思春期男子

misaka

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1 始まりは唐突

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あぁ。埜谷のやには負けたくないな、と思っていて。
でも何処かで叶わないって分かっていた。転校生として1年の2学期から転入してきた埜谷だったが今ではもうクラスの中心にいる。
初めは髪が長く目つきが怖かったので少し殆ど話しかける人はいなかった。
だから心配になってしまって一番初めに声を掛けた。

「…はじめまして!僕、瀬川せがわ綾介りょうすけっていうんだ。よろしくね。」
そしたら埜谷は静かに顔を上げて

「…声を掛けてくれてありがとう。…よろしくね。」
と笑った。

この時にもう分かっていたんだ。

やっぱり埜谷には叶わないと。

***

「埜谷~!!」

いつからだろう。
埜谷と呼ばれるようになったのは。別に嫌という訳では無い。
不快でもないし、特に気にしていないから呼ばれたら普通に振り返る。

「なに?どうしたの?」
苗字でもないし、名前でもない埜谷、はどこから生まれたのか、気にならないわけもなく。

始めに呼んだのは誰だったか。
…一番初めに話しかけてきたのはりょうだった。
もしかしたら…

「ねぇ、綾。」
「なにー?」
「あのさ、もしかし「埜谷ー!綾ー!」

聞こうとしたら後ろから走ってきたれいに邪魔をされた。

「………………。」
「な、なんだよ埜谷…」

ちょっとだけ睨んでおく。

「なんでも?で、何か用があったんじゃないの?」
「そーだそーだ!何用だー!」
「…まぁ、いいか。埜谷、女子から呼び出しだってさ。」

羚がうんざりしたように僕を見る。
え?僕のせい?

「これで何回目だよ。まだ転校してきて2週間ですけど?」
「3回目」

なんで羚数えてるんだ…。3回かぁ…。

「まじかよ…で?誰?」
「1組の野原さん」

え?誰?あった事あるっけ?

「誰。」
「知らん」
「だよな」

僕が気を使って言わなかったのに羚も綾も自由だな。

「何時?」
「放課後。」
「今じゃねえか」
「今だな。」
「早く言ってよ!?失礼じゃん!で?何処?」

羚は落ち着きすぎだと思う。

「広場の木下…ってのは嘘で」
「嘘つくなよ!!」
「渡り廊下」
「ちょっと待ってて。すぐ戻るから!待っててよ!?」
「「おーう」」

二人を残して渡り廊下に走っていく。

「っ…はぁ…4階とか辛い…。」

今、渡り廊下と言えば4階だ。
渡り廊下は3階にもあったが今部活動で吹奏楽が楽器を吹いている。
その中で話せるはずない。ということで4階にダッシュしている。
階段を登り終わると周りを見る。

「はぁ…っ。えっと…野原さんは…何処かな…?」

見回してみても人の気配すらしない。
これは困った。

「野原さぁぁん?」

呼んで見ても出てこない。というかいない。

「どうしよう…困ったな。」

羚も綾も待たせているからそわそわしてしまう。
よし。景色を見ておこう。、と手すりに手をかけて校舎の間から見える街を眺める。
すると誰かが僕の身体を押した。

「うぉっ!」

落ちそうになって驚いた僕は素早く後ろを向く。

「…えっと…?何したの?」

後ろには女の子がいて組章は1組だった。上靴の色が赤だったので同い年だろう。

「…あの…ごめんなさい…驚かそうと思って……。呼び出して…おいて遅刻して…ごめんなさい。」
「もしかして…野原さん?」

彼女がうなづく。

「えっと…僕は大丈夫だよ!びっくりしたし!で。何か用があったんだよね?」
「…あっ…あの、初めて話すのによくわからないと思うんですけど、好きです!付き合って欲しいんです!お願いします!」

女の子は真っ赤な顔で僕に告白してきた。

「…ごめんね。…ごめん。」

僕が謝ると彼女は真っ青になった。

「…ずっと…好きだったんです。」

震えた声で僕を揺する。

「……好きな人がいるんですか…?」

諦めきれないというのか質問を続ける。

「…ごめん。」
「それだけじゃ…わかんないです…」

今にも泣き出しそうな顔で僕を見る。
僕が首を振ると

「………。」
「じゃあ!…」

彼女は少しの可能性に突っ込んできた。

「…ごめんね。」

彼女は僕の言葉に傷ついて涙を流した。

「…ぐすっ…どうしても…駄目ですか?」

彼女が困ったような顔で懇願する。

「…僕は……ごめん。」

言いたくても言えない言葉を飲み込んだ。



__苦い。____。
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