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しおりを挟む「国春くんは僕の友達だもん!!!」
その言葉が、本当に仮初のものなのか。分からないまま、俺は教室を走るように後にした。先輩?知らん。あとからついて来るでしょ。
「緊張しぃ」でビビりの桜花クンが、恐ろしい人だと評していた紅林先輩に反抗して。運動音痴なのに、俺に対して勝負を持ちかけてきた。
でも、俺は新入生歓迎会で目立ってはーーましてや高い順位なんで取ろうものなら「息子」に殺されかねない。
「……っ、ケホッ」
ぐっ、と喉が詰まる感覚に咳き込む。別に、あんなに運動が出来ないなら、高い順位を取らなくたって余裕で勝てる。なのに、彼が高い順位をとる前提になっている自分に驚いた。
こんなの、まるで勝って欲しいみたいじゃないか。
周囲の視線を断ち切るようにさっさと校舎から出て、足早に茶室の方向へと向かう。沢山の目が嫌で、込み上げてきた苛立ちと殺意をガリガリと首筋を掻いて誤魔化す。
「はぁ……馬鹿らし」
「何が~?」
「さぁ。もう色々わかんなーー……!?」
は?
ザッと芝生を踏み締め、慌てて隣の知らない人の気配から距離をとる。そして、「わぁ~すごぉい」とゆっるい声と身振りでパチパチ手を叩く男を睨みつけた。
全く気配も違和感もなかった。耳元で、囁かれるまで気付かなかった。なんなんだコイツ。
パッと見は地味な印象だ。「人気者」ではなさそうなツラに、出で立ちも目立つ生徒のそれではない。けれど、何となくヤバい奴だってことは伝わってくる。
「……なんだお前」
「お~いおれ先輩だよ~?酷くねぇ?あ~あ、ショックだぁあ~まぁ良いけど~」
間延びしたしゃべり方は「ABYSS」の「特攻隊長」と似ている。けれど、彼のそれは癖だった。これは……ただやる気がないだけ。のように見える。
一重に、ダルそう。知らんけど。
取り敢えず彼の手足が俺の身体に届かない位置にまで離れる。すると、彼はヘラヘラと力なく笑いながら(最早取り繕う気もない作り笑顔だ)ゆるーく両手を上げた。
「そんなに警戒する~?おれそんな怖いかなぁあ」
「……」
「はぁ~?無視かよ。まぁいいやぁ。あんま時間とると~トーリに怒られそうだしぃ手短に~」
とーり……とーりって誰だっけ。頭のてっぺんまでは出てきているのに思い出せない。首を傾げれば、男はビックリした顔を作り、「何アイツ~あんだけ堂々と宣言しておいてぇ、名前も覚えられてないのくそウケる~あはは」と笑った。
どうやら俺に関わる人間の知り合いらしい。知り合いは少ないので消去法。
ーー紅林先輩か?ごめん先輩。忘れてたわ。
「一匹狼くんさぁ?平凡くんと仲悪いんでしょ~?」
「一匹狼……?平凡…………?」
「お前とお前の1番の友達な~?仲悪いんでしょお~?」
こくり、と頷く。だって事実だから。すると何故か目の前の男はドロッドロに溶けた瞳をキラキラと器用に輝かせてみせた。
こいつの目、見てると頭おかしくなりそう。
彼は1歩踏み出すと(その分俺も下がった)グッと自信ありげに両手を握った。
「あのねぇ~?それだと困る訳ぇ。仲直りしようぜぇ?きっとその方がお前のためになるよ~」
「困る?」
「そそそ~おれの精神衛生上ねぇ」
「知りませんけど」
「ハハッ生意気属性も追加する~?良いねぇ益々モブレ向きじゃん~歓迎会が楽しみだなぁ」
「もぶれ」?何それ。
無意識に顔を顰めてしまう。この人、話が難しいし要領を得ない。話しているとイライラする。
しかし彼は俺の苛立ちを敏感に察知したのか、今度はするりと1歩下がった。俺は現状維持である。
さっさと話を終わらせてしまいたい。無言で続きを促すと、彼はヘラ、と笑った。
「おれさぁやっぱ逆CPがいいっていうかぁ、平凡×一匹狼派閥なのね~?どっちもイケるけど~」
「だから何の話を、」
「トーリでも面白そうだったけど~最近のおれは癒しをもとめてたっていうかぁ?だから正直平凡くんと仲直りして欲しいなぁ~って。だからさぁ?」
新入生歓迎会、おれお前の邪魔するね~?ごめんねぇ。
そう、謎の宣言をした先輩(仮)はヒラヒラと適当な手つきで俺に手を振ると、俺の返事を待つことなく何処かへ行ってしまった。……え、まじで何だったんだ?
新入生歓迎会の邪魔、という事は俺を捕まえるってことだろうか。別にいいけれど。
首を傾げつつも、再度茶室の方へと足を進める。もしかして連翹と月居のどちらかだろうか。でも媚び売るも何も今日初めて会った。
「連翹と月居?連翹が生徒会長で、月居が風紀委員長だよ。どっちも俺は嫌いだね」
「へぇ……」
媚び売ってないどころか生徒会長に至っては直接会ってもねぇよ。言いがかり過ぎないだろうか。ーー否、「彼ら」の言い分に「言いがかり」がなかったことがあっただろうか。いやない。
茶室で合流した先輩(何故か俺以上にイライラしていた)と一緒にお菓子を摘む。今日のお菓子は「おはぎ」というらしい。滅茶苦茶美味しい。
先程の先輩の友人(暫定)と会ったことはなんとなく伏せて、知らない2つの名前を質問したら、すぐさま返答が帰ってきた。
むしろなんで知らないの?と呆れられたのがイラッとしたので、先輩の分のおはぎも自分のお皿に盛り付ける。
それにしても、「総長」滅茶苦茶かっこいいな苗字。名前は知らんけど。流石だなぁ。だって彼自身も物凄くカッコよくて頼りになる存在だったから。
名は(苗字だが)体を表すとはこういうことか。月居?敵だから分かんない。
納得したので頷けば、今度は彼が優雅に首を傾げた。
「なんで?」
「?」
「なんでそれが気になったの?」
「……皆が話してて、誰だっけってなりました」
「……そう」
何となく、彼のことは言わない方がいいような気がして。
おはぎをじっと見つめたまま口を閉ざした。
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