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第1章
ビッグスモール
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「すいませーん!生中2つー!」
サラリーマンの街新橋の大衆居酒屋に康太郎と西本は居た。
もつ煮、串焼き、焼き魚。大勢の客で賑わってるだけありどれも美味い。
西本はこの店の常連であり、時折店員と談笑している。
「上手くいきますかね…」
空いたジョッキを眺めながら康太郎は呟いた。
「行くわけないやろ。前途多難やな~。」
酒が回ってきた西本は普段は使わない関西弁で話す。
「まぁ、バカ殿も色々思う所があるんやろなぁ…」
西本が言うバカ殿とは廣川の次期社長にして現代表取締役社長 廣川博夫の長男、廣川博の事だ。
博は幼稚舎から大学まで慶應で過ごし、メガバンクの銀行マンとして働いた後に跡取りとして廣川に入社した。
康太郎は博が入社してきた当時、元銀行マンで御曹司とあって数字を盾に会社を引っ掻き回す典型的なドラ息子かと思っていたが実際はそうでなかった。
どちらかといえばのほほんとした礼節を弁えた穏やかな青年という印象だった。
博と康太郎は年が近い事もあり、たまに当たり障りのない談笑をする事があった。
「あいつはああ見えて、中々攻撃的やで」
西本は座った目をして言った。
「私にはそんな悪い人には見えないのですが…」
康太郎は正直に答えた。
「そらそやろな。自分より年下の若いもんいびっとっても周りから自分が悪く映るだけやから」
「俺らみたいなおっさん相手やとすごいで。たまにしばきたくなってくるわ。」
西本の博に対する印象に康太郎は戸惑った。
「でもまぁ…今回バカ殿が言うてる事は正論やしな。いずれ何とかせなあかん事やったで。」
「ビッグスモールに売り込みかぁ…厳しいですよね…」
「厳しいも何も自分らが困った時だけ都合良くヘコヘコやってきてもなぁ…」
「向こうからすりゃそんな虫のいい話あるわけないやろって思うやろな…」
大手スーパーマーケット「ビッグスモール」
全国各地にGMS(総合スーパー)を構え、小売店の売上高では全国トップを誇る。
中心部から少し離れた郊外に店を構える店舗が多く、
地方都市では必ずといっていいほど見かける。
廣川も「ビッグスモール」と僅かではあるが取引をしていた店舗があった。
康太郎が生まれた35年ほど前、「廣川クッキー」が並べば売れた時代に「ビッグスモール」のバイヤーから是非「廣川クッキー」を取り扱いたいと頭を下げに来たのだ。
当時の廣川は「廣川クッキー」の他に「廣川チョコ」や「廣川ケーキ」等、新商品を出せば飛ぶように売れていた。
百貨店の菓子メーカーの取引高でも他の有名メーカーと肩を並べる程であった。
「ビッグスモール」も郊外に店舗を構え、着実に店舗を増やしていたが当時の廣川の社員たちには「たかが量販店如き」という思考が強かった。
その為「ビッグスモール」のバイヤーが色々な提案を投げかけても殆どまともに応える事はなかった。
それが今となっては立場は逆転した。
全国各地にある「ビッグスモール」に「廣川クッキー」を置く事が出来れば一気に億を越える取引高となる。
もしも今「ビッグスモール」のバイヤーがあの頃の何倍も無茶な提案を投げかけても、廣川は地べたを這いつくばってでも応えなければいけないだろう。
「大先輩方が散々無礼な対応しておいて、今更謝りに来たと思ったら新しい提案もなくクッキーだけ置いてくれってなぁ…」
「門前払いで塩撒かれるんちゃう?ほんまに」
西本はヤケクソ気味に笑った。
「とにかくバカ殿様は俺たちに指令を下したんや。やるしかないで。」
西本の言葉に康太郎は生ビールを胃に流し込み、大きく頷いた。
「すまんなぁ久我山。こんなめんどい事付き合わせて」
「いえ…。」
「川瀬さんは百貨店の人やからやる気もないしやり方もわからんやろ…」
西本も表面上は当たり障りなく川瀬と上手く接しているように見えるが、不満は溜まっているようだ。
川瀬は何十年も本社の営業部で働き会社に貢献してきた自負があり、大阪に居た自分より年下の西本がいきなり上司になり、指示を受けても面白い気はしない筈だ。
「本当はお前に昇進の辞令を伝える時に言おうと思ったんやけどな…」
「朝っぱらやなくて、こうしてゆっくり時間が取れる時に話したかったんや」
西本は酔った時はいつもの冷徹な雰囲気は無くなり、人情味のある「関西のおっさん」になる。
「頑張ろうや久我山君。敵はでっかいで~」
酔いが回り浮かれ口調で西本は言う。
「はい!ご指導宜しくお願いします!」
康太郎も今日は普段より飲んでいた。あまり気は進んでなかったが、酒の勢いに任せて元気よく答えた。
「負けたら切腹やで!ナッハッハッ!」
西本の笑い声が閉店間際の大衆居酒屋に響いた。
康太郎にとっては笑えない冗談だった。
サラリーマンの街新橋の大衆居酒屋に康太郎と西本は居た。
もつ煮、串焼き、焼き魚。大勢の客で賑わってるだけありどれも美味い。
西本はこの店の常連であり、時折店員と談笑している。
「上手くいきますかね…」
空いたジョッキを眺めながら康太郎は呟いた。
「行くわけないやろ。前途多難やな~。」
酒が回ってきた西本は普段は使わない関西弁で話す。
「まぁ、バカ殿も色々思う所があるんやろなぁ…」
西本が言うバカ殿とは廣川の次期社長にして現代表取締役社長 廣川博夫の長男、廣川博の事だ。
博は幼稚舎から大学まで慶應で過ごし、メガバンクの銀行マンとして働いた後に跡取りとして廣川に入社した。
康太郎は博が入社してきた当時、元銀行マンで御曹司とあって数字を盾に会社を引っ掻き回す典型的なドラ息子かと思っていたが実際はそうでなかった。
どちらかといえばのほほんとした礼節を弁えた穏やかな青年という印象だった。
博と康太郎は年が近い事もあり、たまに当たり障りのない談笑をする事があった。
「あいつはああ見えて、中々攻撃的やで」
西本は座った目をして言った。
「私にはそんな悪い人には見えないのですが…」
康太郎は正直に答えた。
「そらそやろな。自分より年下の若いもんいびっとっても周りから自分が悪く映るだけやから」
「俺らみたいなおっさん相手やとすごいで。たまにしばきたくなってくるわ。」
西本の博に対する印象に康太郎は戸惑った。
「でもまぁ…今回バカ殿が言うてる事は正論やしな。いずれ何とかせなあかん事やったで。」
「ビッグスモールに売り込みかぁ…厳しいですよね…」
「厳しいも何も自分らが困った時だけ都合良くヘコヘコやってきてもなぁ…」
「向こうからすりゃそんな虫のいい話あるわけないやろって思うやろな…」
大手スーパーマーケット「ビッグスモール」
全国各地にGMS(総合スーパー)を構え、小売店の売上高では全国トップを誇る。
中心部から少し離れた郊外に店を構える店舗が多く、
地方都市では必ずといっていいほど見かける。
廣川も「ビッグスモール」と僅かではあるが取引をしていた店舗があった。
康太郎が生まれた35年ほど前、「廣川クッキー」が並べば売れた時代に「ビッグスモール」のバイヤーから是非「廣川クッキー」を取り扱いたいと頭を下げに来たのだ。
当時の廣川は「廣川クッキー」の他に「廣川チョコ」や「廣川ケーキ」等、新商品を出せば飛ぶように売れていた。
百貨店の菓子メーカーの取引高でも他の有名メーカーと肩を並べる程であった。
「ビッグスモール」も郊外に店舗を構え、着実に店舗を増やしていたが当時の廣川の社員たちには「たかが量販店如き」という思考が強かった。
その為「ビッグスモール」のバイヤーが色々な提案を投げかけても殆どまともに応える事はなかった。
それが今となっては立場は逆転した。
全国各地にある「ビッグスモール」に「廣川クッキー」を置く事が出来れば一気に億を越える取引高となる。
もしも今「ビッグスモール」のバイヤーがあの頃の何倍も無茶な提案を投げかけても、廣川は地べたを這いつくばってでも応えなければいけないだろう。
「大先輩方が散々無礼な対応しておいて、今更謝りに来たと思ったら新しい提案もなくクッキーだけ置いてくれってなぁ…」
「門前払いで塩撒かれるんちゃう?ほんまに」
西本はヤケクソ気味に笑った。
「とにかくバカ殿様は俺たちに指令を下したんや。やるしかないで。」
西本の言葉に康太郎は生ビールを胃に流し込み、大きく頷いた。
「すまんなぁ久我山。こんなめんどい事付き合わせて」
「いえ…。」
「川瀬さんは百貨店の人やからやる気もないしやり方もわからんやろ…」
西本も表面上は当たり障りなく川瀬と上手く接しているように見えるが、不満は溜まっているようだ。
川瀬は何十年も本社の営業部で働き会社に貢献してきた自負があり、大阪に居た自分より年下の西本がいきなり上司になり、指示を受けても面白い気はしない筈だ。
「本当はお前に昇進の辞令を伝える時に言おうと思ったんやけどな…」
「朝っぱらやなくて、こうしてゆっくり時間が取れる時に話したかったんや」
西本は酔った時はいつもの冷徹な雰囲気は無くなり、人情味のある「関西のおっさん」になる。
「頑張ろうや久我山君。敵はでっかいで~」
酔いが回り浮かれ口調で西本は言う。
「はい!ご指導宜しくお願いします!」
康太郎も今日は普段より飲んでいた。あまり気は進んでなかったが、酒の勢いに任せて元気よく答えた。
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康太郎にとっては笑えない冗談だった。
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