願いを持ちしはじまりの緑石

御伽夢見

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第二章 光でも闇でもなく

満たされる空腹感④

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 もどきの意識に弱々しい光が視える。もどきの微かな希望。すがるような微かな光。
 ルーカスが集中するとそこに泣いてる王妃と思われる女性が子供を抱きしめてるようなイメージが浮かんてくる。
 

 兄達よりも自分は母に叱られてばかりだと先程話していたな。母親の話は嫌がったな。

 では抱きしめられてるこの思い出は何故大切なんだ。怒られても怒られても力を使ったのは何故か。母よりも自分のほうが呼び名に相応しいと俺達に言ったのは何故か。
 
 かあ様を返せと叫んだのは・・・

 ルーカスは探りながら、もどきの微かな光にパワーを送る。微かな光はやがて小さくともはっきりした光になってくる。

 もどきの動きがそれに伴い鈍くなる。ジョーンズに攻撃を仕掛けるような動きが止まり、手で胸を押さえている。

 ルーカスはクルーに話しかける。

 「クルー、もう一度言うぞ。誰かから許しをもらう必要はない。小さい頃のお前をお前自身が許してやるんだ。許そうとしてないのはお前自身だよ。」

 「僕が、許す?」

 「そうだ。もっと力を抜くんだよ。小さい頃のお前は頑張ったんだよ。」

 クルーの右眼から涙が流れ落ちる。クルーの心に陽だまりのような優しい光がどんどん溢れてくるのが感じられる。

 「クルー、すまないが妹よりも先にお前に甘えてくっついてるやつを悪夢から救ってやれ。夢を操るやつに同じく夢に干渉できるクルーが救うんだ。遠いとはいえそいつと血が繋がりがあるだろうお前が救ってやれ。」

 「救う?・・・悪夢から・・・でもどうやって。」

 「無意識とはいえ以前力を使っていたのならばやり方がわからなくてもいい。助けたいって強く願うんだ。お前のようにこいつも本当は母親が大事なようだ。」

 それを聞き、クルーは考える。自分は母を助けるのに必死だった。変な事をしようとしてるコイツも母親が大事?母親が大事な気持ちは同じ・・・

 ねぇ、君を助けたい。胸が苦しい程大事なのでしょう?

 もどきの光にルーカスがパワーをさらに送る。その気になればルーカスはこのままもどきを消すことも出来るだろう。でもそれでは救いにならない。解決しない。もう、もどきは動こうとしない。

 

 クルーの頭に映像が浮かぶ。いや、視える。何故なのと泣く女の人の姿。女性が上から見つめているような角度。息をするのも苦しいような感覚が襲うが、これはもどきの感覚だ。
 
 子供の声が、きこえる。


 嫌だ、このまま死んじゃうのは嫌だ。かあ様、僕は僕は本当は・・・・・。 



 許さない、許さない。何で僕が。何で僕だけが寂しいんだ!神なんて信じない!





 子供が闇に追いかけられる様子が視えるが、その闇もまた、同じ顔をした子供が背中に背負って、逃げるもうひとりの自分を追いかけてる。だが、どちらからも恐怖の感情が流れ込んてくる。
 呑まれる恐怖と呑み込みたくないのに呑み込もうとする恐怖。これがこいつの悪夢。

 怖がらないで。ソレは夢。君は母親に愛されている。子供との永遠の別れにこれ程までに愛に溢れた瞳から涙が流れていたじゃないか。クルーが逃げてきた子供と追いかけてる子供をその腕に引き寄せる。自然とあたたかいオーラのようなものが身体から湧き上がる。



 ルーカスとジョーンズは、胸を押さえていたクルーの腕から力が抜け、だらんと腕が下へ落ちたのを見た。ルーカスはすでにパワーを送ってはいない。そして気配が1つ消えていた。

 「クルー?」

 しばらくの間の後、クルーが反応した。

 「大丈夫です。多分。もう声は聞こえない。」

 「そうか。力の感覚がよくわからないままで使ったのだから想像より疲れてるとは思うが、そのままフォリーの方へ行けるか?
 妹は基本素直だが、稀に頑固になることがある。まさに今がその稀の一つだが。何かの目的を果たすまでは、俺が何か言っても聞こうとしないと思う。だから説得してきてくれ。」

 頷き、クルーはフォリーの側へ寄る。
 途端に黒いモヤが足掻き始める。

 集中するんだ、さっきみたいに助けたいと願えばきっと。
 まるで誰かに願うかのように思いつつクルーはフォリーの手を握った。

 映像が、見える。何ともえげつない映像が。






 「若様。姫さんのお人好しを利用しましたね?」

 ジョーンズがルーカスにため息混じりで話す。

 「かもな。第三者の『お願い』を叶えてくれるかなと思っただけたけどな。それにな、いくら招かれたとはいえ、これ以上迷惑をかけるのは忍びないこと位フォリーもわかってるはずだ。ただ、何か成し遂げようとする機会が目の前にくると、そっちに集中してしまう事があるから。」

 「確かに、そろそろ起きて頂かないとですよね。姫の集中力は素晴らしいですが、ちょっとそこから視線を反らせてもらわないと。
 迷惑どころか、外野のネズミも暴れだします。」

 ルーカスはフォリーの顔を見つめた。





 クルーは眼を背けたくなった。暗がりに辺り一面血の海。自分を含めた見覚えのある人物が数十人倒れている。『クルーの姿』だけでも何人いるのか。

 その中央に白髪の人物が座り込んでいる。
 クルーは近寄り、声をかける。

 「フォルガイア姫。」

 名を呼ばれ、眉をピクっとフォリーは動かすが、無表情で奥の方を見つめている。
 そこにはあの黒いモヤと思われる影が、小さく薄くなった状態でいた。

 「姫。聞いて頂きたい事があります。」

 表情は変わらず、黒いモヤを見つめたままだが、名に反応したのだから姫に声は聞こえてるはず。
 でも、この惨状は悪夢だけが作り出したのか?過去体験した何かと混ざった悪夢なのか?

 人形になる程の体験に人の死が関わっていたのではないかとクルーは心が苦しくなってくる。

 黒いモヤがクリスタルの中に一緒にいたということは、そいつはそのきっかけの出来事に関わっていたのかも知れないとクルーは気付いていた。

 たまらずクルーはフォリーの目の前に移動し、自分の姿で黒いモヤが見えないよう遮る。

 「姫。貴方があのモヤに何を思い、考えてるのか、何を探ろうとしてるのか僕にはわかりません。でも、それを止めてでもお願いがあるのです。」

 フォリーは無表情だったが、クルーに視線を向けた。

 「僕は幼い頃、貴方が心を閉ざしたとの話を聞いて、ティラードに行きたくてダダをこねました。楽しく遊んだ貴方が、怖い夢をみているから引き籠っているのではと思ったのです。でも引き籠もるどころか実際はほぼ人形状態だったと知りました。僕は友達を何も助ける事が出来ないんだと落ち込み、こころの傷を隠すように中途半端に当時の記憶を、思いを封じたようです。」

 フォリーからは返事はないが、視線はクルーの方を向けたままだった。

 「でも、再び皆様に関わり、今回記憶もはっきりしました。当時の思いも傷も。
 お願いです。僕を助けて下さい。クリスタルの件で助けて頂いたところへ図々しいとは思います。
 でも僕はあの頃の僕を助けたい。自分勝手な思いです。でも、貴方が目を覚ますところを目の前で見せてください。あの頃の僕を救ってください。そうしないとまた僕は自分を許せなくなるかもしれません。」

 フォリーの瞳が揺れたように見えた。

 血で汚れたフォリーの右手がクルーの左頬に触れる。

 「貴方を傷つけてごめんなさい。」

 「いえ、姫は何も悪くありません。チビの僕が何もわかってなく、勝手に騒いで勝手に落ち込んだだけだったんです。でも願わくば今の僕も貴方が無事に起きてくるところを確認したい。今回の件で貴方を巻き込んでしまって!」

 「巻き込まれてないわ。貴方は責任を感じることはない。」

 フォリーの言葉にクルーは胸がつまる。せめて血の海を何とかしたいと思い、床の血に手を触れる。
 すると、血の海が一気に白い花畑に変わる。倒れた人影もない。

 クルーは驚くが、同時に自分がやったと感じていた。
 フォリーは大きく眼を開け、花をみつめる。

 「綺麗・・・これは?」

 「この花はワイスです。貴方とディラン王子のおかげで取り戻せたあの種が、子孫を残せばいずれこのような花畑もみれるでしょう。」

 「そう。それは楽しみね。」 

 フォリーの顔に笑顔が生まれる。
 それを見てクルーは何か満たされた感覚が生じた。そして、今回の悪夢を自分が白い花畑に変えたのだと改めて理解した。

 フォリーが立ち上がる。黒いモヤに近寄る。モヤはもはや動けないほど弱っていた。

 「姫!近寄ってはなりません。」

 クルーが慌てて声をかける。フォリーが一度振り返り笑顔をみせると再びモヤに向き直り、手をかざす。

 「苦しまないで。」

 モヤにそう語りかけ、手からまばゆい光が発せられた。

 その場面を最後に、クルーの意識は現実に戻る。

 「あ・・・。」

 クルーが声を発し、ルーカスが「どうだった?」と声をかける。

 クルーが答えるより先にフォリーの眼が開いた。

 それをみてクルーはポロポロ泣き出した。




         *


 「空腹感?」

 ルーカスが聞き返す。

 「はい。妙な空腹感を感じていたのですが、満たされたみたいで消えました。」

 「は?」

 「夢に対して何らかの力をもつ人、その中には飢餓感を感じ夢を喰らうことで欲を満たす人がいたと聞いた記憶があります。それが悪夢であればあるほど体の中のパワーがみなぎる気がしてわざと悪夢を人に生み出させる者もいたとか。
 でも、僕は違うようです。確かに空腹感はありました。同時に嫌悪感も。
 姫の悪夢を吸収し、それを元に夢の中に綺麗な景色を生み出した時に空腹感が消えたんです。どうやら僕はプラスに変えることで満腹になるようです。嫌悪感は恐らく悪夢を吸収というか、喰らうからだったかと。」

 ジョーンズが口を挟む。

 「とにかく、夜とはいえ色々報告を早くしたほうがよろしいのでは?忙しいでしょうけれど。」

 王子2人はジョーンズの1言でそれこそ現実に引き戻された。
 姫も手伝いに来て逆に迷惑をかけたことに頭を抱えた。
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