佐野国春の受難。

千花 夜

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3.

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 いやいやいや待て待て待て待て待て。ーーえ?気のせい……あっ気のせいじゃないですね。いやおかしいだろ。

 分かりにくく混乱する俺など置いて進行する『入学式』。先程の懐かしい声とは違う人に変わったから気付くのが遅れたのだ。混乱でカチコチに固まってしまった俺を桜花クンが不安げにチラ見している気配がする。でもごめん。構ってられない。


 なんで、

 なんで、


 なんでーーな、ん、で、が、堂々とこの学園にいるんだよ!!!

 それも、寄りにもよって最前列!!!


「…………はぁあ"?」


 地獄から這い出たような低い声が漏れる。
 だってどう考えてもおかしい。赤青緑オレンジ、選り取りみどりの派手な髪色が何故『生徒会』や『風紀』で許されてるんだ。中学校の時のそれ等はもっと如何にもガリ勉と言った様相の人々の集まりだった。それが普通だろう。

 そもそも総長とか副総長、高校生だったの?俺普通に20代だと思ってたんだけど。嘘でしょ?

 老けーー大人っぽ過ぎでしょ。


「……っ、」


 ーーパチ、と、俺の丁度真正面に座っている男と目が合った気がして慌てて視線を逸らす。そしてすぐさまあまりにも態とらしいそれに後悔が募った。そしらぬ振りをして見つめ合っていた方が何倍も隠蔽になるだろうに。


 目が合った相手ーーの視線をヒシヒシと額に感じながらも、何とか耐えてステージの床を凝視する。今顔を上げたら終わりな気がする。色々と。

 が『生徒会』と『風紀』かは分からないが、その2組織に俺の「家族」と「敵」が綺麗に分類されている事だけは理解出来た。そして、俺が奴らと絶対に関わってはならない事も。

 俺は目立たないよう背筋を正し、深く息を吸う。


「スゥッーー……」
「国春くん……?」


 だって、何も言わずに出てきたのだ。最悪組織への裏切りと言う事で殺されかねない。「ABYSS」は決して仲良しこよしだけのグループではないのだ。敵グループだと尚更だ。普通に殺される。
 別に死ぬの自体はどうだっていいけれど、痛い死に方は正直あまりしたくない。

 まぁ、きっと……多分……おそらく……気付かれてはいない、はずだ。願書の顔写真他経歴を彼等に入念に確認されていたとして、大丈夫なはず。彼等に個人情報を明かしたことはない。
 それに髪型も全然違う。以前は短い赤髪だったけれど今は真っ黒。これは絶対に気付かれない。

 ……よし、確信を得た。


『それでは、これにて新入生との顔合わせの時間を終了とさせて頂きます。詳細の自己紹介については各クラスで再度時間を設けーー』


 全く抑揚のない進行役の声が耳に入ってきて。俺は思わず安堵のため息を吐いてしまって、自分の体に想像以上に力が入っていた事実に瞬きをする。相当緊張していたようだ。手に汗握っている。

 再び案内役のオジサンに追従し、ステージを後にする。「緊張したぁ……」と震えた声を上げる桜花クンの背中を摩ってやるフリをして手汗を拭きながら、俺は再び思考を巡らせた。
 これから少なくとも2年間、俺は生徒会と風紀委員会に関わらないようにして過ごさねばならない。父親はこの学園は相当なマンモス校だと言っていたから、目立たないように過ごしてさえいれば何とかなるはずだ。

 委員会なんて、入る気もないし。入ろうものなら「息子」が絶対にとやかく言ってくる。


 この学園では「委員会」にもお家柄が関係してくると事前に父親に教わった。特にである「生徒会」と「風紀委員会」には、それはそれは金持ちで由緒あるお家のご子息が就任するのだとか。
 そんな役職の人々に関わったら最後、同様に1つ上の学年としてこの学園に通っている「息子」に呼び出されること間違いなしだ。

 そして俺は、そんな面倒極まりない事はもう懲り懲りなのである。


 

 講堂を出て再びリムジンに乗り込み、学生寮へと向かう。
 この度お役御免らしい講堂の案内役担当だったオジサンがヒラヒラと手を振っているのに対し、窓越しに会釈する。パチ、と相手の目が瞬いた。

 俺は何となく気まずくて目を逸らし、ボンヤリと景色に目を馳せる。


 疲れた。夕焼けが眩しい。
 

「はぁ……チッ」


 早速幸先の悪すぎる出だしを迎えたせいで苛立ちが再燃してきた。あからさまに不機嫌な俺と比例するように車内の空気も悪化していく。
 チラチラと彼等の視線が寄越されるのも鬱陶しい。舌打ちをすれば一斉に目を逸らされた。

 あーぁ、イライラする。

 せっかく良い雰囲気になれていた気がするのに勿体ない。……でも、感情の制御が出来ないのもどうしようもないことなのだ。昔からずっとそう。
 イライラすれば喧嘩して発散する。特攻隊長が教えてくれた対処法は最早使えなくなってしまった。これからは自分の身一つで解消していかなければならない。

 その事すら、俺にとっては重たい事実で。

 鉛のような物質が腹に溜まるような感覚に、再度首を掻き毟った。


 


「わぁ……!広い……!綺麗!!」


 桜花クンの感嘆の声に、重く沈んでいた意識が少しだけ浮上する。相変わらずグルグルと胃が回るような感覚はするけれど、彼の春風のような暖かい声は心地よかった。

 彼の隣に立ってこれまた豪奢な建物を見上げる。先程の歴史ある雰囲気の講堂とはまた違って、ホテルのような整頓された美しさを感じる。
 ……まぁ別に俺に建物の美醜を評価するだけの審美眼はないのだけれど。適当に言ってみた。


 桜花クンと適当に雑談しながら入口に向かう。

 そこにはボサボサ頭の一人の男がボンヤリと突っ立っていた。


「ーーひぃ、ふぅ、みぃ…………、よし、全員いるな。今から各々の寮部屋の鍵を配るから、名前を呼ばれたら前に出てこい。質問はあるか?

 ーーないな。んじゃ、配るぞ」



「あー、そういや俺は学生寮を管理してる『寮監』の真宮だ。以後、どうぞよろしく?」


 軽薄な口調のまま自己紹介をして、彼は人数分のカードキーを揺らした。
 
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