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5話

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「いえ誤解です、本当に!あれは、その……。恐れながら、ケニー様に勉学のご指導ご鞭撻を受けておりました」

よしよし、よく言ってくれた。
庶民のくせに、ルイというこの男は素直な奴で、良い奴だ。俺の婚約者、かっこ仮、も見習って欲しいものだ。

……それにしても、まあ。
喝を入れた覚えなら、確かに多々あるが。この俺が、仮にも第2王子の婚約者という、国民の手本になりうるべき存在のこの俺が、たとえ平民相手に暴力を振るうなど。とち狂ったわけでもあるまいに、進んでするわけないだろうがバカ王子め。

その点、ルイ・パターソンという男は、平民だが筋はいい。コイツの数少ない美点であるバカ正直をきちんと出して、素直に事実をありのままに答えるところがエラい。まあ、もうちょっと垢抜けて欲しいものだが、これから磨かせるしかないだろう。

「勉強?宿題の量があるにしても、そんな長時間拘束される理由はないのではないのか?しかも夕飯時にも食堂に顔を出さないと聞いているが」

「えっと、ですね……。確かに食堂には行きませんでしたが、食事は頂いております。正確に言いますと、食事の際のマナーを、教わっておりました」

「なに?」

平民が、食事のマナーをわざわざ覚えること自体は、貴族が通う学園としては間違いではない。しかし、それをわざわざ、仮にも第2王子の婚約者直々に教わる理由が謎だ……とでも、思ってるのかもしれない。俺自身も、この件に関わっていなければ、同じことを思っていただろう。

「……本当に、そうだとして。何故わざわざ、彼にそんなものを頼むのだ。お前が望むなら、俺が用意して」

「ーーそれは、私から提案したことだ」

ここに来てようやく、俺の出番である。



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