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9.
しおりを挟むひそひそ。
「売店の前ーー」
「そうそう、要様が…………」
ひそひそ。
「ーー生徒会派閥に……」
「ぇ、じゃあ真宮様ーー」
噂話を本人達の目の前でするのは如何なものだろうか。
高等部1年専用の校舎に入ってからA組の校舎に入るに至るまで、俺と桜花クンをじろじろ不躾に眺める視線は永久に付きまとってきた。そして漸く教室に入って落ち着くことが出来るかと思いきや、教室の扉を開けた途端、数人ずつのグループに分かれた生徒達が、チラチラと俺達の方を見て何やら会話をしていて。
節々だけ聞こえるそれらは、余計に俺の神経を逆なでする。
「はぁ……」
「あ、あはは……」
しかし俺は先程桜花クンを見習うと決めたばかりなので、急に近くにいる生徒に殴りかかったりはしない。
ピクピクとこめかみを引き攣らせながらも、さっさと黒板に展示されていた席順と自分の出席番号を照らし合わせて各々の席に向かった。
生徒達はチラチラ、チラチラと俺の方を見てはくる癖に、誰一人として声をかけてこない。いっそかけてこれば愛想こそないけれどちゃんと答えるのに。そしてあらぬ噂を訂正させてくれ。――まぁ、風紀派閥だと思われていないだけまだマシだ。不幸中の幸い。
ちなみに途中、椅子に座っていたクソ男ににこやかに手を振られたが勿論無視した。関わったが最後、またあることないこと噂されるのが目に見えている。
とはいえ桜花クンのアドバイスの下、俺達は指定の時間ギリギリに到着したので。
鬱陶しい視線の数々は1人の大人がドアを開けて入ってきたことですんなり収束してくれた。
「おーい座れーー」
「「「きゃぁあああ!!!!」」」
きゃぁあああ???
入ってきた白衣を着た男性教師は、何故か悲鳴を上げながら次々と席に着いていく生徒達をグルリと見て満足そうな笑みを浮かべている。
「僕達ラッキーだよぉ!」とかヒソヒソヒソヒソ聞こえて来るってことは、俺達の担任となるこの人は「人気者」の一員なのだろう。男性教師自身は悲鳴を聞いても驚いてなかったし。
……まぁ、流石に教師まで避ける必要はないと思う。多分。教師はさすがに不良グループに関係してないだろ。
「よーし静まれー。よしいい子だ。俺は今年A組の担任を持つことになった、弥生 右京だ。よろしく頼むぞー」
ーーぎゃぁあああ!!!
「うーん静まれー」
ーーひゃあああ!!!
なんだこれ。……なんっだこれ。
教室を埋め尽くす騒音に思わず耳を抑える。うるさい。こんなのがこれから日常茶飯事になるのか?
机に両肘をついた状態で耳を塞ぎ、俯く。部屋の中でわぁわぁと騒がれるのは苦手だった。
「妻」や「使用人」が増えるみたいで。
「家族」の皆はそれを何となく知ってくれていたから、色々配慮してくれていたんだと思う。バーで俺が彼らの声を不快に思ったことなんて一度たりともなかった。
「ーー……っ、ぅ」
――ダァンッ!!
「あ?おい、どうした?ーーなっ、おい!」
あ、やばい無理だ。
唐突に吐き気が込み上げてきて、乱暴に席を立つ。途端静まり返った教室内。
視線という視線全てが俺に集まるのが、苦痛で。
俺は担任が声をかけてくるのに返事をすることも無く、スタスタと無言で教室の扉を開けた。
「おい1回止まれ!!……体調悪いのか?」
別に逆らいたいわけではないので担任の声にぴたりと足を止め、ザワザワと揺れる教室を振り返る。生徒達が座る座席よりも1段高い教壇に立つ彼と目が合った。
あ、ビックリしてる。俺相当顔色悪いんだろうな。視界の端に、心配げに眉を下げる桜花クンが見えた。
俺はドアに手をかけたまま、眉を顰める。そのまま思いっきり舌打ちを落とせば、誰かが怖がったのかまた小さく悲鳴が上がった。
「頭痛いだけ」
廊下をぬけ、校舎の階段を1人のんびりと下っていく。各クラスがそれぞれ「顔合わせ」の最中であるからか、廊下はがらんとしていて静かだ。静まりかえった空間は自然に俺の体調を回復させてくれたようで、先程まで悩まされていた吐き気はすっかり何処かへ行ってしまった。
1年の校舎はS組が最上階の5階、A組とB組が4階、C組とD組が3階、E組が2階になっている。その癖エレベーターを使用できるのはS組だけという鬼畜設定なので、俺達は階段を使用するしかない。
かといって下の階は下の階で合同授業や別室授業の教室とか、保健室とかが併設されていたりするので、授業が始まれば基本的に常にうるさいらしい。
善し悪しあるけれど、結局は好みだと思う。ちなみにクラス分けの基準は成績。
俺はうるさいのが苦手だから大人しく高層階から階段を昇り降りさせて頂く。
特に目的もなくだらだらと階段を降りていれば、その内1階に着くわけで。
そのままなんの躊躇いもなく外に出ようとすれば、まぁ当然のごとく扉の前に立っていた警備員に止められた。ガタイの良い警備員は俺の姿を目に止めるやいなや、不機嫌そうな顔で近づいてくる。
「君、どうしたの?」
「……あー、体調不良だから寮に戻ろうと思って」
「2階の保健室には行った?君新入生?早退する生徒がいる場合、保健室から僕達警備員に連絡が来るんだけど」
……あー、だるいな。
何故かご機嫌斜めなようで、圧をかけるような声のトーンで捲し立ててくる警備員を見上げる。制服越しにでもわかる程真面目に鍛え上げられている身体は、殴って逃げようにもそこそこ苦労するだろう。
ーーが。
不意をつけばその限りではない。
俺は警備員の話を右から左に受け流しながら、彼からは見えない位置で手刀をつくる。
一撃必殺。得意分野だ。
なんて、話半分に聞いていたからだろうか。オッサンが眉を顰め、苛立たしげに詰め寄ってきた。
「新入生が初日からサボりとは関心しないな!これだから金持ちのボンボン共はーー」
は?誰が、金持ちのボンボンだって?
プツン。と軽い音を立てて、自分の中の何かが切れるのを感じる。
一方で偉そうに鼻を鳴らしたオッサンは、自分の言葉で俺の地雷を踏み抜いたことになんてこれっぽっちも気付いていない。
ベラベラと持論を並べ立てて俺を批判し始めたオッサンを睨みあげ、俺は今度こそ半身に構
殺気。
「何をしているのかな」
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