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しおりを挟む「佐野君、昨日はごめん。君に配慮もなく喋りかけて迷惑かけてしまった」
教室に到着した途端、クソ……委員長に呼び出されて2人きりになった。自然と別れることになった桜花クンが「頑張れ」と笑顔で手を振ってくれたのに俺もヒラヒラと真似して振り返す。
空き教室に案内された俺は、その中の比較的扉に近い方の机に腰掛けた。
そして「ごめん」と切り出した委員長を見つめる。
「謝られる事でもない」
「そう右京さんにも言われたよ。でも謝りたかったんだ。だって俺、佐野君と仲良くなりたいから」
「……」
笑顔のまま、流暢にペラペラと喋る委員長に、眉を顰める。
彼の笑顔には、桜花クンと紅林先輩のように「本当にそう思っている」と此方に思わせる説得力がないのだ。作り物めいたーーと言うよりは、貼り付けたようなそれ。
こんなの、どう受け止めたらいいんだ。
ここに桜花クンが居てくれたなら、きっと誰も不快にならないように立ち回れるのだろう。
「……俺は、別にいいよ。また謝ってくれてどうも」
「!良かった、じゃあ」
「俺はアンタが桜花クンに謝らないのが不愉快なんだけど」
「え」じゃねぇよ。
本当に驚いた様子で固まる委員長をイライラと見つめる。
俺だって馬鹿じゃない。桜花クンが言う「人気者」についても「親衛隊」の過激派についてもある程度は理解したつもりだ。そして、目の前の委員長が「人気者」である事も。
でもそれは、委員長がもっと前から知っていることだろう。
本当に「新入生のサポートをする」のなら、彼は桜花クンが俺のそばに来た時点で、俺の傍から離れるべきだった。
「それにアンタ、あの時も桜花クンに配慮しなかった」
「!」
「お前の基準で俺達に優劣付けてるつもりか?桜花クンは絶対に気付いてるぞ。気付いてて桜花クンは何も言わずに笑えるんだ」
フツ、フツ、とお腹の中が煮え滾るような感覚にすこし動揺する。イライラすることはあれど、怒ることはあんまりしたことがない。怒ってもどうせねじ伏せられるなら素直に聞いた方がマシだった。
けど、桜花クンを蔑ろにするなら話は変わる。
委員長の深緑の瞳を睨み付け、鼻で笑って見せた。するとようやく委員長の顔から笑顔がペラリ。
「……それはっ、彼が、もっと遅く来れば良かった話だろう?」
「は?」
「だって、君と俺が話してるんだ。彼は気を使うべきで」
ねぇ、桜花クン。世の中にはやっぱりさ、クソみたいな人達がいるんだよ。ーー俺も含めてね。
ーーガシャァァァアン!!!
目の前に合った机を蹴りつける。なぎ倒された机が別の机とぶつかって、耳障りな音が耳を劈く。
委員長がビクリと大袈裟なほど身体を震わせた。
……この学園の委員会全員が不良って訳ではなさそうだ。
「お前にとっては『そう』なのかもしれないけどさ」
一応「受け止める」姿勢も忘れない俺。流石すぎる。桜花クンに褒めてもらえるかな。
「俺にとってはお前なんかより桜花クンの方が数倍大切なわけ。お前の周りには『人気者』しか本当にいねぇの?そいつの目の前でお前の知り合いでも無いやつに『人気者の俺に配慮しろ』なんて言われたらどう思うんだ?」
「……っ」
「さすがに失礼すぎるよ。お前。『配慮が足りなかった』もただの皮肉か?クソだな。配慮が足りなかったのは言葉通りにお前だよ」
普段の一日分くらい、今だけで喋った気がする。喉が渇いてきた。
悔しそうに顔を歪めている委員長を眺め、息を吐く。伝わっているのかよく分からないけれど、言いたいことは言った。
ところで桜花クン、初対面じゃなくても受け入れ難い場合はどうすればいいの。
はやく桜花クンのところに戻りたい。頑張ったねって言ってくれるかな。言ってくれるんだろうな。
「……この俺が、あんな平凡に配慮……?」
「桜花クンが平凡だとしたら、お前は底辺だな。人を見る目がない」
「誰が底辺だって?」
「お前」
真っ直ぐに指をさして、教えてあげる。
「お前の価値基準は顔面だけか?じゃあ逆に聞くけどさ、お前には顔面以外に何があんの」
「そ、それは人望とか」
「その人望は本物?この学園を出ても続くと思うか?」
今度こそ黙ってしまった委員長を見て、俺は先程よりも大きく息を吐いた。なんで俺がこんなことしなくちゃなんないんだ。
別に、自分の持っているものを使って権力を得る事は間違ってないんだろうけど、それを持ってないからって他人を見下していい理由にはならないのに。
俺は、桜花クンがイケメンだろうとブサイクだろうと関係なく、彼という人が好きだ。それで良くないだろうか。ブサイクじゃないしね。
野暮ったいけど。
遂には俯いてしまった委員長。肩をブルブルと震わせて、両手を握りしめている。
もしかしてキレるのか?そうすれば俺は逃げるけれど。戦ったらワンチャンバレるし。
どこで誰が見ているか分からない。
「……あの、帰っていい?」
「やだ」
「は?」
「やだ」
は?
「やだぁぁああ!!おれ、俺は、君と友達になりたかっただけなのにっ、なんで?ひどいっグスッ…ぅぇえッヒグッぅ、うう……ッ!!」
「……ぇぇぇ……?」
これ俺が悪いの?
顔をあげたと思いきや、ボロボロと泣き出した委員長。ポカンと固まってそれを見ていれば、グズグズと更に激しく泣き始める。
いやいやいやいや、泣きたいのはこっちだが?全部お前が悪くね?え?これ俺が悪いの?
てか、空き教室とはいえ他の生徒が来ないとも限らないし、「人気者」がこんなところ見せたらそれこそ人気落ちるだろ。
ん?てか俺、こいつの「親衛隊」敵に回す?いやそれはどうでもいいな。
「だって俺、おれ、ずっとはいりょされてきたもん……!!ズビッおれは偉いんだって上もいってたもんんんん!!!ようやく!ようやくっ顔がいい人がきたからっ!さぽーとしよっ、と、おもっ……ぅええええッ」
委員長は、尚もえぐえぐと両手で涙を拭いながら(効果はイマイチのようだ)泣き続ける。
「桜花クンタスケテー……」
彼の優しい笑顔を思い出し、俺は静かに目を閉じた。
世の人は、これを「諦め」と言うのだろう。
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