を好きになるのに、優吾にとってそれは普通ではなく違和感しかない。もしやと頭に過ぎる自身のセクシャリティ、性的趣向は誰にも相談できないまま、只々胸に秘めて己自身をも欺こうとしていた。
しかし、高校に入学し、隣のクラスの担任であった体育教師に一目惚れをした時。
ずっとしまい込んでいた感情が溢れ、認めざるを得なくなったのである。

「来年からは必修の専門科目ばっかになるだろ? だから、今だけ甘えさせてくれって」

女性を好きになれない、筋肉質で男臭い年上が好き、だなんて。
初めての恋に胸をときめかせるのと同時に絶望したものだ。
高校生といえどまだ幼く、感情を制御できなかった優吾は少しでも体育教師との接点を持ちたいと、彼が顧問を務める陸上部に入部した。
強豪校であったためレギュラーにはなれず、その体育教師ともほとんど会話らしい会話をしないまま三年間を終えたが、遠くから眺めるだけで心は満たされていた。
いい思い出かと言われたらほろ苦く、未練がないと言えば嘘になるが、それでもよかった。
二十歳になり、男同士の恋愛においての世間の目を知った今となっては、なにも行動に起こさなかった己は正しいとすら言える。
高校という噂の拡がりやすい閉鎖空間に加え、親の庇護下にある状態でもしバレていたらと思うと、今でもぞっとしてしまう。

「仕方ないな」
「やった! さんきゅ!」
「だが、俺だって全部を理解できているわけじゃないぞ? 間違えていたら俺の方こそ申し訳ないんだが」
「いいよ~そしたら俺が気付いて指摘してやるし」

同じ高校出身者のいない都内の大学を選び、ひとり暮らしをすれば少しは変わるかと思ったが、人の本質は変わらないもので。
周りに奇異の目で見られないよう、バレないよう必死に過ごした結果、友人は多くできたが本音を語り合える相手はできず終い。
経験を積めば女性と恋愛できるかもしれないなんて幻想を抱き、飲みの席に率先して参加しても、いつも何の感情も浮かばないまま終わる。
同じ商学部の早野からは理想が高いと言われるも、違う意味でその通りなので言い返せなかった。

「……他に、聞く奴はいないのか?」
「ん? 他に聞くくらいならケインに聞くよ。知ってる中で一番優秀だし、頼りになるし」
「…………そうか」

別にいい。
このまま、誰にもバレず四年間を過ごし。いつか己のセクシャリティと向き合えた時、同じ趣向を持つ相手の中で自分を好きになってくれる人を探せば良いだけだ。
今はその度胸がないため、準備期間という名目で普通の大学生を過ごそうと猫を被っているにすぎない。周りから疑われずに輪の中に打ち解けていたら、これ以上を求めることはないだろう。
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