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17. side.???
しおりを挟む昨日よりは幾分か顔色も良くなった佐野 国春が、桜花 美月と共に教室に入って来て。その内佐野 国春の方だけが我らが真宮委員長に呼び出されて教室を出て。
「ほら謝んだろうが」
「ズビッ……桜花君ごめんなさ"……」
「あ、うん気にしないで……」
帰って来るやいなや、何かが始まった。
べそべそと幼児のように愚図っている委員長は何故か佐野 国春(これからは親しみを込めて佐野君と呼ばせて頂く)の背中にしがみついているし、佐野君は佐野君で物凄く疲れ果てた表情をしていた。さっきよりも数倍顔色が悪い。――アレ?委員長、謝罪しに行ったんじゃないの?
桜花 美月(これからは親しみを込めて桜花君と呼ばせていただく)はそんな彼らを見上げて引き攣った笑みを浮かべている。そりゃそうだろう。イケメン2人に(しかも片方は泣いている)詰め寄られ、しかも平凡の身分で謝罪されているのだから。
教室のあちこちから「真宮 要親衛隊」の悲鳴が聞こえているのも、桜花君の心労を増やしている要因に違いなかった。下手しなくても制裁レベルである。
俺が呆然とカオスな現場を眺めていると、佐野君の背中から離れようとしない委員長が限りなく震えた声でしゃべり始めた。
「グスッ、…昨日から、おれ、桜花君に、ひ、ひど、ひどい」
「とっとと喋れやオラ」
「うううううッ」
「く、国春くん泣いちゃうから……」
最早謝られている桜花君が委員長を慰め始めた。というか佐野君鬼畜過ぎないか。
佐野君は「鬱陶しい」とデカデカと書かれた顔で委員長を背中から引き剥がすと(抵抗していた)自分の前に立たせ、呆然と座ったままの桜花君と向き合わせる。それにハッとした桜花君が慌てて立ち上がり、委員長を自分の椅子に座らせようとする。大した気遣いだ。
しかし、その優しさは佐野君が「は?まさか謝罪する側の身分で桜花クンの席座ろうとしてねぇだろうな」と呟いた為に、あえなく無駄となった。
佐野君怖すぎだろ。「だろうな」の「ろ」、めっちゃ巻き舌だったぞ。委員長顔真っ青だぞ。
空き教室で何があったんだ。ゴクリ。
ちなみに親衛隊の奴らは既に顔面蒼白である。桜花君の悪口を言おうものなら自分達の方に飛び火しかねない気配を感じ取ったのか(彼らの危機管理能力だけは見習いたい)、両手で口を塞いで自衛している。
「お、お、桜花君にあやまらずに、ズズッ…佐野君にしかッ、…」
「あぁ……全然僕はだいじょ」
「桜花クン甘やかさないで。調子に乗るから」
「ごめ"んなさ"ぃ"……おれ、やっと気兼ねなくしゃっ、喋れる人がッ、、ッぅうう――出来、できるとおもって、ッ…でもっ、ひ、酷いことしてるつもりじゃッぁ…なくて…ヒグッ」
泣いてる真宮様もお可愛らしい……なんて声が何処からか聞こえてきたことにゾッとする。1つの机に集まっていた友人たちも同じ声が聞こえたのか、心なし青白い顔で腕をさすっていた。
それにしても、そんなことで?と思う。そんなの平凡顔の桜花君が当然空気を読んで佐野君と委員長の出会いの場を設けなければならないと思うし、その場合だと謝罪すべきは寧ろ桜花君ではないだろうか。だって彼は委員長の意向に沿った行動が取れなかったのだから。
新入生とはいえ「桜花家」は代々帝華学園に在学しているはずなので、そのくらいの「作法」は知っておくべきだ。
桜花君もそう思っているのだろう。なんとも言い難いような表情で頭を下げる委員長の旋毛を見つめていた。すると、黙ったまま委員長の後頭部を鷲掴みしていた佐野君が、少しだけ落ち込んだ様子で桜花君を見下ろす。
「桜花クンはさ、俺の友達なの。少なくともただのクラスが一緒なだけのコイツよりは、俺にとって大切な存在なの。だから桜花クンを蔑ろにして俺に見当違いの謝罪だけするのがムカついて……」
「国春くん……」
「……迷惑だった?」
無表情ながらに、しょんぼりとした様子で眉を下げる佐野君。しかしその手は未だに委員長の頭を謝罪の形に固定したままである。可愛いけども。
「そんな訳ないよ。嬉しい。国春くん、僕のことを大切に思ってくれてありがとう」
「ほんと?嬉しい?」
「うん、勿論!僕も国春くんのことが一等大切だから、同じ気持ちでいてくれるのが夢みたい……えへへ」
……あれ?なんだか癒されるぞ?
ニコっと微笑んで喜ぶ桜花君に国春君もホッとしたのか、少しだけ目元が緩んだ。友人の一人が佐野君をガン見している。こりゃ惚れたな。
「俺、謝罪も受け止めたよ」と何処か誇らしげに呟いた佐野君は漸く委員長の頭から手を離し、桜花君の手を自分の頭に乗せる。
委員長は途端に俊敏な動きで佐野君の背中に再びへばりついた。
なんで懐いとるんだ。
「褒めて」
「ふふ、国春くん、頑張ってくれたんだね。ありがとう」
「……うん。桜花クン、受け止めてみてって言ってたから」
「うんうん。どう?印象は変わった?」
「……性格クソ野郎から泣き虫引っ付き虫になった」
そりゃそう。俺達もビックリだよ。いつも笑顔でいけ好かない委員長がまさかこれとは。
「まぁ、でも、最初よりはマシ。謝れる奴だってわかったし」
「……そっか。頑張ったね」
桜花君が、佐野君に持たれたままの右手で彼の艶やかな黒髪を撫でる。佐野君はみるみるうちに眠そうな顔(目がとろんととしている)になり、遂には目を閉じて桜花君にもたれかかった。
なんだあの癒し空間。友人が「ホワホワダァ」と物凄くアホな一言を呟いて死んだ。
そして、桜花君は委員長にも優しい声で「きっと、自分の言葉で謝罪が出来る委員長を馬鹿にする人なんていないですよ」と労りの声をかける。……聖人か?誰だアイツを平凡だって言ったの。俺だ。
ひっつき虫委員長は、涙に濡れた深緑の瞳をぱちぱちと瞬かせる。そのまま照れ臭そうに佐野君の背中に顔を埋め(佐野君は凄く嫌そうな顔をしている)、こくりと頷いた。
まぁ正直、今の泣き虫委員長の方が前よりは親しみを覚える。
「……桜花君、ラスボス説」
「解釈一致したわ」
俺は友人達と小さく頷き合い、持っていた端末にぱちぱちとメッセージを打ち込んで送信した。
『会長。桜花 美月は善人ですご安心を』
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