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しおりを挟むなんて仰々しく昔の事を語ってみたけれど。
現在進行形で、俺は今「息子」が既に通っている全寮制の学園こと『帝華学園』の入学式に赴いている最中である。送迎の車とやらには同じく高等部から『帝華学園』に入学する事になった少年達がドキドキワクワクしながら乗っている。
正直ドキドキワクワクもクソもないしさっさと自分の寮に引きこもって眠りたいのだが、残念ながら寮に案内して貰えるのは入学式の後らしい。ちなみに荷物だけは式の間に運んでおいてもらえることになっている。俺も荷物になりたい。
「ワクワクするねっ」
「僕もっ!ねぇお友達にならない?」
「えっいいの?ぼ、僕の名前はーー」
広いリムジンの中が何やらホンワカピンク色の雰囲気を醸し出した。あまりにウザイので溜息を吐けばえげつない程の嫌悪を込めた視線が飛んでくる。
だがしかし俺は大人なので、反応することもなく窓の外に目を向けた。空気は俺のせいでピリピリしているが、殴らないだけ俺は滅茶苦茶更生している。
緩やかに学園の広大な景色がうつり変わっていくのを眺めながら、小さく息を吐く。
「ABYSS」は、俺にとって物凄く良いグループだったと思う。
生きる事を諦めていた俺に彼等は「愛」をくれた。
ABYSSが拠点としていたバーでは毎日美味しいご飯を食べさせてくれた。その間は沢山のメンバー達が交互に俺に話しかけてくれ、周りに腰かけて共にご飯を食べてくれた。俺が「帰る家がない」と呟けば、バーのオネェ店長は2階の空き部屋をあてがってくれた。
また、彼等は俺に喧嘩を教えてくれた。治安の悪い夜の街で楽しく生き残る為の術をくれて、共に遊んでくれた。彼等と共に敵グループや雑魚に突っ込んでいくのはとっても楽しかった。幸せだった。勿論大怪我をすることもあったけど、それ以上に充実していた。
総長は勉強を教えてくれて、副総長はオシャレを教えてくれて、特攻隊隊長は俺に様々な対処法を教えてくれた。かけがえのない人たち。
寂しがってくれているだろうか。
俺が突然いなくなって。
真っ赤に染めていた(総長に染められた)髪は、今や真っ黒くろすけだ。短く切っていた髪はそこそこ伸びて、センター分けにして無造作に流している。副総長に開けられたピアスの穴はそのままだけど、耳にかかる髪の毛ですっかり隠れて見えなくなっている。
父親が満足するまで勉強をし、「妻」の暴力に耐えて、なんとか受験を終わらせて街中を散歩していた時、白昼堂々喧嘩をしている彼等を見た時は正直泣きそうになった。
けどまぁ俺は更生したので。
「……あ、あのぉ」
ふと、目の前から声を掛けられて景色から視線を戻す。目の前に座っていた少年を見つめると、何故か彼はあからさまにビクリと身体を震わせた。
「何」
「あっ、え、えっと、」
「は?」
こういうオドオドしたタイプは嫌いだ。益々悪くなる車内の空気に他の生徒達が顔色を悪くする。中には聞こえよがしに「性格悪そー」とか囁いている奴らもいた。お前だよ。
小さな車内でも、既にある程度の人間関係が構築されていたらしい。その中でも残念ながらあぶれてしまった少年は同じく一人ぼっちの俺に、勇気を振り絞って話しかけてきたのだろう。ブルブルと可哀想な程震えている彼は、しかしそれでも俺から目をそらすことなく口を開いた。
「あ、あの、僕、桜花 美月って言うんだ。あ、あなたの名前聞いても……」
「佐野 国春」
「さの、……佐野って、あの、IT企業の?」
あぁ、なるほど。由緒あるお家同士仲良くって奴ね。
俺は深く息を吐き(この時点で桜花クンは顔を真っ青にした)、ガリガリと首裏を乱雑に引っ掻いた。
「違うけど、なに?俺がただの佐野だったら何か弊害でも?ごめんね?IT企業の佐野クンじゃなくて」
「ごっごめん、違うんだ!逆に、もし由緒あるお家だったら緊張しちゃうなぁ……って、……あ、はは、ごめん。ごめんなさい」
「……あぁそう……いや、ごめん八つ当たり」
うん。寧ろなんか俺の方こそごめん。
どうやら悪意なく探りを入れてみただけらしい。それならば相当下手くそだが、まぁ高校生ならそんなもんか。って俺もだわ。
何となく決まりが悪くなって目を伏せれば、彼もまた気まずそうに頬をかいた。
「ぼ、僕、貴方と友達になれたらなと思って。緊張しぃで……吃っちゃってごめんね」
「友達?」
「うん、あの、国春くんって呼んでもいい?」
「家族」は出来たけど、「友達」は初めてだ。
頬を染め、照れたように笑う桜花クンを呆然と見つめたまま俺は固まってしまった。そんな俺を見つめていた桜花クンが次第に不安そうな顔になっていくのに気付いて、慌てて頷いてみる。
すると今度はパァッとーー桜の花の様に華やかな笑顔になるのを見て、俺は肩の力が抜けてしまった。
車内の空気も先程から一転、麗らかな春のような暖かいものに変わっている。
「ーーい、いよ」
「ホント!?嬉しい!えへへ、これから宜しくね。国春くん」
そう言って差し出された手をじっと見つめて。
「……うん。宜しくね、桜花クン」
「えっソッチ?」
「うん?うん」
春の花々が、それはそれは美しく微笑んだ気配がした。
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