佐野国春の受難。

千花 夜

文字の大きさ
17 / 29

16.

しおりを挟む






「佐野君、昨日はごめん。君に配慮もなく喋りかけて迷惑かけてしまった」

 
 教室に到着した途端、クソ……委員長に呼び出されて2人きりになった。自然と別れることになった桜花クンが「頑張れ」と笑顔で手を振ってくれたのに俺もヒラヒラと真似して振り返す。
 空き教室に案内された俺は、その中の比較的扉に近い方の机に腰掛けた。

 そして「ごめん」と切り出した委員長を見つめる。


「謝られる事でもない」
「そう右京さんにも言われたよ。でも謝りたかったんだ。だって俺、佐野君と仲良くなりたいから」
「……」


 笑顔のまま、流暢にペラペラと喋る委員長に、眉を顰める。
 彼の笑顔には、桜花クンと紅林先輩のように「本当にそう思っている」と此方に思わせる説得力がないのだ。作り物めいたーーと言うよりは、ようなそれ。

 こんなの、どう受け止めたらいいんだ。

 ここに桜花クンが居てくれたなら、きっと誰も不快にならないように立ち回れるのだろう。


「……俺は、別にいいよ。また謝ってくれてどうも」
「!良かった、じゃあ」

「俺はアンタが桜花クンに謝らないのが不愉快なんだけど」


 「え」じゃねぇよ。
 本当に驚いた様子で固まる委員長をイライラと見つめる。

 俺だって馬鹿じゃない。桜花クンが言う「人気者」についても「親衛隊」の過激派についてもある程度は理解したつもりだ。そして、目の前の委員長が「人気者」である事も。
 でもそれは、委員長がことだろう。

 本当に「新入生のサポートをする」のなら、彼は桜花クンが俺のそばに来た時点で、俺の傍から離れるべきだった。


「それにアンタ、あの時も桜花クンに配慮しなかった」
「!」
「お前の基準で俺達に優劣付けてるつもりか?桜花クンは絶対に気付いてるぞ。気付いてて桜花クンは何も言わずに笑えるんだ」


 フツ、フツ、とお腹の中が煮え滾るような感覚にすこし動揺する。イライラすることはあれど、怒ることはあんまりしたことがない。怒ってもどうせねじ伏せられるなら素直に聞いた方がマシだった。

 けど、桜花クンを蔑ろにするなら話は変わる。

 委員長の深緑の瞳を睨み付け、鼻で笑って見せた。するとようやく委員長の顔から笑顔がペラリ。


「……それはっ、彼が、良かった話だろう?」
「は?」
「だって、君と俺人気者が話してるんだ。彼は気を使うべきで」


 ねぇ、桜花クン。世の中にはやっぱりさ、クソみたいな人達がいるんだよ。ーー俺も含めてね。


 ーーガシャァァァアン!!!


 目の前に合った机を蹴りつける。なぎ倒された机が別の机とぶつかって、耳障りな音が耳を劈く。
 委員長がビクリと大袈裟なほど身体を震わせた。

 ……この学園の委員会全員が不良って訳ではなさそうだ。


「お前にとっては『そう』なのかもしれないけどさ」


 一応「受け止める」姿勢も忘れない俺。流石すぎる。桜花クンに褒めてもらえるかな。


「俺にとってはお前より桜花クンの方が数倍大切なわけ。お前の周りには『人気者』しか本当にいねぇの?そいつの目の前でお前の知り合いでも無いやつに『人気者の俺に配慮しろ』なんて言われたらどう思うんだ?」
「……っ」
「さすがに失礼すぎるよ。お前。『配慮が足りなかった』もただの皮肉か?クソだな。配慮が足りなかったのは言葉通りにお前だよ」


 普段の一日分くらい、今だけで喋った気がする。喉が渇いてきた。

 悔しそうに顔を歪めている委員長を眺め、息を吐く。伝わっているのかよく分からないけれど、言いたいことは言った。
 ところで桜花クン、初対面じゃなくても受け入れ難い場合はどうすればいいの。

 はやく桜花クンのところに戻りたい。頑張ったねって言ってくれるかな。言ってくれるんだろうな。

 
「……この俺が、あんな平凡に配慮……?」
「桜花クンが平凡だとしたら、お前は底辺だな。人を見る目がない」
「誰が底辺だって?」
「お前」


 真っ直ぐに指をさして、教えてあげる。


「お前の価値基準は顔面だけか?じゃあ逆に聞くけどさ、お前には顔面以外に何があんの」
「そ、それは人望とか」
「その人望は本物?この学園を出ても続くと思うか?」


 今度こそ黙ってしまった委員長を見て、俺は先程よりも大きく息を吐いた。なんで俺がこんなことしなくちゃなんないんだ。

 別に、自分の持っているものを使って権力を得る事は間違ってないんだろうけど、それを持ってないからって他人を見下していい理由にはならないのに。
 俺は、桜花クンがイケメンだろうとブサイクだろうと関係なく、彼という人が好きだ。それで良くないだろうか。ブサイクじゃないしね。

 野暮ったいけど。


 遂には俯いてしまった委員長。肩をブルブルと震わせて、両手を握りしめている。
 もしかしてキレるのか?そうすれば俺は逃げるけれど。戦ったらワンチャンバレるし。

 どこで誰が見ているか分からない。


「……あの、帰っていい?」
「やだ」
「は?」
「やだ」


 は?


「やだぁぁああ!!おれ、俺は、君と友達になりたかっただけなのにっ、なんで?ひどいっグスッ…ぅぇえッヒグッぅ、うう……ッ!!」


「……ぇぇぇ……?」


 これ俺が悪いの?

 顔をあげたと思いきや、ボロボロと泣き出した委員長。ポカンと固まってそれを見ていれば、グズグズと更に激しく泣き始める。
 いやいやいやいや、泣きたいのはこっちだが?全部お前が悪くね?え?これ俺が悪いの?

 てか、空き教室とはいえ他の生徒が来ないとも限らないし、「人気者」がこんなところ見せたらそれこそ人気落ちるだろ。
 ん?てか俺、こいつの「親衛隊」敵に回す?いやそれはどうでもいいな。


「だって俺、おれ、ずっとはいりょされてきたもん……!!ズビッおれは偉いんだってもいってたもんんんん!!!ようやく!ようやくっ顔がいい人友達になれる人がきたからっ!さぽーとしよっ、と、おもっ……ぅええええッ」


 委員長は、尚もえぐえぐと両手で涙を拭いながら(効果はイマイチのようだ)泣き続ける。


「桜花クンタスケテー……」


 彼の優しい笑顔を思い出し、俺は静かに目を閉じた。

 世の人は、これを「諦め」と言うのだろう。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

綿毛ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

処理中です...