はじめましては処刑台の上で。

千花 夜

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過ぐる日々を想う

2.

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 そもそも、何故王都に行かねならないのか。


 有り体に言うと、【裏切り者探し】である。
 神の寵愛を受けている神子は、死んで神の下に還り、そこで再び神の寵愛を受けることが出来れば生まれ変わり、再び神子としての能力を賜った状態で生を受ける。
 つまり、俺が処刑されてから3日後に生まれたように【シトリン】と【サファイア】もまた何処かに生まれているはずだ。――で、他の9人の神子はそれを探しているのだ。
 まぁ、そりゃそうだろう。自分達と同様の能力を持った奴らがもう1度反乱を仕掛けてくる可能性なんて、さっさと摘んでおくに限る。俺が逆の立場でも、きっとそうした。

 名目上は『12人の神子を上回るほど神に愛されたがこの世に生まれた』と言う設定の下、聖女探しをしているらしいが。
 20年前――最初の神子の処刑の日以降に生まれた子女たちのうち、一定以上の魔力を有する者をその家族ごと王家に召し上げることで、神子を探すという作戦に違いない。ちなみに妹は現在8歳である為、対象である。俺はあ10歳。

 何故子息は対象に入っていないのかと言うと、俺以外の神子は2人とも女性だったからだ。単純に3分の2の方から限定して探した方が早い。
 

「……生まれ変わってんのかな」


 重たい手付きで荷物を鞄に詰めていきながら、ぼそりと呟く。部屋にはだれもいないし、俺が防音魔法を完璧に駆けているので盗聴の心配はなかった。

 自分で言うのもアレだが、男の俺でさえ最後の方は結構精神ぶっ壊れ状態だったのだ。特に女性である2人は、また別次元の苦しみや恐怖がつき纏っていただけに、辛かっただろうと思う。……サファイアに至っては言語を話せないくらい脳がやられてしまっていたし。

 そんな彼女らを、神は再びこの世に送り出すだろうか。俺の場合は神に「今度は何の身分もしがらみもない状態で、俺が創り上げた国でゆっくり過ごしてみたい」と零したことがきっかけで転生したけれど。神は「呑気か」と呆れていた。
 
 捕まって20年くらい以降はお互いに話をする余裕もなかったから、会いたい気持ちも勿論ある。
 3人で世界中を旅して、飲んで歌って踊って戦って、笑って過ごしたい気持ちもある。

 でも、もうこれ以上、彼女たちに前世を思い出して苦しんでほしくない気持ちも、ある。
 


 真紅の少女は――アストリアは、今何をしているだろうか。










「……吃驚するほど終わらない」


 俺は400年前くらいに仲の良かった吟遊詩人が書いた詩集を無理やり鞄に突っ込み、息を吐いた。持っていきたい本があれもこれもと多すぎて、普通に入りきらない。昼前には出発だというのにおかしいな。飽きた。

 立ち上がり、散らかりきった室内を見渡して1つ頷く。


「やはりこれは王都へ行くなという神のお告げ」
「何を言ってるんだお前は。本は王都の図書館でも読めるだろう。置いていきなさい」
「ノックしてから入って下さい父上」


 まぁ気付いたからいいけれど。

 ヌルっと部屋に入ってきた父上は俺の鞄の中身を呆れきった目で見据えた後、次々と本を取りだして机へと移動させていく。本を全て取り出してからは、衣類や生活用品等必需品を次々と突っ込み始めた。
 俺はその様子を寝具に腰掛けて眺める。


 この父と居間でのんびりしているのだろう母は、俺が神子であると知ったらどんな反応をするのだろうか。……【ガーネット】を崇める妹はまず間違いなく俺を罵り憎悪するだろう。
 この2人はどうだろう。この10年、十分に愛を注いでもらっている自覚があるからこそ、気になる。きっと吃驚して――やはり、嫌悪するのだろうか。

 【タンザナイト】だった時の俺は記憶もないほど幼い頃に家族を失っているので、そのような時に家族がどうなるのか想像できない。
 分からないことは嫌いだ。

 せっかく手に入れた家族なのだからみすみす逃したくはないが、有事の際は殺さなければならないのだろうか。それは、何となく寂しい気もする。


「…………父上」
「ん?どうした。ルネ」


 振り返り、優しい目で俺の紫がかった黒髪を撫でる父上。彼の目が憎悪と嫌悪に濡れる日がいつか来るのだろうか。

 その時までに、俺達裏切りの神子の無実が証明されれば。覇権に目が眩んだ9人の神子を何とかすることが出来れば。家族は、俺を捨てないだろうか。


「父上、俺の事好きですか?」
「ああ勿論。私も妻も、ルネの事を愛しているよ」


 それは、期限付きですか?

 とは聞けるはずもなく、俺は俯いたまま頷く。父上はそんな俺から何かを感じ取ったのか、俺の目の前で地面にしゃがみこむと、見上げるようにして寝具に座る俺を見つめる。
 その翡翠の瞳に、存外不安そうな表情をした俺が映って。おもわず目をそらすと、父上は俺の両頬を大きな手で包み込んで無理やり目を合わせてきた。

 拷問の際にも何度もされたことはあるけれど、不思議と当時感じた不安や恐怖はなくて。


 でも、俺はそれがどうしてなのかは分からなかった。


「ルネ。例えばお前がどんなに悪い事をしようと、私達はお前を憎む事は出来ないだろう。それは、私達が家族だからだ」
「人を殺しても?盗みをしても?」
「もちろん、叱責も仕置きもするだろう。だが、嫌うことは出来ないな」


 ………………なら、いいか。

 魔法契約でもなんでもないその言葉に心もとなさを感じつつも小さく頷けば、父上は俺の体をギュッと優しく抱きしめて額に口付けを落とす。
 そして、「居間においで。もうまもなく出発だ」と微笑んだ。
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