名を忘れた悪役令嬢

御伽夢見

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一番上と末っ子とテーミス

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 「・・・何のようだ?あざ笑いに来たのか?」

シリウスが部屋に顔を出すと開口一番に嫌味を言ってしまう第一王子ジュスター。本当は顔が見れて嬉しいはずなのに、様々な重圧が心の闇を深くする。

 「違うよ。何故あざ笑いに来なければならないの?兄上が心配だからに決まってるでしょ?
僕は伝えたよね、彼女に辛く当たらないでって。でも結果的にアリアドネが刃物を持ち出し、テーミスは階段から落ちた。」

 「違う。僕に落とされた・・・・・が正解だろうが。」

 「気付かないと思ってる?突き飛ばしたくせに咄嗟に助けようと手を伸ばそうとしていたでしょう?
兄上は本当はテーミスを危険な目に合わせたくなかったのでしょう?」

 「そんなことを聞いてどうするんだ?理由は何であれ、最終的には僕が彼女達を追い詰めた。それが結果であれ、答えだ。」

 「いいや。兄上はまだ知らされていない事がある。彼女達は生きてるよ。テーミスはまだ不調だけれども。」

 ジュスターは両手で顔を覆った。

 “生きている”

 今の第一王子にとってそれは僅かな救いだった。末の弟の目の前で涙を流し始めた。
 泣いたのは何年ぶりなのか。

 「沙汰はどうなった?どのみち僕は廃嫡だ。あいつ片割れだって逃れられるとは思わない。思い込まされたとはいえ、僕を止めないどころか一緒にいじめていた・・・・・・のだから。残りはお前だけだ。どう考えてもお前が国を背負う事になるだろう。」

 「さぁ?決めるのは僕じゃない。それに廃嫡になったとしてもおかしくないことをして落ち込んだ人間だからこそ、他人の痛みを感じることができる。反省しているならなおのこと。諦めるのは早いんじゃないかな?実際に兄上達に対しての最終判断はまだ下されていないでしょう?」

 「お前、バカか?」

 「うん。バカで結構だ。バカだから兄上達に頑張ってもらわないとね。」

 シリウスはニコッといたずらっ子のように笑った。そして真面目な顔になる。

 「廃嫡有無はともかく、テーミスの事だけど・・・。」

 途端にジュスターの顔色が変わり、こわばる。

 「彼女は記憶が抜け落ちてる。そこまで彼女は追い詰められた。怪我が原因ではないようだよ?自分にまつわるものを忘れてしまいたい程傷付いていたんだ。その点は僕は怒ってる。
兄上達にではないよ?僕自身にだ。身体を守っても心は守れなかった。僕の罪。

だから兄上、どんな理由であれ自室こここら出れる時がきたら、彼女に会ってね?勿論、以前のように優しくだよ?」

 「わかった。そんな日が来るならば・・・・・・・・・・だがな。
それにテーミスはお前が必要だろう。」

 「お互いの感情はともかく、もし婚姻の王命が下されたらテーミスは僕達誰かの妻となる。貴族として政略結婚の話は避けられない。それはアリアドネも同じ。
 多分個人の感情論だけでは済まされない。
第一、彼女らの心に誰が住んでいるのかはわからないでしょう?」
 

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