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25. side.桜花 美月
しおりを挟むふと目覚めたら、外で今にも死んでしまいそうな程身体を震わせ、唇を噛んで通話をしている友人を見て。
その目が出会った当初のようにドロドロと濁っていくのを見て。
その根源を潰そうと咄嗟に思うのは、友人としておかしい事なのだろうか。
「国春くん、」
「……紅林先輩のとこいく用事あるから」
何度声をかけても彼は冷たい目で僕を一瞥するだけで、何も聞いてくれない。それどころか逃げるように教室から出ていってしまう始末で、僕はしょんぼりと肩を落とした。
皆も僕達の唐突な変化に戸惑っているのか、遠巻きに僕達を見つめるばかりだ。
「寝てる間に何があったの?」
「……ちょっと、言い合いになって」
「大丈夫?」
「……」
ズキズキと痛む胸を抑え、俯く。それでも要くんに心労をかけたくなくて無理矢理笑顔を作った。しかし、相当下手だったのだろう。彼はかえって心配そうな色を濃くした。
まだ、踏み込む時じゃなかったんだと思う。僕はタイミングを間違えてしまった。
警戒心の高い彼にはより一層慎重に関わっていかなければならなかったのに。心配が我慢を上回ってしまったから。
僕は頬を膨らませ、拗ねた顔を作る。これ以上要くんやクラスの皆に心配をかけたくはなかった。ーーきっと、その心配は視線となって彼を苦しめてしまうから。
「紅林先輩と随分仲良くしてるらしいな。風紀委員長様が警戒してたよ」
「…………そう」
「み、ミツ?」
ふーん。
僕より先輩がいいんだ。
今も先輩のところ行くって言ってたもんね。というか長時間休憩の度に行ってるもんね。
ふーーーん。
ぷく、と頬が膨らんでいく。要くんが何故か引き攣った笑みを浮かべた。
「あはは!僕の謝罪とか弁解を少しも聞かないで決め付けられるの、すっごく腹が立つね!」
「ヒェ」
「ふーーんそんな事するんだ。そんな事するならこっちにも考えがあるもんね」
ねぇ、紅林先輩。
貴方の魂胆なんて分かってますよ。大方国春くんを丸め込んで自分だけのものにしようだとか考えているんでしょうけれど。
「桜花」の人間がどれだけ執念深く「桜」を求めているか、貴方は勿論知ってますよね。
「……誰が許すか」
「ヒェエ」
「要くん?ねぇ、僕のこと手伝ってくれるよね?」
「ア、ハイ」
彼に過剰の負担を掛けたくないから、暫くは紅林先輩のもとでゆっくり休んで欲しい。けれど、僕がやっと手に入れた友達をそう簡単に手放すと思ったら大間違いだ。
たった一度すれ違った程度で、友達関係すらなかったことになるなんて信じたくない。
もう、そんなのは嫌だ。
「国春君、迎えに来たよ」
「は?なんで」
終礼が終わってすぐ、ガラリと扉を開けて顔を覗かせた紅林先輩に教室がにわかにザワつく。国春くんはそれに顔を少し顰めつつも、素直に頷いて立ち上がって。
1度も、僕の方なんて見やしない。
「…………」
先程まで奮起していたのが嘘のように心が落ち込んでいく。周囲の生徒たちが俺をチラチラと見てくるのもまた、僕を惨めにさせた。
国春くんは全く僕の方を見てくれない。それどころか僕が少しでも近付こうものなら猫のように警戒して離れてしまう。
じわ、と視界が滲んだ。要くんが大慌てで「大丈夫だよ、今だけだって」と背中を撫でてくれるが、僕は亀裂が2度と戻らないことがある事を知っている。
「桜花」といえば、メディア界隈に多くの人材を輩出し権威を誇る家系だ。古くは「忍」として諜報暗殺あらゆる面で主の命令を遂行してきたらしい。
だから、当然の普通のーーいや少しだけ裕福な人間が集う私立中学で、「桜花」の僕は非常に目立っていた。
何となく遠巻きにされつつも、それでも表面上の関係を築いてそれなりに日常をすごしていたある日。
「……桜花ってさぁ。自分がウザイ奴っていう自覚ある?」
「無意識でやってんの?その金持ち自慢。俺達のこと見下してんのバレバレなんだけど」
ごめんねと謝っても、何処が悪かったか教えて欲しいと言っても赦して貰えなかった。結局自分の何が悪かったのか分からないまま、僕はクラスの中で一人ぼっちで。
話し合いの機会すら持たせて貰えない。何故嫌われてしまったのか分からない。
それが、どれだけ辛くて惨めだったか。
『俺、桜花クン見習って行動する』
そう君が言ってくれたことが、どれだけ僕の勇気と活力になったか。
ぐしぐしと潤んだ目を擦り、歯を食いしばる。そのままバッと勢いよく顔を上げて(目の前にいた要くんが悲鳴をあげて仰け反った)、まだ教室の前で紅林先輩と喋っていた国春くんを睨みつけた。
「国春くん!!!!」
「!?」
教室中に響き渡る大声に、国春くんがビクリと大袈裟なほど身体を震わせる。
どう見てもそれ、ただうるさいだけの反応じゃないよ。心配するに決まってるよ。
紅林先輩が護るような素振りで国春くんを柔らかく抱き締めるのが、無性に腹立たしい。
彼がただ本当に護りたいだけなら僕は素直に身をーー引かないけれども。まぁ認めてやってもいい。けれど、彼はただ私欲を満たしたいだけだ。彼はそういう人間だ。
「新入生歓迎会で僕の方が順位高かったら仲直りしてもらうからね!!本気だからね!」
「ーーお、」
「国春君、気にする事はないよ。行こう」
「っ、紅林先輩の馬鹿!!!!ばーーーか!!!!国春くんは僕の友達だもん!!!」
「……ぁあ"?」
威圧したって無駄だ。涙は出るし身体はブルブル震えてるけど、僕は勇気を出すんだ。
空恐ろしい笑顔のまま教室に入って近付いてくる彼に、目を瞑る。ああやっぱりこわい。こわい。こわい。殺されてしまうかも。
「これ以上怯えている彼に近付くのなら、貴方を加害行動で風紀委員会に通報しますよ。紅林 桃李先輩。貴方は本来この校舎に入る権利がない。今まで佐野 国春の同意により許可していましたが、委員長権限で進入禁止にしてもいいんだ」
「か、なめ、くん」
ぶわ、と。涙が溢れた。
「……ソイツの誹謗中傷に怒るくらいの権利は俺にもあるだろう?」
「怒りは同様に言葉でどうぞ。わざわざ入室してまで威圧する必要が?」
「それに、ハル、もう居ませんけど」
え、と言って紅林先輩が振り返った先には、既に国春くんの姿はなかった。
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