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しおりを挟む俺、佐野国春の半生は、おおよそ「不遇」と言っていいものだと思う。
父親はお気に入りの風俗嬢であった母親が俺を孕んでまもなく、母親と俺を捨てた。せめてもの慰みに(どうせ訴えられない為の保険だ)養育費だけは十二分に支払われていたようだったが、まぁ当然の如くそれが名前の通りに使用された事実はない。
母親は俺等すっかり放置して養育費を引っ掴んでホストクラブへ通い、果てには借金を大量に抱えて薬物依存にまで陥った。道端でゲロ吐いてぶっ倒れている所を警察に保護され、そのまま精神病院に突っ込まれてそれ以来である。ーーちなみにその時、俺は7歳。
んで、児童相談所に保護された俺は、母親を捨てた父親の元へと行くこととなった。
父親の家「月待家」は大層歴史ある金持ち家だった。父親にはお家同士で決まった列記とした「妻」がいて、列記とした「息子」がいたのだ。
彼等は俺を蛆虫を見るような目で見たし、当たり前の権利のように蔑み奴隷のように扱った。所謂「妾の子」である俺は彼等にとって邪魔でしかなかったのだろう。「妻」は俺に暴力を振るい、「息子」は俺に暴言を吐いた。
父親は当然そんな彼等を咎めることは無かったし(そもそも気付いていたのかすら怪しい)、使用人達は俺を「奥様と次期当主様に心労をかけるゴミ」と嘲った。
俺は母親と暮らしていた時よりも遥かにまともな衣食住を手に入れて、遥かに地獄を味わった。
結果。
まぁ、当然の如くグレる訳で。
公立の中学に通い(「息子」は全寮制の金持ち校である。まぁ別に入りたくはない)1年経った頃、遂に精神衛生上の限界を感じた俺は「月待家」を離れて見知らぬ街に繰り出すようになった。
そうすれば身なりだけは金持ち家のそれである俺が襲われない訳がなく。俺は家出初日に不良達に取り囲まれ、所謂「カツアゲ」なるものを受けたのだ。
俺は俺で死ぬ程イライラしていたし実際に死んでも別にいいな、くらいの気持ちだったので、とりあえず目の前にいた坊主男の頬をぶん殴ってみたら喧嘩になりーーボコボコにされたけどギリギリ勝った。
勿論俺は体力も筋力もないので武器(不良の一人が持っていた釘バット)を使用させて頂いたが、勝った。勝ってしまった。
「………………あーぁ」
死ねなかった。
ずっと死にたかったのか、とその時漸く気付いた。だから俺は血が出るこめかみを抑えることもせず、ヨタヨタと路地裏を当てもなく歩いたのだ。
失血で死ねば上々。
どうせ、誰も迎えになど来ないのだから。
「あれれぇ??こんな所に死体が落ちてるよ~?」
「馬鹿言え、どう考えても生きんだろぉが」
「え~?あ、ほんとだぁ~。へぇ~こんなヒョロっヒョロな身なりで勝ったんだぁ」
「……連れてくか。良い戦力になりそうじゃねぇか」
「そだねぇ~。
他に取られる前に俺たちの子にしちゃおっかぁ~」
意識のない俺は未来の仲間達がそんな言葉を交わしてニヤついていたなんで知る由もなく、漸くやって来てくれた「死」の気配に抵抗することなく穏やかに眠りについたのだった。
その時はまさか、自分がまだ死んでないどころか街の治安レベルを下げている不良グループの1つ「ABYSS」の一員になるなんて思ってもみなかったし、増してやそこで沢山の「家族」を得るなんてそれこそ想像もつかなかった。
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