46 / 56
珍客:真っ黒くろりん
しおりを挟む
その日、クラーク公爵家に驚くべき訪問者がいた。クラーク公爵夫人をはるかに上回る腹黒が。
オリヴァーと、プロポーズ以降、公爵家に戻っていたシルヴィアにとっては初めての対面であった。
*
イーサンは父に聞いた通りにある場所に来ていた。自分が色々学んだ山の中のある場所に。
一人で行けとのことで、共の者たちは来ないように指示しておいた。
〘崩壊の危険あり立入禁止〙
と、注意書きがいくつかある遺跡。一見、確かに崩壊しそうである。
だが、この中に前王夫婦が居るという。
外苑風景が素晴らしい離宮で暮らしていたはずなのだが、王だった頃よりも自由が聞くようになり、あちこち出かける様子はあった。そして退いてはいるものの、影の公務のようなものをしていた。
でも、今現在、ここだって???
中が崩壊して死んでるとかってことはないよね?
イーサンは躊躇したが、崩れた入口を覗き込むと、人が通れる程の空間があることに気付いた。そしてよくよく見れば、確かに崩れた入口なのだが、その外観を維持した形で補強されていることに気付いた。
つまり、見た目に騙されるなって事か。
やれやれ、とイーサンは多少のアウトドアグッズを入れた袋を持って入口を潜っていった。
前に進むと奥から灯りが漏れてきていることに気付き、そちらの方向へ向かう。
何人かの人の気配に気付いたが、イーサンが誰なのかを把握しているのか、何かアクションをかけてくる様子もない。
やがて道が2つに分かれる。
イーサンは姿を見せない者たちに声をかけた。
「申し訳ないが、祖父達はどちらにいるか教えてもらえないだろうか?」
「左へ。」
一言だけ返事があった。
進むとやがて大きな岩にぶち当たった。行き止まり。
だが、左へと言われた。そして入口のことを考えると、
見た目に騙されるな
ということになる。つまり、一見天井が一部崩れて、岩が転がって進めないように見えるだけ。
慎重に隅を見ていく。やがて、暗がりの一部を角度を変えて見てみると、さらに暗くなってる部分に気付く。光と影を利用した目の錯覚か何かがあるのではと思い、そちらに手を伸ばすと、進めることに気付く。
やがて、遺跡とは思えない、明らかに現代に造られた廊下と扉が見えてきた。
イーサンは扉を開けた。
*
クラーク公爵夫人は呆気にとられていた。
眼の前の珍客に。だが、公爵家に姿をみせた理由もわからなくもない。
夫の家系の件か、未来の孫嫁の件だろう。
夫の義両親も、夫の実母も、目の前の人のことを『黒ダヌキ』と表現していた。
亡くなった夫の実父に至っては自分の親友なのに『真っ黒くろりん』と呟いていた。
「ご無沙汰しております。そしてようこそおいで下さいました。
本日はどのようなご用件で?
生憎と主人は本日城で仕事をしておりまして屋敷には不在でございます。」
珍客は静かに微笑んでいた。
*
「え?何と言いました?今?」
イーサンは久しぶりに会った祖母に驚いた表情で声をあげる。
それ以前に何故立ち入り禁止の遺跡の奥に立派な居住スペースがあるのか等確認したいことがちょこちょこあるのだが、それよりも祖母の話した内容のほうがイーサンにとっては一大事だった。
祖父にあって話がしたいとイーサンはここに来た理由を説明したのだが、祖母から
あの人なら出掛けたわよ。クラーク公爵家に。
との返事。
「な、何故?」
「あら。だってうふふ。
おめでとう、イーサン。シルヴィアちゃんを無事に捕まえたんでしょう?」
「って、ことは・・・はぁ?まさかシルヴィアに会いに行ったの?お祖父様!」
「そりゃあ、レイルズの件だけならばレイアルズ公爵家に行くだろうし、クラーク公爵家と言って出掛けた以上、当然シルヴィアちゃんにも会うでしょうよ。私は会ったことがあってもあの人はなかったからねぇ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!あの人変な刺激しないでしょうね?
やっと思いが通じ合えたのに止めて?」
イーサン、あわててもと来た道を戻り始めた。
「気をつけるのよ~。」
背後から祖母の声が響いた。
オリヴァーと、プロポーズ以降、公爵家に戻っていたシルヴィアにとっては初めての対面であった。
*
イーサンは父に聞いた通りにある場所に来ていた。自分が色々学んだ山の中のある場所に。
一人で行けとのことで、共の者たちは来ないように指示しておいた。
〘崩壊の危険あり立入禁止〙
と、注意書きがいくつかある遺跡。一見、確かに崩壊しそうである。
だが、この中に前王夫婦が居るという。
外苑風景が素晴らしい離宮で暮らしていたはずなのだが、王だった頃よりも自由が聞くようになり、あちこち出かける様子はあった。そして退いてはいるものの、影の公務のようなものをしていた。
でも、今現在、ここだって???
中が崩壊して死んでるとかってことはないよね?
イーサンは躊躇したが、崩れた入口を覗き込むと、人が通れる程の空間があることに気付いた。そしてよくよく見れば、確かに崩れた入口なのだが、その外観を維持した形で補強されていることに気付いた。
つまり、見た目に騙されるなって事か。
やれやれ、とイーサンは多少のアウトドアグッズを入れた袋を持って入口を潜っていった。
前に進むと奥から灯りが漏れてきていることに気付き、そちらの方向へ向かう。
何人かの人の気配に気付いたが、イーサンが誰なのかを把握しているのか、何かアクションをかけてくる様子もない。
やがて道が2つに分かれる。
イーサンは姿を見せない者たちに声をかけた。
「申し訳ないが、祖父達はどちらにいるか教えてもらえないだろうか?」
「左へ。」
一言だけ返事があった。
進むとやがて大きな岩にぶち当たった。行き止まり。
だが、左へと言われた。そして入口のことを考えると、
見た目に騙されるな
ということになる。つまり、一見天井が一部崩れて、岩が転がって進めないように見えるだけ。
慎重に隅を見ていく。やがて、暗がりの一部を角度を変えて見てみると、さらに暗くなってる部分に気付く。光と影を利用した目の錯覚か何かがあるのではと思い、そちらに手を伸ばすと、進めることに気付く。
やがて、遺跡とは思えない、明らかに現代に造られた廊下と扉が見えてきた。
イーサンは扉を開けた。
*
クラーク公爵夫人は呆気にとられていた。
眼の前の珍客に。だが、公爵家に姿をみせた理由もわからなくもない。
夫の家系の件か、未来の孫嫁の件だろう。
夫の義両親も、夫の実母も、目の前の人のことを『黒ダヌキ』と表現していた。
亡くなった夫の実父に至っては自分の親友なのに『真っ黒くろりん』と呟いていた。
「ご無沙汰しております。そしてようこそおいで下さいました。
本日はどのようなご用件で?
生憎と主人は本日城で仕事をしておりまして屋敷には不在でございます。」
珍客は静かに微笑んでいた。
*
「え?何と言いました?今?」
イーサンは久しぶりに会った祖母に驚いた表情で声をあげる。
それ以前に何故立ち入り禁止の遺跡の奥に立派な居住スペースがあるのか等確認したいことがちょこちょこあるのだが、それよりも祖母の話した内容のほうがイーサンにとっては一大事だった。
祖父にあって話がしたいとイーサンはここに来た理由を説明したのだが、祖母から
あの人なら出掛けたわよ。クラーク公爵家に。
との返事。
「な、何故?」
「あら。だってうふふ。
おめでとう、イーサン。シルヴィアちゃんを無事に捕まえたんでしょう?」
「って、ことは・・・はぁ?まさかシルヴィアに会いに行ったの?お祖父様!」
「そりゃあ、レイルズの件だけならばレイアルズ公爵家に行くだろうし、クラーク公爵家と言って出掛けた以上、当然シルヴィアちゃんにも会うでしょうよ。私は会ったことがあってもあの人はなかったからねぇ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!あの人変な刺激しないでしょうね?
やっと思いが通じ合えたのに止めて?」
イーサン、あわててもと来た道を戻り始めた。
「気をつけるのよ~。」
背後から祖母の声が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる