走れ!菓子屋のコータロー!

太郎丸

文字の大きさ
6 / 6
第1章

木元浩介

しおりを挟む
「くがっち気合い入りすぎっしょ~。マジで…」
ため息混じりのしかめっ面で木元さんが呟く。
俺はエビチリを頬張りつつ苦笑いを浮かべた。
職場近くの中華料理屋に俺と木元さんはよく行く。
昼間人口が多いこの辺りでは、昼でも空いているこの店はとても居心地の良いスポットだ。

「係長に昇進したし、何かしら結果が欲しいんですかね…」
正直な感想を述べた。
家族がいて、昇進直後の久我山係長が結果を残したい気持ちも解るし、それに対し木元さんが不満そうな気持ちを露わにするのも解る。
会社という様々な年代が集まる組織の中で、些細な衝突は付き物だ。
(まぁ俺は一生この会社に勤めるわけじゃないしどうでもいいけど…)
求人サイトをチェックするのが日課になっている俺が1番この会社に適してないだろう。
「ただ何となく」で会社を選んだ事。
学生時代就職活動に力を入れなかった事。
後悔してるのかすら曖昧なところであるが、学生時代にタイムスリップ出来るボタンがあるなら躊躇なく押すと思う。
そんな自分と比べると木元さんはとても立派に見える。

「弘くん大人だな~マジで!」
木元さんはノリは軽いが、自分に対して絶対の自信を持っている。
「川瀬もくがっちも上司と呼べないっしょ~」
木元さんは良く川瀬課長と久我山係長の不満を言う。
「あの2人より給料低いのマジないわ~」
これも木元さんの愚痴のセットだ。
久我山係長はともかく川瀬課長に不満が出るのは俺も同じだ。
新卒で入社して右も左もわからない時に一見人当たりの良い川瀬課長に業務について相談していた。
初めの頃は応えてくれたが、すぐに
「久我山か西本さんに聞いて。俺忙しいからさ」
今思えば説明するのに3分もかからないレベルの相談であったが、明らかに嫌そうな表情であしらわれた。
「忙しい」が口癖の割にはゴルフやキャバクラの話題は仕事の手を止めて嬉々と話しだす。
それから暫く積もり積もって川瀬課長に相談する事はなくなった
あんな人がよく管理職になれたもんだと正直思ってしまう。

「木元さんならすぐ係長になれますよきっと…」
木元さんの愚痴に同調したいがどこで本人に伝わるかわからない。
不満があっても社内で波を荒立てる事はしたくない。
いつも自分の中で不満を押し込む様にしている。
木元さんが不満を口にする時は煽てて木元さんの身の上話に映る様に仕向ける。
「だよな~俺数字作ってるし、にっしーにも気に入られてるしそろそろだべ~」
西本部長に気に入られているかはともかく、木元さんの営業力は凄いと思う。
広域量販営業部の主なお客さんはスーパーのサービスカウンター。
男性よりも女性の方が圧倒的多数だ。
自分の母親の年齢に近い人もいれば俺や木元さんと同年代の若い女性もいる。
木元さんはどの年代の女性にも分け隔てなく接する。
新卒の頃、同行して量販店を廻った事があるが、様々な年代の女性に営業する木元さんの姿はまるでホストの様だった。
(俺には真似できないな…)
俺は瞬時にそう思ったが、なんとなくかっこよくも見えた。

「グロサリーだっけ?まぁ適当に営業かけてみっけど、俺らに言うからにはくがっちもやれよって言おうかな~」
木元さんが出世するかどうかの鍵は礼節面での上司の評価だと思う。
社内営業も時には大切だ。
特にうちみたいな古い会社は著しくそうだと思う。
川瀬課長が「課長職」に就いているという事実だけでそれが顕著であろう。
やんわりとその事を伝えたいが、うまく伝わらず険悪なムードになるリスクを考えて、俺は半笑いで反応を誤魔化した。

「んじゃデザート食って行くか!」
「劉ちゃーん!杏仁ちょーだーい!」
やはり木元さんはすごい。
ちゃん付けで呼ばれて、満更でもない表情の「劉ちゃん」を見て俺は思った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...