10 / 29
9.
しおりを挟むひそひそ。
「売店の前ーー」
「そうそう、要様が…………」
ひそひそ。
「ーー生徒会派閥に……」
「ぇ、じゃあ真宮様ーー」
噂話を本人達の目の前でするのは如何なものだろうか。
高等部1年専用の校舎に入ってからA組の校舎に入るに至るまで、俺と桜花クンをじろじろ不躾に眺める視線は永久に付きまとってきた。そして漸く教室に入って落ち着くことが出来るかと思いきや、教室の扉を開けた途端、数人ずつのグループに分かれた生徒達が、チラチラと俺達の方を見て何やら会話をしていて。
節々だけ聞こえるそれらは、余計に俺の神経を逆なでする。
「はぁ……」
「あ、あはは……」
しかし俺は先程桜花クンを見習うと決めたばかりなので、急に近くにいる生徒に殴りかかったりはしない。
ピクピクとこめかみを引き攣らせながらも、さっさと黒板に展示されていた席順と自分の出席番号を照らし合わせて各々の席に向かった。
生徒達はチラチラ、チラチラと俺の方を見てはくる癖に、誰一人として声をかけてこない。いっそかけてこれば愛想こそないけれどちゃんと答えるのに。そしてあらぬ噂を訂正させてくれ。――まぁ、風紀派閥だと思われていないだけまだマシだ。不幸中の幸い。
ちなみに途中、椅子に座っていたクソ男ににこやかに手を振られたが勿論無視した。関わったが最後、またあることないこと噂されるのが目に見えている。
とはいえ桜花クンのアドバイスの下、俺達は指定の時間ギリギリに到着したので。
鬱陶しい視線の数々は1人の大人がドアを開けて入ってきたことですんなり収束してくれた。
「おーい座れーー」
「「「きゃぁあああ!!!!」」」
きゃぁあああ???
入ってきた白衣を着た男性教師は、何故か悲鳴を上げながら次々と席に着いていく生徒達をグルリと見て満足そうな笑みを浮かべている。
「僕達ラッキーだよぉ!」とかヒソヒソヒソヒソ聞こえて来るってことは、俺達の担任となるこの人は「人気者」の一員なのだろう。男性教師自身は悲鳴を聞いても驚いてなかったし。
……まぁ、流石に教師まで避ける必要はないと思う。多分。教師はさすがに不良グループに関係してないだろ。
「よーし静まれー。よしいい子だ。俺は今年A組の担任を持つことになった、弥生 右京だ。よろしく頼むぞー」
ーーぎゃぁあああ!!!
「うーん静まれー」
ーーひゃあああ!!!
なんだこれ。……なんっだこれ。
教室を埋め尽くす騒音に思わず耳を抑える。うるさい。こんなのがこれから日常茶飯事になるのか?
机に両肘をついた状態で耳を塞ぎ、俯く。部屋の中でわぁわぁと騒がれるのは苦手だった。
「妻」や「使用人」が増えるみたいで。
「家族」の皆はそれを何となく知ってくれていたから、色々配慮してくれていたんだと思う。バーで俺が彼らの声を不快に思ったことなんて一度たりともなかった。
「ーー……っ、ぅ」
――ダァンッ!!
「あ?おい、どうした?ーーなっ、おい!」
あ、やばい無理だ。
唐突に吐き気が込み上げてきて、乱暴に席を立つ。途端静まり返った教室内。
視線という視線全てが俺に集まるのが、苦痛で。
俺は担任が声をかけてくるのに返事をすることも無く、スタスタと無言で教室の扉を開けた。
「おい1回止まれ!!……体調悪いのか?」
別に逆らいたいわけではないので担任の声にぴたりと足を止め、ザワザワと揺れる教室を振り返る。生徒達が座る座席よりも1段高い教壇に立つ彼と目が合った。
あ、ビックリしてる。俺相当顔色悪いんだろうな。視界の端に、心配げに眉を下げる桜花クンが見えた。
俺はドアに手をかけたまま、眉を顰める。そのまま思いっきり舌打ちを落とせば、誰かが怖がったのかまた小さく悲鳴が上がった。
「頭痛いだけ」
廊下をぬけ、校舎の階段を1人のんびりと下っていく。各クラスがそれぞれ「顔合わせ」の最中であるからか、廊下はがらんとしていて静かだ。静まりかえった空間は自然に俺の体調を回復させてくれたようで、先程まで悩まされていた吐き気はすっかり何処かへ行ってしまった。
1年の校舎はS組が最上階の5階、A組とB組が4階、C組とD組が3階、E組が2階になっている。その癖エレベーターを使用できるのはS組だけという鬼畜設定なので、俺達は階段を使用するしかない。
かといって下の階は下の階で合同授業や別室授業の教室とか、保健室とかが併設されていたりするので、授業が始まれば基本的に常にうるさいらしい。
善し悪しあるけれど、結局は好みだと思う。ちなみにクラス分けの基準は成績。
俺はうるさいのが苦手だから大人しく高層階から階段を昇り降りさせて頂く。
特に目的もなくだらだらと階段を降りていれば、その内1階に着くわけで。
そのままなんの躊躇いもなく外に出ようとすれば、まぁ当然のごとく扉の前に立っていた警備員に止められた。ガタイの良い警備員は俺の姿を目に止めるやいなや、不機嫌そうな顔で近づいてくる。
「君、どうしたの?」
「……あー、体調不良だから寮に戻ろうと思って」
「2階の保健室には行った?君新入生?早退する生徒がいる場合、保健室から僕達警備員に連絡が来るんだけど」
……あー、だるいな。
何故かご機嫌斜めなようで、圧をかけるような声のトーンで捲し立ててくる警備員を見上げる。制服越しにでもわかる程真面目に鍛え上げられている身体は、殴って逃げようにもそこそこ苦労するだろう。
ーーが。
不意をつけばその限りではない。
俺は警備員の話を右から左に受け流しながら、彼からは見えない位置で手刀をつくる。
一撃必殺。得意分野だ。
なんて、話半分に聞いていたからだろうか。オッサンが眉を顰め、苛立たしげに詰め寄ってきた。
「新入生が初日からサボりとは関心しないな!これだから金持ちのボンボン共はーー」
は?誰が、金持ちのボンボンだって?
プツン。と軽い音を立てて、自分の中の何かが切れるのを感じる。
一方で偉そうに鼻を鳴らしたオッサンは、自分の言葉で俺の地雷を踏み抜いたことになんてこれっぽっちも気付いていない。
ベラベラと持論を並べ立てて俺を批判し始めたオッサンを睨みあげ、俺は今度こそ半身に構
殺気。
「何をしているのかな」
53
あなたにおすすめの小説
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
届かない手を握って
藍原こと
BL
「好きな人には、好きな人がいる」
高校生の凪(なぎ)は、幼馴染の湊人(みなと)に片想いをしている。しかし湊人には可愛くてお似合いな彼女がいる。
この気持ちを隠さなければいけないと思う凪は湊人と距離を置こうとするが、友達も彼女も大事にしたい湊人からなかなか離れることができないでいた。
そんなある日、凪は、女好きで有名な律希(りつき)に湊人への気持ち知られてしまう。黙っていてもらう代わりに律希から提案されたのは、律希と付き合うことだった───
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる